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38話 ロイという男

三人称

 男は苛立っていた。

 中央、アルトガルから少し東へと行った所にあるルリガミンの町に来てから、男はずっと苛立ち続けていた。


 町へ来る前は浮かれていた。

 それは男にとってチャンスだと思っていたから。

 ロイという名の男は、この旅でパーティのリーダーを落とそうとしていたから。


 パーティのリーダーの名前はシオン。

 彼女とロイが出会ったのは、メークイン上級男爵が治めるアズマの街だった。

 そこで彼と彼女は出会い、ロイは彼女から請われる形でパーティに加入した。


 当時ロイは、仲間の二人と、とある理由で西から逃れて来ていた。

 彼らは西へと行くつもりはもうなかった。だから東で生きていこうと考えていたときだった。

 そんなときに、どうしても戦力が必要だから、ウチに入って欲しいとシオンに言われたのだ。


 シオンの容姿に一目で惹かれていたロイは、当然了承した。


 その後ロイたちは、シオンに連れられてある場所へと向かった。

 向かった場所は東のある領地、ハルイシ男爵が治めるハルイシ領だった。

 

 そこでロイたちは、シオンが貴族の娘であることを知った。

 赤い髪は西では珍しく、ロイはそれに特に気に入っていた。

 しかし相手は貴族の娘だ。一介の冒険者にすぎない自分ではどうにもならない。彼は最初はそう思っていた。


 しかし、ハルイシ領は男爵を名乗るのも烏滸がましいほど狭かった。

 数年後には没落するかもしれない。それがありありと見てとれた。

 

 だからロイは考えた。

 このままちょっと支え続けていけば良いのではと。

 没落したらシオンを引き取れば良い。没落しなかったとしても、こんな領地に貴族の婿など来る訳がない。


 それに東では胸が豊かな女が尊ばれる。

 シオンは無いわけではないが、東の連中の嗜好を満たすほどの大きさではない。

 だから好機だと捉えていた。


 それに、その前に落としてしまっても構わんのだろうと考えていた。

 きっと彼女もそれを望んでいると……



 しかしその思惑は覆された。

 それをルリガミンの町で知ることになった。


 町に到着した日、ロイは衝撃的な光景を立て続けに見た。

 まず一つ目が、シオンがいきなり男に斬りかかったこと。

 ロイはシオンが気が触れたのかと思った。


 ほとんど丸腰、無防備な男にWS(ウエポンスキル)で斬りかかったのだ。

 正気の沙汰ではない。ロイは逃げねばと思った。

 このまま巻き込まれようものなら、同じパーティの自分まで捕らえられるかもしれないと考えたのだ。


 しかしここで、二つ目の衝撃的な光景を目撃する。

 銀色の閃光が、はためくように緋色の一閃を受け流したのだ。

 あまりのことに、ロイは隠れたまま呆気にとられた。


 そして三つ目の衝撃的な光景が飛び込んできた。

 それはその受け流しをした者が、見たことがないほどの、そんな枕詞が相応しい美少女だったこと。

 そんな壮絶なまでに整った容姿の銀髪の美少女に、ロイは完全に視線を奪われてしまっていた。


 その後、話し合いを終えたシオンはロイたちの所に戻って来た。

 彼女はとても機嫌が悪く、そこら中に当たり散らしていた。


 そして次の日、シオンと斬りかかられた男が一緒にいた。

 ロイは、薄汚い髪をした斬りかかられた男に苛立ちを覚えていた。

 しかしその苛立ちを認めたくなかった。


 その感情は嫉妬による苛立ちだ。

 嫉妬とは、相手よりも劣っている、相手をうらやむ気持ちから湧く感情だ。

 斬りかかられた男は、銀髪の美少女と親しい仲に見えた。それが腹立たしい。


 だからそんな嫉妬を抱くことなどロイは認めたくなかった。

 なのでロイは、その男と初めてあった風を装った。嫉妬する理由など自分にはないと、自分にそう言い聞かせたのだ。


 そんなとき、シオンがとんでもないことを言った。

 それはロイも知らなかったことであり、彼にとっては騙し討ちのようなことだった。

 シオンは、【領地取り合戦】を半年後に予定していると言ったのだ。


 ロイからしてみれば無謀な負け戦。

 あの狭い領地のハルイシ家が勝てる訳ないし、そんな戦に自分たちが巻き込まれることを危惧した。


 ハッキリ言ってあり得ない。

 ハルイシ家の没落が早まるかもしれないが、そんな負け戦には巻き込まれたくない。どんな結果になるか分かったものではない。

 だからロイは、あとでシオンを説得しなくてはならないと考えた。


 そしてまずは憂さ晴らしに、クズと呼ばれた男が押している一輪車を蹴飛ばした。

 シオンが嫌っている男だ。こうやってやればこの女の気も晴れるだろうと。


 しかし――



『……ロイ、余計なことはしないで』

『は? 何でだよ。だってオマエもあのクズ野郎のことを……』


『ふん、あのクズをクズと言っていいのはワタシだけよ』


 ロイは、シオンにそう言って諫められた。

 彼からしてみれば、オマエのためにやってやったことだった。

 だというのにシオンは、あの男、アルドを庇ったのだ。


 苛立ちがまた一つ蓄積した。

 その苛立ちから、シオンを説得するのは後にすることにした。

 何を言うか分かったものではないから。自分自身が……




 次の日、何故かシオンはアルドが居るアライアンスの隣で狩りをした。

 ロイからしてみれば非常に面白くなかった。

 他の二人は何とも思っていない様子だが、ロイだけは面白くなかった。


 シオンが何かにつけて突っ掛かっているが、ロイだけには少し違って見えた。

 それはまるで、幼子が構って欲しさに悪さをするような、そんな風に見えていたのだ。


 そしていつの間にか、灰色のクズがいるアライアンスと一緒に魔石魔物狩りをすることになった。


 シオンは険悪な表情をしているが、わずかに綻びが見えた気がした。

 ロイだけは、それに気が付いていた。

 


『くそったれがっ』


 狩りが終わったあと、ロイは苛立ちからそんな言葉を吐いた。

 シオンだけでなく、銀髪の美少女、閃迅リティアまでもアルドを気に掛けていた。


 あのときの様子は間違いではなく、閃迅は灰色のクズを……と、ロイは感じていた。

 

 面白くなさ過ぎる。それがロイの心境だった。

 そしてその後も面白くないことが続いた。

 極め付きが、魔石魔物狩りのときに起きた事故だ。


 クズだと思っていたヤツに助けられた。

 そして明日もまた魔石魔物狩りを一緒にやるとシオンから告げられた。

 あんなことがあったのに、また一緒にやるというのだ。

 自分たちのことなど微塵も考えていない、まったく配慮がない。


 今回この町に来た理由は、新しい仲間を探すことだった。

 正確には、領地取り合戦のための戦力を探しに来ていたのだが、ロイにとってはもうどうでも良くなっていた。


 落とせぬのならもう要らないと見限ることにした。

 だが最後に、いままで利用された分だけは支払ってもらうと決めた。

 支払うといっても金ではない。そもそもシオンはそんなに金を持っていない。


 ( はっ、一回も二回も同じことだ! )

 

 ダンジョンでは稀にある事故(こと)

 何だったら街中でもよくある事故のようなもの。

 ロイたちもその事故のことを聞いたことがあるし、自分たちも――


 ( ――舐めやがって、身体で払ってもらうぜ )


 ロイたちが西から逃れてきた理由は、竜の巣(ネスト)と呼ばれるダンジョンで一人の女冒険者を襲ったから。

 パーティの仲間だったその女冒険者を、ロイたちは三人で襲ったのだ。


 切っ掛けは些細なこと。

 その女冒険者がパーティを抜けると言った。

 それが気に食わなかったロイたちは、その女冒険者をダンジョンの中で襲い辱め、最後は身動きができぬようにして捨ててきた。

 

 当然、竜の巣(ネスト)でペナルティーを受けることになった。

 そしてそのことが発覚する(バレる)前に西から逃れた。

 事故死ならペナルティーで済むが、襲って捨ててきたこととなると罪に問われる。

 

 だから今回で2回目。

 前回と同じでペナルティーを受けても去ればいい。

 余所の街に行ってしまえば関係無い。

 貴族の娘だが、あんな没落寸前の貴族など誰も気に止めない。


 もう戻ってくることはできないが、ロイはそれで良いという考えの持ち主だった。


 そして丁度良く知り合いに会えた。

 3人だと少々不安だが、5人で襲えば”スカーレット”と言えどどうにかなる。

 それに不意を突けば良い。魔石を置く瞬間を狙えば十分にいける。

 あとは前と同じで、脚を潰して肩を外してやれば良い。

 そうすれば好き放題できるし、そのあと捨てるときも丁度良い。


 ( へっ、見てろよ…… )


 あの勝ち気な瞳をグズグズにしてやる。

 いつも命令口調だった口から、泣いて許してと懇願させてやると黒い欲望を仲間とともに滾らせる。


 あの赤い髪をシーツのように地に這わせ、それを眺めながらやってやると。

 


「――シオン、グレランのヤツらが断ってきやがった。オレらとはもう組む気がねえってよ。だから今日はウチらだけでやろうぜ。丁度知り合いに会ってな、そいつら入れれば6人パーティだ。だから――」





 例のハズレルートって場所で…………やろうぜ。

読んでいただきありがとうございます。

よろしければ感想などいただけましたら幸いです。


あと、誤字脱字も……

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― 新着の感想 ―
[良い点] いい感じの悪役ですねぇ。次回辺り即落ちしてそう。 >>>泣いて許してと懇願させてやる 君が言うことになるんやで、ロイ君(ゲス顔 [気になる点] 魔王って消滅したよね? 陣内が仕損じて、…
[一言] なぜだろうか、一瞬北原に見えたのは気のせいか……
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