38話 体育祭の競技決め
朝のHRが終わり、1時間目の授業は今日はなし。
藤本委員長が演壇に立って、体育祭の競技に出る選手を決めていく。
岡島高校の体育祭のスケジュールは
100m走
綱引き
障害物競争
二人三脚
騎馬戦
クラブ対抗リレー
応援合戦
組体操
玉入れ
棒倒し
クラス対抗リレー
学年対抗リレー
となっている。
男子生徒は3つの競技に強制参加することになる。
女子生徒は2つの競技に強制参加することになる。
だから、クラス選抜の競技に率先して出ようとする学生はいない。
そこで藤本委員長の出番となったわけだ。
「それでは箱の中にクジを入れます。クジを引いた人が、その競技に参加してください。異論は認めません」
やる気のない雰囲気が教室内に漂う中、藤本委員長の声が響く。
窓際の席から順にクジを引いて行く。
俺は運悪く二人三脚に当たってしまった。
愛理もクジを引いた後に嫌そうな顔になっている。何かを引いたみたいだ。
汐音と凛もクジを引いた後で、微妙に顔が引きつっている。
聡はクジを引いた後でガッツポーズをしていた。何を引いたのだろうか。
愛理がクジを持ったまま、俺のほうへ歩いてくる。
「亮太、100m走、当たっちゃったよ」
「俺は二人三脚だ」
「亮太が他の女子と走るなんて絶対に嫌。それはダメじゃん」
「ダメといってもクジを引いた後だから仕方ないだろう」
俺達が騒いでいると、汐音と凛も俺達の元へ歩いてきた。
「私は障害物競争に当たっちゃった。最悪」
汐音は少し遠い目をしながら、呟く。
「私は二人三脚に当たっちゃった。男子とペアなんて嫌」
凛がそう呟く。
すると愛理が目を輝かせる。
「凛、私と交換して。私、100m走に当たっちゃったの。でも亮太が二人三脚なの」
「いいわよ。私は100m走のほうが気楽でいいし。亮太と愛理は仲良く二人三脚に出ればいいんじゃん」
こうして凛と愛理のクジの交換が行われた。
クジの交換をしてはいけないと藤本委員長も言ってなかったし、これでいいか。
聡が興奮しながら、俺の席に向かってくる。
「ヤッタぞ。俺、クラス対抗リレーをクジで当てた。クラスを代表して絶対にトップを取ってやる」
クラス対抗リレーの選手をクジで決めていいのか?
とことんやる気のないクラスだな。
聡の脚が早かったという記憶はない。せいぜい人並みだ。
他のクラスは本気でクラス対抗リレーの選手を選んでくるから、聡ではトップは無理だろう。
クラス中が仲間に分かれて、それぞれにクジの感想を話している。
クラス中が無法地帯だ。
しかし、藤本委員長は全く顔色一つ変えずに進行していく。
「ではクジで当たった人は、前の黒板に名前を書いていってください」
生徒達は壇上にのぼって黒板にチョークで名前を書いていく。
俺達も黒板へ名前を書いて、自分達の席に座る。
100m走 京本凛
障害物競争 多賀汐音
二人三脚 麻宮亮太、加茂井愛理
クラス対抗リレー 沢尻聡
「これから体育の授業は体育祭への準備運動となります。そのことを伝えておきます」
藤本委員長は冷静にまとめて、演壇を降りた。
「それでは、ここからは自習。俺は職員室へ戻る。お前達、あまりうるさくするなよ」
そう言って担任の教師は教室を出て行った。
担任の教師が教室を去ったのと同時に、生徒達は自分達の仲間同士に集まっていく。
俺の隣には聡が席に座った。
俺の前には愛理が座る。
汐音と凛は長くてきれいな脚を見せるように立っていた。
「この中で一番体操服が汚れそうなのは私じゃん。嫌だな」
「確かに汐音の障害物競争が一番体操服が汚れそうね」
愛理は同情するように汐音に声をかける。
「私は100m走だから、自分のペースで走れるから楽ちんじゃん」
汐音が腕を腰に当てて、愛理の鼻を指で押す。
「亮太、愛理が運動音痴なこと知ってる?」
「え! 長距離が走れないのと、泳げないのは知ってるけど……」
「それだけじゃないの。愛理は運動音痴なの」
愛理は猛烈に首を横に振る。
「私、運動音痴じゃないもん。少し人よりもどんくさいだけじゃん」
「それを運動音痴って言うのよ」
「私、違うもん……亮太、信じて」
愛理はスタイルもよく肢体も長い。
普通に見ているだけでは運動音痴には見えないんだけど……
長距離が走れなかったり、水泳ができなかたりするからな。
とにかく愛理と二人三脚をする時は注意しておこう。
愛理は目を潤ませて、俺に抱き着いてくる。
俺は優しく背中をさすってあげる。
汐音と凛はやれやれといった感じで両手をあげていた。
「愛理のことは亮太に任せたわ。それじゃあ、私達は戻るわね」
そう言って汐音と凛は女子達の輪の中へと戻っていった。
聡は俺の隣で大人しく俺達の様子を見ている。
「どうしたんだ、聡? いつもよりも大人しいな」
「今、リレーのイメトレ中だ。話しかけないでくれ」
どうやらクラス対抗リレーのイメージトレーニング中だったらしい。
いつになく聡も本気になっている。
どうせ負けるだろうが、一応は応援してやろう。
「がんばれよ。聡」
「ああ……負けられないぜ」
聡は目をキラキラさせながら、ガッツポーズを取る。
それを見た愛理が優しい目で聡を見て微笑んでいた。




