表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/280

61話 話して動く

いつも誤字脱字報告、本当にありがとうございます。

 ピルカ領。

 エウロス()の玄関口と言われているメークインの街の北にある領地で、少し言い方は悪いが田舎の領地だ。

 誇れるような特産品などはなく、細々とやっている領地だったと記憶している。

 昔はもう少しマシだったらしいのだが、ある事件が切っ掛けで完全に寂れた。


 そのある事件とは、近隣の男爵同士で連合を組み、ある商家を利用して、ある王子を王太子にしようとしたことだ。

 そう、彼らは僕という囮に引っ掛かった貴族たちだ。


 主犯であったサツマ上級男爵家は取り潰されたが、名前を貸しただけという男爵家は、領地の一部没収で手打ちとなった。


 だがしかし、元から細々とした領地には厳しい処罰。

 ピルカ男爵家の嫡男であるミルンが、この中央へと来ているのがその証拠だ。


 普通嫡男には専属の教師をつけてやるものだ。 

 しかし教師を雇う金が厳しかったのか、嫡男であるミルンを中央の学舎へと通わせた。


 そしてそのミルンが――


「アル、話して」

「っ」


 膝に頭を預けていたリティが、腕を伸ばして僕の唇を摘まんできた。

 異性に唇を触れられることにドキリとしてしまう。

 それを悟られぬように平静を装い、顔を上げて摘まんでいた指を外す。


「リティ、話してって、口を塞がないでよ」

「んっ」


 『話せ』との圧、心なしか唇を尖らせている気がする。


「……話すよ。ちょっと長くなるかもだからね」

「ん、わかった。眠りながら聞く」 


「寝ないでよ。それじゃあ、まずは――」


 僕は、リティにミルンのことを話した。

 ミルンの立場や背景、昨日絡まれたことも話し、彼が貴族の嫡男であることも教えた。

 

「ん、そのビンボー嫡男、悪いことをしそう」

「ビンボーって……」


「直接会っていないから分からないけど、悪い人なんでしょ? それでその悪い人と、もう一人の悪い人が一緒に居たんだよね」

「もう一人の悪い人って、ヘイルのことだよね? うん、裏口で何か話し合っていたね」


「……じゃあ、そのビンボーの悪い人が何かをしようと、してる?」

「リティ、彼の家が困窮することになったのは――」


 僕は、ミルンの実家が困窮することになった原因を話すことにした。

 だがあまり詳しく話すのはマズかった。僕がアルト王子であることがバレてしまう恐れがある。

 

 なのでその辺りは濁しつつ、ベルーの家とミルンの実家の関係、そして昔あった騒動のことを話した。


「……そう。じゃあ、ミルンってのはあの女の家に酷い目に遭わされたのね」

「逆だから。……いや、お互いに利用し合おうと思ったんだから、正確にはベルーとミルンは被害者ってことかな?」


「ん、それじゃあ、両方を裁いた人が悪い人ね」

「――っ! ……うん、そういう見方もできるかも」


 そうなのだ。元凶は僕たちだ。

 ベルーとミルンは、大人たちの都合に振り回された被害者とも言える。

 だから近い未来僕は彼女にきちんと……


「アル」 

「リティ?」


 いつの間にか身体を起こしていた彼女が、僕の目を覗き込んでいた。

 鼻が触れ合いそうな距離。真っ直ぐ見つめている。


「アル、どうするの?」

「どうするのって……何を」


「だって、話して、相談したでしょ」

「うん」


「そうしたら次は行動でしょ?」

「っ」

 

「お父さんが言ってた。話して相談したら動かないと駄目だって。そうしないと駄目なんだって。何をしないといけないかの決めて、それで動かないとだって」

「……うん」


 リティの言う通りだ。

 僕は話しているうちに悪い方向へ向かい、やるべきことを見失い掛けていた。

 元凶は僕で、ベルーは被害者だ。確かにミルンも被害者なのかもしれないが、

僕が動くべき相手はベルーだ。

 

 死んで詫びるのは最後だ。――その前にできることをやるべき。


「リティ、いまからちょっと出てくる」

「ん、わかった。わたしもついて行く」


「うん」

「あと……」


「あと?」

「何であの女はアルのことをアルトって呼んでたの?」


「――っ! …………聞き間違えじゃないかな。彼女は声が小さいから、『ド』が『ト』に聞こえたのかも……」

「ん、そう。わかった」


 油断していた。

 側にリティしかいなかったから気を抜いていたかもしれない。

 僕は今一度気持ちを引き締める。


「聞き間違いだから、それと今は急ごう。とても嫌な予感がする」


 僕たちは手早く身支度を済ませ、ベルーの屋敷へと向かった。

 荒事になる危険性があるで、リティにも武器を用意してあげたいところだったが、店はもう閉まっていた。


 そして今は時間が惜しかった。


「リティ、武器だけど」

「ん、平気。わたし蹴るのも得意」


「蹴るって……」


 僕はそういってリティの格好を見る。

 今日のリティはワンピースだ。

 下はスカートなのだから、蹴りを繰り出すには少々マズい格好。 


「ん、だから平気」

「――リティ!?」


 リティはそういってスカートをたくし上げた。

 スラリとした白い脚が露わになり。


「昨日買ったスパッツ」

「あ、そっか。買ったヤツをそのまま穿いていたんだ」


「うん、だから平気。急ごう」

「うん」


 僕たちは夜の街を駆けた。

 人通りはかなり少なくなっており、ベルーの屋敷に着く頃にはほとんど人が居なくなっていた。

 近くに酒場などがあれば違ったのかもしれないが、そうではなかったので本当に人通りがなくなっていた。


 人の居ない静けさが妙に不安感をかき立てる。


「着いた、――あ、あれは」


 屋敷の正面に、一台の馬車が止まっていた。

 

「裏に来ていた馬車?」

「うん、と言うことは」


 間違いだったらそれはそれで構わない。

 ベルーは僕なんかに会いたくないかもしれないが、今は――


「リティ、急ごう」


 僕は、ベルーの屋敷へと押し入った。


 

 

読んでいただきありがとうございます。

よろしければ感想などいただけましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字も何卒

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] スパッツをはいているとはいえ、スカートをたくし上げて見せるなんて。 リティちゃんたら、大胆ね。 誰に似た(教わった)のかしら? そして、目を逸らさなかったアル君、やっぱり男の子ね。 ス、ケ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ