99話 相談? のるよ
誤字脱字報告、本当にありがとうございます。
一瞬、チラリと見られた気がした。
「……アルド、ちょっと伝え忘れていたことがあった」
だがレプソルさんは気にした様子はなく、伝え忘れていたことを話し始めた。
伝え忘れていた事とは、もうサポーターの仕事をやらなくても良いという事だった。
バランさんが入ったことで、サポーターとして働かなくてもよくなったそうだ。これからはズッと冒険者枠だけで良いらしい。
レプソルさんはそれを伝えにきたようだ。
「なあ、アルド。……慣れてきたか?」
レプソルさんが何気なく話を振ってきた。
これは少し珍しいこと。レプソルさんはメンバーに指示を出したりはするが、古参以外とはあまり話をしない。
ミーナのことでは別だが、個人のことではほぼ無かったと思う。
そんなレプソルさんが話を振ってきたのだ。
今は丁度休憩中、それに実は思い悩んでいたことがあったので、相談という形でそれを打ち明けることにする。
「はい、『慣れて』はきました、けど……」
「けど?」
「どうやったら、ジンさんみたいに強くなれますか?」
「……へえ、面白いな。それって単純に強くなりたいとかじゃなくて、ジンみたいな強さにってことだろ?」
レプソルさんは僕の意図をすぐに察してくれた。
そう、僕が求めているのは単純な強さではなく、ジンさんのような強さだ。
WSを必要としない強さ。
他の人とは明らかに違う立ち回りなど、ジンさんには、僕が目指している強さが全て詰まっている。この二週間でその思いはドンドン強くなっていた。
( ジンさんのように成れたら…… )
「面白ぇな、アイツみたいになりたいってヤツは久しぶりだぞ」
「そうなんですか?」
「そりゃそうだろ。だってジンはおかしいだろ?」
「…………少しだけ」
「あの馬鹿に気を使う必要はねえよ。だってマジでおかしいから」
「ええ、独特と……言いますか。はい、ちょっと特別な感じがします」
同意するのは失礼な気がするが、同意せざる得なかった。
ジンさんはどこかおかしい。
何と言ったら良いのか、『次元が違う』いう言葉がピッタリな人だ。
思考や考え方、戦闘スタイルなど様々なことが人と違う。
鋭い目つきもそうだ。あんなに鋭くで恐ろしい目は見たことがない。
絶対的な捕食者、あれはそういった類いなのモノ。
本当に別次元から来たような存在だ。
ジンさんからはそれを感じていた。
「なあ、アルド。何でジンみたいな強さ欲しいんだ?」
「隣に……」
「隣に?」
「えっと、隣に立って戦いたいとかじゃなくて、もう逃げ出したくなくて。逃げないで、一緒に、その……えっと……あれ?」
吐き出したいことがあるのに、それを上手く口にすることができない。
何を言っているのか自分でもよく分からない。きっとレプソルさんを困惑させているはず。
そもそも、自分自身が一番困惑してしまっている。
( 僕は…… )
彼女の隣に立ちたいなど烏滸がましいことだ。
全てにおいて僕の方が劣っているし、実力の差は歴然だ。
天と地ほどの差がある。それを見せつけられた。
( しかも僕は…… )
逃げ出した。
差を見せつけられて耐え切れず、何も言わずに逃げ出してしまった。
そんな情けなくて弱い存在。
あの時のことは今も夜うなされている。
もう全部忘れ去ってしまいたい。
僕が成すべき使命には関係のないことだ。
だから忘れてしまえば良い、そうすれば楽になれる。のに――僕は。
「――嫌なんです。自分でもよく分からないけど、絶対にもう嫌なんです。でも自分に自信がなくて、【固有能力】だって駄目で、WSも……なくて、でも、やっぱり嫌で」
無茶苦茶なことを言っている。
完全に支離滅裂で、およそ人に聞かせて良い内容ではないし、絶対に伝わる訳がない話だ。要点をボカし、自分勝手に言葉を口にしているだけだ。
まるで駄々をこねている幼子だ。
塞き止めていた感情を溢れさせているだけ。
「なるほど。負けたくないとか、釣り合いが取れないとかじゃくて、ただ純粋に全部引っくるめて、また一緒に肩を並べて戦いたいヤツが居るってことか?」
「――えっ? 何で…………わかるんです?」
ストンと心に落ちた。
自分でも分からない答えを見た。
グチャグチャだったモノを正しく並べ、それを僕に見せてくれたよう。
僕の中に渦巻いていたモノが解きほぐされた気がする。
「何だ面白え顔して。そんな意外だったか?」
「え、だって……そんな……」
絶対に分かる訳がないと思っていた。
だけどレプソルさんは、簡単に答えを見てつけて言ってきた。
そうだ僕は、また一緒に彼女を戦いのだ。胸を張って彼女と一緒に。
「まあ、アレだ。考察と経験ってヤツだ」
「え? 考察と経験?」
「昔な、オマエと同じようなことを言ったヤツが居たんだ。まあ、酒の席で酔っ払って口にした感じだったがな。普段なら絶対に言わねえことを口走りやがったんだ」
「あの、それは……?」
「ん? だからな、隣に立ちたいヤツが居て、そんで苦労したみたいな話だ。そんでソイツはよう――」
レプソルさんは、そのときのことを話してくれた。
酔って口にした人とレプソルさんは古い知り合いらしく、ある酒の席でそれは起きたそうだ。
普段は飲まないその人が、その日は珍しく酔っ払っていたらしい。
どうやら家庭のことで深酒をしてしまい、そのときに酔った勢いで、隣に立つための苦労話を赤裸々に語ったそうだ。
その人は、一緒に冒険をする仲間が居た。
そしてその仲間の人が凄くて、一時嫉妬とは別の羨むような感情を持ったことがあったそうだ。
自分よりも遥かに凄い人で、自分とは釣り合いが取れていない。
けれどその凄い人は、決して自分から離れていく存在ではない。
だから己を奮い立たせて――
なかなか面白い話だったので、レプソルさんは今でも覚えているのだとか。
そしてその人が言った話と、いま僕が言ったことが似ていた。
だからあんな支離滅裂な話でもレプソルさんには伝わったようだ。
僕の、自分でも分かっていなかった葛藤を……
「ソイツはな、ただ我武者羅にやったんだってよ」
「え? それだけ?」
「そんでいつの間にか、どうでも良くなったんだってよ」
「あの、どうでも? それはどういうことで?」
「なんかな、隣に立つとかそういうことをいつの間にか考えなくなっていたってよ。まあ、酔っ払ってたしな、あんまり深い意味はねえと思うが……。まぁ我武者羅にやったことは間違いじゃねえ」
「取りあえず、足掻けってことでしょうか?」
「そりゃそうだろ。足掻くことも出来ねえヤツは、諦めるしかねえ。そうそう都合の良い解決策なんてもんはねえ。でもよう、丁度良い感じの目標が居んだ、それを目指せばいいさ。まあ、それで解決できるかどうかは分かんねえけど――って、そろそろ休憩は終わりか」
「え?」
そういったレプソルさんの視線には、肩を怒らせたジンさんがいた。
そして何故かレプソルさんのことを睨みつけている。
狼を模した仮面で表情は見えないが、目は間違いなく怒っている。
「……何で?」
「取りあえず、やってみろよ。オマエが最近ジンのことを熱心に見てるってのは聞いてる。最初はまあ、ちょっと疑っていたんだが、違うみたいだしな」
「え?」
「じゃあ、残り頑張れよ。こっちはもう終わったから。…………はあ、ミーナは何て面倒なヤツのことを……ったく」
その日から僕は、目標を持ってジンさんについて行くことにした。
今はまだ道が見えなくても、きっと見える気がしたから。
そしてそれとは別で、ふと気になったことがあった。
レプソルさんは『考察と経験で』と言った。
経験は分かる。似たような相談を受けたのだから。
だけど考察が分からなかった。考察が出来るほどの情報があるとは思えなかったので……
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あと、誤字脱字も……