20話 マラソン大会
マラソン大会当日がやってきた。
体育の先生と相談した結果、愛理はできるところまで走って、その後は棄権しても良いこと
となった。
俺の隣には聡がスタートを待っている。
その隣になぜか工藤司がスタートの準備をしていた。
「喧嘩では亮太に負けたからな。マラソンでは絶対に負けないぜ」
別に工藤司とは友達になった覚えはない。
工藤司が一方的に俺に近寄ってきているだけだ。
「別にマラソンで頑張ろうというつもりはない。ゴールできればそれでいい」
男子と女子ではスタートする時間が違う。
だから俺が愛理に付いてやることはできない。
しかし愛理には汐音と凛が一緒についてくれている。
あの二人がいれば、愛理のことを任せておいても安心だ。
男子のスタートの合図が鳴る。
運動部の連中は我先にスタート地点から飛び出していく。
その後ろを俺達も走っていく。
男子は10kmと距離が長い。始めから飛ばすと後で体力がもたないことになる。
長距離を走る時は、自分のペース配分で走ることが重要だ。
「俺は先にいくぜ。絶対に亮太に負けないからな」
そう言って工藤司はスピードをあげて、グングンと前にいる生徒達を抜いていった。
あのスピードだと、途中でヘタばることなるだろうな。
「亮太、俺はもう少しゆっくりと走る。お前は先に行ってくれ」
「ああ……自分のペースで走らないとな。聡も完走しろよ」
「完走だけはするさ。別に順位なんて関係ないんだし」
そう言って聡は後ろへ下がっていった。
俺は自分のペースを守って、ゴールへ向かって走っていく。
マラソンのコースは岡島高校を出て、大通りを回って、また岡島高校へ戻ってくるコースだ。
街中を走るので、街の人達からの声援も聞こえてくる。
俺は中間地点を通って、ポールを回って折り返す。
しばらくすると工藤司がスピードを落として、俺と並んだ。
「クソっー! マラソンでも亮太に負けたか。秋の体育祭では負けないからな!」
そう言って工藤司は後方へと落ちていった。
もう女子もスタートしている頃だろう。
早くゴールして、その後に愛理を探しに行ったほうがいいだろう。
愛理の体調が心配だ。
スピードを少しあげて、ゴールを目指す。
岡島高校の校門が見えてきた。後は高校の中に入ってグランドのトラックを回ればゴールだ。
校門を潜って、グランドまで走り、トラックを一周してゴールラインを超えた。
順位は54位だった。
そのままグランドを出て、校門をくぐって愛理を探しにいく。
愛理はすぐに見つかった。
愛理、汐音、凛の三人は女子の最後尾を歩いていた。
「愛理、大丈夫?」
「亮太、もうマラソン大会を終わらせてきたの? 順位は何位だったの?」
「順位は54位だった。これからは愛理に付いて歩くよ」
汐音と凛がニッコリと笑う。
「それだったら、愛理のことは亮太に任せて、私達は先に走っていくね」
「先生には了解を得ているから、このまま歩いてもいいんだけど、二人のお邪魔だからね」
そう言って汐音と凛は先に走っていってしまった。
「体育の先生とはどんな相談をしているのかな?」
「私は中間地点まででいいって、体育の先生から許可をもらったし」
「それじゃあ、中間地点まで頑張って歩こう」
女子の中間地点は男子の中間地点の手前に置かれているポールだ。
そこまで歩けば、愛理のマラソン大会は終わる。
二人並んで中間地点のポールを目指す。
「私、小さい時から病弱だったの。これでも良くなったんだよ」
そう言って愛理は俺に笑顔を向ける。
その笑顔がとても美しくて可愛い。
「だから小さい頃は家でしか遊べなくて、外で遊ぶのが夢だったし」
「今は外で遊ぶことができるようになって良かったね」
「そうなの。今は外にも遊びにいけるし、一人暮らしで自由だから最高」
俺と愛理は他愛もない話をしながら中間地点を目指す。
赤い中間地点が見えてきた。
そこに体育の先生も立っていた。
愛理が中間地点のポールを触る。
「加茂井、お疲れ様。これでゴールしたことを認める」
体育の先生は短く愛理に告げた。
「後は休みながらでいいから、学校まで戻ってきなさい」
「はい……ありがとうございます」
愛理はきちんと体育の先生に頭を下げて礼をする。
俺も隣で頭を下げた。
そしてポールで折り返して、愛理と二人で岡島高校の校門を目指して歩く。
もうマラソン大会は終わっているから、途中で数回、休憩を入れて、ゆっくりと歩く。
「亮太、今度の休み暇してる?」
「ああ、だいたいは休日は暇してるよ」
「それじゃあ、私とデートしようよ。私達、まだデートしたことなかったし」
女子とデートなんて初めてだ。
体に緊張が走る。
「私も男の子とデートするのは初めてだから、亮太がリードしてね」
「どこへデートに行こうか? 愛理の行きたい所でいいよ」
「うん……映画にいきたいかな? 遊園地や水族館も魅力的だけど」
「わかった。今度の休みは二人で映画に行こう」
今度の休みは二人で映画か。
今、デートに向いている映画はやっているだろうか?
愛理はどんな映画を観たいのだろう?
「愛理の映画の趣味は何?」
「ん……恋愛映画、ホラー、アニメ、何でも見るよ」
「それだったら何かやっているだろう。今度の休みが楽しみだね」
俺と愛理は二人で手を繋いで岡島高校の校門を目指して歩いた。
岡島高校へ戻ってきた時には、すでにマラソン大会は終わって、生徒達は帰っていた。
愛理の机の上には可愛いメモ用紙が置かれている。
汐音と凛からの伝言メモだ。
『先に帰ります。後は二人で仲良くね』
と書かれていた。
愛理はそのメモを見て満面の笑みを浮かべる。
そして俺にメモを見せてくる。
メモを見た俺も笑顔が溢れた。




