30話 スキヤキ
すいません、一つ前の話は脱字が酷く……
誤字脱字訂正、本当にありがとうございます。
奇妙な状況は、魔石魔物狩りの後も続いた。
狩りは大きな事故はなく無事に終わり、その後解散の流れとなったのだが――
「いっ、いつも、遠くから見てましたっ。よろしければこれをどうぞぉ」
「ん、ありがとう」
「「「「おおおーー!!」」」」
「はい、アル」
「「「「「「……」」」」」」
「……リティ」
現在僕の前では、何故かスキヤキ大会が開催されていた。
ただ大会といっても、みんなでスキヤキを注文して食べているだけ。
だがそこには競い合いが存在した。
「せ、閃迅さん。よよよよ、よかったらこれを」
「ん、もらう」
「「「おおおお」」」」
差し出された皿を受け取るリティ。
今日は珍しくリティが、魔石魔物狩り後の夕食に参加していたのだ。
彼女は普段こういったものには参加せず、僕を拉致でもするように連行するのだが、何故か今日は狩りの後の夕食に参加していた。
そしていつの間にか、グレランのメンバーがリティに高級肉を貢ぐ流れができていた。皆が次々と高級肉を乗せた皿を持ってくる。
どうやらグレランのメンバーは、閃迅リティアと話をしてみたかったようだ。
しかし相手はあの閃迅リティア。なのでどうしても尻込みしてしまっていた。僕も昔はそうだったからそれは良く分かる。
そんなとき、モブオさんが高級肉を乗せた皿を持ってきた。
そして『よかったらどうぞです』と、その皿をリティに手渡したのだ。
それからはあっという間だった。
みんな『それだ』と一斉にモブオさんの真似を始めた。
競うように高い肉を注文して、それをリティの元に持ってくる。
そしてそれを――
「はい、アル。またお肉をもらった」
「いや、リティ……それは君に食べてもらうために……」
「んっ」
「……」
皿を受け取ったリティが、それを僕へと寄越してくる。
みんなの視線がとても痛い。できることなら穏便に拒否したいところだが、拒否しようものなら口に肉を突っ込んで来そうな気配。しかも生肉の状態で。
なので僕は仕方なく、それを受け取って目の前の鍋に入れる。
くつくつと煮たっている鍋は、放り込まれた肉にさっと火を通していく。
肉の色が白っぽく変わり、丁度食べ頃になって――
「はい、アル」
「……」
「「「「「……」」」」」
綺麗な箸捌きで肉を掬い、それを溶き卵に浸して渡してきた。
とても甲斐甲斐しい。
だが待って欲しい。本気で待って欲しい。
あまり空気を読むタイプではないと思っていたが、これは本当に待って欲しい。
視界の隅の方では、見覚えのないハンドサインが飛び交い合っている。
モブオさんのもとに、人を包むことができそうな厚手の布が渡っていく。
誰かが酔い潰れても良いように用意したものだと思いたい。きっと毛布代わりに使うモノだと信じたい。
「――っ!」
「え?」
バキリと、何かがへし折れる音が響いた。
その破砕音がした方を見るとそこには……
「あれ? お箸が折れちゃった~。ロイ、新しいの取って」
「……はいよ」
どうやって折れたのか不明だが、シーの握っていた箸が真っ二つになっていた。
笑顔で新しいお箸を仲間に取ってもらうシー。
色々と思うところがあるが、取りあえずいま思っていることは、何故シーまでここに居るのかということ。
彼女は僕のことを嫌っている。それは間違いない。
しかし彼女は、自身のパーティメンバーと一緒にこの場に居た。
しかもワリと近いテーブルに陣取っている。
「こっちにも一番高いヤツを持ってきて。5人前ね」
「は~~い」
注文に元気良く返事する店員の娘。
今日は忙しいらしく、彼女はパタパタと走り回る。
「……おい、ワイが言うのもなんだけど。どういうことだ?」
「…………ええ、どういうことなんでしょうね」
誰の目から見ても僕はシーに嫌われていた。
今日の狩りのときだって、彼女は僕に対して不満や暴言を言い放っていた。
片手剣しか使えないことやWSのこと、他には前に出て邪魔など様々なことを言われた。
確かにシーの言う通りなので、僕は反論しなかった。
すると今度は、その態度が気に食わないと食って掛かってきた。
さすがにそれはチョロスさんが間に入り、それ以上大きくなることはなかった。
イワオトコが湧けば出番があったのだが、今日は何故か一体も湧かなかった。
だから、誰の目から見ても僕が嫌われていることは明らか。
僕もその理由には心当たりしかないし、嫌われるのも当然だと思っている。
だからここにシーが居ることが解せない。
「ん~~、分からんな」
「ですよね」
「取りあえずよう、謝ってきたらどうだ? そんで刺されりゃ解決だろ?」
「そんな無茶苦茶な……」
「そうか? ワイが西で観た劇じゃそれで丸く収まっていたぞ」
「……何ですか、その酷い劇は……」
よく分からない理論を展開してくるモブオさん。
いつかは死ななくてはならないが、シーに刺されて死ぬのはさすがにマズい。
それに僕は、死ぬときはダンジョンの中と決めている。
「アル、はい。あ~んして」
「待ってリティ。このお皿に置いて。そうしたら食べるから」
『あ~ん』をしてきたリティ。
さすがにそれはマズいと僕はそれを避ける。
いったんお皿で受け取り、それを口へと運ぶ。
「……やっぱ刺されねえかな」
モブオさんが物騒なことをつぶやいた。
まるでそれに同意でもするかのように、周りの人がうなずく。
こんなときはどう対応したら良いのか、そんなことを考えていたら――
「おい、今日すげえヤツが地下迷宮に居たぞ」
「ん? 何だよ」
隣のテーブルから大声が聞こえてきた。
僕はこの場を誤魔化すように、その会話へと耳を傾ける。
「変な仮面を被ったヤツらでさ、すげえつええんだ。両手に剣を持って【ランページ】を放ってやがったんだよ」
「おいっ、それってまさか勇者シイナ様か!? シイナ様がここに?」
突如出てきたのは勇者様の名前。
勇者様が身分を隠して冒険者に紛れている、そういった噂は聞いたことがあるので、僕はそのまま隣の会話に耳を傾けた。
「ん~~、たぶん違うな。何て言うか、勇者様って感じじゃなかったな」
「なんだよ~、じゃあちょっとすげえヤツってことか」
「でもよう、変な仮面を被って、そんでな――」
そこからの会話はこうだった。
仮面を被ったのは二人組で、どっかの貴族様じゃないかと。
そんな風な立ち振る舞いだったのだとか。
僕はそれを聞きながら、どうやってこの場を切り抜けたら良いか、そんなことを考えていた。
するとそのとき、まず酔わして無力化しようという声が、離れた場所から聞こえてきたのだった。
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あと、誤字脱字も……