11話 雨の日の登校
次の日、朝起きると雨が降っていた。
傘を差して愛理の待つアパートへ向かう。
愛理はいつものようにアパートの1階で待っていた。
「雨の中、待たせてごめん」
「ううん、いいの。私、雨って少し好きなんだよね。全てを洗ってくれているような気がして」
なるほど、そういう考え方もあるのか。
俺も別に雨がきらいではない。少し足が濡れるのは嫌だけど。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
雨の歩道を二人で傘を差して歩く。
傘を差しているから、いつもより愛理との距離が開く。
いつもよりも離れていることが少しだけ寂しい。
「雨が降ってるから、今日は屋上でお弁当を食べることができないね」
「あ……そういえばそうだ」
「今日は教室の中で二人でお弁当を食べようね」
屋上で愛理と二人っきりでお弁当を食べる一時は、貴重で嬉しい一時だったのに。
今日はそれも無理か。
教室の中で二人でお弁当を食べるのは初めてだ。妙に緊張する。
他の生徒達に二人で食べている所を見られるのは少し恥ずかしい。
「そんなに気にする必要なんてないじゃん。私達、付き合ってるんだし」
「確かにそうだね」
「もっと堂々としていればいいんだよ。私も一緒にいるんだし」
「……そうするよ」
雨が少し止んできた。雨足がポツポツになっていく。
すると愛理は自分の傘を畳んで、俺の傘の中へ入ってきた。
「この程度の雨だったら濡れないじゃん。やっぱり亮太の近くにいる方が落ち着くし」
「それはいいんだけどさ。ちょっと恥ずかしいな」
「私たちは付き合ってるんだからいいの」
愛理と肩が触れ合う。
それだけで、俺の心臓は飛び出しそうに飛び跳ねた。
顔が真っ赤になるのがわかる。
愛理も頬を赤くしながら、俺を見てニッコリと微笑んでいる。
愛理の機嫌がいいなら、これでもいいか。
俺も愛理が傍にいてくれたほうが嬉しいし。
俺と愛理は一本の傘に二人で入って歩道を歩いて、岡島高校の校門を目指す。
校門の近くへ行くと、生徒達が傘をさして、校門を潜っている。
一本の傘で体を密着させて歩いている俺達は相当に目立つ。
男子生徒達からは嫉妬の視線や殺気のこもった視線を向けられる。
この視線には慣れそうにない。
校舎の中へ入って、傘を畳んで、靴箱で靴を履き替えて、二人で階段をのぼって、教室へ向かう。
「今日の朝の登校、楽しかったね。ちょっとドキドキしちゃった」
「俺もドキドキしたよ。愛理が傍にいたから嬉しかったけど」
「そんなことを言われると嬉しいじゃん。また休憩時間にね」
教室の中に入って、愛理は自分の席に鞄を置くと、女子の輪の中へ入っていった。
俺は自分の席に向い、机の上に鞄を置いて、席に座る。
するとすぐに聡が登校してきて、俺の隣の席に座った。
「今日、お前達、あいあい傘で登校してきただろう。遠目からでも目立ってたぞ」
「ああ……愛理が傘を畳んで入ってきたんだ。愛理が楽しそうだから一緒に登校した」
「クっ……亮太だけうまいことやりやがって。俺なんて彼女がいないからラブラブできないんだぞ」
この前まで俺も聡と一緒だった。
愛理と付き合ったことで、随分と状況が変わったんだと実感する。
「聡の気持ちはわかったから、俺を嫉妬の目でみるのはやめろ」
「クソ……絶対に近いうちに彼女を作ってやるからな」
「誰か好きな女子でもいるのか?」
「このクラスは女子のレベルが高いって言っただろう。少し目立たない女の子だけど、スタイル抜群の女子、藤本綾香委員長だ」
確かに藤本綾香委員長は目立たないが、スタイル抜群で控えめな美少女だ。
聡が名前をあげるのもわかる気がする。
気が弱くて、おっとりしているので、女子達に推薦されてクラス委員長になった女子だ。
「なるほど。聡が好きそうなタイプだな」
「だろう……何かあったら俺に協力してくれよな」
聡には愛理と付き合う時に、色々とアドバイスしてもらった恩がある。
俺で何か手伝えることがあるなら、協力してもいいだろう。
「わかった。何かあったら協力するよ」
「頼んだぞ」
「わかった」
聡は嬉しそうに女子の輪から一人外れて、静かに座っている藤本委員長をじーっと見ていた。
女子の輪の中では愛理、汐音、凛の三人が仲良く皆で談笑している。
時々、大きな笑い声が女子達の輪から聞えてくる。
とても楽しそうだ。
隣に座っていた聡が真剣な顔で、俺の肩を叩いてきた。
「このことは愛理達には黙っておいてくれよ。俺が大事に育てている想いなんだからな」
「別に愛理達に知られたとしても、誰も聡のことをからかったりしないよ」
「それでも黙っておいてくれ。俺の他にも藤本委員長のこと狙っている男子も多いんだ」
「わかった」
初めて聡の好きなタイプを聞いたような気がする。
聡にも早く春がくればいいのにな。