28話 ハルイシ家の……
いつも読んでいただきありがとうございます。
メリークリスマス!!
あ、ウチにはクリスマス中止のお知らせが来たんだった……
その日の夜、僕はガレオスさんにハルイシ伯爵のことを訊いてみた。
できるだけさり気なく、何となくを装って……
ガレオスさんは不思議そうにしながらも、元ハルイシ伯爵、現在はハルイシ男爵のことを快く教えてくれた。
どうやらハルイシ男爵は、現在領地にて隠居状態。
何年か前までは、降爵された反動からか、躍起になって領地取り合戦を繰り返していたそうだ。再び伯爵に返り咲くことを夢見て……
しかし領地取り合戦はそこまで甘くはない。
ハルイシ男爵は碌に戦力を集められず敗北を重ね続けたそうだ。
ガレオスさん率いるモミジ組には、何度かハルイシ男爵からの参戦の要請があり、お前らが居れば勝てる、だから参戦しろと言われたことがあったのだとか。
しかしガレオスさんの言い方から察するに、その求めには応じなかった様子。
そしてハルイシ男爵は合戦を繰り返すたびに領地を削られていき、いまでは男爵を名乗ることすら烏滸がましいほど狭い領地になってしまったそうだ。
だから喰っていくだけで限界。現在のハルイシ領はそんな状態なのだとか。
僕はこの話を聞いて、オラトリオが裏で絡んでいると確信した。
どうせ彼のことだから、上手いこと焚き付けて領地取り合戦を誘発させたのだろう。
どうやってハルイシ家を追い込んだのかと思っていたが、どうやらハルイシ家自体を利用したようだ。
リティとは種類が違う無表情、底を見せぬ能面のような顔をしたオラトリオのことを思い出した。
「う~ん」
ぼふりとベッドに倒れ込む。
僕はガレオスさんから話を聞き終え部屋に戻っていた。
ベッドへ横になって、聞いた話を反芻する。
僕はガレオスさんの話を聞いて、思うことが二つあった。
まず一つ目は、ハルイシ男爵の代わりにシーが動くようになってしまったこと。
彼女の持っている【固有能力】は、貴族よりも冒険者などの戦うことに向いている【固有能力】だった。だからハルイシ男爵に代わって戦っている。
しかしそんなことは貴族の令嬢がすることではない。
僕のせいで彼女は、戦いの場に身を置くことになってしまった。
間違いなく婚期は伸びるだろうし、たぶん貰い手も減る。
それに彼女の姿を見る限り、東の方では厳しいだろう。
シーは東の嗜好とは少々離れていた。
そして婚約破棄された彼女では、他の領地の者も敬遠する。
本当に申し訳ないことをしてしまった。いつか死んで詫びなければならないと改めて思う。
次に二つ目、確信がある訳ではないが、ガレオスさんは僕の正体に気が付いているかもしれないということ。
とても情勢に詳しく、様々なことを見てきた御方だ。
だからきっと僕の正体なんて既に掴んでいる。そんな気がしてならなかった。
今日聞いた話だって、怪しまずにすんなりと僕に教えてくれた。
きっと僕のことを把握している。
だけどそれを訊ねて来ないということは、まだ知らない振りをしてくれるということだ。
ガレオスさんにどんな益があるのか分からないが、僕にとってそれは都合の良いことなので、このまま甘えることにする。
この件を突っ突いても良いことはないだろう。
「…………追い詰められていたんだな」
ハルイシ家は予想よりも追い詰められていた。
だからといって同情するつもりはないが、シーだけは別だ。
彼女が表立って戦わねばならない程とは思っていなかった。
僕はそれを知らなかった。
曾祖父のギームルは、僕に与える情報をある程度制限していた。
その制限していた理由は、必要以上の情報は僕の演技に支障をきたすから。
僕は愚か者を演じる必要があった。
聡いと思われてはならない、扱い易い王子として見られる必要があった。
だからそのため曾祖父は、僕に知識は与えても情報は制限していた。
曾祖父がよく言ってた言葉に、『知識に鮮度はないが、情報には鮮度がある』というものがあった。
例えば領地を攻め込まれたとき、それを事前に知ることができれば、攻め込まれる前に防衛線を敷くことができる。
だが逆に、その情報を直前になって知った場合は、当然防衛線を敷くことができない。
同じ情報でも早いと遅いではまったく価値が変わってくる。
曾祖父はこれを鮮度と表現していた。だから鮮度の良い情報を知っていた場合、それを知ることができる立場だと認識されてしまう。
うっかりそれを漏らした場合、相手に不要な警戒心を持たれる。
それにそういったモノは、咄嗟のときに表に出てしまう。
愚鈍な王子を演じるには必要のないことだった。
一方知識の場合は、相手にそれを悟られたとしてもそこまで影響はない。
知識とは、適切なところで生かさなくては効果を発揮しないものだ。
本を読めば手に入れることもできるし、そこまで警戒されることはない。
だから僕には、ハルイシ家がどうなったかという情報が与えられなかった。
誰でも知っているようなことは知ることができたが、詳しい内情は知らされていなかった。
――いや、違う……な、
僕は怖くて知ろうとしなかったんだ、
シーがどんな目に遭っているのか怖くて……
考えれば考えるほど気持ちが落ち込んでいく。
僕が婚約破棄をしたため、シーの立場は非常に悪くなってしまった。
だからとはいえ、あの計画は必要であったし、行ったことに後悔はない。
だがしかし、償うためにやはり自分は死ぬべきだという思いが強くなる。
シーに、彼女たちに僕は本当に酷いことをしてしまった。
「駄目だ、考えが悪い方に――ん?」
部屋の扉がノックされた。
聞き慣れた嫌な音ではなく、最近聞くことが増えた軽いノック音。
きっと彼女だろう。僕は扉の鍵を外す。
「ん、来た」
「リティ……」
「ドロボウ猫に取られる前に、わたしがアルを食べる」
「ドロボウ猫って……」
彼女は今日もYシャツ姿だった。
しかしこれで3回目。それに直前まで落ち込んでいたためか、僕は狼狽えることなく冷静に対処することができた。
前は脚の辺りが気になって視線を彷徨わせてしまったが、今日は真っ直ぐにリティを見つめ返す。
( あっ、リティってこの格好のときでもチョーカーだけは外さないんだ…… )
以前は余裕がなくて気が付けなかったが、首に赤色のチョーカーが巻かれていることに気が付いた。
その赤いチョーカーには、6方向に葉が伸びたような形をした飾りが付いている。
もしかするとこれは、ただのチョーカーではなく付加魔法品なのかもしれない。
そんなことを思い浮かべられるほどの余裕があった。
「む、アルが驚いてない」
「……うん、さすがに馴れてきたからね」
「むう、もっと慌てて欲しい」
「……確信犯だったんだ……」
「ん、それなら――」
無表情なのに不満そう、そんな器用な顔をしてリティが部屋に入って来ようとした。
馴れてきたとはいえ、さすがに部屋に入られるのはマズい。
リティと部屋で二人っきりはさすがに緊張するし、他にも色々とヤクイ。
しかし僕は、予感めいたものがあって余裕を持てた。
そしてその予感は正しかった。
「おらっ、リティ、とっとと帰んぞ」
「おじさん、邪魔をしないで」
「だからオレはオマエの――」
いつもの流れでリティは回収されていった。
簀巻きにされながらも手を振っているリティ。
できることなら、ここへ来る前に回収して欲しいところ。
しかしもしかすると……
「……僕の様子を見ているのかもな」
何となくそんな気がした。
ガレオスさんは、Yシャツ姿でやって来るリティを利用して、僕のことを観察しているのではないかと、そんな気がしたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日、僕はモブオさんが所属しているアライアンスに呼ばれていた。
魔石魔物狩りをするから、ゲストとして参加しないかと声を掛けられていた。
当然、参加する。
昨日はシーとの一件で少々落ち込んでしまったが、アライアンスでも魔石魔物狩りに心を躍らせる。
それにシーには嫌われているのだ、町に居るより数段良い。
彼女たちは領地取り合戦用に仲間を探すと言っていた。ならば町で参加できる者を探しているはずだ。
下手に出会わないように、僕は地下迷宮に潜るべきだ。
そう思っていたのに……
「はっ、何よアンタ。冒険者になるとか言って、使えるWSがヘリオンだけなの? しかも片手剣だけ? アンタ、冒険者舐めてんじゃない?」
何故かグレランの隣に、シーたちのパーティが陣取っていた。
彼女たちは4人で魔石魔物狩りを行う様子。
そして――
「アル、がんばって」
「……リティ」
何故かリティまで居た。
彼女はどうやってこの地下迷宮に入ったのか、一人だけでグレランの魔石魔物狩りを見に来ていた。
「おい、アルド。何で閃迅とスカーレットが来てんだよ。明らかにオマエが目的だろうが、何で二人がオマエを……」
「……」
何でもないはずの魔石魔物狩りが、まるでハリゼオイが湧いたかのような騒がしさになっていたのだった。
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あと、誤字脱字なども……




