15話 謎の少年
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次の日、僕は逃げた。
日が昇る前に宿を出て、僕は町の外へと向かった。
いつもみたいにリティが迎えにくるかもしれない、だから逃げてしまった。
どんな顔をして会ったら良いのか分からない。
本当なら、庇ってくれた礼を言わないといけないのに……
「はぁ……」
静謐でひんやりとする空気の中、僕はずっと同じことを繰り返していた。
どんな顔でリティに会いに行けば良いのか、それだけをずっと考え、やはり無理だと思い、でも行かねばと繰り返す。
「……前はどうしたんだっけ」
リティに押し倒された次の日、どうやって彼女と顔を合わせたのか思い出す。
――あのときは……
あっ、あのときはリティの方からやって来たんだ、
それで僕は彼女に会うこと、が……
思い起こしてみれば、自分から動いていなかった。
リティの方から会いに来てくれていたのだ。あのときも彼女に……
「つくづく僕ってヤツは……」
情けなくなってきた。
僕は戦闘以外でも彼女に支えられていた。
そして超近接戦を仕掛けるようになったときも、きっと彼女にフォローしてもらっていたのだろう。
そしてあの有様だ。あまりにも情けなさすぎる……
「くそう……」
ゴロンと横になる。一人で横になるなど危険な行為。
視界は上を向いてしまうし、襲われたとき咄嗟に動けなくなる。
でも、どうでも良かった。
近いうちに死ななくてはならない身だ。
気にするだけ馬鹿らしい。
僕はぼんやりと、空に空いている黒い穴を眺める。
「――やっと見つけたのう」
「え?」
突然声を掛けられた。
この場には自分しかいなかったはず。ならば見つけたとは僕のことだろう。
身体を起こして声がした方を見ると、そこには十歳ぐらいの少年が立っていた。
「あの、僕に何か御用でしょうか?」
「にしし、そうや、オマエさんに用があって探していたんよ」
妙な口調で話す謎の少年。
整った相貌でとても良い笑顔だが、どこか仄暗さを感じさせる笑み。
この少年は見た目通りではないと、積み上げてきた経験が警鐘を鳴らす。
( ……エルフ族? )
よく観察してみれば、謎の少年は人よりも耳が長かった。
もしエルフ族なら長寿だ。中には千年以上生きているエルフもいると聞く。
そうなると見た目通りの年齢ではないのかもしれない。
探るように謎の少年を見る。
彼は僕に用があって探していたと言っていた。
しかし心当たりが無い。もしあるとすれば、それは――
「実はのう、ちょいとりてぃちゃんに頼まれてきたんよ」
「……リティに?」
予想通りの人物だった。
だが分からない。もし彼女だったら自分で探しに来そうなものだ。
そして、この少年がリティのことを『リティ』と呼んだことが気になった。
「アルの力になって欲しいって言われてのう。そんで丁度いい物を持っておったから、それをオマエさんに届けに来たんや」
「え、リティが僕に?」
「そうや。りてぃちゃんが――」
この謎の少年は、リティの知り合いだった。
昔からの知り合いで普段は南に居るそうだが、たまたま用事があって中央に来ていて、それを追う形でリティたちがルリガミンの町に来たのだとか。
なんでもリティがこの少年に用事があったらしい。
もしこの話が本当だとすると、モミジ組は、この少年に会うためにルリガミンの町に来たということになる。
この少年がそれほどの人物だということだ。
そしてリティと会ったこの少年は、彼女からあるお願いをされたらしい。
それは――
「これを……リティから?」
「そそ、たまたま作っておった試作品や。話を聞くと丁度いいと思っての」
少年から手渡されたのは一本の片手剣。
それはシンプルな鞘に収められていた。
火力不足の僕のために、リティがこの人に頼んだ物らしい。
「あの、抜いてみても?」
「ええよ、確かめるのは大事やの」
確認を取ってから剣を抜く。
「――っ!? これは……?」
くんっと鞘から抜いた剣は、とても珍しい刀身をした剣だった。
刀身を切り分けるように一度分解してから、それを再び繋ぎ合わせたような形の剣。
継ぎ目からはキラキラと赤い光が漏れており、何かしら付加が施されていることが分かる。
「にしし、これはのう【陣剣スプレンダー】や。まあ、試作品やけどな」
「陣剣スプレンダー……」
剣を掲げて刀身をまじまじと見る。
陣剣スプレンダーは両刃の直剣で、斬るよりも突くことに適した刀身。
( これが本当に……僕の力に? )
「オマエさんはWSで悩んでいるんやろ?」
「はい。……WSのこと、リティに聞いたのですか?」
「そうや、火力不足で大変や~的なことを言ってての。それでその剣よ」
「もしかしてこの剣には、WSの威力を高める付加が掛かっているのですか? そういった剣があることは知っています。付加魔法品化した剣を……」
WSの効果が上がる武器は存在する。
何倍も威力が増す訳ではないが、通常よりも威力が増すといった武器がある。
代表的な例は、ガレオスさんが所持している大剣、【紅葉剣モミジ】がそうだ。
「ちっちっち、ちょっと違うかの。それはWS用やないで」
「え? それなら、これは?」
「その剣を地面に突き立ててから、『ファランクス』って叫んでみてくれんかのう」
「――っ!? ……それってまさか」
「にしし、やってみてのお楽しみや」
エルフの少年は、ニヤリと笑みを深めながらそう言ってきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「す、凄い……」
「うんむ、まあまあやの」
地面に爆ぜたような大穴が空いていた。
いや、実際に爆ぜさせた。陣剣スプレンダーの結界によって内から爆ぜさせ、約1メートルほどの穴ができていた。
「やっぱりこれって……」
「にしし、結構有名やからのう、結界の小手を使った攻撃方法は」
エルフの少年が持ってきた剣は、結界を展開させる付加魔法品剣だった。
同じ効果を持つ装備品で、【結界の小手】という物がある。
結界の小手とは、手の甲の部分から楔のような物を出し、それを差し込んだ所に結界を張れるという装備品だ。
それがあれば、盾を持っていなくても、一時的に防御壁を張ることができるのだ。
しかしこの小手を攻撃に転用する者がいた。
それは勇者ジンナイ。彼はその結界の小手を使って魔物を倒していたと言われてる。
僕が観たある演劇では、楔を相手に差し込み、相手の内側に防御壁《結界》を出現させて倒すという演出をしていた。
よく分からないのだが、とてもロマンを感じさせる攻撃方法だとか。
そしてそのロマンを求めてか、多くの冒険者たちがそれを真似したそうだ。
一時、結界の小手が高騰したらしい。
しかし、この攻撃方法には大きな欠点があった。
結界を発動させるには、小手の楔を差し込む必要があり、それは相手にこぶしを押し付けるということだ。
雑魚の魔物ならともかく、ある程度の魔物にそれを行うのは危険。
そんな危険なことをしなくても、普通にWSを放った方が良いと誰もが気がつき、いまでは真似をする者は誰もいなくなったと聞いている。
「――これはのう、【結界の小手】の剣版よ」
「なるほど、確かにこれなら小手よりも使い易いですね」
「そうなのよ。……でものう、一個だけ欠点があるんよ」
「欠点?」
「実はの、結界を発動させるためのSP消費量がちっと多いんや」
「えっ?」
僕は急いで自分のステータスプレートを開く。
ステータス
名前 アルド
【職業】冒険者
【レベル】19
【SP】156/211
【MP】165/167
【STR】43
【DEX】40
【VIT】71
【AGI】35
【INT】39
【MND】50
【 】
【固有能力】【蛮勇】【駆技】【耐強】【耐心】【僥倖】【不幸】【死心】
【魔法】雷系 風系 火系 水系
【EX】毒感知(大)耐毒(絶)
【パーティ】
――――――――――――――――――――――――
「えっ……こんなに?」
SPがゴッソリ持って行かれていた。
ヘリオン十発分ぐらいのSPが、たった一回の発動で消費されていた。
いまの僕では4回発動させたらSPがほぼ空になる計算だ。
「ち~~っと、SP消費量が多いのよね。でものう、SPがある限りは連打できるんやで? その辺は本家の小手よりも優れているんよ。じんないさんのつこうてた小手は連続で使えんかったからのう」
「あれ?」
ふと、何とも言えない違和感を覚えた。
このエルフの少年は、勇者ジンナイを良く知っているような口調だった。
それに、彼の名前を言うときに親しみのようなものを感じた。
僕のように演劇で知っているのではなくて、本人に会ったことがあるかのような、そんな雰囲気を醸し出している。モミジ組の人たちと同じ感覚だ。
「あ、あの、貴方は」
「ありゃ、そういやまだ名前を言ってなかったのう」
僕が名前を尋ねようとしたとき、それを察したのか、エルフの少年は僕の顔を見ながら言った。
「オレはららんや。彫金師をやってる、ららんよ」
そう言って仄暗い笑みを見せるエルフの少年。
僕はその嗤いを見て確信する。
――間違いないっ
この人は勇者様に数々の装備品を提供したあの人だっ
確か二つ名は……
「【悪戯】の、ららんさん?」
「そそ、そのららんや。他には【嗤う彫金師】なんても呼ばれておるのう」
僕の目の前に居るのは、イセカイ一の付加魔法品職人、ららんさんだった。
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