チュリーシカが可愛すぎるのが悪い
魔法学園もの。高校生の男の子が主人公です
人口のほとんどが魔法を使える王国セッツァミース。少年少女が魔法の使い方を学ぶための学園が数多く存在している。その中でも国の一、二を争うトップクラスの魔法使いが集まる学校。それが魔法学校ゲウェルティグ。
俺、リヒト=ノーラーは自慢じゃないがそこに通っている十五才だ。身長は170ちょいの中肉中背。黒髪黒目と特徴もないごく平凡の男子高校生だ。
俺は大して魔法を使うことができない。魔法には属性があり、その属性に適していないと使うことができない。
属性は、火、水、風、土、植物を始め自然界にあるもの。光や闇や精神に作用する魔法とかのちょっと珍しいもの、使役魔法や鋼鉄魔法、音魔法とかの劇レア魔法。見たことも聞いたこともない固有魔法など様々だ。
俺が使えるのは火と風の属性だ。後は適正がないし、この二つもはっきり言って並の力しかない。魔法学園ゲウェルティグには、さっきの五属性すべてを使えるもの、超レアな属性を持つものがざらにいる。その中で俺はかなり浮いているはずだ。
ゲウェルティグは小中高大が一緒になったバカでかい学校だ。だけど年齢が上になっていくほど生徒数は減る。
学年末の試験に合格できないと進級が出来ず、留年するか転校するかの選択になるのだ。
この試験ってのがすごくハードルが高い。無理ゲーじゃね?ってレベルで。だから留年する奴よりも転校する奴が多い。中には辞める奴もいる。学年が上がるにつれ試験の難易度もあがるので自然とそうなってるんだ。そうやって生徒が選別され精鋭を作り出すのがゲウェルティグのやり方だ。
さて、そんな学校の中で、平々凡々の俺がなぜ高校生になれたかというと…
「キャーーー!チュリーシカ様!!」
「ああ、そのようにしたらこぼれてしまいますわよ。でも、そのような姿もお可愛らしい。」
俺の膝の上に座りプリンを食べているこいつのせいだ。
チュリーシカ=ブルーベル。九才。女。俺はこいつがもっと子供だった頃から知っている。こいつの世話をするためだけに俺はこの学校で生かされている。
世話なんて誰でもいいだろと思うのだが、俺でないとダメな重大な理由がそこにはあった。
チュリーシカ=ブルーベルは可愛すぎたのだ。
チュリーシカはかなり小柄だ。入学くしたばかりの七歳の子といい勝負の背丈。そのかわりにくりっくりの目にちょんとのった鼻。桜色の頬に赤く色づた唇。九歳にして整った顔立ちを持つ。髪の色は白に近い金で顔の横で二つに結んでいる。性格は天真爛漫で甘えん坊だ。
幼い頃からかわいい、かわいいと周囲に言われ育ったチュリーシカ。それが常軌を逸していたと知ったのはチュリーシカが起こした入学式の事件だ。
チュリーシカは初等部の入学式で学校を壊滅させたのである。具体的には登校時に出会った学生の心を奪い大名行列のように登校し、入学式前の教室では担任と同級生を骨抜きにしお姫様扱いだったらしい。
そして迎えた入学式。入場行進で鼻血を吹き出す在校生。点呼で返事をすれば父兄の中からも倒れる者が現れた。極めつけは入学式の歌。
すでにチュリーシカに骨抜きにされた他の新入生には歌う気配すらなかった。結果、歌ったのはチュリーシカ一人だ。
これが何を意味するか。お分かりいただけるであろうか?あの恐ろしい光景は思い出したくもない。チュリーシカが歌い終わる頃には、鼻血を出すもの、倒れるもの多数。後にはケロッとしたチュリーシカだけが残ったという。歌の後に控えた理事長の挨拶は理事長が倒れたため中止となり締まらない結果となった。
そんなことがあったもんだから、のちにその入学式は花血の入学式 と語り継がれ今でもゲウエルティグの伝説となっている。
そんなチュリーシカであるが、何が怖いかって、こいつはそれを素でやったのだ。計算や打算など一切ない純粋な気持ちで学校中を魅了した。入学して二年。九才となった今では初等部だけではなく、中等部、高等部、大学部。全ての生徒を虜にした。
その中で唯一、チュリーシカのかわいさに当てられなかったのが俺である。確かに可愛いとは思うが、それだけだ。周りが鼻血を出したり倒れたりする意味が分からない。
と当時中等部だった俺は思っていた。そうしたら入学式から数日後。鼻にティッシュを詰めた理事長に呼び出された。成績が良くなかった俺はいよいよ退学を覚悟した。だから理事長から言われた言葉は予想外過ぎた。
「チュリーシカさんの教育係となってくれ」
言われた時は意味が分からなかったが理事長は真剣だった。それだけ被害は深刻だったようだ。無意識に悪意なく皆を魅了するチュリーシカ。入学して数日だが奴のクラスは授業になっていないそうだ。そのクラスだけでなく近隣クラスからもチュリーシカの見学者が現れ、教室に殺到し大騒ぎになっていた。
そんな事態に危機感を覚えた理事長がチュリーシカに魅力を制御することを教える教育係として俺を指名した。唯一フェリチタに魅了されなかったかららしい。なんだよ魅力を制御するって。そんな方法は俺も分かんないけど理事長命令だからしょうがない。それは二年たった今も続いていて皮肉にもそのお陰で退学を免れている。
「リヒト、チュリーシカ様がプリンを食べていらっしゃるのに何を不機嫌な顔をしている」
「そうですわ。チュリーシカ様のそばにいられる栄誉をありがたく思いなさい」
どうしてこうなったのか考えていると、二人の女子からずいと詰め寄られた。二人とも同級生だ。先に話したのが腰まである茶髪をポニーテールにした凛凛しい顔立ちのエーレン=スチューワ。後に話したお嬢様っぽいのが、キルツェ=クロイツだ。こっちはふわふわとした金髪が特徴だ。
「ああ、ごめんごめん」
「なんだ、その態度は!」
適当に返事をしたらエーレンから怒られた。
「エーレンさんやめて?」
すると大人しくプリンを食べていたチュリーシカが声を発する。
「はっ!?チュリーシカ様、申し訳ありません。リヒト、チュリーシカ様に免じて許してやる」
「ありがとよ」
ここは高等部生徒会室。なんの冗談か俺はここに所属している。エーレンやキルツェもメンバーだ。他にもメンバーはいるが今日集まったのは、この三人+チュリーシカだ。
チュリーシカは放課後になると生徒会室に遊びに来る。理由は二つ。一つは教育係の俺がいるから。もう一つは…
「A区域1ー4エリア、魔物発生。ただちに迎撃せよ。繰り返すA区域1ー4エリア、魔物発生。」
やかましいサイレンが鳴り、放送が入る。
「また来ましたわね。行きますわよ」
キルツェが呆れたように口にする。エーレンは脱いでいた上着を素早く着た。チュリーシカは残りのプリンを素早く口にいれ立上がった。俺も立ち上がる。膝が痺れた。
チュリーシカが高等部に来ている、もうひとつの理由。それが魔物の迎撃班に所属したためだ。
魔物とは人ならざる異形のもののことを指す。奴らは豊富な強い魔力を求めてさ迷い、魔力を奪うため人を襲う。
この学校なんかは強力な魔法が使える魔法使いがざらにいるため、奴らの格好の的だ。逆に学園はそれを利用し一般市民に魔物が近づく前に学生達に討伐させて実践経験を積ませている。
通常、中等部の優秀な生徒から迎撃班の所属が始まるんだが、チュリーシカはここでも特別だ。
「なっ!?ドラゴンだと!?」
先頭を行くエーレンが驚く。それは俺も同じだ。ここ数年姿を現さなかったドラゴンが目の前にいる。すでに交戦している生徒達がいるが歩が悪そうだ。
「これは本気を出さなければなりませんわ。チュリーシカ様、よろしくお願いいたしますわ」
キルツェの声に合わせチュリーシカが一歩前に出る。先に交戦している生徒がそれに気づいた。
「チュリーシカ様だ!」
「チュリーシカ様が来てくれたぞ!」
それだけで士気が上がったらしく動きの切れが良くなる生徒達。現金なやつらだ。士気を上げるのもチュリーシカの役目だが本筋はそこじゃない。
「根源の主よ。祝福を彼らに。闇に捕らわれぬ疾風の如き速さを、魔なるものを寄せ付けぬ鉄壁の守りを、邪悪なる者を沈める圧倒的な力を。チュリーシカ=ブルーベルの名において魔力を行使する」
小鳥が囀ずるような可愛らしい声で仰々しい言葉を発したチュリーシカ。奴から白い光が飛びあがり、戦っている生徒達の頭上で弾けた。
チュリーシカの魔法は無属性の補助魔法だ。対象の攻撃力、防御力、素早さ、回復力を上げる魔法や、魔力の回復をする魔法が使える。チュリーシカ自身に攻撃のすべはないけど、複数の補助魔法が使える魔法使いは激レア中の激レアだ。そのためチュリーシカは中等部をまたず九歳にして迎撃隊に加わった。
「チュリーシカ様の魔法だぞ!」
「か・な・ら・ず勝ーーつ!」
「皆、死ぬなよ。チュリーシカ様の笑顔を守れー」
「「「全てはチュリーシカ様の笑顔のために!!!」」」
……生徒の士気も上がるしね。
「では、私達もいこう」
「ええ、そうですわね。チュリーシカ様。ありがとうございます。後は私達にお任せください」
エーレンとキルツェがそれぞれ魔力で出来た武器を手に戦場をかける。二人の動きは他の生徒と比べても抜群に早い。
エーレンは赤色の魔力のオーラを放つ大剣を振り抜き、キルツェは黄色の魔力のオーラを放つ弓矢を構え、矢を放つ。その全てはドラゴンに当たり、ダメージをおったらしいドラゴンが悲痛な叫びをあげる。隙を逃さないように他の生徒達が攻撃を浴びせる。
一撃離脱を繰り返す他の生徒に対し、エーレンとキルツェは休む暇なく行動している。二人は学年でもトップの魔法使いだ。魔力も多いし動きがいいわけである。俺の後方、少し離れた位置でチュリーシカは祈るように補助魔法を皆にかけ続けていた。チュリーシカの魔力も多い。将来有望な魔法使いになるだろう。あっ、目があった。その目が大きく見開かれる。
「リヒト!!危ない!!」
「……えっ?……うわっ!?」
チュリーシカの声に反応し振り替えると攻撃から逃げてきたドラゴンの尾が俺に向けて鞭のように飛んでくるのが見えた。あー、これは避けられんわ。打ち所悪かったらこれは死ぬな。こういう時はスローモーションになるってほんとなのな。意外にも冷静に思っていた俺。
だが、体に来るであろう衝撃はいつまでたっても身に浴びることはなかった。
「何をぼさっとしているんだ。お前が傷ついたらチュリーシカ様がお泣きになるだろう!」
一喝を入れられてぼんやりとしていた意識が覚醒する。俺の前にはエーレンが立っていた。ドサッという重い音と共に地面に何か落下する。…ドラゴンの尻尾だった。
「そうですわよ!チュリーシカ様のためにも、あなたの安全は最重要事項ですわ」
俺に近寄ろうと手を伸ばしたチュリーシカを後ろから抱き締めるように止め、なおかつドラゴンに大量の矢を浴びせかけたのはキルツェだ。
「全くだ。チュリーシカ様の加速魔法が間に合ったから良かったものの。お前の魔力は弱い。大人しく校内に戻っていろ」
エーレンが厳しい目付きで俺を見る。後ろでは他の生徒がドラゴンを相手どっていた。確かに俺にあんなのと戦う力はない。だけどここを離れるわけにもいかないんだ。
「それは出来ない。俺はチュリーシカの教育係だ。こいつを置いて逃げるなんて出来ねぇよ」
精一杯かっこつけて言う。迎撃班に所属していないどころか落ちこぼれの俺がここにいる理由はそれだけなんだ。説得力もなにもないけどエーレンとキルツェは目を丸くしそれから笑った。
「ふっ、ならば仕方ない。さっさととかげを退治してくるか」
「チュリーシカ様がお慕いになるだけはありますわね。自衛はしてくださいよ」
「気を付けるよ」
俺が返事したと同時にエーレンとキルツェは駆け出した。他の生徒は巻き込まれないように退散する。俺の側によって来たチュリーシカがドラゴンに足止め魔法を使う。ドラゴンの側までたどり着いたエーレンとキルツェ。
二人は最大限の魔力を練りそれぞれの武器にまとわせドラゴンにぶつけた。赤と黄色の光がねじれるようにしドラゴンを包む。断末魔の悲鳴が轟いて俺は耳を塞ぐ。隣まで来ていたチュリーシカが俺にしがみついてくる。
まばゆい光が消えた時、尻尾が落ちた時とは比べ物にならない衝撃が地面を揺らす。これには立っていられない生徒も何人かいた。チュリーシカがよろめいたのでその体を抱き上げて衝撃に耐える。平然としているのはエーレンとキルツェくらいだ。
そして揺れが収まる。皆が元凶のドラゴンを見る。ドラゴンは黒こげになって地面に倒れていた。エーレンが何やら確認をし声を張り上げた。
「迎撃完了だ!!」
「「「わーーーー!!」」」
歓声をあげる生徒達。幸い大きな怪我をしたものはいなかった。抱き上げたチュリーシカが俺の腕をペシペシと叩くので地面に下ろした。
「皆、お疲れ様。すごかったね」
花のが咲くようなふんわりした笑顔をもって皆を労うチュリーシカ。誰かのハートが撃ち抜かれた音が聞こえた…気がした。
「こ、こ、こ、こ光栄です。」
「よし、さらに強力な敵が来てもいいように訓練だ!!」
「それはいいな。俺達はもっと強くならねばならぬ。全ては…」
「「「全てはチュリーシカ様の笑顔のために!!!」」」
そうして走り去っていく彼らをチュリーシカは笑顔で手を振り見送った。なんというか恐ろしい光景だった。
「エーレン、キルツェ。お疲れ様。かっこ良かった」
「はうっ!?もったいなきお言葉です!」
「チュリーシカ様がご無事で何よりでしたわ」
二人にも目立った傷もなくさほど息も上がっていない。チュリーシカが回復魔法をかけ、小さくあくびをする。すごく眠たそうだ。
「魔力を使いすぎたみたいだな。後は任せて戻ろう」
「うんー」
チュリーシカが目を擦りながら俺のもとにやってくる。その右手を握り校内に戻ることにした。
「待て!リヒト!チュリーシカ様を独り占めする気か」
エーレンから批難の声があがる。二人はこれからあのドラゴンの片付けをしなければならない。
「そんなつもりはないけど、このままほっとくわけにはいかないだろ」
「リヒトさんの方が正しいですわね。早く片付けて私達も戻りましょう」
立ったまま寝そうになっているチュリーシカを見て、キルツェがエーレンをなだめた。
「くっ、とっとと終わらせるぞ!」
「では、お二人ともまた後で」
ドラゴンの死骸に駆けていく二人に背を向ける。
「じゃあ、行くか」
「…んー」
ぶっ倒れられても困るのでチュリーシカを抱き上げて移動した。生徒からの注目を一身に浴びるはめになる。
「はぁ、まったく…」
この学校では俺は落ちこぼれだ。こいつがいるから退学も転校も出来ない。それが疎ましく思うこともあれば、ムカつくときもある。だけど、まぁ、チュリーシカが俺を頼りにしてくれているのが分かるから、悪くないなと思うんだ。
腕の中ですやすやと眠るチュリーシカを見て俺は密かに微笑んだ。