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Life or dead

獣と呼ばれる化物を退治する青年と少女のお話です

この町は掃き溜めだ。遠くに見えるのは高い高い壁。それがぐるりと町全体を囲っている。壁の向こうには、ご立派な城があり、その麓には小綺麗な町があるらしい。そこで暮らせるのはごく一部の富裕層だ。あいつらが搾取しまくるせいでこっちは今日を生きる金を作るのも大変だってのに。

 

 そもそもここを掃き溜めにしたのはあの町に住むやつらだ。やつらが不要なものを捨て、ペットとして飼ったはずの動物を捨て、人を捨てた。そのなれの果てがこの掃き溜めだ。すべての元凶のあいつらは俺らを見やしない。視界にいれるのも嫌だと言うようにあの高い壁を作った。

 

 捨てられたものが溜まりに溜まり今ではゴミの山となり、生ゴミの臭いが辺りに広がっている。そんなゴミ山で痩せ細った目付きの怪しい野良犬と何人かの男女がしきりにゴミを漁っていた。男女は若いのも老いたのもいる。皆、血眼になり少しでも金目のものがないか目を皿にしている。

 

 少し遠くの方で怒声が聞こえる。誰かが喧嘩したか、盗みでもしたのだろう。こんなことは日常茶飯事だ。いちいち気にしていられない。

 

 「コロ、なに黄昏てるんですか?」

 

 俺は自分の名を呼ぶ少女に目を向ける。名前はアメだ。雨の日に拾ったからそう呼んでいる。アメは十才前後に見えるガキだ。こいつぐらいのガキは基本群れて行動している。徒党を組んで互いを守ってるのだ。そんな中こいつは捨てられたばかりだったのか、他のガキ共みたいに群れることもせず、一人ポツンと掃き溜めにいた。雨の中で震えていたのを気まぐれで拾ったんだ。

 

 話していると、どうもこの辺の奴ではないらしい。所々言葉に突っかかりがあるし、育ちがいいような話し方をする。極めつけはその瞳だ。

 

 暗く黒い目をした人間が多いここで、ライムグリーンのきれいな瞳を持っている。髪は他と同じく黒いが、その目が目立つのでフードを被せて誤魔化している。

 

 稀に壁の向こうの連中が遠方から人を連れて来て不要になったら捨てているので、こいつもその一人なのだろうと思う。

 

 「何でもねぇよ、そろそろ行くか」

 

 俺は腰かけてた木箱から立ちあがりパンパンっと汚れを払った。そうすることにあまり意味がないような汚れた服だが気分だ。気分。そばに置いた獲物を拾い腰の辺りに装着する。

 

 アメが俺を真似して木箱から立ちあがり服の埃を払う。まだ新しく見えた服の上から、拾ったフードつきの服を着させている。それはあちこち汚れていたため、こっちも汚れを払うことは意味のない行動であるが俺の真似をしたこいつは楽しそうだ。

 

 薄汚れた掃き溜めには似合わない明るい子供。

 

アメを一瞥して歩き出す。こいつが着いてこられるくらいの速度で歩くのにも大分慣れた。

 

 「今日もお仕事ですか?」

 「ああ、そうだな。」

 

 アメは納得したように頷く。目的地は奥張ったところにひっそりとある掘っ建て小屋だ。屋根が歪んでいてドアも半分以上が開いている。建物自体が歪んでいてこれ以上閉まらないのだ。

 

 「おーい。調整屋。いるか?」

 

 建物の中は外から色んな使えそうなものを集めて作られていて、その上に無造作に積み上げられたガラクタがいくつも溢れている。そのうちの一角がガサガサと動いてピョコっと頭が飛び出た。

 

 「いるわよ。来てくれたのねコロ。その子は?」

 

 調整屋と呼ばれた若い女は俺の側にいたアメに目をやる。

 

 「こいつはアメだ。この前拾った。」

 「そう。今日はその子の買い取りかしら?」

 

 品定めするような調整屋から隠れるようにアメは俺を盾にする。服の裾を握られた。

 

 「これは俺のものだ。売る気はねーよ。」

 「あら、残念。」

 

 フード越しにぐりぐりと撫でると、アメがよたよたしたので、すぐにやめる。

 

 「売る気がないなら仕事の方ね。今回はこれよ。」

 「西区か。」

 「ええ中型二体と大型一体ね。今のところ被害は少なくすんでる。西区の自警団が対応しているお陰ね。時間の問題だけれど。」

 

 調整屋はどこからか取りだしたキセルを咥える。

 

 「まっ、そうだろうな。さっさと片付ける。行くぞ、アメ。」

 「はいです。」

 

 俺は調整屋から受け取った紙をその辺に置いて西区に向かった。アメは調整屋を少し警戒しながら後についてきた。さっきの一件を引きずっているようだ。

 

 「西区に出た獣は中型二体と大型一体だ。陽動は任せる。一体ずつ確実に仕留めるように誘い込め。」

 

 「はいです。」

 

 アメはトテトテとついてきながら俺を見上げた。少しだけ歩くペースをおとす。

 

 「この間言ったことは覚えているか。」

 「命は大事に。危なくなる前にすぐ逃げろです。」

 「そうだ。忘れんなよ。」

 

 得意気に笑うアメの頭を軽くポンポンと叩く。

 

 この掃き溜めには獣が住んでいる。増えすぎたもの、動物、人を減らすために壁の向こうの奴が放つ獣だ。獣は小型、中型、大型に分けられる。今回、西区に出たのは中型と大型。大型になればそのぶん力も強く厄介だ。

 

 奴らは知能も低けりゃ分別もない。無差別になんでも食べる。小型はすばしっこく大型になれば大人の男くらいは一飲みできるパワーがある。

 

 今回放たれた中には大型がいるらしい。調整屋の話では獣の被害にあった奴は少ないらしいが、放っておけば西区は壊滅するだろう。

 

 獣がなんだかは分からんが俺は調整屋から獣を始末する仕事を受けている。掃き溜めにも秩序がある。それを守るためと意ったら格好もつくだろうか。

 

 「アメ、出番だ。」

 「はいです。」

 

 西区につくとアメは俺のそばを離れてトテトテと歩き出す。こいつは囮役だ。獣を呼び寄せる体質らしく、近くに獣がいれば必ずと言っていいほど、こいつのもとにやって来て襲おうとする。

 

 アメは見た目によらず、すばしっこいので今まで捕まらずにすんでいるらしい。俺がこいつと出会った雨の日も獣に追われたな。そんなことを考えていると早速、獣が現れた。

 

 「コロ!」

 

 アメが鋭い声をあげ走り始める。中型の獣が一体だ。体長一メートルくらいの犬に似た四足歩行の黒い獣。耳が三角に尖っており、口からはよだれを滴ながら低くうめいている。獣は尾を逆立ててアメに飛びかかろうとした。アメは危なげなくそれを避ける。

 

 「お前ら、獣が出たぞ。とっとと逃げろ。」

 

 この辺りの人間を巻き込まないように俺は声をあげて忠告しながらアメと獣を追う。

 

 西区の人間は皆避難しているのか人通りは少ない。残っていた奴等も俺の声に反応しすぐに散った。当たり前だ。獣がいる場所に好き好んで出ていくバカはただの自殺志願者だ。

 

 「コロ!前からも来ます。」

 「分かった。」

 

 アメが大声をあげる。着ている服のフードがとれて頭がハッキリとでている。走っている時にとれたんだな。そのおかげで視界がよくなったのか、獣がもう一体来るのが見えたらしい。俺にはまだ見えないがアメの言うことには間違いない。それは短いながらも一緒にいたアメに対する信頼だ。

 

 それから数秒。アメの言う通りに前方からも獣がやって来る。こいつも中型の獣だ。二体はジリジリとアメを追い詰めるように向かっていく。アメに焦りは感じられない。二体を確実に仕留める方法があるらしい。俺は最初にアメを追っていた獣を見据えながら獲物を手にする。昔から使っている剣と短剣が何本か。迷わず剣を鞘から引き抜く。

 

 と、同時にアメから見て後方、俺から見て前方の獣がアメに向かって飛びかかった。それに触発されたのかアメの前方にいる獣もアメに向かって飛びかかる。

 

 「コロ!」

 

 アメが鋭い声をあげた。奴は地を蹴り高く跳躍する。獣二体にはアメが突然消えたように見えただろう。だけど、飛びかかった勢いを止めることは出来ずお互いにぶつかり合った。俺はその瞬間を見逃さず、勢いよく飛び出す。二体がバランスを崩している間に急所である心臓目掛けて剣を振るった。血飛沫が上がり耳をつんざくような叫び声があげる。

 

 高く跳躍したアメが俺の後ろに着地する。猫のように身のこなしが軽い。確実に急所をついたが動き出さないことを確認するまでは注意深く観察する。

 

 「大丈夫なようだな。」

 「はい!もう大丈夫です。」

 「次行くか。」

 「はいです。」

 

 アメに怪我ひとつないことは見れば分かる。体力的にも問題無さそうなため次を探すことにした。切り捨てた獣はこの辺に住み着いてる奴等が片付けるはずだ。

 

 獣を見つけるのは簡単だ。血の臭いがする方へ歩いてみればいい。悪臭漂う掃き溜めの中でもはっきりと臭うそれは獣を追う目印となる。

 

 「あれだな。」

 

 先程よりも大きい獣が道の真ん中で寝そべっている。獣を中心に地面を彩るのは一面の赤。人間や動物だったものの破片が散らばっている。彼らは逃げ遅れて喰われてしまった犠牲者だろう。

 

 「寝てますね。」

 「このまま殺らせてくれればいいんだかな。」

 

 俺は剣の柄に手をかける。臭いを嗅ぎ付けたのか獣の目が開いた。そのとたん、背筋に寒気が走った。そいつはアメを見て笑ったのだ。

 

 「アメ!逃げろ!」

 

 素早く剣を抜きアメを背後に庇い怒鳴り付ける。こいつは今までの獣とは訳が違う。アメをこの場に残したら取り返しがつかなくなると本能が警鐘をならす。

 

 アメが俺の声に反応して駆け出した。獣に向かって。

 

 「バカ!何やってんだ。」

 「これはコロには荷が重いです。アメに任せてください!」

 「なっ!?」

 

 俺は目を見張った。アメを助けなければと思ったはずなのに動きを止めちまった。獣に向かって突進するアメの姿に変化が生じたからだ。

 

 10才くらいの子供であることは変わらない。だがアメの頭には三角の耳が生えさらに尻尾が出ている。さらに四肢は鋭く爪が尖った犬のようなものになる。その姿は獣に酷似していた。

 

 俺は一つ呼吸をおいて走り出す。アメが獣と戦っている。その小さな体と素早さを生かし、動きが鈍い大型の獣を翻弄している。だったらやることは変わらない。アメが作った隙を生かし剣を打ち込むのが俺の役目だ。アメが俺の姿を認めた。俺がアメに頷くとアメの動きがさらに速くなる。獣がアメに気をとられている間にまずは一撃だ!

 

 * * * * * * *

 

 どれくらいたっただろうか。日が落ちた掃き溜めには傷だらけになり倒れた獣と、同じくらい傷だらけになった俺とアメがいた。

 

 「アメ、無事か。」

 「はいです。」

 

 アメの姿はもう普通の子供と変わらない。もじもじとしたアメの頭をぽんっと叩いた。

 

 「なら行くか。」

 「えっ。」

 「今日の寝床を探さないとだ。急ぐぞ。」

 「は、はいです!」

 

 やや強引にアメを誘い足を進めるとトコトコとアメは着いてきた。ちらっと見えた横顔はホッとしている表情だ。

 

 さっきのアメの姿が気にならないわけではない。だけど言いたくなさそうな顔していたこいつに無理矢理言わす趣味はない。今までの中で最も強い獣と殺り合い、俺とアメが生き残った。今はそれだけで充分だ。

 

 「調整屋に報告しねーとな。」

 「…はいです。」

 

 あんだけ獣と渡り合える奴がただの人間である調整屋は苦手らしい。おかしくなってふと空を見上げると夜空には散りばめられたような星がキラキラと輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  この町は掃き溜めだ。遠くに見えるのは高い高い壁。それがぐるりと町全体を囲っている。壁の向こうには、ご立派な城があり、その麓には小綺麗な町があるらしい。そこで暮らせるのはごく一部の富裕層だ。あいつらが搾取しまくるせいでこっちは今日を生きる金を作るのも大変だってのに。

 

 そもそもここを掃き溜めにしたのはあの町に住むやつらだ。やつらが不要なものを捨て、ペットとして飼ったはずの動物を捨て、人を捨てた。そのなれの果てがこの掃き溜めだ。すべての元凶のあいつらは俺らを見やしない。視界にいれるのも嫌だと言うようにあの高い壁を作った。

 

 捨てられたものが溜まりに溜まり今ではゴミの山となり、生ゴミの臭いが辺りに広がっている。そんなゴミ山で痩せ細った目付きの怪しい野良犬と何人かの男女がしきりにゴミを漁っていた。男女は若いのも老いたのもいる。皆、血眼になり少しでも金目のものがないか目を皿にしている。

 

 少し遠くの方で怒声が聞こえる。誰かが喧嘩したか、盗みでもしたのだろう。こんなことは日常茶飯事だ。いちいち気にしていられない。

 

 「コロ、なに黄昏てるんですか?」

 

 俺は自分の名を呼ぶ少女に目を向ける。名前はアメだ。雨の日に拾ったからそう呼んでいる。アメは十才前後に見えるガキだ。こいつぐらいのガキは基本群れて行動している。徒党を組んで互いを守ってるのだ。そんな中こいつは捨てられたばかりだったのか、他のガキ共みたいに群れることもせず、一人ポツンと掃き溜めにいた。雨の中で震えていたのを気まぐれで拾ったんだ。

 

 話していると、どうもこの辺の奴ではないらしい。所々言葉に突っかかりがあるし、育ちがいいような話し方をする。極めつけはその瞳だ。

 

 暗く黒い目をした人間が多いここで、ライムグリーンのきれいな瞳を持っている。髪は他と同じく黒いが、その目が目立つのでフードを被せて誤魔化している。

 

 稀に壁の向こうの連中が遠方から人を連れて来て不要になったら捨てているので、こいつもその一人なのだろうと思う。

 

 「何でもねぇよ、そろそろ行くか」

 

 俺は腰かけてた木箱から立ちあがりパンパンっと汚れを払った。そうすることにあまり意味がないような汚れた服だが気分だ。気分。そばに置いた獲物を拾い腰の辺りに装着する。

 

 アメが俺を真似して木箱から立ちあがり服の埃を払う。まだ新しく見えた服の上から、拾ったフードつきの服を着させている。それはあちこち汚れていたため、こっちも汚れを払うことは意味のない行動であるが俺の真似をしたこいつは楽しそうだ。

 

 薄汚れた掃き溜めには似合わない明るい子供。

 

アメを一瞥して歩き出す。こいつが着いてこられるくらいの速度で歩くのにも大分慣れた。

 

 「今日もお仕事ですか?」

 「ああ、そうだな。」

 

 アメは納得したように頷く。目的地は奥張ったところにひっそりとある掘っ建て小屋だ。屋根が歪んでいてドアも半分以上が開いている。建物自体が歪んでいてこれ以上閉まらないのだ。

 

 「おーい。調整屋。いるか?」

 

 建物の中は外から色んな使えそうなものを集めて作られていて、その上に無造作に積み上げられたガラクタがいくつも溢れている。そのうちの一角がガサガサと動いてピョコっと頭が飛び出た。

 

 「いるわよ。来てくれたのねコロ。その子は?」

 

 調整屋と呼ばれた若い女は俺の側にいたアメに目をやる。

 

 「こいつはアメだ。この前拾った。」

 「そう。今日はその子の買い取りかしら?」

 

 品定めするような調整屋から隠れるようにアメは俺を盾にする。服の裾を握られた。

 

 「これは俺のものだ。売る気はねーよ。」

 「あら、残念。」

 

 フード越しにぐりぐりと撫でると、アメがよたよたしたので、すぐにやめる。

 

 「売る気がないなら仕事の方ね。今回はこれよ。」

 「西区か。」

 「ええ中型二体と大型一体ね。今のところ被害は少なくすんでる。西区の自警団が対応しているお陰ね。時間の問題だけれど。」

 

 調整屋はどこからか取りだしたキセルを咥える。

 

 「まっ、そうだろうな。さっさと片付ける。行くぞ、アメ。」

 「はいです。」

 

 俺は調整屋から受け取った紙をその辺に置いて西区に向かった。アメは調整屋を少し警戒しながら後についてきた。さっきの一件を引きずっているようだ。

 

 「西区に出た獣は中型二体と大型一体だ。陽動は任せる。一体ずつ確実に仕留めるように誘い込め。」

 

 「はいです。」

 

 アメはトテトテとついてきながら俺を見上げた。少しだけ歩くペースをおとす。

 

 「この間言ったことは覚えているか。」

 「命は大事に。危なくなる前にすぐ逃げろです。」

 「そうだ。忘れんなよ。」

 

 得意気に笑うアメの頭を軽くポンポンと叩く。

 

 この掃き溜めには獣が住んでいる。増えすぎたもの、動物、人を減らすために壁の向こうの奴が放つ獣だ。獣は小型、中型、大型に分けられる。今回、西区に出たのは中型と大型。大型になればそのぶん力も強く厄介だ。

 

 奴らは知能も低けりゃ分別もない。無差別になんでも食べる。小型はすばしっこく大型になれば大人の男くらいは一飲みできるパワーがある。

 

 今回放たれた中には大型がいるらしい。調整屋の話では獣の被害にあった奴は少ないらしいが、放っておけば西区は壊滅するだろう。

 

 獣がなんだかは分からんが俺は調整屋から獣を始末する仕事を受けている。掃き溜めにも秩序がある。それを守るためと意ったら格好もつくだろうか。

 

 「アメ、出番だ。」

 「はいです。」

 

 西区につくとアメは俺のそばを離れてトテトテと歩き出す。こいつは囮役だ。獣を呼び寄せる体質らしく、近くに獣がいれば必ずと言っていいほど、こいつのもとにやって来て襲おうとする。

 

 アメは見た目によらず、すばしっこいので今まで捕まらずにすんでいるらしい。俺がこいつと出会った雨の日も獣に追われたな。そんなことを考えていると早速、獣が現れた。

 

 「コロ!」

 

 アメが鋭い声をあげ走り始める。中型の獣が一体だ。体長一メートルくらいの犬に似た四足歩行の黒い獣。耳が三角に尖っており、口からはよだれを滴ながら低くうめいている。獣は尾を逆立ててアメに飛びかかろうとした。アメは危なげなくそれを避ける。

 

 「お前ら、獣が出たぞ。とっとと逃げろ。」

 

 この辺りの人間を巻き込まないように俺は声をあげて忠告しながらアメと獣を追う。

 

 西区の人間は皆避難しているのか人通りは少ない。残っていた奴等も俺の声に反応しすぐに散った。当たり前だ。獣がいる場所に好き好んで出ていくバカはただの自殺志願者だ。

 

 「コロ!前からも来ます。」

 「分かった。」

 

 アメが大声をあげる。着ている服のフードがとれて頭がハッキリとでている。走っている時にとれたんだな。そのおかげで視界がよくなったのか、獣がもう一体来るのが見えたらしい。俺にはまだ見えないがアメの言うことには間違いない。それは短いながらも一緒にいたアメに対する信頼だ。

 

 それから数秒。アメの言う通りに前方からも獣がやって来る。こいつも中型の獣だ。二体はジリジリとアメを追い詰めるように向かっていく。アメに焦りは感じられない。二体を確実に仕留める方法があるらしい。俺は最初にアメを追っていた獣を見据えながら獲物を手にする。昔から使っている剣と短剣が何本か。迷わず剣を鞘から引き抜く。

 

 と、同時にアメから見て後方、俺から見て前方の獣がアメに向かって飛びかかった。それに触発されたのかアメの前方にいる獣もアメに向かって飛びかかる。

 

 「コロ!」

 

 アメが鋭い声をあげた。奴は地を蹴り高く跳躍する。獣二体にはアメが突然消えたように見えただろう。だけど、飛びかかった勢いを止めることは出来ずお互いにぶつかり合った。俺はその瞬間を見逃さず、勢いよく飛び出す。二体がバランスを崩している間に急所である心臓目掛けて剣を振るった。血飛沫が上がり耳をつんざくような叫び声があげる。

 

 高く跳躍したアメが俺の後ろに着地する。猫のように身のこなしが軽い。確実に急所をついたが動き出さないことを確認するまでは注意深く観察する。

 

 「大丈夫なようだな。」

 「はい!もう大丈夫です。」

 「次行くか。」

 「はいです。」

 

 アメに怪我ひとつないことは見れば分かる。体力的にも問題無さそうなため次を探すことにした。切り捨てた獣はこの辺に住み着いてる奴等が片付けるはずだ。

 

 獣を見つけるのは簡単だ。血の臭いがする方へ歩いてみればいい。悪臭漂う掃き溜めの中でもはっきりと臭うそれは獣を追う目印となる。

 

 「あれだな。」

 

 先程よりも大きい獣が道の真ん中で寝そべっている。獣を中心に地面を彩るのは一面の赤。人間や動物だったものの破片が散らばっている。彼らは逃げ遅れて喰われてしまった犠牲者だろう。

 

 「寝てますね。」

 「このまま殺らせてくれればいいんだかな。」

 

 俺は剣の柄に手をかける。臭いを嗅ぎ付けたのか獣の目が開いた。そのとたん、背筋に寒気が走った。そいつはアメを見て笑ったのだ。

 

 「アメ!逃げろ!」

 

 素早く剣を抜きアメを背後に庇い怒鳴り付ける。こいつは今までの獣とは訳が違う。アメをこの場に残したら取り返しがつかなくなると本能が警鐘をならす。

 

 アメが俺の声に反応して駆け出した。獣に向かって。

 

 「バカ!何やってんだ。」

 「これはコロには荷が重いです。アメに任せてください!」

 「なっ!?」

 

 俺は目を見張った。アメを助けなければと思ったはずなのに動きを止めちまった。獣に向かって突進するアメの姿に変化が生じたからだ。

 

 10才くらいの子供であることは変わらない。だがアメの頭には三角の耳が生えさらに尻尾が出ている。さらに四肢は鋭く爪が尖った犬のようなものになる。その姿は獣に酷似していた。

 

 俺は一つ呼吸をおいて走り出す。アメが獣と戦っている。その小さな体と素早さを生かし、動きが鈍い大型の獣を翻弄している。だったらやることは変わらない。アメが作った隙を生かし剣を打ち込むのが俺の役目だ。アメが俺の姿を認めた。俺がアメに頷くとアメの動きがさらに速くなる。獣がアメに気をとられている間にまずは一撃だ!

 

 * * * * * * *

 

 どれくらいたっただろうか。日が落ちた掃き溜めには傷だらけになり倒れた獣と、同じくらい傷だらけになった俺とアメがいた。

 

 「アメ、無事か。」

 「はいです。」

 

 アメの姿はもう普通の子供と変わらない。もじもじとしたアメの頭をぽんっと叩いた。

 

 「なら行くか。」

 「えっ。」

 「今日の寝床を探さないとだ。急ぐぞ。」

 「は、はいです!」

 

 やや強引にアメを誘い足を進めるとトコトコとアメは着いてきた。ちらっと見えた横顔はホッとしている表情だ。

 

 さっきのアメの姿が気にならないわけではない。だけど言いたくなさそうな顔していたこいつに無理矢理言わす趣味はない。今までの中で最も強い獣と殺り合い、俺とアメが生き残った。今はそれだけで充分だ。

 

 「調整屋に報告しねーとな。」

 「…はいです。」

 

 あんだけ獣と渡り合える奴がただの人間である調整屋は苦手らしい。おかしくなってふと空を見上げると夜空には散りばめられたような星がキラキラと輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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