永遠の花と守り手
シリアス系のお話です
なぜ花は散るのでしょう。あんなにきれいなのに。誰かは言った。
花というのは美しいから儚いのだと誰かがいった。
では、儚くない花は美しくないのかと誰か言う。
いったいどうなのでしょう。誰かが言う。
では作って差し上げましょうか。誰かが言う。
作ってみてください。皆の願いを受け、誰かは永遠の花を作った。
それが永遠の花の始まりだった。咲き続ける花の色は薄紅。
花びらは散り続けども枯れることがない不思議な花。その花は何よりも美しく見るものを魅了した。
花は儚いから美しい。そう言った誰かは考えを改めた。散ることがない花は、いつか散ってしまう花よりも美しかったのだ。
その美しさは見るものの心を奪った。それは生き物だけでなく異形の者も集め始めた。あやかしと言われる者達だ。
永遠の花に魅了されたあやかしはやがて強力な力を得て悪さをするようになる。
あやかしの存在が村人の暮らしに影響をし始めるまで時間はかからなかった。
誰かは考えた。この状況を何とかする方法を。
誰かは困った。永遠の花を願ってしまったがためにあやかしを集めてしまったから。
誰かは願った。あやかし達を沈める方法を。
そこで立ち上がったのが一人の娘。名をホンファといった。
彼女はあやかしたちの心を沈めるため永遠の花の下で舞を踊った。
彼女の舞は永遠の花と同じくらい美しく見るものをひきつけた。村人達は彼女に見とれた。
あやかし達も同じであった。あやかし達は彼女の舞に引き寄せられた。踊る彼女にあやかしは近づこうとする。
あやかしは彼女に近づくと光となって空へ上った。天へと帰っていったのが村人にも分かった。
村人は空を見上げる。あやかしが空に帰っていくと、彼らは彼女の舞に感謝し崇めた。
村人は彼女の舞にあやかしを静める力があると認める。ホンファは花を守るように花に捧げるように舞い続けた。
だけど長くは続かない
永遠の花は永遠に咲くが人は永遠ではいられない。
いつしか彼女も年老い、舞を踊るのは彼女の娘にたくされた。彼女の娘もまた舞の名手だった。
母から受け継いだ技術と心はあやかし達を沈める力があった。しかしその娘も年を取り、またその娘が舞を踊った。
そうして受け継がれ、ホンファの子孫達は守り手と呼ばれるようになった。
彼女達は永遠の花の下で舞を踊った。
ホンファが死して数百年。今代の守り手、名はフェイファ。
彼女も先代から守り手を受け継いだのだ。その時、彼女は十四の子供だった。
守り手は十代後半か二十代で受け継がれる。それよりも早くフェイファは守り手になった。
彼女の母は若くして病に伏したからだ。そのまま息を引き取ったためフェイファが後をついだ。
フェイファは舞があまり好きではなかった。彼女は内気な子供だった。人に注目されるのを嫌がった。
フェイファは嫌々ながらも舞を踊りあやかしを天へ帰していた。
誰かはフェイファを励ました。誰かは彼女をおだてた。そうして舞を踊らせようとした。
だけど彼女の舞ではあやかしは天に帰らなかった。心がこもってないからだと誰かは怒った。
それは村人全部に広がった。あやかしをなんとか出来ない守り手はいらないと。心ない言葉を言い、石をぶつけ虐げた。
その間にもあやかしは力をつけていた。
村人はすべてをフェイファのせいにして見ない振りをした。
だからフェイファは村から逃げた。村人が気づいた時には遅かった。
彼女の他にあやかしを静める力がある者はいなかった。
力をつけたあやかしに村が滅ぼされることになるのは目に見えていた。彼らはすでに村の周りを囲んでいた。
誰かは悔やんだ。守り手を大事にしなかったことを。
誰かは嘆いた。滅ぼされることが決まった未来を。
誰かは憎んだ。村から逃げた守り手のことを。
誰かは泣いた。もう逃げられないことを悟って。
誰かは永遠の木を切ろうとしたけどあやかしにやられて事切れた。
誰かは…、誰かが…、誰もが様々な思いを抱えていた村人達はあやかし達に全てやられてしまった。
少なく残った誰かも別の場所に逃げていた。この場所は永遠の木とあやかしだけの場所となった。
あやかし達は永遠の木を守るように木の周りを漂ったり這ったりした。
たまに人間の誰かがやって来てあやかしや木を害そうとする。
木はあやかしに力を与えて誰かを退治した。あやかしは木を守るためにそこにいたから。
たまに強い誰かが来て、それに負けて天に帰れなくなったあやかしを悔やむ。
だけどまた新しいあやかしを迎えて守ってもらった。
季節が一周して、二周して三周した。永遠の木は変わらない。
村があったところはあやかしが襲った時のまんま残っている。
この村も永遠になるかもしれない。永遠の木の花びらが舞った。
変化のない日々が続いたある日。誰かがやって来た。それがフェイファであるとすぐに分かった。
だけど、彼女の足下にいる誰かは知らない。
あやかし達はフェイファを襲わない。彼女の足下にいる誰かも襲わない。
害する心、恐れる心がないものにあやかしは攻撃しない。永遠の木は花びらを多目に散らした。
フェイファと誰かは村の方を見た。何を考えたか分からない。
しばらくそうしてた二人は永遠の木に手を当てた。フェイファが一緒にいた誰かに話しかけた。
やがてフェイファは舞を踊り始める。あの頃と同じ軽やかな足取りで。
彼女の足下にいる誰かもフェイファを真似て踊り出した。上手ではないが楽しそうだ。
舞を通じて伝わってくる。フェイファが帰ってきたこと。また躍りに来ること。
足下にいる誰かは、誰かじゃない。名はチュンファという。フェイファの娘だ。
あの日、永遠の木の願いを聞いてくれた彼女を永遠の木は大好きだった。
永遠の木もまた注目されるのを嫌がった。ただ咲いているだけなのに、誰かの声がやむことない日々に永遠の木はうんざりしていた。
永遠の木の声が分かるホンファの一族は静かに暮らしたい永遠の木の願いを聞いてくれなかった。
その代わり舞を見せてくれるというから永遠の木は我慢した。ホンファの舞は好きだったしあやかし達も喜んだから。
でも木は静かに暮らしたいとも思った。だから守り手が変わるとお願いした。
村をなくしてほしいと
みんなに断られフェイファも最初は嫌だって言った。だけどフェイファは舞を見せてくれただけでなく、あやかしも残してくれた。
永遠の木もあやかしも彼女が大好きだった。
あやかしは永遠の木の友だった。
だけど、そのせいでフェイファは誰にいじめられた。誰かはたくさんいた。
フェイファはそれを嫌だと思って姿を消した。
永遠の木は舞が見られなくなって残念がった。
だけどあやかし達が天に帰ることもなくなった。
永遠の木のおかげであやかし達は力をつけた。お礼に永遠の木の静寂を邪魔する村を滅ぼした。
これで静かになった。永遠の木は喜んだ。フェイファが戻ってきてくれたから、さらに喜んだ。
長い時間だったがやっと静かに過ごせるのだ。
永遠の木は咲き続ける。その根本でフェイファとチュンファが舞を舞う。花びらが二人に降り注ぐように祝福した。