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9話 マフラー

投稿~

誤字脱字報告、本当にありがとうございます。

「へえ、アルド君って結構沢山の劇を観てるんだね」

「はい、演劇は大好きなので」


「そっか~、じゃあさ、アレは観たぁ?」




 僕たちは現在休憩中。岩場に腰を下ろして談笑していた。

 昨日と同じようにリティが迎えに来て、昨日と同じように確保された僕。

 昨夜の心配は杞憂だったようで、ガレオスさんからの説教はそこまで長くはなかった様子。


 一方僕の方は、正直眠たかった。

 ドローヘンが帰った後、僕はずっと考え事をしていた。

 グルグルと様々なことを考えては落ち込み、他のことを考えることにしても、結局元に戻って落ち込む。そんなことを繰り返していた。


 結局眠りにつけたのは明け方。

 だからとても眠たいのだが、こうやって確保されたことには感謝していた。

 もしそうでなかったら、僕は朝からずっと塞ぎ込んでいただろう。だから本当に感謝していた。


 僕は眠いことがバレないように気を張る。

 それと落ち込んでいることを悟られないように……


 魔石集めメンバーは、僕とリティ、それとニュイさんの三人だ。

 今日はウーフは来ていなかった。


 因みに、昨日の配分の銀貨9枚は先ほど手渡された。


 最初は配分を断ったのだが、そういうのは良くないと半ば強引に渡される。

 そもそも誘ってきたのはこちらの方だ、受け取って貰えないと面子が立たないとニュイさんに言われた。

 そうまで言われたら受け取るしかなかった。

 

 そして魔石集めを開始したのだが、今日は最初から索敵役がいないため、魔物を3体狩った時点で休憩に入った。リティの消耗を避けるためだ。

 

 僕たちは見通しの良い場所に腰を下ろし、最初は静かに休憩を取っていた。

 しかししばらくするとニュイさんが僕に話し掛けてきた。


 最初は今日の天気の話だった気がする。

 次は夜に何を食べたなどといった、そんな取り留めのない話を振ってきた。


 すぐにその目的に気が付いた。

 ニュイさんは聡い人だ。僕が落ち込んでいることを見抜いたのだろう。

 昨夜ドローヘンに忠告されて、落ち込んでいた僕に気を遣ってくれたのだ。


 そのことに気が付いた僕は、彼女に話題を振り返した。

 気を遣ってくれたのだ、それに応じなくては失礼として。


 僕は丁度良いと思い、少し気になっていたことを訊ねることにした。

 それは、リティが『了解してラジャ』と口にしたこと。


 『了解してラジャ』とは、【暁の神子】と呼ばれているハーフエルフの口癖。

 実際にお会いしたことはないが、彼女の功績は凄まじく、数々の演劇に登場して演じられており、とても個性的な口癖が印象的だった。

 そしてその中の一つに、『了解してラジャ』という口癖(モノ)があった。


 そのセリフが劇中で出ると、観客から笑いを誘うこともあった。


 もしかするとリティも演劇好きなのかもしれない、僕が観たことがある劇を観たのかもしれない、そう思って訊ねた。『あの劇を観たのですか?』と。


 そしてその結果――


「――ほら、あれ、えっと~あっ、『殺劇、ヘキサスラスト物語』! あれって観たことある?」

「わたしはある。5回観た」 

「僕はないです。観てみたいのですが、中央では公演されていないので」


 リティとニュイさんが凄い食いついてきた。

 次々と演劇の作品名(タイトル)を言い、それを観た観てないと答えている。


「そっかぁ、残念。あれって西側限定だっけ?」

「はい、西のゼピュロス領地なら公演されているみたいですけど、他の領地では公演が禁止されているみたいで……。評判がとても良いらしいので、是非一度観てみたいのですが……」


 『殺劇、ヘキサスラスト物語』。

 謎の脚本家シマキーリが書き上げた怪作で、いまも絶大な人気を誇る作品。

 この演劇には複数の結末(ラスト)があり、どの結末になるのかは観るまで判らないそうだ。


 聞いた話によると、”巌エンド”なるものがあるらしく、それはとても素晴らしい結末らしい。

 一度観たら絶対に忘れることのできない、そんな結末(ラスト)なのだとか。


 他には”六刺しエンド”というモノもあり、それも普通では考えられないようなラストだと聞いている。 

 だから一度は観てみたいのだが……


「そっか~、西じゃないとやっていないモンね」

「はい、他の有名な劇はほとんど観たことがあるのですが」


「へえ、じゃあ、アレは――」


 休憩時間を延長した。劇の話がとても盛り上がってしまった。

 どうやらリティの親の知人に、とても演劇好きの人が居るらしく、彼女はその人によく芝居小屋へと連れて行ってもらったそうだ。


 だから彼女は、僕と同じぐらいの数の演劇を観ている様子。

 なので話がとても盛り上がった。

 僕としても、沈んでいた気持ちがぐっと楽になっていった。


「――『希望を背負いし者』の、あのシーンが、凄く好き」

「ああ~、あれだよね? みんなから魔法をもらって勇者シモモト様が単騎駆けする所だよね? ワタシも大好き」

「アレって本当にあったそうですね。父に訊いて――じゃなかった。ああ言うことが本当にあったと人から聞きました」


「ん、凄く凄い」

「凄いですよね~、ババーンって感じで盛り上げて、それでそれで――」


 話は、演劇の名場面の話へと移っていった。

 僕は誰かと語り合えるのが嬉しくてドンドン話していく。



 演劇は庶民にとって一番の娯楽だ。

 料金もそこまで高いものではなく、数多くの劇団が存在する。

 次々と新しい演目が公開され、人気がない演目は早々に消えていく世界。


 そんな世界で根強い人気を誇っているのが、勇者様を題材にした物語だ。

 特に、偉大なる脚本家と称されるシェイク氏の作品はどれも素晴らしく、いまでも繰り返し公演されている。


 僕たちがいま話しているのもシェイク氏()の作品だ。

 勇者シモモトが、北の領地で発生した魔物大移動のときに活躍した物語。

 これは実際にあった出来事で、北のボレアス領では絶大な人気を誇る作品だ。


 しかし正直なところ、自分の父の話なので少々面映ゆい。


「勇者シモモト様か~、一度お会いしてみたい勇者様ですよね~。でも、いまは王様だし、簡単に会うことはできないかぁ」

「うん、会えない」

「……」


 本当に居たたまれない。

 別に自分のことではないのだが、それでも居心地が悪いので、僕は話を逸らすことにする。


「僕は孤高の独り最前線(ボッチ・ライン)に会ってみたいです。一番憧れている冒険者ですね。いまじゃ姿を隠して何処にいるか分からないみたいだけど……あれ?」


 二人の反応が微妙だった。

 何と言えば良いのか、先ほどの自分を見ているような既視感を覚える。

 何故だろうか?


「……あの、何か変なことを言いましたか?」

「ん、別に」

「あは、あはは……」


 ふいっと顔を横に逸らすリティ。

 しかしその様子は、とても言葉通りとは思えない。

 何か引っ掛かる。

 

「何となく意外だな~。アルド君って勇者ジンナイに会ってみたいんだ」

「え? そうですか? 黒の英雄ジンナイには誰でも憧れると思うのですが……。劇も沢山あるし、何と言っても魔王を消滅させた勇者の一人ですよ?」


 彼を題材にした演劇の数は非常に多い。

 特にシェイク氏などは、黒の英雄ジンナイの物語を数多く書いている。

 だから芝居を観て彼に憧れる人は多いはずだし、僕が彼に憧れてもなんら不思議ではないはず。むしろ男なら誰もが憧れる存在だ。

  

 実際に僕は憧れているし、勇者ジンナイには強い影響を受けた。

 そもそも僕が冒険者に憧れた理由はジンナイ()だ。

 

「ふ~ん、アルド君っていつもマフラーしているから、最近有名な、あの冒険者に憧れているのかと思ってた。ほら、験担ぎとかそういう感じで真似する人って多いでしょ?」

「最近? 誰だろう?」


「知らないかな? パーティ名は『三匹が刺す』って言うんだけど。そのパーティって全員マフラーをしているの。何でもマフラーは正義の証とか言って」

「あ、聞いたことがあります。仮面を被った三人組で、凄く強いんですよね?」


「そそ、その三人組。南のノトスの方だと特に有名なの。だからそれの真似なのか~って思って……」

「ああ、このマフラーは…………これを隠すためです」


 僕はそう言ってマフラーを少しだけ下げた。

 少しだけ露わになる首元。


「……そう、それでマフラーをしていたんだ……」

「はい、目立つ傷なのでお目汚しになるかと思って――リティ?」


 首の傷跡は酷いもの。見て気持ちの良いものではないだろう。

 だが彼女たちは冒険者だ。一般人ではないのだからこの程度の傷跡なら見慣れているだろうと思っていた。だから僕は傷跡を見せた。


 実際にニュイさんは予想通りの反応。だがリティの方は――


「り、リティ?」

「――っ」


 リティの反応は予想を遥かに超えていた。

 目を見開いて首の傷跡を凝視して固まってしまっている。

 よく見れば僅かだが震えている。


「どうしたのリティア? 確かに凄い傷跡かもだけど……ねえ、どうしたの?」


 ニュイさんも予想外だったのか、心配そうにリティへと声を掛けた。  

 しかしそれには反応を示さず、眉をひそめて口を開いた。


「……アル、その怪我は……」

「昔ね、ちょっと事故にあってね。でも、もう何ともないよ」


 もう見せない方が良いと思い、僕はマフラーで傷跡を覆う。


「アル、もう一度……見せて」


 懇願するように言ってきたリティ。

 だけど僕は――


「ごめんね。ほら、見てもあまり気持ちの良いものじゃないから……ごめんね」


 リティの願いを断った。


「……そう」

「ごめんね、変なモノを見せちゃって」


「ん、そんなことない」

「あ~~、じゃあ休憩はここまでにしよっか? 狩りを再開しようそうしよう」


 ニュイさんの提案により、この話はここまでとなった。

 正直有り難い。ニュイさんは本当に気を遣える人だ。


 ( ありがとうございます )


 僕はこっそりとマフラーを引き上げる。

 リティはまだ傷跡を見たいような視線を向けているが、いま(・・)の傷跡を見せる訳にはいかない。傷跡はいま、きっと赤くなっているだろう。


 この傷跡にはある秘密があった。

 それは、驚きや怒りといった感情の揺れが大きくなると色が変わるのだ

 普段はうっすらと白いのに、感情の大きな揺れで傷跡が赤く染まるのだ。


 これは王族にとって大きな欠点だった。

 この傷跡も、僕が王族に相応しくない理由となった。

 どんなに表面を取り繕ったとしても、首の傷跡が心の内を曝け出してしまう。


 そしてその赤くなった傷跡は、より痛々しく映る。

 そんな傷跡をリティに見せる訳にはいかない。


 白い状態でもあれだけ動揺していたのだから……

 


 少々気まずい空気の中、僕たちは魔石集めを再開した。

 ただ、休憩時間を多く取ったことから、狩りを終える時間が昨日よりも遅くなっていた。


 地上へと戻ったのは日が落ちる寸前、そんな時間帯での帰還だった。


「お? お前たちもいま戻ったところか?」

「あ、ガレオスさん」


 地上へと戻った僕の前に、僕が二番目に憧れている冒険者、百戦のガレオスさんが立っていた。

  

読んでいただきありがとうございます。

よろしければ感想などいただけましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字の方も……

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