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世界の綻びを直すお仕事

女性主人公のお話です


「ポイントA-32C-57地点にて綻びが発生。繰り返す。ポイントA-32C-57地点にて綻びが発生。」

 

 機械音が組織中に響き渡る。一日に何回か鳴るこの音は私達、修繕人の出動を促すものだ。腕につけたデバイザーがチカチカと赤く点滅する。どうやら今回は私達が出動になるようだ。

 

 「シュテル・オフェンただいま到着しました。」

 「これで全員ね。セレーネ班、転送開始。」

 

 ここは転送室。綻びが発生したポイントに移動するための部屋だ。部屋の中にいたのは四人の女性。私の名乗りを受け、転送を開始したのが、この隊の体調であるセレーネ・ソメー。弱冠二十二才で隊長となった才女。よきお姉さんで皆から慕われている。

 

 「先輩。遅かったですね。私、待ちくたびれちゃうかと思いましたぁ。」

 「ごめんね。」

 

 頬を膨らませたのはクローチェ・デルスッド。私より三つ年下の十六才。ツインテールにした髪型が特徴の小柄な子だ。仕事は真面目だが小生意気な所がある。

 

 「クローチェ。そんなこと言ったらダメ。シュテルは本来お休みだった。こんなに早く用意してこれたのはすごい。」

 「ごめんなさーい。」

 

 そんなクローチェを注意したのはクルス・スール。この隊の副隊長。さらりとしたショートカットでめがねをかけている彼女は今年二十歳を迎えた。どちらかというとおとなしめな人だ。

 

 セレーネ、クローチェ、クルス、そして私、シュテル・オフェンの四人がセレーネ班だ。私達は世界の綻びを直す仕事をしている。

 

 世界の綻びはある日突然現れる。そこだけぽっかり穴が開いたかのように、黒く暗い闇が広がる。最初は一センチもない小さく、ただ不気味なだけで特に影響もない。だけど、それを放っておくとどんどん闇は広がり、世界がそれに飲み込まれてしまうと言われている。

 

 私達が所属するのはレパラスティオンという団体だ。ここのオペレーターが四六時中モニターを監視し、世界のどこかで綻びが感知されると、修繕班が現場に向かい綻びを直す仕組みとなっている。

 

 私はレパラスティオンで修繕屋として働いている。働き始めて三年。そろそろ仕事にも慣れてきて忙しい生活をしている。そんな中でやっとのこと取れた休日だったのに呼び出されるなんてついてないな。

 

 「確かについてないけど、それにしたってここのところ綻びが多すぎる気がするよ。」

 

 私の愚痴に反応したのはセレーネだ。真剣な眼差しで移動のポイントを確認している。転送室は修繕班を綻びの元に連れていくための部屋だ。中にはエレベーターのような箱形の機械が三台ある。この箱形の機械が転送機だ。この機械は地下を通って高速で移動する。揺れることもなく中は快適。瞬間移動したかと思うほど乗っていて違和感がない。どれに乗っても行き先は同じだが、ポイントの近くで地上に出るの若干の調整が必要だ。これは隊長に任せられる仕事のひとつでもある。

 

 「そうですよねー。おかげで美容室に行く暇もないですぅ。」

 「前は一日に五件くらい。今は倍以上。多い。」

 

 クローチェがツインテールの先をいじりながら言い、クルスが具体的な数字を出した。

 

 「そんなに増えてたんだ。片っ端から直していたから実感薄いけど、数字にするとけっこうあるね。」

 「先輩は鈍感ですね。量が増えたら実感もあるでしょうに。」

 「そう言うクローチェだって驚いた顔してたよ。」

 「むぅ。」

 

 クローチェが頬を膨らませて抗議する。セレーネがぱんっと手を打った。

 

 「もうつくよ。用意して。」

 「「はい。」」

 

 私達は言い合いをやめて、返事をする。クルスも頷いていた。機械が停止し、扉が開く。外に出るとそこは荒野だった。

 

 申し訳程度に草が生えているだけのだだっ広い大地。ぐるりと辺りを見渡すけど綻びは見当たらない。それにしても…

 

 「あつーい。」

 

 うんざりしたようなクローチェの声が私の気持ちを代弁してくれた。

 

 太陽がギラギラと輝き、地面をジリジリと焦がすように熱する。上からも下からも熱を感じ、とにかく暑い。今ならフライパンで熱せられる具材の気持ちが分かるかもしれないと本気で思った。

 

 「見たところ綻びが見当たらないね。少し離れた所にあるかな?」

 「シュテル、デバイザーが更新された。確認。」

 

 クルスが教えてくれる。デバイザーは修繕班に与えられる道具だ。二の腕辺りに取り付ける事が出来る小型のスマートフォンのようなものだ。大きさもそれくらいで、オペレーターとの通信、マップの表示、出動の合図などが全てデバイザーで行われる。だから、修繕班に属するものはいつだってデバイザーを携帯している。

 

 「何々…マップを転送しました。綻びの大きさは直径十センチ程度。急成長の可能性は弱。マップは添付ファイルの通りです。現場の判断にお任せします。」

 「つまり、丸投げじゃん!」

 「私を睨んでもしょうがないよ。皆のも同じ内容かかれているでしょ。」

 「確かにそうでしたけどー。」

 「ここの所の綻びの発生でオペレーターも人手が足りないから、簡単な現場は修繕班に任せるようにしてるの。」

 

 セレーネがクローチェを宥める。実際、レパラスティオンはそんなに大人数で形成されていない。綻びを直す適正がある人が少ないからだ。それなのに綻びの発生は増えている。だったらせめてオペレーターを増やしてよと思う。

 

 「とにかく綻び探そ。」

 「そーですね。さっさと終わらせて帰りましょー。」

 「それじゃ手分けして探しましょうか。」

 「はい!」

 

 それを合図に私達はその場を解散し手分けして散策することにした。キョロキョロと周りを確認しながら、探し始めるけど、どこまで行っても乾いた砂と少しの草しか見つけられない。

 

 デバイザーに出ているマップの中で綻びが発生しているのは間違いないんだけどな。マップには自分の現在地と皆の位置が表示されている。マップ外にはみ出さないようにこまめに確認をとる。

 

 「しっかし暑いなー。どこの国だよ。」

 

 こぼれる本音に答えるものはいない。仲間達の姿も見えない。だけども、不安になることもなく探し続けて十分くらい。デバイザーの音が鳴り響いた。通信をオンにする。デバイザーの画面が四分割され、仲間たちと自分の顔が映し出された通信画面になっている。

 

 『こちらクルス。綻び発見。』

 

 その証拠にデバイザーからはハッキリとクルスの声が聞こえた。

 

 『皆、聞こえたな。クルスはその場で待機。クローチェ、シュテルはクルスの元へ急行せよ。私も向かう。』

 『はーい。』

 『了解』

 

 デバイザーの画面をマップに切り替える。現在地を動かないのがクルス。他の二人はクルスに向かって移動中なのが分かる。遅れをとらないように私も走って向かう。


 「お疲れ、シュテル。」

 「お疲れ様、あれがそうね。」

 

 急いだ甲斐があってクルスの元に一番にたどり着けた。クルスは綻びからやや離れた位置で待機していたが、ここからでも充分に綻びを確認できた。灼熱の大地に敷き詰められた乾いた砂が、そこだけ丸く切り取られたかのようにない。

 

 代わりに広がるのはマジックで塗りつぶしたかのような黒い闇。オペレーターの話では、十センチ程度となっていたが、絶対それよりも大きくなっている。現在は二十センチから三十センチはあるだろう。

 

 「急成長の可能性は弱じゃなかったっけ?成長速度、速そうですね。」

 「情況が変わったのかも。早く対処しないと。」

 

 こうしている間にも少しずつ確実に綻びが広がっているのだ。

 

 クルスと話しているとクローチェとセレーネがやって来たのが見えた。二人は軽く手を挙げ二人に合図する。

 

 「やっと見つかりましたかぁ。」

 「お疲れ様。予想より大きくなってる?早速だけど直してしまいましょう。」

 

 綻びを観察したセレーネが指示を出す。それを皮切りに皆が動き出す。修繕の儀式を始めるのだ。少しずつ大きくなってくる綻びの四方を四人が囲む。位置はセレーネが北。クルスが南。クローチェが西。私が東だ。この位置取りは毎回固定だ。だからこそ、修繕班は四人一組で行動する。

 

 セレーネが一人ずつ視線を合わせる。私は彼女と目が合った時に小さく頷き準備が出来たことを示す。他の二人の準備も出来たらしい。セレーネが左手で右肩を掴み、右手を前に付きだした。それにならい、私達三人も同じように手を前に出した。それを合図に四人は声を合わせる。

 

 「我らは調停者。空間の支配者スパーツィオの命のもと、世界を破滅に導く邪なる存在を裁くものなり。」

 「北を司るはセレーネ。」

 「南を司る、クルス。」

 「西を司どってるクローチェ。」

 「東を司るのはシュテル。」

 「我ら四人のスパーツィオの子が、全てを暗闇に包み込み、無に返さんとする綻びを此度裁く!」

 

 四人の声が一つに重なり不思議な抑揚を産み出す。綻びが広がるのが止まった。セレーネが頷いて合図したのを見て、私は一歩前に足を踏み出す。皆も同じように足を踏み出すとそこに合った綻びが小さくなった。そのまま足を進め、皆と体がぶつかりそうな所までくると、綻びは四人の体に押されるようにどんどん縮まっていき、やがてほとんど見えないくらいに小さくなった。

 

 だけど、どんなに小さい綻びでも時間がたてば再生してしまうので、私達は四人でハイタッチをするかのように手がぶつかるところまで伸ばす。そうして四人の手が重なったところで、やっと終了だ。

 

 密着の状態から解放された四人はほうっと息を吐く。私は両ひざに手を当ててかがみ、息を整える。クローチェはその場に座り込んでしまっていた。クルスがそんなクローチェの背に手を当てる。

 

 綻びを直すにはラディ石という石に気力を注ぎ込む必要がある。石はデバイザーに埋め込まれており、修繕班はこれを使って綻びを直すのだ。しかし、それにはすさまじい気力が必要だ。気力を高めるために儀式を行ったり、デバイザーがあったりするのだが、最終的には本人の資質に左右される。

 

 私は慣れてきたが、まだ新人であるクローチェには辛いだろう。

  

 「セレーネ班より本部へ。ただいま、綻びの修繕を終了しました。反応の確認をお願いします。」

 

 そんな中で、セレーネは本部と連絡を取っていた。綻びの完全消失を確認するためである。

 

 『こちら本部オペレーターのステラです。綻びの消失を確認しました。転送機を向かわせます。セレーネ班はその場で待機してください。』

 

 「了解。」

 

 セレーネがデバイザーの通信を切る。息を整えたクローチェが笑みを見せる。

 

 「良かったー。これで帰れる。」

 「そうね。転送機が来たら、本部に戻って報告書を書かなきゃ。」

 「セレーネは休むことを覚えるべき。」

 

 真面目なセレーネの態度にクルスがポツリと呟き後輩二人が頷いた。セレーネは真面目で仕事熱心だ。いつ休んでるんだろうと私も思うくらい。私達班員に、それを強要したりはしないけど、時おりセレーネの体調が気になる。気まずくなったのかセレーネが話題を変えた。

 

 「……休みといえば、シュテル。今日はほんとにごめんなさい。この分はどこかで休んでもらうからね。」

 「えー、先輩ずるいー。」

 「ずるくない。シュテルは今日休み。なのに出てきた。」

 「そういうこと。クローチェは四日前に休みをとったでしょ。」

 「……はーい。」

 「ありがとうございます。」

 

 不服そうなクローチェに私は苦笑し皆にお礼を言った。そんな話をしていると、迎えがやって来たらしくデバイザーが反応する。余力があるセレーネがラディ石に力を注ぎ、転送機を地上へ呼び寄せた。

 

 地面からぬるりと生えるように転送機が表れドアが開く。四人してそれに乗り込むと、転送機が再び地面へ潜り込んだ。

 

 「本当に綻びが多くなっている。」

 「そうですね。」

 

 デバイザーには発生した綻びの履歴を見ることが出来る機能がある。クルスがそれを確認してるのを私は横から覗きこむ。

 

 「この先も増えてったら大変なことになりそう。」

 

 あくまでも楽観的に言ったクローチェだが、それは皆が心配していることであった。なにかよからぬことの始まりでなければいいけど。深く考えそうになった時、セレーネが力強く言う。

 

 「これからどうなるかは分からない。分からないけど、私達はただ綻びを直すだけよ。」

 

 そう言ってセレーネがやさしく微笑む。

 

 「セレーネ先輩、いいこと言いますね。」

 

 クローチェがニヤリと笑う。クルスも微笑を浮かべていた。

 

 「ただ直すだけか。それならなんとかなりそう。」

 

 綻びが多くなっている不安はあるけど、きっとこの班でなら乗り越えられる。

 

 「さっ、行きましょう。」

 

 転送機が本部に到着する。私達はひとりひとりそこから降りた。

 

 ただ綻びを直すだけ。その言葉を胸に秘め、私は修繕班の一員として明日も働くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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