1話 プロローグ
曇天の空、大きな雨粒が地面に落ちる音が周りに満ちている。
今、立っている場所は小さな公園の屋根のあるベンチ。
胸元で子猫がニャーと鳴いた。
学校で拾った子猫。
雨の中で迷子になっていたので、思わず拾ってきてしまった。
土砂降りの雨。
この調子だと、夕暮れになっても雨が止むことはないかもしれない。
家で子猫は飼えないし、どうしようと俺は佇んでいた。
「うわー……すごい雨じゃん。もう体中がびしょ濡れだよ」
そう言って1人の美少女ギャルが公園のベンチに入ってきた。
そして俺と目が合い、子猫を見て驚いている。
「可愛い子猫じゃん。どこで拾ったの? まさか捨て猫?」
「俺にもわからないんだ。高校の中で迷っていたから、ここまで連れてきた」
「ん……それでどうすんの? あんたが子猫を飼うわけ?」
「飼いたいけど、うちの家はペット禁止なんだ。だから困って、ここで悩んでる」
白い子猫の頭をそっとなでる。
子猫は気持ち良さそうに目を細めて、俺に甘えてくる。
その仕草がとても可愛い。
「ちょう可愛いじゃん……私が飼ってあげようか。私のアパートならペット飼えるし」
「本当? それだと助かるんだけど……途中で捨てるわけにもいかなかったから」
「こんな可愛い子猫、捨てたらダメじゃん。私が飼うから抱っこさせて」
そう言って美少女ギャルは俺から子猫を取りあげると、自分の胸の上に子猫を乗せて、子猫の体を優しくなでる。
よく見ると美少女ギャルは、高校からここまで走ってきたのか、ブレザーまでグッショリと濡れていた。
俺は鞄の中からタオルを取り出して、美少女ギャルへタオルを放り投げた。
「そのタオル使ってよ。体……ぐっしょりと濡れてるから。早く拭いたほうがいい」
「サンキュ……あんた、優しいんだ」
タオルを受け取った美少女ギャルは、濡れている首筋をタオルで拭いていく。
雨に濡れているので、服のシャツが透けて見えて、目のやり場に困る。
そっと視線を外す。
「もっとガン見してくると思ったのに、あんた女の子と付き合ったことないでしょ。仕草がウブいもんね」
放っておいてくれ。
どうせ俺は年齢=彼女いない歴の17歳だ。
「そのタオル、あげるから返さなくていいよ。後、傘もあげるから、子猫を二人で帰りなよ」
「そしたら、あんたが雨に濡れるじゃん。そんなことできないよ」
「傘、1本しか持っていないし、君、傘持ってないでしょ」
そう言って俺は傘を美少女ギャルに押し付けた。
美少女ギャルは胸に子猫を抱いているので、傘を亮太に返すことができない。
「ん……ありがとう。じゃあ、今回は借りていくね。あんたの名前教えてよ」
「俺の名前は麻宮亮太、君の名前はなんていうの?」
「私の名前は加茂井愛理」
加茂井愛理……岡島高校で一番有名な美少女ギャルの名前じゃないか。
どこかで見たことのある顔だと思ったら、同じ組の女子じゃないか。
同じ組だというのに話をしたこともなかった。
どうりで美少女のはずだ。
肌は白磁のように透き通っていて、クリクリとした二重、大きくてきれいな瞳。
濡れたロングの茶髪の髪がキラキラと輝いているように見える。
「今日から私が飼い主だからね。ちゃんと名前つけてあげるからね」
「ニャー」
愛理は子猫の背中を撫でて、優しく微笑んでいる。
その姿はとても優しくて愛らしい。
子猫も愛理に懐いたようだ。
子猫は愛理の胸の上で、大人しく抱かれて気持ち良さそうに目をつむる。
このままだと愛理と子猫をずっと見てしまいそうで、俺は頭を切り替えてベンチから雨の降る公園へ出た。
まだ雨があがる様子もない。
愛理と子猫は公園の屋根付きのベンチに佇んで俺を見ていた。
愛理と子猫に向かって手を振って、別れの合図を送る。
「子猫、可愛がってくれよな」
「うん……亮太、ありがとう。この子、大事にするね」
これが俺と愛理の2人の初めての会話だった。
俺は愛理と子猫を公園に残して、急ぎ足で家までの道を駆け走った。