表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/280

15話 謎の少年

投稿っ

 次の日、僕は逃げた。

 日が昇る前に宿を出て、僕は町の外へと向かった。

 

 いつもみたいにリティが迎えにくるかもしれない、だから逃げてしまった。

 

 どんな顔をして会ったら良いのか分からない。

 本当なら、庇ってくれた礼を言わないといけないのに……




「はぁ……」


 静謐でひんやりとする空気の中、僕はずっと同じことを繰り返していた。

 どんな顔でリティに会いに行けば良いのか、それだけをずっと考え、やはり無理だと思い、でも行かねばと繰り返す。


「……前はどうしたんだっけ」


 リティに押し倒された次の日、どうやって彼女と顔を合わせたのか思い出す。


――あのときは……

 あっ、あのときはリティの方からやって来たんだ、

 それで僕は彼女に会うこと、が……



 思い起こしてみれば、自分から動いていなかった。

 リティの方から会いに来てくれていたのだ。あのときも彼女に……


「つくづく僕ってヤツは……」


 情けなくなってきた。

 僕は戦闘以外でも彼女に支えられていた。

 そして超近接戦を仕掛けるようになったときも、きっと彼女にフォローしてもらっていたのだろう。

 

 そしてあの有様だ。あまりにも情けなさすぎる……

 

「くそう……」


 ゴロンと横になる。一人で横になるなど危険な行為。 

 視界は上を向いてしまうし、襲われたとき咄嗟に動けなくなる。

 でも、どうでも良かった。


 近いうちに死ななくてはならない身だ。

 気にするだけ馬鹿らしい。

 

 僕はぼんやりと、空に空いている黒い穴を眺める。


「――やっと見つけたのう」

「え?」


 突然声を掛けられた。

 この場には自分しかいなかったはず。ならば見つけたとは僕のことだろう。

 身体を起こして声がした方を見ると、そこには十歳ぐらいの少年が立っていた。


「あの、僕に何か御用でしょうか?」

「にしし、そうや、オマエさんに用があって探していたんよ」


 妙な口調で話す謎の少年。

 整った相貌でとても良い笑顔だが、どこか仄暗さを感じさせる笑み。

 この少年は見た目通りではないと、積み上げてきた経験が警鐘を鳴らす。


 ( ……エルフ族? )


 よく観察してみれば、謎の少年は人よりも耳が長かった。 

 もしエルフ族なら長寿だ。中には千年以上生きているエルフもいると聞く。

 そうなると見た目通りの年齢ではないのかもしれない。


 探るように謎の少年を見る。

 彼は僕に用があって探していたと言っていた。

 しかし心当たりが無い。もしあるとすれば、それは――


「実はのう、ちょいとりてぃちゃんに頼まれてきたんよ」

「……リティに?」


 予想通りの人物だった。

 だが分からない。もし彼女だったら自分で探しに来そうなものだ。

 そして、この少年がリティのことを『リティ』と呼んだことが気になった。


「アルの力になって欲しいって言われてのう。そんで丁度いい物を持っておったから、それをオマエさんに届けに来たんや」

「え、リティが僕に?」


「そうや。りてぃちゃんが――」


 この謎の少年は、リティの知り合いだった。 

 昔からの知り合いで普段は南に居るそうだが、たまたま用事があって中央に来ていて、それを追う形でリティたちがルリガミンの町に来たのだとか。


 なんでもリティがこの少年に用事があったらしい。


 もしこの話が本当だとすると、モミジ組は、この少年に会うためにルリガミンの町に来たということになる。

 この少年がそれほどの人物だということだ。

 

 そしてリティと会ったこの少年は、彼女からあるお願いをされたらしい。

 それは――


「これを……リティから?」

「そそ、たまたま作っておった試作品や。話を聞くと丁度いいと思っての」


 少年から手渡されたのは一本の片手剣。

 それはシンプルな鞘に収められていた。

 火力不足の僕のために、リティがこの人に頼んだ物らしい。


「あの、抜いてみても?」

「ええよ、確かめるのは大事やの」


 確認を取ってから剣を抜く。


「――っ!? これは……?」


 くんっと鞘から抜いた剣は、とても珍しい刀身をした剣だった。

 刀身を切り分けるように一度分解してから、それを再び繋ぎ合わせたような形の剣。

 継ぎ目からはキラキラと赤い光が漏れており、何かしら付加が施されていることが分かる。


「にしし、これはのう【陣剣スプレンダー】や。まあ、試作品やけどな」

「陣剣スプレンダー……」


 剣を掲げて刀身をまじまじと見る。

 陣剣スプレンダーは両刃の直剣で、斬るよりも突くことに適した刀身。

 

 ( これが本当に……僕の力に? )


「オマエさんはWSで悩んでいるんやろ?」

「はい。……WSのこと、リティに聞いたのですか?」


「そうや、火力不足で大変や~的なことを言ってての。それでその剣よ」

「もしかしてこの剣には、WSの威力を高める付加が掛かっているのですか? そういった剣があることは知っています。付加魔法品アクセサリー化した剣を……」


 WSの効果が上がる武器は存在する。

 何倍も威力が増す訳ではないが、通常よりも威力が増すといった武器がある。

 代表的な例は、ガレオスさんが所持している大剣、【紅葉剣モミジ】がそうだ。


「ちっちっち、ちょっと違うかの。それはWS用やないで」

「え? それなら、これは?」


「その剣を地面に突き立ててから、『ファランクス』って叫んでみてくれんかのう」

「――っ!? ……それってまさか」


「にしし、やってみてのお楽しみや」


 エルフの少年は、ニヤリと笑みを深めながらそう言ってきた。





       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

  



 

「す、凄い……」

「うんむ、まあまあやの」


 地面に爆ぜたような大穴が空いていた。

 いや、実際に爆ぜさせた。陣剣スプレンダーの結界によって内から爆ぜさせ、約1メートルほどの穴ができていた。


「やっぱりこれって……」

「にしし、結構有名やからのう、結界の小手を使った攻撃方法は」


 エルフの少年が持ってきた剣は、結界を展開させる付加魔法品アクセサリー剣だった。


 同じ効果を持つ装備品で、【結界の小手】という物がある。

 結界の小手とは、手の甲の部分から楔のような物を出し、それを差し込んだ所に結界を張れるという装備品だ。


 それがあれば、盾を持っていなくても、一時的に防御壁を張ることができるのだ。

 

 しかしこの小手を攻撃に転用する者がいた。

 それは勇者ジンナイ。彼はその結界の小手を使って魔物を倒していたと言われてる。


 僕が観たある演劇では、楔を相手に差し込み、相手の内側に防御壁《結界》を出現させて倒すという演出をしていた。


 よく分からないのだが、とてもロマンを感じさせる攻撃方法だとか。


 そしてそのロマンを求めてか、多くの冒険者たちがそれを真似したそうだ。

 一時、結界の小手が高騰したらしい。


 しかし、この攻撃方法には大きな欠点があった。

 結界を発動させるには、小手の楔を差し込む必要があり、それは相手にこぶしを押し付けるということだ。


 雑魚の魔物ならともかく、ある程度の魔物にそれを行うのは危険。

 そんな危険なことをしなくても、普通にWSを放った方が良いと誰もが気がつき、いまでは真似をする者は誰もいなくなったと聞いている。


「――これはのう、【結界の小手】の剣版よ」

「なるほど、確かにこれなら小手よりも使い易いですね」


「そうなのよ。……でものう、一個だけ欠点があるんよ」

「欠点?」


「実はの、結界を発動させるためのSP消費量がちっと多いんや」

「えっ?」


 僕は急いで自分のステータスプレートを開く。



 ステータス


 名前 アルド

【職業】冒険者 

【レベル】19

【SP】156/211 

【MP】165/167

【STR】43 

【DEX】40 

【VIT】71 

【AGI】35

【INT】39 

【MND】50

【   】

【固有能力】【蛮勇】【駆技】【耐強】【耐心】【僥倖】【不幸】【死心】

【魔法】雷系 風系 火系 水系

【EX】毒感知(大)耐毒(絶)

【パーティ】

 

 ――――――――――――――――――――――――



「えっ……こんなに?」


 SPがゴッソリ持って行かれていた。

 ヘリオン十発分ぐらいのSPが、たった一回の発動で消費されていた。

 いまの僕では4回発動させたらSPがほぼ空になる計算だ。


「ち~~っと、SP消費量が多いのよね。でものう、SPがある限りは連打できるんやで? その辺は本家の小手よりも優れているんよ。じんないさんのつこうてた小手は連続で使えんかったからのう」

「あれ?」


 ふと、何とも言えない違和感を覚えた。

 このエルフの少年は、勇者ジンナイを良く知っているような口調だった。

 それに、彼の名前を言うときに親しみのようなものを感じた。


 僕のように演劇で知っているのではなくて、本人に会ったことがあるかのような、そんな雰囲気を醸し出している。モミジ組の人たちと同じ感覚だ。


「あ、あの、貴方は」

「ありゃ、そういやまだ名前を言ってなかったのう」


 僕が名前を尋ねようとしたとき、それを察したのか、エルフの少年は僕の顔を見ながら言った。


「オレはららんや。彫金師をやってる、ららんよ」


 そう言って仄暗い笑みを見せるエルフの少年。

 僕はその嗤い(笑み)を見て確信する。


――間違いないっ

 この人は勇者様に数々の装備品を提供したあの人だっ

 確か二つ名は……



「【悪戯(グレムリン)】の、ららんさん?」

「そそ、そのららんや。他には【嗤う彫金師】なんても呼ばれておるのう」


 僕の目の前に居るのは、イセカイ一の付加魔法品アクセサリー職人、ららんさんだった。

読んでいただきありがとうございます。

よろしければ感想などいただけましたら超嬉しいです。


誤字脱字報告、いつもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 僕はぼんやりと、空に空いている黒い穴を眺める。 【空に空いている黒い穴】って、何でしたっけ? 聖杯? -------  陣剣スプレンダーは両刃の直【剣】で、斬るよりも突くことに適…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ