40話 体育祭 前編
運動会当日になった。
グラウンドに皆で整列をし、校長先生のありがたい言葉をいただいて開会式は始まった。
そして選手宣誓が行われ、開会式が終わると、グラウンドの外に設けられているクラスごと
の敷地へ生徒達は集合して座る。
最初の種目は100m走だ。
100m走に出る選手達は入場門の裏手に集合して四列に整列する。
そして、100m走の始まりを告げるアナウンスと共に、グラウンドの中央まで歩いていく。
100m走は男女別なので、まず男子達が走り、その後に女子達が走る。
女子の列を見ると凛が静かに座っていた。
凛のフルユワカールのミディアムロングの髪が風で揺れている。
男子から次々とスタートしていく。
そして女子達の番が回ってきた。
凛はスタートするとカモシカのようなきれいな脚で、どんどん他の女子達を追い抜かして1位でゴールテープを切った。
早い。外から見ていても相当に凛の走りは早かった。
次の競技は綱引きだ。
入場門から入ってくる選手の中に藤本委員長がいた。
そういえば藤本委員長も平等にクジを引いていたな。
運が悪いことに綱引きを引き当てたのか。
綱引きが始まる。藤本委員長は綱の前列に並んで綱を持って引っ張っている。
クラス全員が立ち上がり号令をかけるが、徐々に相手チームのほうへ引っ張られていく。
俺達のクラスは一回戦で敗退した。
次の競技は障害物競争だ。入場門の裏手に選手達が集められる。そして4列になり、グラウンドの中央へ歩いてくる。その中に汐音がいることを確かめる。
汐音のショートヘアーとスタイルが目立つ。
障害物競争も男女別になっている。男子の組みがスタートをきった。
次々に男子達の組みがスタートしていく。
次は女子達のスタートの番だ。
汐音もスタート位置に立つ。
汐音がスタートして、障害の中へ飛び込んでいく。
次々と汐音は障害物を乗り越え、1位でゴールテープを切った。
体操服はドロドロに汚れていた。
次の競技は二人三脚だ。
俺と愛理は入場門の裏手に集まって順番を待つ。
その間に愛理の足と俺の足を白い布で結わう。
入場門を出て、グラウンドの中央に座ってスタートがくるのを待つ。
4組で競争して順位を争う。
「頑張ってビリだけはならないでおこうな」
「コケさえしなければ大丈夫。亮太のこと信じてるから」
「愛理は脚が絡まらないことだけに集中すればいい」
「うん、わかった」
俺と愛理の番が回ってきた。俺達は二人並んでスタートラインに立つ。
スタートの合図と共に、一、二とかけ声をかけながら、直線を走る。
時々、愛理がバランスを崩すが、俺が肩を持ってサポートする。
そしてカーブに差しかかった。
俺は愛理の腰を持って、愛理を抱えてカーブを走っていく。
そして直線に入ってから、愛理を地面に下ろして、二人でゴールを目指す。
愛理の肩を抱いて、二人でゴールテープを切る。
一位だった。
「やったよ。亮太、一位だよ。私達、やったじゃん」
「そうだな一位だな。よかったな、愛理」
俺と愛理は抱き合って喜んだ。
「次のゴールの人が来ますから、その場所をどいてください」
「はい……すみません」
係員に怒られてしまった。愛理と二人でおとなしく列に並ぶ。
そして二人三脚の競技が終わった。
皆で退場門から外へ出て解散する。
次の競技は騎馬戦だ。
男子全員の強制参加。
俺は愛理と別れて、男子達の輪の中へ入っていく。
そして入場門の裏手に集まって、クラスで2列に並んで、グラウンドの中央に歩いて行く。
グラウンドの中央に着いて、三角座りをして出番を待つ。
俺達A組の対戦相手はB組だ。
俺は正面の馬役だ。馬の上には聡がハチマキを巻いて騎手役をしている。
スタートの合図と共に騎馬戦が始まった。
俺達の馬は小回りを活かしてB組の騎馬から逃げ回る戦法だ。
聡は大きな声で前を指差して叫ぶ。
「逃げろー。逃げろー。生き残ったものが勝ちだ」
俺達の馬は上手く逃げたが、B組の馬三体に囲まれた。
B組の馬が体当たりをしてくる。
俺も負けないように体当たりをする。
下の馬役の者達は互いに体当たりをして、上の騎手を落とそうとする。
騎手は馬に捕まって必死に、相手の騎手のハチマキを狙う。
聡はB組の騎馬の一体からハチマキを取った。
「取ったぞー」
聡の雄叫びがとどろく。
後、俺達の騎馬を狙っているB組の騎馬は二体。
B組の騎馬は真正面から狙ってくるのを諦め、左右に別れて俺達の騎馬を挟み込む。
馬の上では、B組の騎手二人が聡一人を狙う。
さすがの聡も逃げきれない。
あっという間に聡はハチマキを取られて負けた。
A組とB組の対戦では、接戦だったが、A組が勝った。
「おい、俺達のクラスの勝ちだぜ。B組に勝ったぞ。やったー」
聡が大きな声で叫ぶ。
そしてA組の男子が喜びの声をあげる。
これで騎馬戦は終わった。
俺達男子は退場門からクラスの席に戻る。
「聡、すごいじゃん。三体一の時は、絶対に負けると思った」
愛理が嬉しそうに聡を褒める。
「俺はバランス感覚がいいからな。三体一でも負けないぜ」
「でも二体一の時は負けたじゃん」
「それはB組の騎手二人に挟み撃ちにあったからだ。あれは俺でも逃げられない」
汐音が胸の下で腕を組んで聡を見る。
そして珍しく聡を褒めた。
「あれは仕方ないじゃん。二対一だったんだから。よくB組に勝ったと思うよ。おめでとう」
凛も小さく手を叩いている。
「聡も亮太もよくやったじゃん。騎馬戦、すごく迫力あったじゃん」
凛からもお褒めの言葉をもらう。
愛理、汐音、凛の三人からお褒めの言葉をもらって、聡は照れて顔を赤くしている。
それを見て愛理、汐音、凛の三人は楽しそうに満面の笑みを浮かべた。
俺も楽しくて大声で笑った。




