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ロアイスタークの自警団

自警団に入団したい女の子のお話

おっさん主人公視点です

大都会ロアイスターク。世界中のグルメや娯楽が集まるエンターテイメントに富んだ町。世界中から人が集まり、夜も眠れないほどの賑やかさをで訪れる人々をもてなす。

 

 観光地としても人気なこの町は大陸の中で最もお金持ちの町だと言っても過言ではないだろう。

 

 しかし、光があるところに影があるように、人が集まるところに罪は集まる。三十年前、ロアイスタークが栄え始めた時には窃盗、恐喝、通り魔など様々な事件が起こった。

 

 だが、それも今は昔の話。今のロアイスタークは大都会なのにも関わらず、治安のいい町に変わり安心して娯楽に興じることができる。

 

 それはひとえに彼らのおかげである。

 

 自警団デリブレイト。ロアイスタークの秩序と平和を守るため立ち上がった有志による団体だ。彼らは犯罪が蔓延るこの町を自分達の手で救おうとした。警察と連携を組み、捕らえた犯罪者の数は数多。さらに犯罪抑制のためにパトロールも常に行っている。

 

 その活動が功を奏し、犯罪が激減しこの地に安寧をもたらしたのだ。そんなデリブレイトはロアイスタークに住まう人の憧れだ。

 

 「だから、だからあたしはデリブレイトに入団したいんです!」

 

 「その熱意はすごいが、そんな理由でお前みたいなガキの入団を認められるか!」

 

 「ガキではありません!サルゥス・テラ・アニマートです!もう十五になりました」

 

 「やっぱりガキだろうが!」

 

 事務室にて熱弁を奮うサルゥスもデリブレイトに憧れた一人だ。気だるそうに椅子に座り頬杖をかいているデリブレイトの団長プロドゥブ・メル・ドーマに向かい約一時間の間、入団志望の動機を話しているがまったく相手にされていない。

 

 「まぁ、突然ここに乗り込んできてそこまで語る意気はいいが、さっきから言ってる通り成人するまでは入団させられねぇんだよ」

 「そんなこと言わないで、どうかお願いします。絶対迷惑にはなりませんから!」

 「はぁ…」

 

 すでに何回も繰り返したやり取りにプロドゥブはため息をついた。デリブレイトに入団したいと志す少年少女は数多い。

 

 しかし、デリブレイトの入団条件は十八歳になり成人した者だ。この少女は明らかにそれを満たしていないため渋っているのだが、全く聞く耳を持たない。

 

 「だいたい入団試験なら年に何回もやってるだろ。成人したら受けにこい。いっとくけど年齢を誤魔化して応募するなよ?顔覚えたからな」

 「えー!」

 

 サルゥスの瞳が見開かれる。どうやら断られたらその手段を使う心づもりだったようだ。小柄でまだまだ子供という顔つきなのでたとえ俺が忘れたとしても受付で止められるだろうな。

 

 入団試験は年に数回行い、武道や情報収集など、何かしらの特技を持つものを採用している。自警団というのは危険と隣り合わせだ。中途半端な実力の者を選び、取り返しのつかないことになると大変だ。

 

 毎回、多くの人間が応募してくるが合格者はほんの一握りの狭き門である。それでもこの少女のようにやる気のあるものならあるいは合格は夢でもないかもしれない。

 

 プロドゥブはそういった思いからサルゥスに言ったが、

 

 「じゃあ、いいって言うまで帰りません」

 

 その思いは全く届いてはいなかった。

 

 「団長。よいのではないですか?見回りにでも連れていったら」

 「シェリー、でもな…」

 

 膠着した両者の間に口を挟んだのは、シェリー・ヒカ・バレンティアだ。さっきから事務室の片隅で警察への報告書を作成していたので、話しは全て聞いていた。

 

 シェリーは七年前に入団した二十五歳だ。見た目はおっとりとしてそうな女性だが性格は合理的だ。その事務能力を惜しみ無く生かし、若くして五人の幹部のうちの一人にまで上り詰めた傑物なのだ。

 

 「社会見学として付き合ってあげればいかがです?実力で判断すれば彼女も納得するでしょう。今や自警団も仕事のひとつです。若者の将来の参考にもなるでしょう」

 「ああ、なるほどな」

 

 あくまでクールな彼女にプロドゥブは納得しパンッと手を打つ。

 

 「よし、そこまで言うなら仕方がない。これから一日だけ見学ってことで面倒みてやる。将来の参考にしろよな」

 「やっっったぁ!!ありがとうございます!」

 

 事務室内に轟かんばかりの声をあげサルゥスが飛び上がる。シェリーが顔をしかめた。プロドゥブは慌てて付け加える。

 

 「いいか!一日だけ見学だぞ?入団を認めたわけではないからな」

 「わかってますよ!それでもあたしは嬉しいんです」

 

 瞳をキラキラと輝かせた彼女にプロドゥブはめんどくさそうにため息を吐いた。

 

 「とりあえず外に出るぞ。シェリー、ついでに新人も連れて見回りに出てくる。中は任せた。」

 「分かりました。お気をつけください。」

 

 先程は煩わしそうにしかめっ面をしていたシェリーだがプロドゥブがサルゥスを連れて出ていくと知ったからかいつもの無表情に戻っていた。

 

 「おぉーー!ついにデリブレイトでの活動ですね!腕がなります!」

 「待て!先に行くな。お前に勝手されるとこっちが困んだよ!」

 「おぉ、それはまずいです。団長殿に迷惑がかかってしまいますね!」

 「分かってんなら大人しくしてろ」

 「これは先が思いやられそうですね」

 

 外に出た瞬間、チョロチョロしそうになるサルゥスの頭を片手でがっしり掴むプロドゥブ。少しばかり大人しくしたサルゥスだが、手を離したらどこかへ飛んでいきそうなくらい瞳は爛々と輝いている。そんなサルゥスの様子を見てプロドゥブはため息を吐いた。

 

 そんな二人を見て困ったように苦笑いを浮かべたのは、十八歳になり入団したばかりのリット・ルンツ・ヒンメルだ。

 

 まだ若いが穏やかで物腰が柔らかく大人びている。そんな彼は穏便に事を納めることに長けていた。その力でこのじゃじゃ馬を止められるのではとプロドゥブは画策したのだが、無理な話だった。

 

 「はぁぁ…。世話かけるな。リット」

 「いえ、団長と一緒に見回りが出来るなら僕も嬉しいですよ」

 「助かるな。出来ればこのガキから目を離さないでくれればもっと助かる」

 「ええ、分かりました」

 

 三十も中盤に差し掛かろうとしたプロドゥブ一人ではやる気が空回りしているこの少女を抑え込むのは大変だ。力ではなく気持ち的な方で。

 

 「夜の町とはこんなにもきれいなものなんですね!」

 「そうかい?僕なんかは見慣れてしまったけど、確かに賑やかだよね」

 

 キョロキョロと動き回るサルゥスにはリットが対応している。やはり彼を連れてきたのは正解だった。前を行く二人を見ながらプロドゥブはそう思った。

 

 ロアイスタークは日中よりも夜の方が通りを歩く人手が増える。夜に開く店が多々ある娯楽の町という特色のせいだろう。電飾がビカビカと自己主張する町をサルゥスはきれいだと言ったが、プロドゥブには幼い頃から煩いように見えた。それでも嫌いではない。自分達が守っている町だからだろう。

 

 (親父からデリブレイトを任されて五年か。そりゃあ町に愛着も出てくるわな)

 

 プロドゥブの父。ナンツィー・デラタ・ドーラはデリブレイトの前団長だ。五年前に町で起こったある事件の立役者にして最後の被害者だ。その事件で彼は命を失うことになった。死の間際、プロドゥブに団長の座を託し、プロドゥブは今も団長としてデリブレイトを導いている。

 

 「あっ、待って!」

 

 ふいにリットが大きな声をあげた。プロドゥブはそれで我に返る。見えたのはあのじゃじゃ馬娘が走り出した姿だった。その後ろをリットが追う。

 

 「チッ。油断した。」

 

 入団してから日が経っていないとはいえリットならば大丈夫だと思っていたが、あのじゃじゃ馬娘の破天荒ぶりはその上を行っていた。

 

 もしかして何か気になるものでも見つけたのだろうか?それならば、リットや俺に言えと言い聞かせたはずだ。…どちらにせよ取っ捕まえて説教コースだな。プロドゥブは走るスピードをあげる。あのじゃじゃ馬娘は走るのが早かった。加えて小柄な体は人の間をすり抜けるのに向いていた。そのためリットもまだ追い付けてはいない。見失いはしないし距離は詰めている。しかし、追い付くにはややかかりそうだ。

 

 「なっ!?おい、どうした!」

 

 サルゥスを追いかけて行き着いたのは大通りを外れ、細い通りを抜けた先の開けた空間だった。ここまで来ると町の電飾の光も建物の影になり、ほの暗く感じる。こういう場所は一目につきにくく見回りの時も気を付けている場所だ。そこでリットが倒れている。傍らにはあのじゃじゃ馬娘。情況を察し眼光が険しくなる。

 

 「やっと来たですか?追い付かれると思ったのに!案外遅かったですね。」

 「…リットをやったのはお前か?」

 「大丈夫ですよ。このお兄さんは眠ってるだけです」

 「リットから離れろ!」

 

 サルゥスに向かって一歩近づくと彼女は倒れているリットの側で膝をついた。

 

 「このお兄さん、妹がいるんですね。あたしより小さい妹のためにデリブレイトを頑張るって言いました。…お兄さんが大事なら動かないでください」

 「チッ。いっちょまえに脅迫か?目的はなんだ?」

 

 こんな小柄なガキ一人に遅れをとることはないと思う。リットに手を出す前に彼を助ける自信もある。しかしリットが倒されたすべが分からない今は時間を稼ぎ情報を得たかった。

 

 「デリブレイトを解散してください!」

 「なんだと?どういうことだ?」

 「デリブレイトを解散するって約束してくれればお兄さんを返します!」

 「…なんでデリブレイトを解散させたい?」

 

 さっきまでデリブレイトに入りたいと熱弁を奮っていたのはこいつだ。あれはこの交渉のための演技なのか?キッと睨み付けているサルゥスからは先程までの無邪気さは感じられない。

 

 「民間人を守るのに民間人を傷つけるのは間違ってるからです」

 

 頭が足りないガキだと思っていたが、そうでもなかったようだ。言ってることは間違ってはいない。

 

 「なるほどな。お前の言うことも分かる。だが、デリブレイトがいたからこそ町は安全を取り戻したんだぞ?それに俺らは有志の団体だ。皆自分から志願しデリブレイトに入る。俺達は町を守ることを強制していない。自分の意思で町を守ってるんだ。そこんとこお前も分かってるよな?」

 

 分かってるんだろうな。歯噛みしているサルゥスからは何やら葛藤している様子が見てとれる。

 

 「じゃあ、兄ちゃんが死んだのも仕方ないことだと思えってことですか!?」

 「兄ちゃん?」

 「フォンダ・テラ・レクエルド。この名を知らないとは言わせないです!」

 「そうか…。五年前の事件の…。お前はあいつの妹か」

 「そうです。兄ちゃんはあの事件で死んだんです」

 

 五年前、この町では大規模な犯罪グループが動いていた。かなりの過激派グループで彼らは人の命を奪うことにも抵抗がなかった。

 

 彼らを捕まえやっと町に平和が戻ると思った時、グループの一人が身に付けていた爆弾が爆発したのだ。その爆発事態はごく小規模なものだったが、その場にいた人間を傷つけるには十分な威力だったのだ。このサルゥスの兄もその場に居合わせた一人だったのだ。

 

 「兄ちゃんはとっても優しくて、デリブレイトに入った時も母さんを楽にしてあげられるって笑ってたのに…。なんで、なんで!死んじゃったんですか!」

 「俺もあの事件で親父を亡くしたよ。」

 「えっ?」

 

 サルゥスは伏せていた顔をガバッとあげる。

 

 「同じ五年前の事件でな。あの場に居合わせたんだ。あの事件で親父を亡くし、俺がデリブレイトの団長になった。」

 「あたしと一緒じゃないですか!団長殿はどうして平気でいられるんですか!家族がいなくなったのはデリブレイトに入ったせいじゃないですか!」

 

 サルゥスの目の色が変わった。プロドゥブが自分と同じ立場なのに今もなおデリブレイトにいることを糾弾している。

 

 「サルゥス。俺達が家族を亡くしたのはデリブレイトのせいじゃない。犯人のせいだ。間違えるな」

 「そんなのは…分かってますよ」

 

 初めてサルゥスと名前で呼び、冷静に語りかけると彼女の声は尻すぼみになっていった。

 

 「俺だって、親父を殺した犯人を許すつもりはねーよ。だがな親父はこの俺を団長に任命しデリブレイトを続けてほしいと願ったんだ。親父の最後の願いを叶えるのは俺の役目だ。」

 「そんなの…きれいごとです」

 

 振り絞るように出された声は力なかった。

 

 「きれいごと上等じゃねぇか。人を守るなんてきれいごと以外に何がある?それにな、デリブレイトが解散したところで犯罪はなくならないぞ?」

 

 はっと顔をあげたサルゥスとプロドゥブは視線を合わせた。

 

 「お前が生まれる前の話になるから知らねーかもしれねーが、デリブレイトが出来る前にはもっと治安が悪かったんだよ。」

 「…兄ちゃんが言ってたことがあります」

 「そうか。」

 「デリブレイトがなくなればもっと大変なことになるかもしれない。そんなの分かってます。ごめんなさい。八つ当たりでした。」

 「気持ちは分からんでもないがな。まぁ、リットを気絶させるくらいの腕っぷしがあんだ。もうちっとでっかくなったらデリブレイトの試験を受けに来てくれっといいな」

 「えっ?」

 

 座り込んだというよりもへたりこんだサルゥスにプロドゥブは近づく。彼女はもう抵抗しようとはしなかった。彼女を立たせてリットを担ぎ上げる。ばつの悪そうな顔をした少女が意外そうに瞳を瞬く。

 

 「お前の兄ちゃんと俺の親父が守った町を、今度は俺とお前で守ろうってこった。今回はガキのいたずらだってことにしとくから早く帰るぞ」

 「はい!」

 

 最初の頃と同じように元気に挨拶をするサルゥス。その頭をポンッと一回叩く。

 

 何年か後に本当にサルゥスがデリブレイトを受けに来るかは分からない。だが、団員になろうともならない市民だろうと俺はただ、こいつを含めた皆を守るだけだ。

 

 プロドゥブは決意を新たに夜のロアイスタークに足を踏み出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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