2話 罰ゲーム
中間考査テストが終わった5月末。
空はどこまでも高く、青く澄んで、春の日差しが教室の窓から差し込んでくる。
4時間目の数学の授業が自習となり、俺達は暇を持て余していた。
俺の隣の席には親友の沢尻聡が座っている。
聡は俺の中学の時からの親友で、高校に入ってから1年、2年と同じクラスだった。
「最近、思うんだけど、俺達のクラスの女子ってレベル高くない?」
クラスの女子を見回して聡が俺の耳元にささやいてくる。
確かに俺のクラスの女子のレベルは高いと思う。
それだけに俺達のような普通の高校生男子では相手にされないのだが。
クラスの女子の中心でケラケラと笑っているのが加茂井愛理。
その両横に愛理の親友の多賀汐音、京本凛が座っている。
3人共に美少女で、その派手系のギャルなので、相当に目立つ。
岡島高校で知らない男子生徒はいないだろう。
ネクタイも外して、シャツのボタンを2つまで外していた。
スカートの丈はチラリと下着が見えそうな位置まで引き上げられている。
3人の中でも噂が絶えないのは愛理だ。
既に2桁以上の男子生徒を振っているという噂もあり、年上の男性と交際しているという噂もある。
俺達のような冴えない男子から比べると高嶺の花もいい所だ。
「なあ……今、暇だし、皆でゲームしねーか。古今東西でも山手線ゲームでもなんでもいいぜ」
聡がそう言うと周りの男子連中が寄ってきて、ゲームをしようと言うことになった。
俺って、この手のゲーム、弱いから、あまりしたくないんだよな。
「罰ゲームを付けようぜ。罰ゲームはゲームに負けた者は加茂井愛理に告白すること」
「「「えーーそれって玉砕覚悟の罰ゲームじゃん」」」
周りの男子達からも非難の声があがる。
「どうせ、俺達なんて眼中にねーんだし。告白しただけでも勇者でしょ」
聡がおどけ顔で皆を説得する。
勇者という言葉が俺達男子の心に響く。
「「「勇者か。勇者ならやるしかねーな」」」
男子達からの反対意見はなくなった。
皆、自分さえ負けなければいいと思っている。
負けたとしても、告白して勇者の称号を得られるならば悔いなしという男子達もいる。
そしてゲームは始まった。
……結果。
俺の惨敗に終わった。
男子達は皆、俺の肩に手を置いて、優しい笑みで告白しろと迫ってくる。
「亮太、お前も諦めて、加茂井に告白してこい。告白すれば勇者だぞ」
「勇者になんてなりたくないよ。こんな罰ゲーム、拷問じゃないか」
「「「勇者! 勇者! 勇者!」」」
確かに加茂井愛理みたいな美少女が彼女になる可能性が1%でもあるならやってもいい。
俺も人生で一度くらいは、明るいリア充生活を送ってみたい。
しかし、加茂井愛理が俺みたいな地味で普通の学生を相手にするわけないじゃないか。
また俺の歴史の一ページに黒い汚点が残るだけだろうが。
男子達の勇者コールに後押しされたように、俺は女子達の輪の中へ足を踏み入れる。
すると加茂井愛理が俺が近づいてきたことに気が付いたようだ。
汐音と凛も気付いたらしく、目を細めて俺をジーっと見つめている。
俺は意を決して加茂井愛理に声をかけた。
「えーっと、加茂井さん、昼休憩時間に屋上へ来てくれるかな。俺、屋上で待っているからさ」
愛理は俺を見て不思議そうに首を傾げる。
「亮太から話しかけられたのは初めてだよね。私に何か用なのかな? 何の用なの?」
「だから屋上に来てくれればわかるって。屋上で待ってるから、絶対に来てください」
「えー昼休憩は皆でお弁当タイムだし……。お弁当を食べ終わってから、皆とお喋りタイムだし……。屋上なんて面倒臭いよ。用があるなら今すぐに言って」
ここは教室の中だぞ。クラスの全員がいる場所で、告白しろとでもいうのか。
それも4時間目の自習中だぞ。こんな時間に告白なんてできないだろう。
汐音と凛が目を細めて俺の様子を伺っている。
「どうせ、昼休憩時間に屋上で愛理に告白でもしようって考えていたんでしょ」
「どうせバカな男子達が考えたことに決まってるんだから。そんなことに私達を巻き込まないで。愛理も私達も迷惑よ」
確かに昼休憩に加茂井愛理を屋上に誘うのは俺の身勝手な行為だ。
そのことについては、屋上で会った時に謝罪させてもらうことにしよう。
今は屋上への約束を取り付けて、早く女子達の輪の中から出ていきたい。
「なんだー! 亮太も私に告白するの? 亮太からの告白だったら……付き合ってもいいよ」
「「え!」」
汐音と凛が驚いて愛理を振り返る。
愛理を囲んでいた女子達の輪が一斉にどよめきに変った。
そして男子達からは勇者コールが沸き起こる。
愛理はスクッと席から立ち上がると、俺の目の前に立ってニッコリと微笑んだ。
「これからは加茂井さんじゃなくて、愛理って呼んでね。亮太、これからよろしくね」
愛理の目の前に立っている俺は、愛理の答えにパニックになり、自分の置かれている状況がわからなくなった。