17話 朝からの乱入者
昨日は眠れずに夜中まで愛理とLINEをしてしまった。
だから今日の早朝は眠い。
しかし日課の体術の基礎訓練とランニングをこなして、家を出て愛理との待ち合わせ場所のアパートの一階まで歩いていく。
すると愛理は既に一階に降りてきており、俺を見て手を振っている。
それを見た俺は小さく手を振り返した。
そして歩道を二人並んで手を繋いで歩く。
愛理の温もりと優しさを感じる。
「昨日、遅くまで私の相手をしてくれていたから眠いでしょ」
「少し眠いかも。それは愛理も同じだと思うけど」
愛理が優しく俺を見て微笑む。
俺も愛理を見て微笑んだ。
段々と岡島高校の正門が見えてくる。
生徒達の人数が正門を潜り抜けようと増してくる。
俺と愛理も正門を潜り、校舎に入って下駄箱で靴を履き替えて二階への階段をのぼる。
クラスの中へ入ってから互いに手を離して、それぞれに自分の席に座る。
愛理は自分の席に鞄を置くと汐音と凛がいる女子達の輪の中へ入っていった。
俺は自分の机の上に鞄を置いて、席に座って窓の外を眺める。
梅雨の合間の晴天の青空が広がっていた。
「ここに麻宮亮太って奴はいるか!」
大きな怒鳴り声が教室内に響き渡る。
教室内が一斉に静まり返る。
すると教室のドアの所にいた、ツンツンヘアーの茶髪の男子生徒が教室内に入ってくる。
明らかに別のクラスの生徒だ。
「愛理と付き合ったっていう、麻宮亮太、出てこい。俺はお前達が付き合うことなんて許さねー」
愛理、汐音、凛の三人が男子生徒の前に立ちはだかる。
「もういい加減にしなよ工藤。もう十回以上、あんた愛理の振られてるんだから、いい加減に諦めな」
「うるせえー汐音。俺は一度決めたことは諦めないと決めてんだ。絶対に愛理は俺の女にしてみせる。麻宮亮太、出てこい。俺と勝負だ」
「ガタガタとうるさいから愛理に相手にされないんじゃん。少しは静かにしなよ」
「凛もうるせー。俺は麻宮亮太に会いに来たんだ。お前達に会いにきたんじゃねー」
ツンツンヘアーの茶髪の男子は声も大きく、威勢がいい。
誰も止めることができない。
俺は自分の席を立って、のっそりと男子の元まで歩いていく。
「あの……麻宮亮太は俺だけど、何か用かな? 朝から騒がしいのは好きじゃないんだけど」
「お前が麻宮亮太か。俺は愛理の恋人になる工藤司だ。お前が横から愛理を取っていくんじゃねーよ」
「別に俺が横取りしたわけじゃないよね。さっきから聞いていると工藤は何回も愛理に振られているようだし。工藤のほうこそ俺と愛理の邪魔をしないでくれるかな」
「何だと地味男の分際で偉そうなことを言いやがって、お前にはこれをくれてやるよ」
工藤はいきなり俺の胸倉をつかむと、右拳で左頬を狙ってきた。
俺はとっさに身をかがめて、右拳を額で受け止める。
「アイタタタター!」
「これで正当防衛成立だね。工藤が先に手を出してきたんだ。そのことはクラスの皆が証言してくれる。先生に知られてマズいことになるのは工藤だよ」
愛理が俺と工藤の間に入って、両手を広げる。
「工藤……もうやめて。私、チャラ男な男子って好きじゃないの。何回も言ってるでしょ。もう十回以上、工藤との付き合いは断ったわよね。だからつきまとわないで」
「愛理もうるせー。そんな奴を庇いやがって。そんな地味男、脅せば一発で逃げるんだよ」
俺は愛理の肩を優しく叩いて、愛理の前に俺が出る。
「地味男は認めるからさ。これ以上騒がないでくれよ。本当に先生達が来ちゃうぞ」
「うるせーよ地味男! これでも喰らえ!」
工藤はまた俺の胸倉をつかんで右拳を振ってきた。
俺は工藤の右腕を持って、きれいに背負い投げる。
するとドシンという音とともに、床に工藤が倒れている。
最後まで投げ飛ばしていないので、工藤の頭は打っていない。
しかし工藤は目の色を白黒させている。
「これ以上すると怪我することになるから止めておこうよ。俺は地味男でいいからさ。愛理から手を引いてくれないかな。そうでないと今回の件先生に報告しないといけなくなるんだけど」
工藤はよろめきながらも立ち上がって、俺の顔を見据えてくる。
「お前、武術習ってるだろう」
「多少だけどね。護身術程度だよ」
「わかった。麻宮亮太。お前のことを認めてやる。絶対に愛理から手を離すなよ」
「工藤、もうすぐHRのチャイムが鳴るから、自分の教室へ帰ったほうがいいぞ」
「わかった。今度、亮太に会いにくるわ。俺、お前のこと気に入った。これからは友達になろうぜ」
そう言って工藤は自分の教室へ戻っていった。
俺に怪我はないが、愛理、汐音、凛の三人が心配そうにしている。
「これで工藤も愛理の近寄るようなことはしなくなると思うよ」
「こんなことのために亮太が怪我でもしたら、私、泣いちゃうから」
「俺は地味男だけど、護身術ぐらいは身に着けているから大丈夫だよ」
「そんなこと言っても心配したんだからー」
愛理は思わず俺の胸に飛びこんできた。
そして俺の胸の中で静かに涙を流している。
俺は優しく抱きしめて、愛理の背中をゆっくりとさすった。
「大丈夫だよ愛理。俺が愛理を守るから。だから心配しないでよ」
「私を守って、亮太が怪我をしたらどうするの……」
「そうだな。これからは注意をするよ」
愛理はその言葉を聞いて、安心したように微笑んだ。