14話 恋の相談
休憩時間になると聡が俺の隣の席に座ってきた。
そして少しため息をつく。
「何だよ、俺の隣の席に座って、ため息なんてついて」
「亮太……聞いてくれよ。どうしたら俺は藤本委員長と仲良くなれるんだ?」
「普通に接していればいいんじゃないか。話しかけるとか、色々あるだろう」
「俺なりに色々と試したんだけど、あまり反応が良くないというか、藤本委員長が大人しすぎるんだよ。おっとりしているというか、無反応というか」
「俺に聞かれても、この間まで俺も女子と話すことが苦手だったんだぞ。良い案なんて持っているはずないだろう」
「そうだな……亮太に頼った俺が間違いだったな」
そう言われると無性に腹が立つ。
しかし、女子と仲良くしたことがほとんどない俺には、聡の悩みを解消する手立てがない。
女子の輪の中で談笑しながら、チラチラと愛理が俺を見ている。
俺は手を振って、愛理にこちらに来るように合図する。
愛理は笑顔で俺のほうへ歩いてきた。汐音と凛も一緒だ。
「亮太、呼んだ?」
「うん……聡がさ、藤本委員長のことで悩んでるんだ。俺だと解決できなくて」
汐音と凛が不思議そうな顔をして聡を見る。
「聡……藤本委員長のことって何? 私達、聞いてないんだけど」
そう言えば愛理には藤本委員長のことを口止めしてあったんだった。
「あのね、聡が今一番気になっている女子なんだって。それで亮太に相談に来てるみたい」
愛理が簡単に汐音と凛に話しかける。口止めはいらなかったようだ。
汐音が冷たい視線を聡に向ける。
「藤本委員長って、休み時間でも読書をしている大人しい女子でしょ。私達の仲間でもないし、聡が自力で頑張るしかないんじゃん」
凛も大きく頷く。
「私達の知り合いだったら、少しは相談に乗れるけど、私達の知り合いでもないし、無理ね」
その言葉を聞いて、余計に聡が暗くなる。
そして、俺の肩を叩く。
「やっぱり、俺が頑張るしかないのか。何をどう頑張ればいいんだよ」
愛理は首をかしげて不思議な顔をする。
「藤本委員長の役に立てばいいんじゃない。委員長の仕事を助けてあげるとか。一緒に教員室へ行ってあげるとか……少しずつ距離を縮めていけばいいじゃん」
「なるほど……そういう手があったか。愛理、ありがとうな」
「聡……藤本委員長のことが気になるのはわかるけど、亮太に相談するのはやめてくんない」
「だってさ……亮太ぐらいしか相談する相手がいないんだから仕方ないだろう」
聡……お前、交友関係広いよな。他にも仲良い男子も沢山いるよな。
なぜ、そういう相談だけ俺の所へ持ってくるんだ。
俺も今まで彼女なんていなかったこと、聡は知ってるよね。
「それに亮太に相談すれば、愛理達にも相談に乗ってもらえると思って」
確信犯か。
愛理はそれを聞いてニッコリと聡に微笑んだ。しかし瞳が笑っていない。
「あのね聡……亮太は私の彼氏なの。他の女子のことを考えてる暇があったら、私のことを考えてほしいと思うんだけど、わかってくれるかな」
汐音も愛理の言い分に頷く。
「亮太が相談に乗って、藤本委員長のことばかり考えてたら、愛理が可哀そうじゃん」
凛は大きくため息を吐く。
「女の子は、いつも大好きな男子に見ていてほしいし、考えていてほしいもんなの。相談なら亮太じゃない、他の男子にしなさいよ。愛理の邪魔をしてどうすんのよ」
その言葉を聞いて聡が体を小さくする。
「わかったよ。これ以上、亮太に迷惑かけないよ。俺一人で解決してみせる。愛理にもアドバイスをもらったしな」
「女子のことをわかっているのは女子よ。これからは何かあったら私達三人に相談すればいいじゃん。恋の相談ならいつでも聞いてあげるから」
愛理が優しく聡にいう。
すると聡が満面の笑みを浮かべる。
「そうだよな。女子のことは女子に聞かないとな。亮太に相談したことが失敗だった」
どうせ俺は役立たずですよ。
でも俺に相談したおかげで、愛理達が相談に乗ってくれるっていうだから、結果的に良かっただろう。
「俺、これから委員長の仕事を手伝うわ。そして会話するきっかけを見つける」
そう言って聡は俺の隣の席から立って、自分の席へ戻って行った。
本当にそんなことで、キッカケなんて掴めるのだろうか。
「愛理、本当に聡はあれでいいのか? あれで藤本委員長と仲良くなれると思うか?」
「そんなの誰にもわかんないじゃん。私にもわからないよ。何もしないよりいいんじゃないかな」
汐音が俺に顔を近づけて、鼻の頭を指で押す。
「恋愛なんて誰にもわからないわよ。亮太は他人の心配しているよりも愛理のことを考えてあげて」
凛は腰に手を当てて胸を張る。
「藤本委員長が聡に心を開いたら、少しは脈あるんじゃん。それまでは聡が努力するしか方法なんてないよ。だから亮太が悩んでもしかたないの」
俺も愛理と付き合い始めたばかりだし、人の相談に乗ってやれるほど恋愛に詳しいわけじゃないし、聡には自力で頑張ってもらおう。
「俺は愛理のことだけ考えるよ。それが今の俺のベストだから」
俺の言葉を聞いて、愛理は俺の両手を握って、嬉しそうに微笑んだ。