74話
すいません、お待たせしましたー
「はあ~~~~~~~~~~~あぁ」
「……」
「結構気に入ってたのになぁ、あの店はよぅ」
「…………あの、すみません」
地下迷宮へと向かっている途中、ガレオスさんがとても長い溜を吐き続けていた。
そしてとても良く聞こえる独り言も呟く。
僕は居たたまれなくてつい謝ってしまう。もう何度目かだ。
「あ~あぁ」
「……ホント、すみません」
また謝ってしまう。
だが、謝って欲しい訳でないことは分かっている。
そんなことは判っている。
それでも愚痴を吐き出すしかない、そういった心境なのだろう。
昨晩の騒動で、ガレオスさんは店から出入り禁止を言い渡されてしまった。
店内で剣を抜いたのがいけなかった。しかもWSまで放っている。
本来なら街から罰せられる違反行為だ。
だから出入り禁止程度で済んだのは寛大な処置だった。
店側には感謝しかない。
しかしガレオスさんは、あの店に行くことができなくなってしまった。
それが余程堪えたのだろうか、昨日からずっとこの調子だ。
「はああああぁぁぁ。……リティのことを見誤ったぜぇ」
「……」
その点はとても同意できる。
だがその前に、リティをけしかけるようなことをするべきではなかった。
彼女の行動力は凄まじく、ちょくちょく予想を超えてくる。
だから僕からしたら、迂闊だったとしか言いようがない。
「ちくしょ。あとはアレか、【遭遇】がマズかったかぁ」
「あの、アレが影響したとは……」
今度はジャンさんの所為にし始めた。
確かに【遭遇】の効果は凄いかもしれないが、さすがにそれはないだろう。
あれは起こるべくして起きたコトだと思う。
「おれがどうしましたか?」
「ジャンさん」
僕たちの会話が聞こえたのか、ジャンさんがこちらへとやって来た。
グレランとは今日も一緒に狩りをする予定だ。
「あ、ひょっとして昨日のことですか?」
「……はい」
「まあ、言われても仕方ないか~。…………昔からそうだし」
一瞬、声音が暗くなった。
きっと似たようなことが何度かあったのだろう。
僕にも経験がある、だからよく分かる。
ステータスプレートの恩恵には、本人の意思に関係無く効果を発揮するモノがある。常時発動型の【固有能力】だ。
その【固有能力】は、その所持者の人生に大きく影響する。
僕の【蛮勇】もそうだが、ジャンさんの【遭遇】もそうなのだろう。
もしかすると【蛮勇】よりも厄介なのかもしれない。
「ジャンさん、あれは完全にこちらの落ち度ですから」
「おいおい、オレたちの落ち度って……。いいか? 昔はそんなことなかったんだぞ? 店に迷惑をかけることなんて……」
「え? 前にもリティに同じようなことを!?」
ガレオスさんがとんでもないことを言った。
以前にも同じようなことをしたことがあるらしい。
意外すぎて思わず訊いてしまった。
「あっ、いや、アレはリティじゃなかったな。すまん、ちょっと失言だ」
「? 失言? リティじゃない?」
「ああっ、まあ、それよりもよう。――今日もよろしく頼むぜ、ジャン」
「ええ、今日も任せてください」
露骨に誤魔化したガレオスさん。話を強引にジャンさんへと振った。
話を振られたジャンさんは、何故かステータスプレートを出現させた。
ステータス
名前 ジャン
【職業】冒険者
【レベル】36
【SP】134/134
【MP】95/101
【STR】125+3
【DEX】147
【VIT】107+5
【AGI】101
【INT】116
【MND】122
【CHR】98
【固有能力】【鑑定】【遭遇】【駆技】【業欲】【橙色】【業倫】【道化】【 】
【魔法】水系 火系 風系
【EX】『武器強化(中)』
【パーティ】
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……ああ、頼むぜ」
「はい」
ステータスプレートを見たガレオスさんは、少しだけ神妙な顔をした。
同じように神妙な顔をするジャンさん。
( 少し気まずいな…… )
ジャンさんは、自分のことをガレオスさんに売り込んだのだ。
自分には【遭遇】がある、だから自分をアライアンスへどうかと。
確かに【遭遇】は、魔石魔物が湧きやすくなるので稼ぎを良くする。
魔石魔物を狩ることができるアライアンスなら尚更だ。
だからとは言え、ジャンさんをグレランから引き抜くのは礼儀に反する。
「一応、考えておいてやるよ」
「……お願いします」
「……」
無難な返答だが、何ともいえない空気が漂う。
そんな空気を消したいのか、ジャンさんが明るい声で訊いてくる。
「あれ? そういえば、”閃迅”は? どこにも姿が見えませんが?」
「ん? リティか? アイツは今日は休みだ。罰も兼ねてな」
そう、リティは今日休みだった。
昨日の一件の罰として、今日は休みを言い渡されたのだ。
休みが罰になるは不思議だが、実際にリティは嫌がっていた。
しかし無理矢理休みにさせられていた。
「そうですか、なるほど……」
「?」
ジャンさんが僕の方を見て、少しだけ顔を歪めた。
何故か妙に気になる。
「おや、君は」
「え?」
突然声を掛けられた。その声がする方を見るとそこには。
「ガートさん」
「良かった、無事だったんだね。酷い怪我だったから心配していたんだよ」
シーを救出するときに助けてくれたガートさんが立っていた。
彼の横にはあのとき居た男もいる。そして二人とも前と同じ狼と兎の仮面をつけていた。外だとかなり目立つ風貌だ。
「あのときは本当にありがとうございました」
僕はすぐに頭を下げた。
彼らが居なかったらシーを助けるをできなかったかもしれないから。
本当に感謝しかない。
「いや、冒険者として当然のことをしただけだよ。いや、男としてかな」
「すいません、助けてもらったのに碌にお礼も言えず……ガレオスさん?」
ガートさんと会話を交わし、そろそろガレオスさんに彼のことを紹介しようと思っていたところ、何故かガレオスさんが険しい顔で地下迷宮の入り口を睨みつけていた。
その視線の険しさから、ただ事ではないことが分かる。
「ガレオスさん、何かあったのですか?」
「……ああ」
よく見れば、険しい顔つきなのガレオスさんだけではなかった。
他にも同じような顔をした者が何人も居た。
「まさか……おれのせいで……」
ジャンさんも険しい顔で呟いている。
「あの、一体何が――」
「――おいっ、暴走だ。どっかの馬鹿がやらかしやがった」
ダンジョンの入り口から、一人の男がそう言って飛び出してきた。
それを見てガレオスさんが舌打ちをする。
「ちっ、やっぱりか」
「暴走ってまさかっ」
ダンジョンにおいて暴走とは、魔石魔物が湧き過ぎたことを指す。
事故などが原因で、対処しきれない程の魔石魔物が湧いてしまい、一つのアライアンスではどうしようもない状況のことだ。
このまま手を打たなければ、湧いた魔石魔物がダンジョンから氾濫する。
そうなったら被害は甚大だ。その前にそれをどうにか討伐するしかない。
「ガレオスさん!」
「ああ、分かってるっ。おいウーフ、休みで寝ているヤツらを全員たたき起こしてこい。リティもだ」
「はいっ」
「あと、他のアライアンスにも声を掛けろ、街のヤツら全部にだ。行けるヤツは全員行け。オレの名前を使っていい。全部を呼び出せ」
ガレオスさんは飛ぶように指示を出した。
アライアンスでは対処しきれない状況。だからアライアンスではなく、オーバーアライアンスを組むために動いたのだった。
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あと、誤字脱字も……




