30話 愛理の実家
次の日、愛理の実家へ行くこととなった。
俺達の家がある場所から3駅離れた場所に実家はあった。
実家は大きく、まるで昔の武家屋敷のような佇まいだった。
今日の愛理は花柄のワンピースを着て、とても清楚な雰囲気をかもしだしている。
門をくぐって玄関と扉を開けて愛理が入っていく。遅れずに俺も玄関に入る。
「ただいま戻りました。父さん、母さん」
家の和室のほうから低音のよく響く声が聞こえる。
「愛理か。よく戻った。入ってきなさい」
「失礼します」
俺は玄関で挨拶をして、愛理の後ろへ続く。
和室の扉をあけると、和服姿の男性が座卓に向かって座っている。
愛理は男性の目の前に正座をして、頭を下げる。
俺も愛理の隣に座って頭を下げた。
「只今、戻りました。夏休みに入ってから一度も顔を出さず、すみませんでした」
「うむ……やはり彼氏を作っていたか。夏休み中遊んでいるつもりではあるまいな」
「そんなつもりはありません。きちんと勉強もしています。亮太とは健全なお付き合いをしていますから、お父さんの心配されるようなことはありません」
愛理は顔をあげて、愛理の父さんの顔を真直ぐに見つめたまま答えた。
こんな礼儀正しく、真面目な愛理を見たのは初めてだ。
「お前を独り暮らしさせているのは、彼氏と遊ばせるためではないぞ。まだ愛理は高校生だろう。男性との交際など早すぎる。今すぐ彼氏と別れなさい」
「ちょっと待ってください。俺は麻宮亮太といいます。愛理とは健全なお付き合いをさせていただいています。何のやましい所もありません」
「麻宮くんというのか。君には話を聞いていない。親子の問題に口を挟まないでくれないか」
「そうはいきません。これは俺も関わっている問題ですから」
俺も愛理の父さんを真正面から見据える。
愛理のお父さんはまるで固い岩のように感じた。
「男女が近くにいれば、間違いを起こしやすくなる。未成年で親の保護下にあるうちは、交際を認めるわけにはいかない。お前達は未成年だ。まだ親の保護下にある」
「確かに私達は未成年で親の保護下にあるわ。でも思春期の恋愛をするのは自由よ。健全な付き合いをしているんだから、父さんに口出しされることは何もないわ」
愛理がはっきりと反論する。
それでも愛理のお父さんの意思は変わりそうにない。
「私は仕事柄、多くの少年や少女達を見てきた。はじめは皆、興味本位で好奇心から、ちょっとだけのつもりで始めたことが、後で大問題に発展した。だから芽は小さいうちに摘んだほうがいい」
「それって恋愛じゃないし。父さんが仕事場でどんな少年や少女達を見てきたのか、私は知らないけど、私達と一緒にしないで」
愛理のお父さんは警察官という仕事柄、色々な少年や少女と接触してきたはず。
だから自分の娘にだけは、横道にそれてほしくないという気持ちが強いのだろう。
和室のふすまが開いて和服姿のきれいな女性が入ってきた。どこか愛理に似ている。
「あなたも愛理も少しは頭を冷やしてください。せっかくお客様がいらしゃっているんですよ。お客様に失礼じゃありませんか。私は愛理の母親で香織といいます。よろしくお願いしますね」
「俺は麻宮亮太と申します。よろしくお願いいたします」
「あら、きちんとした男の子じゃないの。ちょっと地味だけど、良い男の子を愛理は選んだと思うわ。私は賛成よ」
やはり愛理のお母さんから見ても、俺は地味なのか。
少しショックだ。
「またお前は俺に逆らうのか。愛理の一人暮らしも勝手に認めおって」
「だってあなたが厳しすぎるんですもの。これでは子供達には息苦しいわ。私は愛理に独り暮らしの自由を与えましたけど、独り暮らしの辛さを知ってもらうためでもあります」
「今は母さんと言い争うつもりはない。私はこの二人と話をしているのだ。横から口を挟むな」
「いえ、あなたが愛理の父であるように、私も愛理の母です。私も参加させていただきます」
愛理のお母さんは俺達の隣に座って、毅然と愛理の父さんと対峙する。
「母さんは甘いのだ。世の中の厳しさを知らんから、そんなことが言えるのだ。この二人もこれから交際が発展していけば、健全な付き合いなどしていけないだろう」
「それはわかりませんわ。愛理は男性に臆病ですし、亮太くんも奥手のように見えます。二人でルールを守って健全なお付き合いができると思いますわ」
どうして俺が女子に奥手なことがバレているんだ。
愛理のお母さんはエスパーか。
「それでは二人に問う。今まで何カ月付き合ってきた? そしてどれだけ進展した?」
「付き合ってまだ二カ月よ。まだ手を繋いでるだけで、私が亮太の頬にチューしただけよ」
「すでに進展は始まっているではないか」
「この頃の男女なら手を繋ぐのは当たり前でしょ。それにチューをしたと言っても頬ですよ。頬。可愛いもんじゃないですか。お父さんは頭が固すぎるんです」
「母さんはそういうが、一人暮らしを認めているだけでも不安なのに、彼氏まで作っているのだぞ。親としてしっかりと監視しなければいかんだろう」
「お父さんは何かといえば、監視、監視、監視ばかりをいうから娘達に嫌われるんです」
愛理のお母さんの言葉が心に突き刺さったのか、愛理のお父さんは黙ってしまった。
「お父さんが何と言おうと、私は二人の交際を認めます。亮太くんよろしくね」
「わかりました。よろしくお願いいたします」
「そう言えば麻宮くんの苗字、聞いたことがあるんだけど、麻宮くんのご両親の仕事は何をされているのかしら?」
ああ……愛理にも俺の両親の仕事の話は言ったことがないのに。
今まで秘密にしてきたのに。
そう俺の親は躾が厳しい。なぜなら、それは……
「父は警察官で、母は看護師をしています」
「やっぱり、あの麻宮さんの息子さんだったのね。愛理と交際することになるなんて奇遇ね」
「まさか、あの麻宮さんの息子さんか。麻宮さんは私の同期だ。それならば話は別だ。交際を認める」
俺の父さんが愛理のお父さんの知り合いで助かった。
愛理は俺との交際を愛理のお父さんに認めてもらったことで、嬉し涙を流して喜んでいる。
「よかったわね愛理。亮太くんも愛理のことお願いね」
愛理のお母さんに愛理のことをお願いされてしまった。
これからはもっと愛理を大事にしようと思う俺だった。




