15話 初めての愛理の自宅
放課後、一階の下駄箱で合流した愛理と俺は、校舎を出て校門をくぐる。
すぐ隣に愛理が歩いている。
すぐ手が当たる位置に愛理の手がある。
すると愛理の手が俺の手を包む。
そしてしっかりと手を握る。
女の子の手って、こんなに細くて小さくて柔らかいんだ。
手を繋いだだけで、心臓がドキドキする。
「やっと亮太と手をつなげたね。めっちゃ嬉しい」
「俺も愛理と手を繋げて嬉しい」
二人で手を繋いで歩道を歩いて、愛理のアパートへ向かう。
いつもなら公園で少し寄り道して帰るのだが、今日はアパートへ直行だ。
愛理のアパートの二階へ向かう階段をのぼる。
そして二階の一番奥の家が愛理の家だった。
愛理は鍵で玄関のドアを開いて、中へ入っていく。
「亮太も入って。狭い部屋だけど、どうぞ」
玄関から中に入るとすぐにダイニングがあり、ダイニングテーブルが置かれている。
俺は初めて女子の家へと入った。
とても良い香りがして、自分の家とは違う可愛らしさがある。
「私、私服に着替えるから、亮太はダイニングで待っててね」
そう言って、愛理は自分の部屋へと入っていった。
愛理のアパートの作りは1DKだった。
隣の部屋から愛理が着替えている音が聞こえる。
その音を聞くだけで体がソワソワする。
部屋から出て来た愛理はオレンジのニットのカットソーにデニムというカジュアルな恰好だった。
オレンジのカットソーが体にぴったりとフィットし、豊満な双丘が強調されている。
「紅茶を淹れるわね。ちょっと待っててね」
俺はダイニングテーブルに座って、愛理が紅茶を淹れてくれるのを待っていると、足元に白猫がじゃれついてきた。
以前に会った時よりも随分と大きくなっている。
「ウータ、亮太が遊びにきてくれたよ」
「ニャー」
俺はウータを抱っこして胸の上に乗せる。そして喉をさすると、気持ち良さそうにウータは目を細める。
「大きくなったな。愛理に飼ってもらって良かったな」
「ニャー」
ウータは真っ白な子猫で、目が大きくて、少し垂れていて可愛い顔をしている。
尻尾は普通の猫よりも大きいような気がした。
「ウータが来てくれたおかげで、夜も寂しくないんだよ。ウータがいつもベッドの上にいるから」
愛理のベッドの上で寝ているとはなんと羨ましい。
ウータはまだ子猫なので、すごく甘えたがりだ。
「はい紅茶」
俺はウータを膝の上に乗せて、紅茶を飲む。
紅茶が体を潤す。
「……美味い」
「ただの紅茶じゃん」
そう言って愛理がテーブルの対面の席に座る。
愛理の部屋はシンプルであまり家具は置かれていない。
薄ピンク色と白が基調となっている。
調えられた部屋で、埃一つおちていない。
「部屋に入った印象はどう?」
「部屋がとてもきれいだ。ギャルの部屋だとは思えない」
「ギャルもメイクと服装だけだからね。基本は高校デビューだもん」
「そうだったね」
「実家では躾が厳しかったから、家事全般できるようになっちゃったの」
「俺の家も躾には厳しいから、愛理の苦労を理解できるよ」
「一人暮らしになって、やっと自由を手にいれたの」
なんとも羨ましい話だ。
自分の家では絶対に一人暮らしなんて許してくれないだろうな。
ウータは俺の膝の上が気に入ったらしく動こうとしない。
俺はそっとウータの背中をなでながら、紅茶を飲む。
「ウータを見て、いつも亮太のことを思い出してたの」
「それは嬉しいな。俺も夜になると愛理が何をしているか気になるよ」
「夜はいつもウータと遊んでるかな。だってウータ可愛いんだもん」
確かにウータは可愛い。
俺も猫を飼っていたなら、始終、猫と遊んでいただろう。
「ねえ……亮太、今日は何が食べたい?」
「愛理の作る料理なら何でもいいよ」
「それを言われると嬉しいけど、一番困る答え」
確かに何でもいいという答えは、一番困るかもしれない。
もう少しよく考えてから答えれば良かった。
「じゃあ、肉じゃがとシチューが食べたい」
「わかりました。任せて」
そう言うと愛理はエコバックを持って立ち上がった。
「亮太、これからスーパーへ買い物に行くわよ。一緒に来てね。荷物持ち」
確かにスーパーの荷物も多くなれば重い。
ここは俺が頑張る番だろう。
「わかった。一緒に行こう。今すぐ行くの?」
「だって、亮太、あまり遅くなれないでしょ。私は遅くてもいいけど」
確かにあまり遅い時間に帰ると両親がうるさい。
そういえば、今日の夕食、いらないと連絡を入れておくのを忘れていた。
「少し家に連絡する」
「どうぞー」
家に連絡をして、今日は夕飯を友達の家で食べて来ることを伝え、少し夜遅くなると言っておく。
「これで、少し夜が遅くなっても大丈夫だよ」
「やったね。今日は亮太といっぱい一緒にいられるね」
愛理は喜んで、俺の手の上に自分の手を置いた。
愛理の手の温もりが伝わってくる。
俺は微笑んで愛理の手を優しく握った。