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69話 遭遇だ

いつも誤字報告本当にありがとうございます。

「ったく、マジでやばかったな」

「うん、やばかった」


 とある酒場で、猫人の男女が食事をしながら会話をしていた。

 ただ会話といっても、片方が喋り、片方がそれに同意するだけのやりとり。

 しかしそこに不自然さはない。とても慣れ親しんだ空気。


「あれが本当の二つ名持ちってやつだな。……閃迅だよな、あの女」 

「うん、すごかった」


 猫人の男が、腸詰め(ソーセージ)にフォークを突き立て吐き捨てるように言った。

 またもそれに同意する猫人の少女。


「くそっ」

「……クロ、機嫌悪い?」


「んん? そりゃまぁ、アイツのおかげで金にならなかったからな。スゥだってそう思うだろ? あの報酬があればもうちっと良い店で食えたってのに」

「あたしは、クロと一緒ならどこでもいい。うん、どこでもいい」


「…………そうかよ」

「でも、本当に強かったね」


「ああ、化け物みてえだった……な」


 忌々しそうな顔で咀嚼していたクロは、昨晩の戦いを思い浮かべた。

 クロは対人戦に自信があった。特にスゥとの連携(コンビ)には絶対の自信があった。


 冒険者というヤツらは、高威力のWS(ウエポンスキル)を叩き込むことができるヤツが強いと思っているようなボンクラども。


 陽動(フェイント)には滅法弱く、基本的にWS頼りの力任せ。

 正面に立たなければどうとでもなるし、裏をかけば簡単に倒すことができた。

 だからクロは、例え相手が二つ名持ちであろうと後れを取ることはないと思っていた。

 スゥと一緒なら無敵だとも。


 しかし昨晩、その自信は見事に叩き折られた。

 いや、狩り取られたと言った方が適切かもしれない。

 息を合わせた必殺の連携がことごとく通用しなかった。


 圧倒的なキレと迅さ。

 縦横無尽では言い足りない、まさに閃光が駆け巡った、そんな動きにクロたちは圧倒されたのだ。 

 しかもそれどころか、こちらの動きを完全に読まれているような感覚。

 

 敵わないと察したクロは、すぐに撤退を選択した。

 実は彼らがもっとも得意としているのは、攪乱による逃走だった。

 虎の子の煙幕を張って、クロたちは窓を突き破って外へと逃げた。


 このとき二人の間には何の合図もなかった。

 それでもピッタリと息を合わせて窓を突き破り、破ったばかりの窓に向かって炸裂する小筒を投げた。


 小筒には人を殺傷するほどの威力はないが、中には目潰しとなる粉が大量に詰められており、まともに喰らえば痛みで目を開けられなくなる。

 

 さあどうでると、クロは逃げながら窓を見ていた。

 しかし次の瞬間、あれほど追い詰めてきたプレッシャーが消え失せていた。

 こちらを追ってくる気配が全くしなかったのだ。


 クロは一瞬戸惑ったが、ならば全力で逃げれば良いと駆けることにした。

 そして無事に逃走を果たし、そのまま姿をくらませることに成功した。が――


「くそっ」


 冒険者に後れを取った事実にクロは苛立った。

 しかも相手は一人だけだった。2対1という有利な条件下にもかかわらず負けたのだ。さらに最後には見逃された。

 

 クロは、自分の対人戦の強さに誇りを持っていた。

 自身の父親である勇者ジンナイも、対人戦が大層得意だったと聞いている。

 クロはそこに父との繋がりを感じていた。


「はああああ、くそ、気持ちを切り変えっか。俺たちにとって敗北とは、負けたことじゃなくて一緒に居られなくなることだ」

「うん、そう」


 猫人の少女スゥは、そういってクロの右手を取って自身の頬に添わせた。

 彼女はクロに頬を撫でてもらうことが大好きだった。次に好きなことは、自分の白髪を優しく梳いてもらうこと。


「……白、じゃない。最初は銀色だったよな、それが途中から」

「?」


 髪を梳いてくれていたクロが、スゥの白髪を見つめながらつぶやいた。

 何のことか分からないスゥは、コテンと首を傾げる。


「ん? ほら、アイツだよ。閃迅だよ」

「ぁ、うん。最初はあんな風な銀色だった」


「うん? ああっ、あんな感じ……だ、な?」


 そう言ってスゥが示す先には、丁度店内に入ってきた男女が居た。

 男の方は陰になってよく見えないが、先に入ってきた女の方は見えた。

 その店内に入ってきた女の髪は見事な銀色だった。酒場の薄暗い店内だというのに、僅かな光源でもキラキラと輝いて見えた。

 

「おい、アレってまさか……」

「あっ、あれって――」





  ――――――――――――――――――――――――

 

 


「早くガレオスさんに会わないと」

「ん、アル、急いでる?」


「そりゃそうだよ。早くしないとガレオスさんが……」


 酔っ払ってしまう。


 ルリガミンの町へと戻ってきた僕は、真っ先にガレオスさんのもとへと急いだ。

 連泊の件を誤解がないように伝えなくはならない。 

 確かに同じ部屋に泊まりはしたが、決してやましいことはなかったし、同衾したという事実もない。

 

 しかし間違って伝わってしまった場合を考えると気が気ではない。

 昨日ウーフとニュイさんが来ていたことから、僕とリティが一緒に泊まったことが伝わっているだろう。


 だからガレオスさんを探したのだが、ガレオスさんはアライアンスのメンバーと酒を飲みに行ったと聞き、僕は急いでその酒場へと向かう。

 

 酔った状態では正確に伝わらない。

 ガレオスさんが完全に酔ってしまう前に話さなくてはならないのだ。


「アル、この店」

「うん、入ろう」


 リティに行きつけの店へと案内してもらい、僕は彼女と一緒に酒場へと入る。

 

「えっと、ガレオスさんは……」


 店に入るや否や、僕は薄暗い店内を見回した。

 そこまで広い酒場ではない、ちょっと見回せばすぐに見つかるはずと。


「――え?」


 見回した先に、目を見開いてこちらを見ている人が居た。

 何だろうと見ると、僕もその人と同じように目を見開いてしまう。


「なっ、何で貴方たちが……」

「マジかよ、まさか追って来たのか? いや、違うな」


 ガレオスさんを探していた先で、昨日襲ってきた傭兵の二人組を発見してしまった。

 状況を見るに、彼らはここで食事をとっていた様子。

 僕は無意識に腰の陣剣へと手を伸ばす。

 クロの方も僕の動きを見て、テーブルに立てかけていった槍に手を伸ばそうとした。


 しかし街中で剣を抜くのは御法度。

 当然槍も同じで、先の穂鞘を取れば罰せられる。

 僕とクロはギリギリのところで立ち止まる。

 

「……」

「……」


 一触即発、そんな空気が僕とクロの間で漂う。

 命のやり取りをした間柄だ、ここが街の中でなかったら間違いなく抜刀していた。


「あ~~何だぁ? 酒が美味くなりそうで、んでもって不味くもなりそうな感じはよう。取りあえず手を下ろせ」


 間に割って入る声がした。

 僕はその声の主が誰かすぐに分かった。僕がいま探していた人物だ。

 その人が和やかな顔をしてやって来る。


「……ガレオスさん」

「取りあえず落ち着け、そんで…………言い訳を聞かせてもらおうか、アル」


「……あ」


 和やかな顔だが、ガレオスさんの目は微塵も笑っていなかったのだった。 

 

読んでいただきありがとうございます。

よろしければ感想などいただけましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字もできましたら……

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― 新着の感想 ―
[一言] クロには陣内と直接会って事実を知ってほしい気もする。
[一言] 退くときは退く。その決断が出来るクロくんは今後もしぶとく生き残って、歴史に名を残すのでしょうね。 そしてクロくんといえば、彼は既に人生勝ち組ですな。 スゥちゃんが妹でない限り、、、 …
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