37話 二学期の始め
8月が終わり、始業式を終え、二学期へと入った。
一時間目の授業が終わり、休憩時間となった。
俺の隣には日焼けした聡が席に座る。
「今年の夏は八回も海へ行ったぜ」
「それでそんなに日焼けしているのか」
「やっぱり水着のお姉さん達は最高だ。声をかけてみたけど惨敗だった。そのことだけが残念だ」
大学生のお姉さん達が、俺達のような高校生を相手にするはずないだろう。
大学生のお姉さん達からみると俺達はまだ子供のようにみえるはずだ。
「繁華街で高校生ぐらいの女子にも声をかけたんだけど、上手くいかなかった」
聡は繁華街で女子高生に声をかけていたのか。
そんなに上手くいくはずないだろう。
「今年のクリスマスまでには、必ず彼女を作って、亮太達を驚かせてやるからな」
「とりあえず頑張ってくれ。それしか言えない」
「お前は夏休み中、何をしていたんだよ?」
「愛理の勉強会。8月になってから、ほぼ毎日勉強会をしてたよ」
俺と愛理は俺の母さんからの条件をキッチリと守って、8月中勉強をしていた。
その分だけ愛理も俺も少しは勉強ができるようになっている。
「それってズルいぞ。赤点ギリギリになるのは俺だけだぞ」
「そうなるな。とりあえず頑張れ」
「お前達、夏休みに何、勉強してるだよ。そんなのズルいだろう」
「俺の母さんが条件を出したんだ。愛理と遊びたかったら勉強しろってね。だから二人で勉強してたんだよ」
母さんからの条件だったんだから仕方ないだろう。
しかし聡は不満そうな顔を浮かべる。
「ヤベー。俺だけ出遅れてるよ。亮太、俺に勉強を教えてくれ」
「中間考査テストの範囲がわかったら、また皆で勉強しよう。そうすれば何とかなるって」
「そうだな汐音と凛に教えてもらえば、俺でも何とかなる」
そう言えば汐音と凛は夏休み中、何をしていたんだろうか。
俺は女子達の輪の中にいる愛理、汐音、凛の三人を見る。
愛理が気が付いて、俺に手を振る。
俺も手を振り返した。
愛理、汐音、凛の三人が俺の席まで歩いてきた。
そして汐音が俺に声をかける。
「愛理から聞いたわ。8月中、勉強会をしてたなんて、驚いたじゃん。私と凛も予備校へ通って勉強していたのよ。あと半年で三年生だから、大学進学も考えないとね」
汐音と凛は予備校に通っていたのか。
とうことは、汐音と凛は大学進学を考えているということか。
「俺と愛理も二学期のうちに予備校を探そうって言ってたところなんだ。もしかすると汐音と凛の通っている予備校へ俺と愛理も通うかもな」
「それは予備校も楽しくなりそうじゃん。私達の行ってる予備校はいつでも見学できるわよ」
「今度、愛理を連れて、二人で一緒に見学に行くよ」
汐音と凛は愛理が予備校へ通うかもしれないと知って、嬉しそうに愛理の頭をなでる。
聡が俺の隣で頭を抱えている。
「ちょっと待ってくれ。俺も大学へ進学したいよ。俺だけ置いていかないでくれ。二年の時から予備校へ通うなんて思っていなかったぞ。三年生になってからでいいんじゃないのか?」
凛が一歩前に出て胸の下で腕を組む。
「何言ってるの聡。聡のように赤点ギリギリで大学に進学できないでしょ。だから早めに予備校に通って学力を向上させないとダメじゃん。三年生なんて遅いわよ」
「なんだよそれ。そんなこと聞いてねーよ。もう夏休み終わっちまったし。俺はどうすればいいんだよ」
「聡に勉強をする気持ちがあるなら進学塾でも予備校でも通いなさい。それしか言えないわ」
「俺だけ置いて行かれた感、半端じゃないんですけど。俺、相当にヤバいのでは」
確かに今の時点で赤点ギリギリはマズイと思う。
聡の学力なら、夏休みから予備校や進学塾に通っているほうが良かっただろう。
まだ二学期も始まったばかりだ。これからでも挽回できる。
「大丈夫だ聡。俺や愛理もまだ予備校へ通っていないんだから。まだ遅くないぞ」
「そうか……もしお前達が予備校へ通うことがあったら、俺も誘ってくれよな。絶対にだぞ」
「ああ……声をかけるから、そんな弱弱しい声を出すなよ」
愛理が聡の肩に手をおいてポンポンと優しく叩く。
「私でも間に合うんだから、聡だって間に合うんじゃん。皆で一緒に予備校を探しましょ」
愛理は聡を見て優しく微笑んだ。
聡はゆっくりと隣の席から立ち上がって、グッと拳を握る。
「俺はやるぜ。これから猛勉強するぜ。亮太達に負けてられないからな」
そう言って聡は隣の席から立ち上がって去っていった。
汐音と凛が聡が去っていった方向をみていると、聡は自分の席に戻って、教科書を開き始めた。
「なんだかわからないけど、勉強をやる気になったのは良いことじゃん」
「中間考査テストの時には、また聡に教えないといけないけどね」
汐音と凛は女子達の輪の中へと戻っていった。
愛理と俺はそんな聡の姿を見て微笑んだ。




