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2話 王子アルド

連続投稿~

 ダンジョンに入れない僕は、町の外に出て魔物を狩っていた。

 適当に歩いて魔物を探し、見つけたら戦いを挑むを繰り返す。


 正直とても効率が悪い。

 だが、一人(ソロ)では地下迷宮ダンジョンに入れないのだから仕方ない。


「――たっ! これで終わりだ! WS”ヘリオン”!!」


 純白の十字の刃が、ミドリブタという魔物を切り裂いた。

 豚によく似た六本脚の魔物が、ボッと音を立てて黒い霧となって霧散していく。


「ふう、やっぱり足りない……」


 散っていくのを確認した後、僕は右手に持った片手剣を見つめた。

 日の光を反射させて白く光る刀身。

 刃こぼれや緩みなどは一切無く、間違いなく万全な状態。


「他のWSが使えれば……違ったかもしれないのに」


 自分の不甲斐なさから愚痴がこぼれてしまう。


 WS(ウエポンスキル)

 それは冒険者や兵士たちが武器を使って放つ特殊な技。

 教えてもらった話によると、地中奥深くに渦巻いている”力”を、SPを消費することで呼び寄せ、それを刀身に纏わせて放っているのだとか。


 だからSPがないとWSは発動せず、武器(刀身)がないとその力を留めて発動させることができない。

 

 戦うことを生業としている冒険者にとって、このWSはとても重要なモノであり、扱えるWSの多さは強さへと直結する。

 放つWSによっては、大きな岩だろうと容易に切り裂けるのだとか。


「……片手剣だけじゃなくて、大剣の適正もあれば……」


 WSは扱う武器によって様々な種類がある。

 弓を扱った場合、放出系と呼ばれる、力を遠くに飛ばすモノが多い。

 斧の場合は重い一撃。大剣の場合は、威力と切断力に優れたWSが多い。


 そんな中片手剣は、扱いやすさに優れたWSが多かった。

 片手でもWSを放つことが可能で、WS発動後に発生してしまう隙も少ない。

 

 WSは、通常ではあり得ないほどの攻撃を放つことができるが、その反動とでも言うべきか、勢いが強すぎて発動後にどうしても隙が発生してしまう。


 それにWSは一度発動させたら途中で中断はできない。

 発動後は大きく振り切るので、どうしても隙が発生してしまう。

 特に大剣や両手斧は高威力なWSを放てるためか、その隙がとても大きくなる。

 

 だが片手剣は他の武器よりも小さく、大剣ほどの威力を放つことができないので、そういった硬直と呼ばれる隙が短い。


 だからその点だけは優れている、のだが――


「イワオトコには全然通用しなかったなぁ……くそっ。他の武器さえ使えたら……僕だって……」


 昨日のことを思い出し、愚痴がまたこぼれてしまう。

 ウルガさんの冒険者連帯(アライアンス)に入って、岩でできた魔物イワオトコと戦ったときのことを思い出す。


 身長が3メートル近くあるイワオトコ。

 その大きな体躯から繰り出される豪腕は常に即死級。

 ただ動作が大きいので、攻撃を避けるのはさほど難しくない。

 だが、近寄り過ぎた場合は避け切れないことがある。


 そんな魔物(イワオトコ)と僕は正面から戦った。

 相手の懐に深く踏み込み、そこで渾身のWS(ヘリオン)を放った。

 しかし放たれた純白の斬撃は、魔物の表面を僅かに削った程度。

 あれでは何発WS放ったとしても倒すことはできなかっただろう。


 結局僕は、仲間たちによって引きずり戻され、その魔物を倒した後に追放を言い渡された。

 あのときの罵倒はいまでも耳に残っている。


 あれが片手剣ではなく、大剣で放ったWSなら通用したかもしれない。

 片手剣で放ったWSは全く歯が立たなかった。


「くそっ、WS”ヘリオン”!」


 高速の十文字斬りが空を切る。

 発動速度や使い勝手がとても良いWS。

 しかし、それだけでしかないWS。


 雑魚の魔物、先ほど倒したミドリブタのよう魔物なら一撃で倒すことができるが、大物と呼ばれる魔物には通用しない。

 ”ヘリオン”では非力すぎるのだ。あの堅い表面を貫くには到底足りない。


 相手を倒すという、アタッカーとしての本分を果たすことができない。

 何のためのアタッカーだと嘆きたくなる。


 追放されても仕方のないことだ……


「……ステータスオープン」


 名前 アルド

【職業】冒険者 

【レベル】8

【SP】64/187 

【MP】72/102

【STR】18 

【DEX】15 

【VIT】32 

【AGI】21

【INT】17 

【MND】24 

【   】

【固有能力】【駆技】【耐強】【耐心】【僥倖】【不幸】【死心】【蛮勇】

【魔法】雷系 風系 火系 水系

【EX】毒感知(大)耐毒(絶)

【パーティ】


 ――――――――――――――――――――――――


「もう少しレベルが上がれば……」


 ステータスプレートを呼び出して内容を確認する。

 表示されている数値と【固有能力】は、このイセカイが僕たちに授けてくれている恩恵だ。


 一昔前までは、表示されている内容が、その人のステータスを表していると思っていたそうだ。


 しかしそれは間違いであり、表示されている数値と【固有能力】は、この世界イセカイから授けられているモノと訂正された。


 眉唾な話だが、何でもこのイセカイを統べる存在から直接聞いたそうだ。

 普通だったら誰も信じなかっただろう。

 だがしかし、実際に聞かされた通りだったのだ。


 だから身体を鍛えても数値は伸びたりはしない。

 表示されている数値を伸ばすには、魔物を倒して経験値を得てレベルを上げるしかないのだ。レベルが上がれば数値は伸びる。


 なので冒険者の強さとは、その人が元から持っている身体能力に、ステータスプレートからの恩恵を上乗せしたモノが、その人の実際の強さとなるのだ。



「強くなりたい……」 

 

 強くなりたい。強くなりたいと心底願う。

 強くなれればWSが非力でも力で底上げすることができる。

 そうすれば、堅いイワオトコだろうと削ることができるかもしれない。

 もうちょっとまともに戦えるようになる。


 それに、僕はやっと冒険者になれたのだ。

 全てを捨て、全てを捧げてやっとここまで辿り着いたのだ。

 しかも犠牲を払ったのは僕だけじゃない、他にも三人の人生を台無しにした。


 王制復活計画、【ギームルの書】に記された計画のために……


「……やっとここまで来たんだ。最後ぐらい、最後ぐらいだけは…………ん? あれは?」


 自分は一体どうしたら良いのかと、そんなことをグルグルと考えていたら、遠くの方に馬車の隊列が見えた。


「……ルリガミンの町に?」


 6台の馬車が隊列を組んで向かっている先はルリガミンの町。

 この町には、王城がある中央と町を往復する巡回馬車がある。

 だから町に向かって馬車が走っているのは普通の光景。

 

 しかし、それが隊列を組んで走ることは滅多にない。

 大量の物資が突然必要になったり、大きな劇団が町に向かったときは隊列を組むことがあるかもしれないが、それ以外の理由があるとすれば、どこかの大きなアライアンスがやって来たときぐらいだ。


「町に戻ってみるか」


 何となく興味をひかれ、僕は町へと戻ることにした。

 それに、これ以上ここに居ると気持ちがどこまでも落ち込んでいく。

 解決策が見つからない悩みにハマって、ただグルグルとしてしまう。


 抜き身だった剣を鞘に収め、僕は町へと歩き始めた。




       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

 

 

 


 (ゲート)を潜って町に入ると、そこは喧騒と活気に満ちていた。

 先ほどの隊列は予想取りアライアンスを乗せた馬車だったらしく、大勢の冒険者たちが馬車の周りにいた。

 自分たちの荷物を下ろしているのか、冒険者たちが次々と荷を下ろしている。


「どこのアライアンスだろう……」


 馬車を取り囲んでいる冒険者の人数は50名近く。

 もう少し人数が増えればオーバーアライアンス(冒険者連合連帯)と呼ばれる規模だ。


 間違いなくどこかの有名なアライアンスだろう。

 僕以外にも何人もの人がそのアライアンスを遠巻きに見つめている。


 ( どこのアライアンスだ? )


 アライアンスの(エンブレム)を探す。

 弱小、新規のアライアンスはエンブレムを持っていないが、これだけ大きなアライアンスだ、きっとエンブレムを持っているはず。


「大剣に赤色の五……葉? ――え? まさかっ!?」


 紅葉と呼ばれる葉をモチーフに大剣を合わせたエンブレム。

 そのエンブレムを掲げたアライアンスと言えば……


「凄いっ、モミジ組だ! モミジ組がこの町に来たのか!?」


 僕は興奮のあまり声を上げてしまう。

 【モミジ組】は、このイセカイで一番有名なアライアンスと言っても過言ではないアライアンス。


 リーダーである犬人の冒険者ガレオスは、先の魔王との戦いに参戦し、勇者イブキから大剣を授かったほどの英傑。


 今でもその大剣を求める者は多く、その金額は街を買えるほどだと噂されている。

 しかし彼は、大剣は預かった物であり、決して売ることはできないと突っぱねているのだとか。


 それに、アライアンス自体も引っ張りだこだ。

 アライアンス(モミジ組)は有名なだけでなく、最強のアライアンスだと呼び声が高い。

 どこの領主も彼ら欲していると聞いている。

 

「この町に来るなんて……」


 さっきまで落ち込んでいたのに心が弾む。

 モミジ組が活動しているのは南のノトス領。遠征で大規模防衛戦に参戦することもあるが、このルリガミンの町にはあまりやって来ないと聞いていた。


 ワクワクと心を弾ませながら冒険者たちを見る。


――これがモミジ組か、

 誰がガレオスさんだろう……  

 あっ、他にも有名な人も居るかも、

 


 キョロキョロと犬人の冒険者を探す。

 冒険者に憧れていた僕は、冒険者の逸話を集めるのが大好きだった。

 他の人からは酔狂なと陰で言われたこともあったが、それはそれで都合が良かったので気にはしなかった。


 ( 誰がガレオスさんだろう……? )

 

 ”百戦”のガレオス。

 数多の戦場を駆け抜けて不敗。

 どんな戦いだろうと生還を果たし、彼がいれば勝利は間違いなしと謳われし者。


 前に見た劇では、勇者さまと背中を合わせながら戦っていた。

 勇者さまの活躍を題材にした演劇は数多くある。だから実際にそういった場面があったのだろう。


 そして他にもガレオスさんは、僕が一番大好きな演劇【狼人奴隷と主の恋】にもちょくちょく登場している。


 演劇のモデルになった本人に会えるかもしれない。

 声を掛ける勇気はないが、一目見てみたい。

 憧れの大冒険者ガレオスさんを――


「あっ、あの人かな?」


 初老の一歩手前、そんな風貌の犬人の冒険者が居た。

 背には黒色の大剣を背負っている。きっとあれが百戦のガレオスさんだろう。

 勝手な想像で強面だと思っていたのだが、思いの外優しそうな顔をしている。


「あの人が百戦の――っ!?」


 ガレオスさんらしき人の横に、狼人の女の子が居ることに気が付いた。

 僕はその狼人の女の子に釘付けになる。


 女性の冒険者はそこまで珍しくはない。

 優れた【固有能力】があれば、女性でも十分冒険者としてやっていける。

 だから珍しくも何ともないのに、僕は目が離せなくなっていた。


 何故なら、その狼人の女の子が綺麗過ぎたから。

  

「彼女は……一体……」


 凄まじく整った容貌。

 容姿端麗という喩えでは到底足りない。

 そんな女の子がそこに居た。


 僅かに青みを帯びた銀色の髪と、透き通った赤い紅茶色の瞳。

 髪は腰の辺りまですらりと伸び、毛先の方を赤い紐で束ねてある。

 そろそろ薄暗くなってきたというのに、その髪は淡い光を放つよう。瞳の色もよく映えている。

 

 表情が無表情なので、まるで高名な芸術家が作り上げた作品みたいだ。


「――見つけた」

「え?」


 呆けるように見蕩れていた僕と目が合った。

 赤い紅茶色の瞳が僕のことを真っ直ぐ捉えている。

 彼女が恐ろしいほど綺麗に歩いてきた。


「え? え? ちょっと!?」


 彼女は僕のそばまでやってくると、背伸びをして顔を覗き込んできた。

 鼻先が触れそうなほど近くに彼女の顔がある。


「お、おいっ、あれって”閃迅”じゃねえ?」

「へ? 閃迅って、あの閃迅リティアか!? ってか、あの男は何だ?」


 ( あっ、そうか、この子が閃迅リティアか! )


 閃迅(せんじん)リティア。

 ここ1~2年の間で名が知れ渡った凄腕の冒険者。

 ”閃迅”は彼女の二つ名で、閃光のような(はや)さで魔物を倒すことからその名が付いたのだとか。


 彼女に強い憧れがある訳ではないが、少なからず興味はあった。

 それは、彼女が伝説の冒険者”瞬迅”の再来と呼ばれているから。

 だから僕は、”閃迅”はどんな人なのだろうと思っていた。


 そしてとても納得ができた。

 ”瞬迅”を見たことがある訳ではないが、彼女を題材にした演劇は何度も見たことがある。


 一番有名なのは、【狼人奴隷と主の恋】という演目(タイトル)の劇だろう。

 とても見目麗しい狼人の少女、劇ではそう演じられていた。

 

 だからとても納得できたのだが――


「え? 何で!??」


 周囲が騒然とした。

 ほぼ全員が目を剥いてこちらを見ている。

 彼女が、僕の右腕に抱きついてきた。


「やっと会えた……」

「えっ!? あの??」


 あまりのことに混乱してしまう。

 いま分かっていることは、自己主張がある二つの柔らかさと、鼻腔をくすぐるとても良い香り。

 

 突然の状況に固まってしまう。


「……やっと、やっと見つけた……」

「な、何が……」

「へえ、そいつがリティが探していた『王子さま』か」

 

「――っ!?」


 ドキリと鼓動が跳ね上がる。

 ガレオスさんらしき人の言葉に、僕は激しく動揺した。


「おいおいおいっ、リティア! お前はマジでそんな冴えねえヤツのことを――ってか、【鑑定】で視たけどぜんぜん大したことねえぞソイツ」

「……ウーフ、うるさい」


「つってもよう、リティア。コイツの【固有能力】とかほとんどゴミだぞ? そんなヤツがお前の言ってた王子サマかよ。俺はぜってぇ認めねえぞ! こんな【欠け者】野郎は!」 


 僕よりも少しだけ年上らしき狼人の男が激高していた。

 それを煩わしそうに流すリティアと呼ばれた少女。


 突然の状況に戸惑ったが、僕は自分のことを王子と呼ばれたことに一番の戸惑いを感じていた。

 

読んでくれてありがとうございます。

感想など、感想などいただけましたらー


あと誤字脱字も……できましたら……

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