7話 初めてのお弁当
待ちに待った昼休憩がやってきた。
俺は聡と別れて、汐音、凛、愛理の三人の元へ向かう。
「私と凛は教室でお弁当を食べているから、愛理達は中庭か、屋上で食べてきなよ。中庭はカップルがいっぱいだから、屋上のほうがいいかもね」
「うん……わかった。それじゃあ亮太と二人で屋上に食べに行ってくるね」
愛理は元気に手を振って汐音と凛と別れて、俺の隣に立つ。
汐音と凛も愛理に手を振る。
「二人っきりになったからって、愛理に変なことしたらダメだからね」
「愛理に変なことしたら、私達が黙ってないから。そのことを覚えておいて」
「そんなことしないよ。愛理と二人っきりになるだけでも緊張するのに」
愛理と二人っきりになったからと言って、何をしていいのかもわからない。
だから俺から愛理に何かをするということはないと言っていいだろう。
二人で屋上のぼって扉を開いて表に出る。
今日も5月の晴天の陽気が屋上に漂っている。
吹き抜ける風が心地良い。
屋上の縁に二人で座って、愛理が俺に弁当袋を渡した。
そして弁当袋を開けて、中から可愛い弁当箱を出す。
弁当箱を開けると、色とりどりのオカズが詰まった弁当の中身が目に飛びこんできた。
ハンバーグ、卵焼き、ウインナー、ポテトサラダ、唐揚げ、色々と入っている。
「こんなに色々な種類のおかずを作ってくるなんて、朝、すごく大変だったんじゃないの?」
「そんなことないわよ。どうせ私も自分のお弁当を作らないとダメだし、二人分になっても面倒じゃないし。でも、今日は少し気合入ってるかも。亮太、早く食べてみて」
「「いただきます」」
箸でハンバーグを取って口の中へ入れる。
とてもジューシーで美味しい。
このハンバーグ、レトルトじゃなくて、手作りだ。
「このハンバーグ、愛理の手作りなんだね。とっても美味しいよ」
「ヤッタね! 亮太に喜んでもらって、超嬉しいんだけど」
「この卵焼き、出汁巻きなんだね。とても美味しい」
見た目美少女ギャルなのに、料理まで得意なんて、嬉し過ぎる。
本当にこれが俺の彼女なのか。
とても愛理のことを可愛く感じる。
陽光が愛理を照らして、茶髪のロングヘアーが美しく輝いていた。
そして小さな口で、ゆっくりとお弁当を食べている姿が可愛い。
「ん……亮太、私の顔をどうして見てるの? 食べている所をジーと見られると恥ずかしいじゃん」
「ごめん。ごめん。あまりに愛理が可愛かったから、少し見惚れちゃった」
「ゴホ、ゴホ……褒めてくれるの嬉しいんだけど、食べてる時に恥ずかしいことをいうのはやめてね」
俺は今、何を口走ったのだろう。
自分で言っておいて、とても恥ずかしい。
顔から火が出るぐらい、赤くなっているのがわかる。
愛理は恥ずかしそうに顔を赤くして、お弁当を黙々と食べていた。
その姿がまた可愛い。
俺はあっという間に弁当を平らげてしまった。
しかし、愛理はまだ弁当を半分食べたばかりだ。
「亮太、もうお弁当を食べちゃったの。亮太には少し少なかったかな?」
「そんなことないよ。とてもお弁当が美味しくて、夢中になって食べちゃったんだ」
「そう言ってもらえると、作ったかいがあったわ。明日からも頑張るからね」
明日からも愛理がお弁当を作ってくれるらしい。
とても嬉しいことだけど、お弁当の費用ぐらいは払っておいたほうがいいのかな?
「愛理、お弁当の費用、俺も半分支払うよ。費用がかかったら教えてほしい」
「何言ってんの。彼女が彼氏のお弁当を作ってくるのは当たり前じゃん。お金なんて貰えないよ」
両手を広げて、前に突き出して、いらないのポーズをする愛理。
そこまで気にする必要はないのかな?
「亮太にしてほしいことは、私が作ったお弁当を美味しく食べてくれるだけでいいの。そして私に笑顔を見せて」
「本当にそれだけでいいの? 愛理の料理なら、いつでも俺は笑顔になるけど」
「それが最高の私へのプレゼントじゃん。亮太は私の彼氏なんだから」
本当に俺が愛理の彼氏なんだな。
まだ実感が湧かないけど、とても嬉しい。
まるで夢のようだ。
「そうか、愛理は俺の彼女なんだな」
「今頃、何を言ってんの。私は亮太の彼女じゃん」
「まだ自分に自信がなくてさ。今まで彼女なんていたことないから」
「私だって今まで彼氏なんていなかったよ。でも亮太が彼氏になってくれてすごく嬉しい」
「それを言ったら、俺のほうこそ、すごく嬉しいよ」
「私達同じだね」
やっと愛理がお弁当を食べ終わった。
二人で弁当箱を弁当袋に入れて、膝の上に乗せる。
屋上を通る爽やかな風が頬をなでる。
愛理の髪が風にたなびいて、良い香りが隣から漂ってきた。
愛理がいつも使っているシャンプーの香りだろうか。
とても甘くて優しい香り。
「今度、休みの日に亮太とどこかに行きたいな」
「俺も愛理と一緒にどこかへ遊びにいきたい」
「約束しよ」
俺と愛理は小指を出して、お互いに小指を絡ませて約束をした。
すると愛理はとても嬉しそうに笑んだ。