20話 あのときできなかったこと……
オレたちは宿を飛び出して駆けていた。
魔石魔物に襲われたアルドを助けるため、ダンジョンへと向かっていた。
本当はもっと速く走りたいところだが、案内の野郎がおかしかった。
この男は、アルドを助けて欲しいと飛び込んできた。
アルドが魔石魔物のイワオトコに襲われている、自分は助けようと思ったのだが、アルドが助けを呼んできてくれと言ったそうだ。助けが来るまで逃げ回るからと……
確かにその選択はありだ。
逃げ回ることができるのなら、援軍を待つのは間違っていない。
二人で戦っても勝ち目が薄いのならなおさらだ。
だから間違ってはいない。
――だが、どこか必死さが足りねえ。
急いで走ってはいるが、どうにも違う気がする。
別に全力で走ってねえって訳じゃねえが、取り敢えずナニかが足りねえ。
罠じゃねえかと訝しむ。
「こ、こっちだ」
「ん、ハズレルートの……方?」
「そうだ、こっちでアイツが――」
「――急ぐっ」
「あ、ああ……。急ごう」
リティに急かされて面白くない顔をする男。
やはり何処かおかしい。
( ……コイツ )
オレはこの男を知っている。
男の名前はウルガ、一年ぐらい前にウチに入りてえと言ってきたヤツだ。
モミジ組に入りたいってヤツは大勢いる。
単純に強さに憧れたヤツや、ウチの名声を利用しようと考えるヤツ。
中には貴族から送り込まれたヤツも居た。
そんな中でこの男は、閃迅リティアが目当てだった。
閃迅に憧れて惚れるヤツはごまんといる。特にこの男は、ハッキリ言って【直感】なんて必要ねえぐらいバレバレだった。
( そんなヤツがねぇ…… )
地下迷宮を管理している見張りに話をつけて、リティたちが中へと入っていく。
その瞬間、ウルガ《男》がリティを舐め回すような視線を見せた。
「……やっぱ良くねえなぁ」
オレは嫌な予感を感じ、ある程度の指示を出してリティたちを追った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「この先だっ」
数分走ったところで、ウルガは狭い通路を指で示しながらそう言った。
この先は一人づつしか通れない。
「こ、この先で、アルドは……」
無理矢理悲壮感を滲ませた声音。
中の惨劇をまるで知っているような、そんなわざとらしさを感じる。
「――アル」
「リティ!」
リティが中へと飛び込んでいく。
警戒なしの行動をしやがった。
普段はもうちっと冷静なのに、アイツのこととなるとネジが外れやがる。
いまは髪留め紐を付けたままで、完全に抑えられた状態だってのに……
「――ちっ」
ウルガの方も気になるが、いまはリティの方を優先する。
リティを追うように奥へと飛び込むと、そこには――
「おいおい、こりゃぁ……」
なんとも懐かしい感じがする光景が広がっていた。
遥か昔に見た気がする。
アルドとイワオトコが対峙していた。
話では魔石魔物と聞いていたが、あのサイズでは魔石魔物じゃねえ。
とは言え、駆け出しの冒険者にとってイワオトコは脅威だ。
よく見ればアルドはボロボロだ。上手いこと逃げ回れた感じじゃねえ。
そんなアルドが、ほとんど無防備にふらっと前へ出る。
それを迎え撃つイワオコトが、アルドを目がけて豪腕を振り下ろす。
ふらりと、身体を傾けるようにアルドがそれを避けた。
何故かこのとき、少しも危ないと感じなかった。
不思議と何とかなる、そう感じ――いや、直感した。
すぐそこで息を呑む声が聞こえた。
たぶんリティだ。いまのを危ないと思ったのだろう。
飛び出してアルドの所へ向かおうとしている。
「アイツは、大丈夫だ」
「――っ!?」
一瞬振り向いて確認したあと、言うことを聞かずに駆けていくリティ。
まぁそうだろうなと思う。
攻撃を避けたアルドは、振り下ろされたイワオトコの腕に倒れ込んでいた。
ぐったりと身体を腕に預けている。あのままでは持ち上げられてしまう。
しかしそれがアルドの狙いだ。アイツはそれを利用して上を取るつもりだ。
「――むっ? マズいか?」
予想と違う流れになった。
イワオトコが、腕に倒れ込んできたアルドを掴み上げた。
幼子が人形を持ち上げるような乱雑さでアルドを掴み上げ――
「――っはあ!?」
イワオトコの上半身が吹き飛んだ。
内側から爆ぜて上半身が吹き飛び、そのまま黒い霧となって霧散した。
ジジっと展開しているアレは結界だろう。英雄のダンナが使っていたものによく似ているが、あれよりも遥かにデカい。
「は、はは……マジかよ……」
そろそろ引退を考えていた。
肉体的にも精神的にも、そろそろ引退するべきだと考えていた。
もう自分は引退して、あとのことはコイツらに譲ろうと……
だが、その考えが吹き飛んだ。
もう少しだけ見てみたい。
すげえ面白そうなヤツを見つけてしまった。
こんな気持ちは英雄のダンナ以来だ……
「はっ、そこまで一緒かよ。あのときと……」
落下していくアルドを、リティが掻っさらうように空中で抱き抱えた。
ここまであのときと一緒だと笑いがこみ上げてくる。
「おいおい、アイツは助けなんて待たねえで……おい、どこに行った?」
居たはずのウルガがいなくなっていた。
さっきまで一緒に居たはずなのに、ウルガの姿は何処にもなかった。
即座に【索敵】を発動させて周囲を探る。
「…………ちっ、居ねえ。範囲外に出やがったか?」
「リーダー、あれを見てください! あそこに大きな魔石が転がっています。いま倒したヤツとは別の魔物が居た可能性が……」
ニュイに言われて見てみると、本当にデカい魔石が転がっていた。
あのサイズの魔石を落とすのは魔石魔物だけ。普通の魔物ではあり得ない。
「おい、まさか、本当に居たのか?」
イワオトコの魔石魔物が……
――――――――――――――――――――――――
上手くいった。
狙い通り上手くいった。
魔石魔物のイワオトコと戦って気がついたことが一つあった。
イワオトコは、自身を傷つけるような行動をしない。
例えば無理に動いて転倒したりや、自身の身体を顧みないようなことはしない。
だからイワオトコの腕に乗っかれば、その腕を叩くような振り下ろし攻撃はしてこないと踏んだ。先ほどのように掴みにくるだろうと予測した。
そして僕はその賭けに勝利した。
掴まれた僕は、その握力に耐えながら陣剣を突き立てた。
SPはもう完全に空だったが、結界を発動させることができる気がした。
きっと発動させることができると……
( ああ、地面に落ちたらすぐに立ち上がらないと…… )
湧いたイワオトコを倒したが、また魔物が湧く危険性がある。
すぐに備えなくてはならない。
生きると決めたのだ。生きて帰ると誓ったのだ。だから――
( ……あれ? )
いつまで経っても落下の衝撃が来ない。
もうとっくに落ちてもおかしくないのに、何故か落下時の痛みがやって来ない。
「――ル、――ァ――っ」
ポタポタと温かいモノが頬に落ちてくる。
同時に、誰かが僕の名前を必死に叫んでいる。
僕はゆっくりと目を開いた。
「アルっ、アル、あるぅっ」
「――え? ………………リティ?」
一瞬、あのときの小さな女の子かと思った。
髪の色と雰囲気が月と太陽のように違うのに、何故か僕は、いまのリティのことをあのときの女の子と勘違いした。
泣き顔がとても似ている。
あの女の子と泣き顔だけはとてもよく似ていた。
だからだろうか、あのとき出来なかったこと、言えなかったことをしたいと思っていた。
「……だ、いじょうぶだよ……」
「アル……」
かすれながらだが、僕はリティに『大丈夫だよ』と言ってあげることができた。
そして安心させるように髪を優しく撫でる。
密かに触れてみたいと思っていた彼女の獣耳をかすめるように撫で、僕はそこで意識を手放したのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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あと、誤字脱字も何卒……




