はだかの女王さま
はだかの女王さま
むか~し、昔、或る国の或る城にとても美しい女王さまが住んでいました。女王さまは贅沢と着飾ることが大好きで服装にも大変お金をかけていました。
何せ、女王さまはとても見栄っ張りで自分が一番美しい女性でなければならないというモットーがありますから、いつもいつも自分の美しさを褒めたたえてもらいたくて服装に対する凝りようはエスカレートするばかりでした。
このように自分を着飾ることばかりに熱中していますから国民の貧困を訴える声を聞こうとしない代わりに自分の贅沢への批判の声を嫌でも聞くことになってしまいます。
批判の声が広がる城下町は大きな町で色んな人が住んでいましたが、或る日の町内会で機織り業者のスッケベエという男が皆の前で言いました。
「皆さん!皆さんにお願いがあるのですが、私が世界一の布を作れる男を雇ったと噂して欲しいのです。その布は頭のいい人にしか見えなくて馬鹿には見えない不思議な布で、この世のものとは思われない美しい模様と色彩が施されているとね。そうすれば、噂を耳にした女王は、いい服には目がないだけに絶対、その布で服を作らせ着たがるに違いないです。実は有りもしない布で出来た服をね。だから今度のパレードで女王を裸にして笑い者にすることが出来るんです。どうです、皆さん協力してくれませんか!」
町の人たちは皆、贅沢三昧をする女王の所為で自分たちが貧しい生活を強いられていると思っていますから協力しない筈がありませんでした。
で、嘘の噂は忽ち広まり、城内へも広まってゆき、女王さまの耳にも立ちどころに届きました。
「そんな珍しい布があるなんて!直ぐにもその布で服を作らせましょう!でも、その前に大臣が有能か無能かを判断する絶好の機会だから大臣たちにそれぞれ報告させましょう。」
そう思った女王さまは、まず正直者で通っている大臣をスッケベエ機織り店へ見に行かせました。
「スッケベエはお前か。」
「へえ、私が名代のスケベ!スッケベエでございます!」
「そんなことを自慢するな。自慢するなら、お前の横にいる者を自慢しろ。こ奴が世にも珍しい布を織るという者であろうが!」
「へえ、左様でございます。」
「じゃあ、今から織らせてみよ。」
「いや、あの、大臣さま、今、材料を切らしていまして・・・」
「じゃあ、今直ぐ仕入れて来い。」
「それがですねえ、材料の絹と糸というのが非常に高価でして買えないのでございます。」
「そんなに高いのか。」
「はい・・・」
「幾らする?」
「5百万エンでございます。」
「ご、5百万!それは高い!」
「でございましょ・・・」
「まあ、女王さまにとってははした金だからわしが訳を言えば、今度来る大臣に訳なく持たすだろうから、その時はこ奴に織らせるのじゃぞ。」
「はい、承知しました。」
「で、商品の織った布はあるか。」
「はい、ございますとも。」
「じゃあ、見せてみよ。」
「はい、これにてございます。」
スッケベエの差し出した両掌には何もありません。しかし、見えなければ馬鹿ということになりますから大臣は見えるふりをして、「ほう、確かにこれは素晴らしい色と模様であるな。」
「左様でございます。流石、大臣さま、見る目がたこうございます。」
「うむ、うむ。」
大臣は上機嫌で城へ帰って行き、女王さまに兎に角、素晴らしい物でしたと報告するのでした。
正直者がこれですから他の大臣も嘘ばかりつきまして5百万エンで仕入れたという材料も見えないのに絹も糸も金のように輝いてましたと報告し、機織り機で織るふりをするスッケベエの雇われ人についても兎に角、素晴らしい機織り職人でしたと報告する上に矢張り有りもしない出来上がった布をべた褒めして報告するのでした。
それを真に受けた女王さまは、大いに喜んで早速、使いの者に一千万エンを渡してスッケベエに与えて飛び切り上等な服を作らせるように命じました。
お陰で濡れ手で粟という奴でスッケベエは猫糞同然で500万儲けた上に一千万で頼まれた用事もほとんど自分のものにする積もりで引き受け、大臣が様子を見に来た時には雇い人に機織り機で布を織るふりをさせ、服を作るふりをさせました。
そうして引き受けてから5日後に来た大臣に服が完成したと伝えますと、スッケベエは有りもしない服を携え、大臣に連れられて入城し、謁見所で待機する女王さまの前に跪きました。
「そちがスッケベエですか。」
「はい、わたくしが言わずと知れたスケベで名高いスッケベエでございます!」
「態々自分のやらしい欠点を誇張して暴露するでなく早く出来上がった服を見せなさい!」
「はい、これにてございます。」
勿論、スッケベエの差し出した両掌には何もありません。
女王さまは大臣たちが見守る中、内心、大いにうろたえました。自分は馬鹿なのか?・・・その疑いで心の中が満タンになって情けなくなり、その心情を隠すのが精一杯で何と言って良いか分からなくなりました。
「どうなさいました、女王さま、お褒めくださらないのでございますか?」
「あっ、そうでした。すっかり魅了されてしまって言葉が出なかったんです。」と女王様は何とかごまかしました。「まあ、なんて素晴らしいんでしょう。金の糸を使ったのね、とても輝いてるわ。目も綾な美しさとはこういうドレスのことを言うのね。ねえ、大臣!」
問われた大臣は、あっ、ドレスだったのかと思いまして、「左様でございます、いやはや、全く煌びやかな美しい金ぴかなドレスでございますなあ!女王さまにぴったりです!」と同調して答えました。
問われなかった他の大臣たちも口々に綺麗だの麗しいだのと褒めたり女王さまにきっと似合うだの相応しいだのと賺したりしますので女王さまはすっかりその気になり、早速、着たくなって女王付き着付け係を呼んでスッケベエからドレスをもらい受けるように命じました。
「これは特別価値のある材料で出来ていますから、とても軽いですよ。」
そうスッケベエに言われ手渡すふりをされた着付け係は、見えないのは素より何も手に感じませんから自分はつくづく馬鹿なんだなあと悲しくなりながら受け取るふりをして女王さまに随って着替え室へ向かいました。
暫くしてから恥ずかしそうについて来る着付け係を従えて得意げに女王さまが謁見所に現れましたが、女王さまの身に着けている物と言えば、王冠や首飾りや指輪などの装飾品と白い手袋に靴、それ以外にはスケスケのシュミーズだけでほんとんど裸でした。
これを見て何しろ女王さまは美人ですから秘かに自分が馬鹿で幸いだったと
思いつつ大臣たちは喜びましたが、誰よりも喜んだのは言うまでもなくスッケベエでした。彼は正にこうなることを期待していたのであって企て通り、とんとん拍子にことが運んで大金は手に入るわ女王さまの裸は見れるわでウハウハ
もので言いました。
「いやあ、なんとお美しいんでございましょう!キンキンキラキラキンキラキンとは正にこの事を言うのでございましょう、余りの美しさの輝きにわたくしは目が眩みそうでございます!」
「そんなに輝いてますか?」
「はい、勿論でございますとも、ねえ、お大臣さま方!」
いや、全くその通り、如何にもという言葉が大臣たちの口からも次々に出ましたが、「これはもう絶対、今度のパレードにはこのお衣装でお出になるべきでございましょう!」というスッケベエに対しては大臣たちは戸惑いの顔を見せ、一人の大臣が言いました。
「しかし、民衆は我々と違って頭のいいのが少ないから・・・」
「いや、恐れながらそんなことはございません。確かに中には馬鹿もいますが、女王さまの美しさには只々平伏してしまいますからご安心ください!」
「まあ、そうだなあ・・・」
結局、この後も口の達者なスッケベエに大臣たちは言いくるめられてしまい女王さまも有りもしないドレスでパレードに出ることに決めてしまいました。
当日、天蓋を支える4人の家来に囲まれているとは言え、衆人環視の中でほとんど裸の状態で歩くことになった女王さまは、物笑いの種になっているとも知らず、得々として自慢げに歩くのでした。但、親に目隠しされた子供たちを気にしてはいましたが・・・
女王さまはパレード中は自惚れ心も手伝ってすっかり浮かれていましたので疑問にまでは感じなかったのですが、パレード後、何故、子供が全員目隠ししていたのかという疑問が生じて時間を経るにしたがって、その疑問が募って来ますと、ひょっとすると私が裸だったんで親に目隠しされたのではないかという疑いが生まれました。
そこで例の正直者で通っている側近中の側近の大臣を謁見所に呼んで確かめることにしました。
「〇〇大臣、今度のパレードでは子供たちが全員目隠ししていましたが、あれは私が裸だったから親が目隠しさせたのではないですか?」
「恐れながら申し上げます。子供たちは大人の馬鹿より知能が劣っておりますから一般庶民どもは女王様の御召しになった素晴らしい服が子供たちには見えないと判断して目隠しさせたのでございましょう。」
「そうではなくて親たちも見えなかったから子供たちに目隠しさせたのでしょう!」
「いや、親たちは大人ですから」と大臣が言い掛けたところで女王様はきつく言いました。
「大人だって馬鹿はいるでしょう!」
「いや、ですから大人の馬鹿は子供より」と大臣が言い掛けたところで女王様は更にきつく言いました。
「もうよい!言い訳が見え見えで耳障りなだけです!そう言えば、お前、恐れながらも少し顔がにやついてるではないですか!さてはパレードの時の私の裸を思い返しているのでしょう!」
「い、いえ、滅相もございません!あの、あの、わたくしは・・・」
「何、もじもじしてるの!お前も私の裸を見たのでしょう!」
「い、いえ、私は馬鹿ではありませんから女王さまの素晴らしい服を着たお姿を拝見させていただいておりました。」
「嘘をつけ!もう、よい、下がれ!」
「は、ははあ・・・」
女王さまは怒りの余り、既にスッケベエを処刑する腹でしたが、一応他の大臣にも確かめてみたところ、果たして同じことでした。それで、どいつもこいつも嘘つきだと分かりますと、子供以外誰も信用できなくなり、疑心暗鬼になり、人間不信に陥り、出来る事なら子供以外を皆殺しにしたくなりましたが、流石にそうする事は出来ず、乱心をある程度は抑えたものの、この上ない恥辱感も相俟ってスッケベエとその雇われ人は言うに及ばずパレードに参加した王族や子供以外の全ての人々を処刑し、大臣も全員処刑してしまいました。
その後、国は王族独裁の下、多くの孤児を抱える代わりに多くの軍人を失い、軍事費を養護費に当てるなどして国力の落ち込みを招き、それに乗じた隣の国が赤子の手をひねるように女王さまの国を攻め滅ぼしてしまいました。
生きたまま捕らえられた女王さまは、見せしめのため大広場に引き立てられ、民衆の野次、罵声が飛び交う中、マリーアントワネットのように断頭台の露と消えました。