7話 亜麻色の
投稿ですー
本日2話目
しばらく休んだ後、僕たちは魔石集めを再開した。
しかし魔物を探す役がいなかった。
【索敵】持ちのウーフは、先ほど激高して帰ってしまっていた。
僕は辺りを見回しながら、これからどうするのかをニュイさんに訊ねる。
「あの、辺りを適当に歩いて探す感じで行きますか?」
「ううん、それだと流石に効率が悪いから、リティアにお願いするつもり」
「え? でも、彼女は【索敵】持っていないですよね?」
ステータスを確認し合ったのだから知っている。
リティに【索敵】はなかったはずだ。
「ん、たぶんこっちに居る」
「え? あれ? 分かるの?」
「ふふ、【直感】よ。リティアは直感に従って言っているの」
「ああ、なるほど。そういう使い方もあるのですね」
【直感】の【固有能力】。
その恩恵は、勘がとても鋭くなる効果だ。
この【固有能力】の恩恵は多岐にわたり、様々な場面で役に立つ。
奇襲や危険察知などは当然のことながら、勘が必要な状況なら何にでも運用することができる。
そしてある程度の熟練者、高レベルの冒険者になるとその効果は跳ね上がると噂されている。
「絶対って訳じゃないけど、適当に行くよりも断然いいでしょ?」
「はい、そうですね。彼女ならきっと見つけ出しそうですし」
「アル、行こう。あっちに居る」
「うん、行こう」
僕たちはリティの勘を頼りに、魔物探しを再開した。
さすがに【索敵】ほどの精度ではないが、魔物を求めてさまようことはなく順調に魔石を集めることができた。
しかし、【直感】をずっと張り続けていると消耗が激しいようで、魔石集めは予定よりも少しだけ早めに切り上げることになった。
合計で11個の魔石を集め、僕たちは地上へと戻ることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さてと、今日はこれで解散かな?」
「はい、パーティを組んでいただいて、本当にありがとうございました」
僕は二人にお礼を言って頭を下げた。
今日は彼女たちのお陰で地下迷宮へと入ることができた。
当分の間は地上での活動だと思っていたので、リティからの誘いは本当に有り難かった。
本来ならここで稼ぎの配分などをするのだが、今日の僕はそんなことはどうでも良かった。パーティを組めたことに満足していた。
そして何よりも、二つ名持ちの戦いを間近で見ることができたことに大満足だった。
少し大袈裟な言い方だが、まるで演劇の中にいるようなひとときだった。
リティの容姿が瞬迅に似ているから尚更だ。
( 本当に、凄かったな…… )
同じ片手剣使いだというのに、リティの放つWSは格が違った。
WSを完全に制御しており、あれがWSを使いこなすということだろう。
いつかは自分もと思ってしまう。
そして、それが叶わぬことに寂しさを感じる。
( 僕は…… )
「――アル、わたしも一緒に組めて嬉しかった」
「あっ……」
リティの声で意識を引き戻された。
僕のことを見つめる彼女の表情に呼吸が止まり掛けた。
「……うん、僕もだよ」
彼女はパーティを組めて嬉しかったと言ってくれた。
とても嬉しいことだが、流石にこれは社交辞令だろう。僕とパーティ組んだところで彼女に益があったとは思えない。
でも、僕には本当に良い思い出となった。
こんな幸運は二度とないだろう……
「じゃあ、また明日、今日と同じ時間で」
「うん、分かった。今日と――え? えっ!?」
「ん、待ってるから」
「あ、あの?」
「じゃあね、アルド君。また明日も魔石を集めに行きましょうね」
『それでは』と言って去って行く彼女たち。
二人は地下迷宮へと戻っていった。きっとモミジ組の本隊と合流するつもりなのだろう。
だが今はそんなことよりも――
「また、明日も……?」
何を言われたのか分かっている。
だが、その内容が頭に入ってこない。
「え? 明日もってことは……」
じわりじわりと歓喜が染み上がってくる。
明日もまたパーティを組んで地下迷宮へと入ることができる。
しかも彼女たちと……
「でも、何でリティは僕なんかに……」
とても嬉しいと思う反面、リティからの好意にどうしても戸惑ってしまう。
何故自分へと、何かの間違いではないかと――
「――おい、灰色のクソ野郎」
「え?」
「いま、一緒に居たのは…………閃迅だよな?」
呆けていた僕に突然話し掛けてきたのは、【ヴァイスファング】のリーダーであるウルガさんだった。
「答えろっ、アルド!」
まさに射殺す、そんな目でウルガさんが捲し立ててきた。
いままでで一番険しい目つきだ。何をそんなに怒っているのかと戸惑ってしまう。
「あ、あの」
「何で彼女とオマエが一緒に居たんだ!」
「あっ……」
「『あっ』じゃねえよ! さっさと答えろ、クズ!!」
「……さっきまで一緒にパーティを組んでいました。それで――」
「――まさかてめえっ!? ……入れたのか? あのモミジ組に」
「いえ、ゲストとして一緒にパーティを組んだだけで……」
「ゲストお? てめえ、モミジ組にコネかツテがあったのかよ」
「いえ、無いです」
「じゃあ、なんで閃迅が、あんな風に……よう……オマエなんかに……」
「……」
何を言いたいのか察することはできた。
それは先ほど自分も疑問に感じていたことだ。
あのときリティは、僅かだが笑みを浮かべていた。
普段無表情の彼女が、『一緒に組めて嬉しかった』と言ったとき、一瞬だけ笑みを見せていた。こんな僕に……
「……どういうことだ」
無茶苦茶を言う。
いまのたどたどしい、とても質問になっていない質問に答えろと言っている。
だが察することはできた。要は、リティとの親しさのことを訊いているのだろう。
しかし昨夜のことや、今日彼女から直接誘われたことを馬鹿正直に話せば激高されるのは目に見えている。
いまのウルガさんは、あのときのウーフと同じ顔をしている。
「……分かりません。たまたまとしか言いようがなくて」
「はあっ!? たまたま誘われたってのかよ!」
「はい、だから本隊と一緒に行動したのではなくて、別働隊として雑用の魔石集めに参加しただけです」
「……へえ」
探るような目で僕のことを見てきた。
しかしこの程度のことは慣れている。彼程度の威圧で狼狽えることはない。僕は心のスイッチを切り替える。
……しかし一応、灰黒色のマフラーを引き上げておく。
「………………亜麻色の髪」
「え?」
ウルガさんがポツリとつぶやいた。
「どうだ?」
「?」
何かの揺さぶりだろうか。
いまの言葉で僕がどう反応するのかを探っている。
『亜麻色の髪』と聞いてぱっと浮かんだのは”瞬迅”。
”瞬迅”はこのイセカイで一番有名な女性冒険者であり、とても綺麗な亜麻色の髪であったと言われている。
彼女が題材の演劇でも、瞬迅役は皆亜麻色のかつらを被っていたし、劇中でも『亜麻色の獣』や『亜麻色の閃光』と呼ばれていた。
だから”亜麻色の髪”と言えば”瞬迅”が真っ先に思い浮かんだ。
「……知らないのか」
「はい?」
「はっ、そうか、その程度か。なんだよ焦らせやがって、その程度かよオマエは。あ~~あ、マジで焦ったぜ」
「……何のことですか?」
「何でもねえよ。じゃあな灰色野郎」
一人で納得して去っていくウルガさん。
僕に突っ掛かってきた理由は察することができた。
具体的に理由が分かった訳ではないが、きっとリティのことだろう。
しかしだからといって、何かができる訳ではない。するつもりもない。
僕は明日彼女たちとパーティを組んで地下迷宮へと潜る。
何か面倒なことがあったとしても、僕の中で、断るという選択肢はなかった。
読んで頂きありがとうございます。
次話も明日には上げる予定ですー
引き続きお付き合いくださいなー