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41話 ロイ、パージ

誤字報告、本当にありがとうございます。

「ぁぁぁぁぁぁああああああああっ――痛ええっ!」


 けたたましい叫び声が響き渡った。

 串刺しにされたロイは泣き叫び、必死に抜け出そうと試みていた。

 しかし貫いた凶爪は微塵も揺るがない。むしろ深くなっていく。


 そして――


「っがあああああああああああああああああああああああああ」


 ロイの身体が宙に浮いた。

 串刺しにしているハリゼオイが、まるで弄ぶように持ち上げたのだ。 

 磔にされてより一層足掻くロイ。串刺しにされているところで自重を支えているから痛みが増したのだろう。足をバタつかせながら逃れようとする。


「ぎゃあああああああああっ!」


 バタついていた二本の足が一本になった。

 足掻くのが目障りに映ったのか、ハリゼオイがロイの右足を切り飛ばした。

 べしゃりと音を立てて転がるロイの右足。僕の左頬には生温かいモノがついた。


 確認していないがきっとロイの血だろう。

 何とも言えない不快感が広がっていく。


 僕はそんな惨劇を目にしながら、心がとても落ち着いていた。

 目の前では”死”が行われようとしている。だから僕の心は、揺らぐ事なく(・・・・・・)落ち着いてきていた。


「急いで逃げよう」


 踵を返し、僕はシーのもとへと向かう。

 ハリゼオイがロイをいたぶっているうちに逃げなくてはならない。

 少人数であの魔石魔物を相手にするのはかなり厳しい。一刻も早くこの場を去って討伐隊を編成するのだ。

  

「まっ、待ってくれっ! オレを助け――っがあああああああ!!! 腕え!」


 縋るように伸ばしたロイの左腕が二つに割れた。 

 切り飛ばすのではなく、薪を割るように腕を縦に裂かれたのだ。

 ロイの悲鳴がさらに酷くなる。だが僕にとってその悲鳴は丁度良い目印、ロイがまだ生きているという目印になっていた。


 悲鳴が止む前に逃げなくてはならない。

 ここはハズレルートだ。他のパーティやアライアンスが近くにいる可能性は低い。


「行こう、シー」

「え? あ、う、うん……」

「アイツを見捨てるのか?」


「はい、そうです」


 呆然とした顔で僕を見上げるシーとナッシュ。

 惨劇を目の当たりにして動揺している様子だが、そんな暇はない。

 僕は彼女の手を取って立たせる。


「――っぐ」

「シー? ……もしかして足も?」


 シーは右肩だけでなく足も痛めていた。

 立ち上がろうとしているがまるで力が入らない様子。とても動けそうにない。

 

「シー、ごめん」


 僕は左側に回って肩を貸し、何とか彼女を立ち上げる。

 とても辛そうな顔をしているが、いまは我慢してもらう。

 無理にでも逃げなくてはならない。


「急ぎましょう」

「ん、わかった」

「……うん」


 ハリゼオイの気を引かぬように声を抑えて言った。

 段々とロイの声が小さくなっている。もうそろそろ止まる頃だろう。

 振り向いて確認すると、右腕も裂かれていた。ダラリと垂れ下がった両の腕からは止まることなく血が流れている。


 そして、左脚が切り飛ばされた。


 ビクンと身体を震わせるロイ。

 しかし最初のように悲鳴を上げることはなかった。

 もう事切れる寸前。


「お、おいっ、待ってくれ。おれたちも」


 リティによってやられたパースが声を上げた。

 しかし僕にとって彼はハリゼオイの足止め役だ。

 申し訳ないとは思うが、彼らには次のロイ(生け贄)になってもらう。


「急ごう」

「ん、わかった。――あっ」


 リティが同意してくれたそのとき、ロイの悲鳴が止んだ。

 首だけ動かして後ろを見ると、ロイの首がなくなっていた。

 人の形を保っていないそれをハリゼオイが投げ捨てる。そして――


「こっちに来る!?」


 ハリゼオイは、逃げようとしている僕たちへと目を向けた。

 殺戮者としての本能なのか、這いつくばっているパースたちには目もくれず、僕とシーを捉えていた。


「いけないっ!? ナッシュ、ヤツを止めろ!」

「はっ!!」


 兎の仮面を被ったナッシュがハリゼオイの前に立ち塞がった。

 こちらへ来るのを止めるつもりだ。しかしハリゼオイはそんなものは意を介さず薙ぎ払う。


「ぐはっ!」

「ナッシュ!」


 ナッシュが盾ごと吹き飛ばされた。

 彼は身体が大きい方ではあるが、相手がハリゼオイでは関係なく、まるで木の葉のように転がされる。


「マズいっ! ファランクス!」


 本日2回目の発動。展開した陣剣の結界がハリゼオイを食い止めた。

 しかしハリゼオイの凶爪は結界に深く抉り、あと数秒も保たなそう。


「くっ、もう一度。――ファランクス!」


 かなり厳しいが、連続で陣剣を発動させた。

 張り直した結界で何とか凶爪を耐える。しかしこれも長くは保たない。

 シーは一人で立ち上がることができない状態。

 肩を貸してやっと立っているが、僕が離れれば倒れてしまう。

 僕たちは身動きがとれない状態。


「…………置いて行って」

「え? シー?」


「置いて行ってって言ってるの!!」

「何でっ!? だってそんなことをしたら……シーはアイツみたいに」


「ワタシが居るから逃げられないんでしょ! ワタシがいなければ走って逃げられるでしょ! だから置いて行ってよ!」


 シーが自分を見捨てろと言ってきた。

 ロイのようになってしまうというのに、彼女はそんなことを叫んできた。


「……絶対に嫌だ」

「え?」


「絶対に嫌だっ! 僕は仲間を絶対に見捨てない。絶対に守るっ――ファランクス!」


 4回目の陣剣発動。

 SP量を考えるに、あと一回の発動が限界だ。

 それ以上の発動は命を削ることになる。


「何でよ……。何でワタシを……」

「ん、わかった」

「え? リティ?」


 逃げる体勢だったリティが、結界の横を回ってハリゼオイに斬りかかる。

 舞うように双剣を振るい、ハリゼオイを倒しにかかった。


「リティ!」


 リティのおかげで結界への圧力が減った。

 

「じゃあ、ボクはこっちから」

「え? え?」


 リティとは逆の左側から、ガートと呼ばれた男がハリゼオイに斬りかかる。

 彼はリティと同じ双剣使いで、WSを織り交ぜた連撃を放っていた。

 リティほどの速さはないが、それをWSで補っている。


「ガート様! どうかお逃げください! 貴方がその様なことをしてはいけません。ここは私がっ」

「駄目だよナッシュ。……後ね、もう負けたくないんだ」


 狼の仮面を被ったガートは、何故か僕の方を見ながらそれを言った。

 仮面の奥に見える瞳には嘘を感じない。強い覚悟だけが見てとれた。

 

「あのときみたいに逃げて、負けたくないんだ。もう絶対に……」


 二つの双剣がハリゼオイを押し始めた。

 あの冒険者殺しハリゼオイを二人だけで押し始め、少しずつ隙が広がっていく。

 

「……いけるかも」


 ハリゼオイの急所、腹部への道が開き掛けていた。

 普通ならば懐にはそうそう踏み込めない。迂闊に踏み込めば細切れだ。

 誰かが死の暴風と言っていたが、ハリゼオイの間合いは正にそれだった。

 しかし――


「……二人とも上手い」


 リティとガートは手数を増やし、正面の守りを薄くさせていた。

 あと一発だけなら陣剣を発動させることができる。だからあと少しで――


「――あっ」

「む! 退いた?」

「しまった!」


 二人に押されていたハリゼオイが、完全に押し切られる前に後ろへと退いた。

 あと少しというところで仕切り直しになった。

 後ろに退いたハリゼオイは、こちらを見定めるように睨んでいる。


「まさか退くとは……」

「そうか、足を止めていないから」


 二人の手数と速さで勝機が見え掛けたが、あと一つが足りなかった。

 後ろへと退かれてはどうしようもない。

 最初から正面に肉薄している状態なら追うことも可能だが、それは死の暴風の中に身を置き続けることを意味する。


 もしそんなことをできる者が居るとしたら、それはハリゼオイと同等以上の存在。ハッキリ言ってバケモノの類いだ。

 いまの僕では数秒も保たず細切れにされてしまう。


「はあ、はあぁ…………なかなか厳しいね」


 呼吸を荒くしながらガートがそうこぼす。

 一見押しているように見えたが、それは彼が全力で連撃(ラッシュ)をしていたから。

 いまみたいに何度も退かれていたら体力が持たないだろう。当然SPも。

 

――くそっ、どうする……

 魔法で縛らない限り逃げられるし、何度もやる体力もない、

 …………………………もうこうなったら僕が、



「アル、それはダメ。いま、自分が囮になればいいって思った? その間にみんなが逃げればって。でも絶対にダメ」 

「リティっ、でもそうしないとみんなが」


 僕はどうせ死ななくてならない身だ。だから――


「ん、わたしがやる」

「リティ?」


 リティが髪を束ねている紐を解こうとした。

 きっとモブオさんと同じようなことをするのだろう。

 束ねてある長い銀髪を解けば、それはとても目立ってハリゼオイのタゲを取ることができる。モブオさんの仕掛けと同じような効果だ。


「駄目だ、リティ。君だけにそんな危険な真似をさせる訳にはいかない」

「アル? でもそうしないと」

「――ワタシがやるわ。こんな肩なんて――ぃっ」 


 ゴキっと何かがハマる音が鳴った。

 涙を浮かべながら荒い呼吸を繰り返すシー。

 なんと彼女は、自分で強引に外れた肩を元に戻した。

 

 かなりの激痛だったはずだ。

 だがシーは気丈に振る舞い、肩に大剣を背負った。


「WSを発動させれば足だって勝手に動くわ。だからやれる」

「シー」


 確かにシーの緋色の一閃スカーレットストレートならハリゼオイを倒し切れるかもしれない。

 しかしそれはかなりの危険を伴う。

 足が碌に動かないのだ。発動後はその場にへたり込むことになる。

 もし倒し切れなかった場合は、死を意味するのだ。


「ん、ならそれでいこう」

「リティ?」

「うん、もう時間もないみたいだしね」

「今度は私も」


 ハリゼオイがゆっくりと向かって来ていた。

 かなり警戒した足取り。いまのやり取りでこちらの実力が分かったのだろう。

 勢いに任せて襲ってくる気配はない。


「……ん、少し厳しそう」


 リティも同じモノを感じ取ったのだろう。

 ハリゼオイは先ほどとは違う気配を纏っている。ロイを弄んでいたときのような遊びを感じさせない。力押しでは来ないと直感する。


 ( 仕留め損ねた代償か…… )


「来るぞ! 構えろ!」


 こうして、僕たちの第二ラウンドが開始された。

  

読んでいただきありがとうございます。

よろしければ感想などいただけましたら嬉しいです^^


あと、誤字脱字報告も(_ _)

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