16話 初めての愛理との夕食
愛理と手を繋いで部屋を出て、家に鍵をかける。
そして一階まで降りて、スーパーまで二人で歩いていく。
近くのスーパーまで歩いて15分ほどの距離。
二人で手を繋いで歩道を歩く。
愛理の手の温もりが伝わってくる。
小さくて細くて可愛い手。
手を繋いでいるだけで、心がとても温かくなる。
しかし手を繋いでいることが恥ずかしくて、愛理と視線を合わせることができない。
愛理も手を繋いだまま、頬を赤くして少し俯いている。
太陽が西に傾いて、二つの影が1つに重なるように大きく伸びている。
「私、亮太と手を繋ぎたかったの。だから今、すごく嬉しい」
「うん……俺も愛理と手を繋ぎたかった」
「これからはずーっと亮太と手を繋げるね」
「そうだね」
二人でゆっくりとスーパーまでの道を歩く。
手を繋いでいるだけなのに、心が伝わっているような気がする。
スーパーに着いて、手を離す。
そして俺はカートの上にカゴを乗せて、愛理の後ろを歩いて行く。
愛理はスーパーに慣れているらしく、無駄のない動きで食材をカゴの中へ入れていく。
俺は料理はほとんどできない。
スーパーへもあまり来たことがない。
だからスーパーの中が珍しくてキョロキョロとしてしまう。
「亮太、そんなにスーパーが珍しいの?」
「あんまり来たことがないからな。食材がいっぱいで俺だけだったら迷っているところだよ」
「私はほとんど毎日、スーパーに来てるから、どこに何が置いてあるか、だいたいわかるの」
愛理はカートの前を持って、どんどんと先へ進んでいく。そして目当ての食材をカゴの中へ入れていく。
俺はただカートを押しているだけだ。
スーパーの中では完全に愛理が主導権だ。
全ての買い物が終わってレジに並んで清算をする。
俺も支払うと言ったが、今日は私が料理をご馳走するだから、亮太の支払いはなしと言われてしまった。
そしてカートとカゴを元の場所に戻して、買った荷物をエコバックの中へ入れていく。
全てを入れ終わると、エコバックは結構な重さがあった。
俺はエコバックを担いで、愛理と二人でアパートまでの道を帰る。
帰り道も二人で手を繋ぐことを忘れない。
アパートに着いた俺達は二階の愛理の部屋に戻って、ダイニングテーブルの上にエコバックを置く。
すると愛理がエコバックを空けて、中から食材を取り出す。
愛理は可愛いエプロンを着けている。
これから夕食の準備にとりかかるようだ。
「私、夕食の準備をするね。その間、暇だったらテレビでも見てくれてかまわないよ」
「俺……あまりテレビを見ないんだ。ウータと遊んでいるよ」
「ダイニングは邪魔だから、私の部屋で遊んでいてね」
俺はウータを抱っこしてダイニングから避難して、愛理の私室でウータと遊ぶ。
ウータは元気で、何にでも興味を示すから面白い。
俺はウータを仰向けにして、腹をさすってもモフモフを楽しむ。ウータも気持ち良さそうに目をつむっている。本当に可愛いな。
そんなことをしている間に夕飯の用意が出来上がったようだ。
ダイニングテーブルの上に料理が並べられていく。
「亮太、夕飯の用意ができたよ。テーブルに座って」
「ありがとう。すごく楽しみだよ」
ダイニングテーブルの上には肉じゃが、クリームシチュー、シーザーサラダ、ポテトサラダ、ポタージュスープ、ご飯にお箸が置かれていた。
愛理の座る席にも同じ料理が並べられている。
「ご飯はいくらでもお替りあるからね」
「ありがとう」
「「いただきます」」
肉じゃがを口の中にいれる。ゴロゴロのジャガイモが口の中で蕩ける。美味い。
クリームシチューをスプーンですくって口の中へ入れる。とてもクリーミーで美味い。
シーザーサラダは口の中をサッパリさせてくれて美味しいし、ポテトサラダは甘くて美味しい。
「どれも美味いよ。これ全部食べていいんだよね」
「全部食べちゃってね。ご飯もあるからね」
愛理も可愛い口で、美味しそうに料理を食べている。
そして愛理は嬉しそうに俺が食べている姿を見て微笑んでいた。
「ご飯のお替りいいかな?」
「はい」
愛理は嬉しそうに炊飯器を開けて、空になった俺の茶碗にご飯を盛っていく。
そしてテーブルの上にご飯を置いてくれた。
俺はテーブルの上に置いてあった料理を全て平らげてしまった。
本当に愛理は料理上手だ。
「美味しかったよ。これだったらいつでもお嫁さんに行けるね」
「私がお嫁に行くのは亮太の所だけなんだから。褒めてくれてありがとう」
「それは嬉しいな」
夕飯を食べさせてもらったので、キッチンに二人で立って後片付けをする。
愛理が食器を洗って、俺が食器を拭いて、愛理の言われる通りに片付けていく。
「こうしていると新婚みたい」
新婚なんて言うから、息が止まってしまった。
心臓の鼓動がドキドキと激しく揺れる。
夕食の片付けを終えると、すっかり周りは夜になっていた。
「もう帰る時間だね……寂しい」
「俺も愛理と離れて寂しいよ。もっと長く一緒にいたい」
愛理がいきなり俺の胸の中へ飛び込んできた。
俺はそっと愛理を抱きしめる。
「今日、いっぱい眠れるように、亮太に抱き着いちゃうんだから」
愛理が離れるまで俺は愛理を抱きしめ続けた。
初めて抱きしめた愛理の体は柔らかく折れそうなほど細かった。
そして愛理の体から良い香りが漂ってくる。
その匂いを嗅ぐと、優しい気持ちになっていく。
愛理は俺から離れると少し涙目になっているようだった。
このまま愛理と一緒にいたいが、既に帰る時間を回っている。
「俺……もう帰らなくちゃ」
「そういえば亮太のLINE教えてもらってない。連絡先を交換しましょう」
愛理と連絡先の交換をして、玄関から出ようとすると、愛理が服の裾を持って止める。
「家に帰ったら、連絡してね。私も連絡するから」
「わかった。そうするよ」
俺が玄関を出て一階まで向かうと、愛理も一階まで降りて来た。
そして俺が見えなくなるまで、いつまでも愛理は手を振っていた。