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86話 初日っ

「この部屋だ、家具は勝手に使え」

「は、はい。ありがとうございます、レプソルさん」


「あとな、三階には絶対に上がるなよ。上がったら首まで埋める」

「はいっ、わかりました」


「それと次は――」


 

 部屋に案内された後、レプソルさんから様々な説明を受けた。

 この店は元々行けつけの店だったそうだ。だがあるとき、ここを経営していた夫婦が余所へと引っ越すことになった。

 

 そして店を閉めるかどうかというときに、レプソルさんが手を上げた。

 働いていた従業員をそのまま雇い、住むために改装して三階を増築。

 僕が住むことになった二階の部屋は、引っ越していった夫婦が住んでいた部屋らしい。だから妙に広かった。


 そして買い取った後は、陣内組専用の酒場にしたそうだ。


 さすがは後衛の雄と讃えられているレプソルさんだ。

 自分が住むために、そしてアライアンス(陣内組)の憩いの場を確保するために店を購入したのだ。


 この御方は戦うだけでなく、広い視野と寛大な心を持った偉大な人だ。


 こうして僕は、住む場所を確保できた。

 ……ただ気になったことが一つ。

 何故かこの部屋の扉の鍵は、外側(・・)にあった。普通は逆だと思う。

 そしてその日の夜は、外から鍵を閉められた。


 


       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

 


 

 次の日、僕は深淵迷宮(ディープダンジョン)の前に居た。

 深淵迷宮(ディープダンジョン)の入り口は、ノトスの街の南に建てられている砦の中にあった。

 もし魔物が溢れ出てでも、囲った砦で抑えられるようにしているようだ。

 中央の地下迷宮ダンジョンよりも厳重な警備だ。流石はノトス。


「もう知っているヤツもいると思うが、一応紹介だ。昨日からゲストでウチに入ることになったアルドだ」

「アルドです、よろしくお願いします」


 僕は、今日から狩りをする仲間に頭を下げる。

 反応は昨日と同じような割合で、取りあえず歓迎する者と、まずは様子を見ている者、そして敵対的な三つに分かれていた。


 当然、リュイトから厳しい視線をもらう。

 もし目が合ったら噛み付いて来そうな程の鋭さ。


「取りあえずアルドは……サポーターからだな」

「え? サポーター!?」


「ん? 何だ不服か?」

「いえ、ちょっと驚いただけです」


 予想外のことに戸惑ってしまった。 

 初日から前衛として戦えるとは思っていなかったが、それでも戦闘には参加できると思っていた。前線の予備の二枚目や、後衛の護衛には就けると思っていた。


 しかし命じられた役目は荷物持ち(サポーター)

 サポーターでは戦うことができない。荷物持ち(サポーター)は後衛の後ろにつき、戦闘中は前に出ることが許されないポジションだ。


 そう、戦闘に参加してはならないポジションなのだ。


 一応、護身用に武器を持つことは許されているが、大剣や槍といった長物は仕事の邪魔になるので禁止。当然、攻撃魔法も禁止。ダンジョン内の非戦闘員だ。


 だからと言って荷物運び(サポーター)を下に見るつもりはない。サポーターの重要性は理解している。

 同行者が増えれば増えるほどサポーターの必要性は増し、ある意味ではアライアンスを支えているとも言える。


 そして陣内組の規模はモミジ組以上なので、しっかりとした人数のサポーターが必要だ。いま目の前には100人近い人たちが居る。


 だからサポーターは絶対に必要なのだが……


「……こんなはずじゃないって顔をしてんな」

「あ、いえ、本当にそんなつもりは……」


 当たり前のように見透かされて恥ずかしくなる。

 さっきまで睨みつけていたリュイトの目が、今はとても楽しそうなモノを見る目へと変わっていた。周りに居る取り巻きも同じ。


「いいか、ウチの連中は他のアライアンスよりも遥かに強え。余所のアライアンスでは前を張ってたのかもしれねえが、ウチじゃ違う。だからまずはサポーターからだ。いいな?」

「……はい」


「それにな、いきなり前を任せられるほど信用もできねえし」

「はい、当然だと思います」


 レプソルさんに言われ、僕は(うなず)くしかなかった。

 確かにその通りだ。モミジ組ではガレオスさんの好意で前線に就かせてもらっていたが、本来ならこれが普通だ。


 この陣内組(アライアンス)は寄せ集めのアライアンスではない。

 【勇者の仲間】と呼ばれる人たちが在籍しているアライアンスなのだから。


「それじゃあ……おい、ネココ、ちょっとこっちに来い」

「は、はいですぅ」


 レプソルさんは辺りを見回した後、1人の女性を呼んだ。

 やって来たのは明るいピンク色の髪をした猫人の女性。

 彼女の格好は、短めの茶色のガンビスンに革で出来たハーフパンツ。膝は軽装のパットで動きやすさのみを重視。


 纏っている装備を見るに、多分彼女はサポーターだろう。


「アルド、仕事のことはコイツから聞け。同じサポーターだ」

「はい。よろしくお願いします、ネココさん」

「は、はいですぅっ」


 何事か思ってしまうほど頭を下げるネココさん。

 頭のてっぺんに付いている獣耳が、お辞儀で地面に着いてしまいそうなほど頭を下げていた。


「あ、あの、頭を上げてください。ネココさんの方が先輩なんですから」

「は、はいですぅ、すいません~」


 目を><こんな感じにさせて謝るネココさん。

 そして謝った後は、『はわわ』と慌て始めた。謝ってしまったことに気が付いたのだろう。


「……まあ、こんな感じのヤツだ。だが、仕事はキッチリやるヤツだから、真面目に習えよ」

「はい」


 こうして僕は、猫人ネココさんの下に就くことになった。

 今日はつきっきりでサポーターの仕事を教えてもらうことになる。

 まずは今日の編成を聞くために、サポーター組を仕切っているホークアイさんの所に向かう。


「あの、質問を一つ良いでしょうか?」

「はいっ、何でも聞いてくださいですぅ」


 もの凄い速度でこちらに顔を向けるネココさん。

 何と言ったら良いのか、異様なほどキビキビ動く人だ。


「先ほど言ってた編成のことですが、ひょっとしてアライアンスをいくつにも分けるってことですか?」

「そうですぅ。陣内組は人が多いですぅから、大体みっつぐらいに分けるんですぅ」


「なるほどです」


 話を聞いてやはりと納得をする。

 陣内組は、サポーターも含めると100人近い人が居る。

 ひょっとすると100人以上いるかもしれない。


 しかしその規模はほとんどオーバーアライアンスだ。

 そんな規模で魔石魔物狩りを行えば、どう考えても戦力過多だ。

 それにそんな大人数で戦える場所がダンジョンにあるとは思えない。


 そうなると当然、戦力を分けるはず。

 

「あ、ホークアイさ~ん」


 ホークアイさんを見つけたネココさんが、パタパタと彼のもとへと駆けていく。

 僕はそれを後ろから眺めながら、何となくだが気が付いた。

 

 ( ……走ることに特化した【固有能力】かな )

 

 彼女の駆ける姿勢はとても整っており、尚且つ軽やかだった。

 そういった歩みに関しての上位者を見たことがあったから気が付けた。

 きっと彼女は、その【固有能力】を買われてサポーターとして雇われているのだろう。


 それが適任だから。

 それに適しているから……


「アルドさん、こっちに~」

「はい、いま行きます」


 少しだけ暗い気持ちが差し込んできたが、僕はそれを振り払うように駆けたのだった。

 

読んでいただきありがとうございます。

よろしければ感想や感想などいただけましたら嬉しいですぅ。


あと、誤字脱字も教えていただけましたら幸いです。

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[良い点] 私「カギの位置、、、当たり前のように、、、シメラレル、、、」www アルド「なぜカタカナなんですか?もちろん、閉めるって意味ですよね?」チラ 私「さ、、、どうかな?」ニマ アルド「笑…
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