87話 サポーターなお仕事
「おいっ、こっちも頼む」
「はいですぅ。アルドさん、持ってきた荷物をこっちにおねがいしますぅ」
「はい」
「わりぃ、予備の魔石ってどこにやった? 持ってきたヤツを青の方に渡しちまって、こっちの分が足りなさそうなんだ」
「は、はいですぅ。アルドさん、さっき持ってきた魔石の入った袋を」
「取ってきます」
サポーターとして深淵迷宮に入った僕は、追い回しという役目を言いつかり、ダンジョンの中を走り回っていた。
僕が担当しているチームは赤組。
他には青と黄色組があり、それぞれが別の場所で魔石魔物狩りをしている。
陣内組は規模が大きいため、アライアンスを三つに分けていた。
「あ、あれ? 魔石は?」
「アルドさん、魔石はあっちですぅ」
「あっ、はい、すみません」
追い回しの仕事内容は、言われた物をひたすら取りに行くこと。
モミジ組では全員でやっていたことだが、陣内組では追い回しがやることになっていた。指示された物を取りに走る。
他のサポーターたちは、休憩場所の設置や、冒険者たちの装備の手伝いなどをしている。
「昨日行った店でよう~」
「前に言ってたあれだけさぁ」
「お~い、こっちにアカリをくれ。ちっと暗いぞ」
戦闘を担当する冒険者たちが、暇そうに雑談を交わしていた。
僕はそれを横目に見ながら走る。
( ……本当に違うんだな )
アライアンスの規模が違うため、雑用は全てサポーターの仕事。
確かに100人単位で動き回ったら収拾がつかないし、決して効率が良いとは言えない。戦闘担当はじっとしていた方が良いのだろう。
だからこの仕事配分は正しい……はず。
「――っ!」
「あっ、わり、足が滑っちまった」
「……そうですか」
僕のことが気に食わないのか、男がワザと足を引っ掛けようとしてきた。
態度が露骨に怪しかったので避けることができた。
「次から一応気を付けるよ。俺って足が長くて多いんだ、こういう事が」
「……」
ヘラヘラと謝罪のようなことを言う男。
避けられることが前提でちょっかいをかけてきた様子。
これは足を引っ掛けることが目的ではなくて、僕に対して敵意があると宣言することが目的だ。
顔を見てみれば、リュイトの取り巻きの一人だった。
これ以上関わると碌なことがない。だから僕は急ぐことにする。が――
「――あっ!?」
今度は転んでしまった。
男が後ろから、足を狩り取るように引っ掛けてきたのだ。
さすがにこれは避けられなかった。
「ぐっ」
「わり~、わり~。マジで俺って足が長くてよう」
倒れた僕に、足を掛けた男が声をかけてきた、
その声音は明らかに馬鹿にしている。
「おいっ、そこ何やってんだ。遊んでじゃねえぞ」
「すいやせん、なんかコイツが勝手に転んだみたいで」
「ったく、無駄に騒ぐんじゃねえぞ。サポーターもさっさと起きろ」
「……はい」
抗議しようかと思ったが、僕はまだ初日のゲストだ、事を荒立てたくないので止める。
それにまだ短い時間だが、何となく空気で分かる。
陣内組の一部の若い冒険者たちは、サポーターのことを下に見ている。
いや、間違いなく見下している。
「あ、アルドさん、平気ですぅ? ごめんなさい、助けにいけなくって……」
「いえ、平気ですよ、ネココさん」
騒ぎに気が付いたネココさんが、顔色を窺うようにやってきた。
できるだけ波風を立てぬようにしている。
「早く仕事を終わらせてしまいましょう、ネココさん」
「はぃ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お~~い、次が湧くまでたぶん時間があっから、20分休憩な。一応魔石には監視つけとけよ。空の穴の影響でいきなり湧く場合もあっから」
「へ~~い。タロゥー、監視任せたぜ」
「げえ、分かりやましたぁ」
陣内組の魔石魔物狩り順調に進んでいった。
流石は陣内組といった感じで、危なげなく魔石魔物を倒していた。
相手を完全に熟知している。
僕としては初めて見る魔石魔物なので、もう少しだけ見ていたい心境だった。
だが相手は魔石魔物だ、気を抜いて良い相手ではない。
「アルドさん、冒険者さんが休憩に入るようなので、急いで飲み物の用意を」
「は、はい」
ネココさんと一緒に、用意しておいた飲み物を配って回る。
こういった仕事もサポーターの役目らしい。三十人近い冒険者たちに飲み物を手渡していく。
「あの、どうぞ」
「おう、悪ぃな」
「――きゃあっ」
「え? 何が!?」
当然の悲鳴に、僕は声がした方を見る。
するとそこには、水を掛けられたネココさんが居た。
「何だよ、俺には熱いモノを寄越せよ。冷てえただ水なんていらねえんだよ」
「は、はいですぅ。いま沸かしてきます、ロングさん」
ネココさんに水を掛けたのは、先ほど足を引っ掛けてきた男だった。
どうやら名前はロングと言うらしい。
「すいませんですぅ、すいませんですぅ」
ペコペコと頭を下げるネココさん。
だが水を掛けたロングは、謝罪を繰り返すネココさんには目もくれず、挑発的な笑みを浮かべて僕を見ていた。
「――っ」
相手の目的は簡単に見当がつく。
怒らせることで問題を起こし、それを理由に僕を追い出すつもりなのだろう。
やり方は非常に幼稚だが、とても効果的だ。
僕は分かっていても我慢出来ずに――
「座ってろ」
「えっ?」
肩に手を置かれ、膝裏を突かれることで座り込んでしまう。
「ホークアイさん?」
「そこで待ってろ。オレが行く。――おい! ロング!! 何やってんだ」
「あ、ホークアイさん。これはその……」
「下らねえ真似をしやがって。いつも言ってんだろうが、サポーターはオレたちの仲間で、一緒に戦ってんだ! それだってのに……。テメエは休憩なしだ! タロゥーと見張り代わってこい!」
「はぃ……」
ホークアイさんに一喝され、渋々といった態度で魔石の見張りに向かうロング。
サポーターには強く出られても、古参のメンバーには弱い様子。
「わりいな、ネココ」
「い、いえええ。そんな、そんな頭を下げてもらうほどの事じゃないですう」
この騒動によって一時ざわついたが、それはすぐに収まった。
まるでこの程度のことなら慣れているかのように……。
「驚いたか?」
「え? あの……」
「最近こんなことが多くなってな。まあ、分からんでもないことだがな」
「……そうですか。……でも何で……」
「……まあ、変に勘違いってか、思い上がるヤツは出てくるモンだからな――」
ホークアイさんは、頭を掻きむしりながら理由を話してくれた。
陣内組に居る冒険者たちは、定められた試験を突破することで陣内組に入ることができる。
その試験はなかなか大変らしく、それなりの実力がないと突破できないのだとか。
一方サポーターの方は、募集によって雇われた者。
戦闘を担当する訳ではないので、冒険者のような厳しい試験はない。
厳しい試験はなく、適性があれば入ることができるそうだ。
そういった経緯があり、まだ若い冒険者たちはサポーターを見下す。
それに冒険者は命を張っていることもあり、命を張らないサポーターを良く思っていないそうだ。
一応、注意はしているそうだが、それでも命を張っているという誇りがあるようで、なかなか聞き入れてくれないとホークアイさんは語った。
「そう、なんですか……」
「ああ、それにウチは、冒険者のアライアンスというよりも、ノトスの街のためのアライアンスだからな。また別の意味で特殊なんだ」
「街に、公爵家に所属している、と言うことですね?」
「そうだ。だから色々とあってな。…………他にも――って、これは止められてんだった」
「?」
ホークアイさんは何かを言い掛けたが、言葉を呑み込んだ。
昨日も似たようなことがあった気がする。
「取りあえず、まあ……ちょいと辛抱してくれ。わりいな」
「はい」
「よしっ、そろそろ休憩終了だな。おら、再開すんぞー」
ホークアイさんの号令で休憩が終わり、魔石魔物狩りが再開されたのだった。
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あと、誤字脱字なども……




