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43話 望む答え

 聞いた話によるとリティは、小さな子供の世話をしたことがあるらしい。

 リティには姉が居て、その姉と縁のある孤児院で子供たちの世話をしたことがあったそうだ。


 そしてそのときに、病気や怪我で動けない子供の下の世話をした。

 だから何の抵抗もなく僕の……


 そしてそれがいま、ある悲劇を呼んだ。


「なっ、なっ、何やってんのよ、アンタ!! 何てモノをワタシに見せようとしてんのよ、このクソ変態! 死ね! いやっ、殺す、絶対に殺す」

「シー!? 何でここに――って、見ないでくれ」


 僕はいま、リティに布団をめくられてズボンを下ろされている状態。

 どう控え目に言ってもアウト。完全にアウト。思わず涙が出そうになる。

 すぐに隠したいところだが、拘束用の付加魔法品アクセサリーのせいで身動き一つ取れない死に体だった。


「アル、安心して、ちゃんと隠してる。だから平気。それにこれはわたし以外は見ちゃダメなもの。だから見せない」 

「リ、ティ……」

「何よそれ」


 本当に信用して良いのかどうかわからないが、リティの表情からは嘘は見えなかった。あと、彼女の発言に色々と言いたいことはあるが、いまは触れないでおく。


「……スカーレット、アルはわたしと忙しい。何をしに来たの?」

「くっ、閃迅……。ちょっと用事があったから来ただけよ。あと何よ、そいつとアンタが忙しいって」


「そう、忙しい」

「――っ」


 目に見えない鍔迫合い(つばぜりあい)

 リティは布団をもとに戻し、膝を乗せていたベッドから降りた。

 それをフンとした表情で見下ろしていたシーが口を開く。


「…………町を出るから、最後に来たの」

「町を出る? 帰るってこと?」


「ええ、そうよ。だって――」


 シーから説明はこうだった。

 ハリゼオイに殺されたロイはシーのパーティメンバー。

 しかしヤツはシーに暴行し、シーは女性としてあわやというところだった。

 だから生き残ったパースたちは罪に問われ投獄。


 だがパーティリーダーであるシーにはペナルティーが発生する。

 パーティメンバーであるロイが死んだのだから、当然とばかりにペナルティーが発生したのだ。


 シーがこの町に来たのは仲間探しだったらしく、こんな状態では仲間探しはままならない。だから去ることを決めたそうだ。

 

「――それで帰る前に一つだけ聞きに来たの」

「……うん、答えられることなら」


「ねえ、何でワタシを助けに来たの? 何で命を捨てるような真似をしてまでワタシを助けたの? ロイのことはあんな簡単に見捨てたのに、何でワタシは……」

「……」


 あのときは僕は、『仲間だから』と答えた。

 しかしシーはそれでは納得していないのだろう。

 『仲間』が真の意味で何を指しているのか、それを知りたいのだ。


「…………冒険者は、仲間を守るものだからだよ」


 僕は同じことを言った。このイセカイのために一緒に犠牲になった仲間。そんなことを言える訳がない。

 これは僕が勝手に抱いている想いであり感情だ。だから言うのを止めた。

 婚約破棄を突きつけた相手に言ってよい想い(もの)ではない。


「そっか、やっぱ話してくれないんだ」

「……っ」


 思わず『ごめん』と言いそうになった。

 僕はそれをぐっと飲み込む。


「まあ、いいわ。もう二度と会うことはないんだし」


 フンと横を向いたシー。

 その横顔は強がっており、何故かとても彼女らしいと思える表情だった。

 だがその表情が崩れ――


「ねえ、本当のことを話してよ。……何でワタシを……」

「シー」


 とても切実な、そんな顔でもう一度訊ねてきた。

 その表情に思わず気圧されてしまう。


「ねえ、アンタ覚えてる。アンタはすごい死にそうだったんだよ。血だってたくさん吐いて、お腹には穴が空いているし、ほとんど串刺しだったんだよ? ロイと……変わらないぐらいの怪我をしていたんだよ」

「そう、なんだ……」


「助けてくれた二人が、上位の薬品ポーションを持っていたから間に合ったけど、それがなかったら回復持ちが来るまで間に合わなかったんだよ」 

「……」


「血がいっぱい出て、どうすることもできないワタシの気持ち分かる? 押さえても押さえても止まらなかったんだよ」

「……うん」


「ねえ、なんでそこまでしてワタシを助けたのよ。命を捨てるような真似ってさっきはいったけど、あんなのは命を捨てただけよ。ワタシのために命を捨てて……。ねえ、なんで……なんでアンタはそこまでしてワタシのことを……」


 切実で必死な訴えだった。

 その姿はまるで、自分が望む答えを待っている幼子のよう。

 彼女は僕から本当の言葉を待っていた。


「…………それは……」

「それは? ――あれ?」


 僕からの答えを待っていたシーが、ベッドの隙間に何かを見つけた。

 隙間に挟まっていたそれを引っ張り出す。


「え?」

「え?」


 僕とシーの声が重なった。

 視線もそれへと重なった。

 

「え、これって?」


 彼女の手に握られていたのは、淡い青色の布片だった。

 とても柔らかそうに見える生地。それをシーが広げてみせた。


「ん、そこにあった」


 シーの手に握られていたのは、この部屋で紛失していたリティの下着だった。

 それはちんまりとしたサイズで、僕が穿いているブリーフよりも小さかった。


「無くしたと思っていた」

「あ……」


 シーの手からそれをひょいと取り上げるリティ。

 彼女はそれを丸めて大事そうに仕舞った。


「え……もう、一枚……?」


 ベッドの隙間からもう一枚布片が引っ張りだされた。

 今度は白い布片で、これも柔らそうな布地だった。当然、無くなったと思っていたリティの下着だ。それを手にして呆然とするシー。


「ん、見つけてくれてありがとう。この前泊まったときに無くしてたの」

「~~~~~~っ!」

「し、シー?」


 シーの顔が真っ赤になった。

 そして射殺すような目で僕のことを睨むや否や――


「このっ、変態!!」

「――っが!??」


 激高したシーがこぶしを振り下ろしてきた。

 それは僕の鼻の下辺り、人中へと突き刺さる。

 信じられないような激痛が僕を襲う。ハリゼオイの一撃に匹敵する痛みだ。

 ゴロゴロとのたうち回りたいが身動き一つ取れない。


「ごっ、がぁ……」


 あまりの痛みに言葉を発することができず、変な声が漏れ出てしまう。


「変態っ! 死ね!」

「あ、行っちゃった」


 僕を殴ったシーは、顔を真っ赤にさせて部屋を飛び出して行った。

 扉を壊れそうな勢いで閉め、凄い足音を立てて去って行く。


「ん、帰った」


 どこか満足げな表情のリティ。

 僕はそんな彼女を見て、一つ聞きたいことができたのでそれを訊ねる。


「……リティ、何で止めてくれなかったのかな? もの凄く痛いんだけど……」


 僕は拘束されて身動きがとれない状態。

 だから先ほどの振り下ろしを止めて欲しかった。

 シーと再会したとき、リティは彼女のWSを止めてくれた。だから今回も止めてくれても良かったと思ったのだ。


「ん、だって殺気がなかったから。まったく殺気が無かったから止めなかった」

「え……」


「それよりもアル、続きをする」

「え? 待って? え? 続きってまさか――っ!」


 リティが再び布団をめくりだした。

 何の続きをしようとしているのかすぐに見当がつく。


 だから僕は、何でもするから許して欲しいと懇願したのだった。


読んでいただきありがとうございます。

感想などいただけましたら励みになります^^


あと、誤字脱字も……

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あ、リティちゃん、そのパンツって他の女除けのためだったんだね。 車にイヤリングとか落としといて、他の女に見つけさせて牽制する的なアレかな。 [一言] ん? 今何でもするって言ったよね…
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