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卒業試験の決勝戦

能力バトルものになります

「それでは決勝戦を開始します。北、アルバード。南オーラティーラ!」

 

 名前を呼ばれた俺はステージに足を踏み入れる。反対側から奴が進んできた。溢れんばかりの歓声に自然と気持ちが高鳴った。

 

 絶対に優勝してやる。

 

 ディベルシオン高等学校。その卒業試験が本日行われていた。この卒業試験で優勝することができれば、俺の憧れである、国王直々に組織する組織の近衛兵になれる。ゆくゆくはそれを束ねる近衛兵長になり、国王と共に国を守っていくのだ。

 

 そうすれば、故郷で待っている家族に楽な暮らしをさせてやることもできる。

 

 その目標のために俺は今まで血のにじむ努力をしてきたのだ。今日はそのための一歩を踏み出す日。対戦相手はオーラティーラ。俺の好敵手だ。奴は俺の幼馴染みで、この学校にも首席で入学した。中の下くらいの成績で入学した俺とは、一つ世界が違うところにいたあいつと、今は同じ舞台に立っている。それが何よりも嬉しかった。

 

 「よお、オーラティーラ。調子はどうだ?」

 「絶好調さ。」

 「そうか俺もだ。お前に勝って俺は国王直々の近衛兵になる。絶対負けないからな。」

 「悪いが勝つのは俺だ。お前には負けられない。」

 

 クールな笑みを顔に浮かべる、オーラティーラ。こいつはなんでも出来る奴で俺はいつもその背中を追いかけてばかりだった。ようやくつかんだチャンス。今日こそこいつを追い越してやる。ステージの中央。向かい合う俺達に歓声が一時やんだ。

 

 「試合開始!」

 

 審判の先生が声をあげ、俺たちは同時に手を前にかざした。とたん激しい閃光と爆発音。互いの魔法がぶつかり合って相殺されたのだ。観客席からの声援がいっそう激しくなった。 

 

 「流石にこれで倒れたりしないよな。」

 「当たり前だ。…おしゃべりはここまでだ。ここからは本気でいく。」

 

 言葉を交わし、俺たちは互いに距離をとる。長方形のような形のステージは縦が三十五メートル。横が五十メートルと、試合をするのに充分な広さだが、奴相手では少し狭く感じる。

 

 勝利条件は相手を無力化し戦闘不能にすることか、降参と相手に言わせることだ。そのためには魔力を使っても格闘術を使っても相手の命を奪わなければ何をしてもいい。

 

 ここまでは最初の一撃で相手を倒すことも可能だったが、オーラティーラは一筋縄ではいかない相手だ。頼むから持ってくれよ、俺の魔力。

 

 「危ねーな!」

 

 オーラティーラが再び魔法を撃ってくる。無数の魔力の弾が俺めがけて飛んでくる。指をピストルのような形にし、そこから魔力を撃ち放つフォルム。普通の銃と違い弾の補充もいらなければ、軌道も自由に変えられるため、奴はこの技を好んで使う。魔力を非常に多く使うこの技は、膨大な魔力を体内に秘めているオーラティーラにしか出来ない芸当だ。

 

 俺は飛んでくる無数の魔力の弾を見て動きを止めた。この技の軌道はオーラティーラの意思次第だ。避けたって意味はない。

 

 「ここだぁ!」

 

 その弾の隙間を練ってオーラティーラ目掛けて魔法を放つ。当然、奴はそれを避けるが想定内だ。少しでも気をそらせればいい。その間に俺は薄く魔力を放出し、その魔力で奴が放った魔法を包み込むようにし無効化した。

 

 俺は持っている魔力が少ない。オーラティーラのような魔力の大放出なんか出来ない。だからこそ、少ない魔力を最大限生かすように緻密なコントロールを身に付けた。

 

 オーラティーラのような魔力を羨ましく思ったことは何度もある。だけど、俺には俺の戦い方があるんだ。

 

 右腕で淡い緑色に光る腕輪をちらりと見る。そこには魔力が充分に溜まっている。

 

 「デフォーマッシャー。」

 

 小さく呟くと腕輪が一人でに外れ、俺の全身を緑色の光が包み込んだ。

 

 この腕輪は生まれた時に親からもらったものだ。この国では子供が生まれると腕輪を贈る風習がある。魔力を貯めることが出来るこれは子の成長と共に魔力に染まり、成長を続け、持ち主の必要とする姿に変化するのだ。

 

 観客席がざわめく。腕輪が外れたのにも関わらず、俺の周りに腕輪が変化した武器らしいものがないからだろう。今日の戦いではお披露目してなかったからな。知らない奴等には騒がれるだろうけど毎度驚かれるので慣れたさ。

 

 オーラティーラが撃ってくる弾が弾丸ではなくレーザーのようになる。それは意思を持った縄のように俺を捕えに向かってきた。

 

 「いくぜ!」

 

 高速で動くそれをそれ以上のスピードで避けながら俺はオーラティーラ目掛けて駆ける。奴は防御壁を張ったが、そんなものは今の俺には関係ない。防御壁の上から俺はオーラティーラを殴り付けた。

 

 バリンッとガラスが割れるような音と共にオーラティーラの左頬に拳が当たる。その勢いで、奴はバランスを崩しかけるがすぐに建て直した。その時ギラリとオーラティーラの目が輝いた。本能で危険を悟った俺は後ろへ跳ぶ。

 

 瞬間、今俺がいた位置に氷の高速魔法が発動した。捕まれば全身凍りついて動けなくなることは必須だった。危なかったと冷や汗が流れる。

 

 「ここまで残っただけのことはあるな。お前の力、敵にすると厄介だ。」

 「お前に言われたかーねーよ。」

 

 銃のような形をした手を下ろし、オーラティーラはわずかに口角を歪める。こいつとは在学中に何度も一緒に戦ってきた。俺の力についても手の内はバレている。

 

 通常、何らかの武器に具現化するはずの腕輪は武器の姿に変わることはなかった。こいつは俺自身の肉体に宿り、力やスピードを上げてくれているのだ。言わば、今の俺は魔力による肉体強化状態というわけだ。さっき殴った時は右腕に魔力を送り、オーラティーラの魔法から逃げた時は足に魔力を移動した。これを使いこなすのには大分苦労したのだ。

 

 無論、オーラティーラもそれを知っている。興が乗ってきたのか楽しそうに俺に話しかけてくる。

 

 「ふふっ。いいね、アルバード。君は何度突き放したって、いつだって、僕に食らい付いてきた。今だってそうだ。こんなに魔力に差があるというのに。」

 「そんなのガキの頃から分かっていることだろ。そんで、今日は食らい付くだけじゃない。お前を追い越してやるよ。」

 「やってみな。僕も全力で相手をする。…デフォーマッシャー。」

 

 オーラティーラが唱えると奴を中心に青色の光が会場を包む。俺の時はせいぜいステージ上だけだった。それを思うと今、奴が莫大な魔力を放っていることが分かる。その魔力の圧が強すぎて俺は思わず、二歩ほど後退してしまった。

 

 「魔杖ヘイリック。」

 

 オーラティーラの手に一本のシルバーの杖が現れる。それは奴の身長ほどの高さがあり、腕輪に嵌め込まれていた青い石は握り拳大になり杖の先端に嵌め込まれている。

 

 声をあげていた観客席がその仰々しい雰囲気に静まり返る。そんな中でオーラティーラがあげた声がやけに大きく聞こえた。

 

 「ベリッチアングリーフ。」

 「洒落にならねーよ。」

 

 その魔法は俺も知っている。足に魔力を貯めて高く跳躍する。そして魔力を放出し続けることで俺は滞空時間を伸ばした。

 

 その判断は正解だった。ステージいっぱいに緑色の水が広がっている。あれはスライムのように粘性があり、触れたものを水の中に取り込み攻撃する範囲魔法だ。

 

 (俺一人に使う技じゃないだろ。)

 (言っただろ。本気で相手するって。)

 (テレパスとか余裕かよ。)

 

 テレパスは学校に入ってからすぐに学ぶ初期魔法だ。魔力を使い任意の相手の脳に直接話しかけることが出来る。

 

 (余裕ではないけど楽しくなっちゃってね。テレパスの魔力は負担してあげるから安心して。)

 (あまりなめんじゃねーぞ。)

 

 まだ、ステージ上の範囲魔法は解けていないが関係ない。滞空時間を伸ばすための魔力を解除し、両手の平に魔力を込めた。そのまま、掌から地面に落下する。

 

 ドーーーン!!!

 

 と大きな音が鳴り白い蒸気がもくもくと上がる。観客席にもそれは広がり、ステージ上の様子が確認できない。煙がはれた時、皆が目にしたのは倒れている俺の姿だったろう。

 

 (…く…そっ…。)

 

 (降参しなよ。これ以上は無理だろう。)

 

 無情にもそんな声がテレパスで届けられる。降参なんてしてたまるか。俺は勝たなきゃならないんだ。

 

 ステージ上に流れる範囲魔法を両手の平に集めた魔力で消し去り、その勢いのまま足に魔力を送り、オーラティーラの懐に入った所までは良かった。そのまま奴を攻撃すれば、この試合はそこで終わっていたはずだった。

 

 だけど、オーラティーラは懐に飛び込まれても全く焦ることはなかった。

 

 「待っていたよ。アルバードなら来てくれると思った。」

 

 無邪気な笑顔を見せながら、オーラティーラは杖に魔力を集め、奴の得意魔法である光属性魔法を至近距離で打ち込んで来たのだ。

 

 咄嗟に体全体に魔力を張り巡らせて防御体勢をとったが、オーラティーラ全力の魔法の前では守りきることが出来ず、その衝撃で吹き飛ばされて俺はステージに倒れることになったのだ。

 

 ステージに指を立てるようにして、俺は立ち上がろうとするが、体に力が入らない。オーラティーラは杖を手にしたままこちらを見ている。審判の先生が試合を止めるべきか俺のもとに近寄ってくる。

 

 防御魔法の展開が一瞬でも遅かったら、気絶していたところだった。それを免れたのは幸いだが、ダメージが大きすぎるし今ので魔力をほとんど使いきってしまった。

 

 それでも負けたくないんだよ。

 

 残った魔力を体全体に張り巡らせ、無理矢理立ち上がる。審判の先生が無理はするなと言う。ここで無理をしないでいつするんだよ。

 

 「試合続行!」

 

 俺の意を汲んで先生は続行を決断してくれた。ありがとう。と目礼をした。

 

 「無理するなよ。あまり君を痛め付けたくないんだけど。」

 「へっ、それならお前が降参してくれよ。」

 「それは出来ないな。」

 「だろうな。」

 

 オーラティーラもまた、近衛兵長を目指しているのだ。こんなところで俺に価値を譲るわけがないよな。というより、俺はこいつに堂々と勝って優勝するんだ。

 

 残された魔力はごくわずか。これが最後の攻撃になる。オーラティーラもそれを分かっている。杖先を俺に向けて笑みを消し真剣な顔つきになる。

 

 「来なよ。」

 「ああ。」

 

 体に残った魔力をかき混ぜる。高濃度の魔力が高速で体中に行き渡り力が満たされていく。

 

 これが今出来る最後の技だ。これで決めてやる。オーラティーラが杖先から撃ってくる魔法を避けつつ、奴との距離を詰める。さっきのように魔法に当たらないように気をつけながら、確実に距離はつまった。今だ!

 

 「くらえっ!!!!!」

 「負けるか!!!!!」

 

 最大威力で攻撃を放つと同時にオーラティーラもまた攻撃魔法を放っていた。最初とは比にならないくらいの大爆発音と共に俺は意識を手放した。

 

 

 * * * * * * * *

 

 気がつくと医務室にいた。在学中に何度も世話になったから、すぐに分かる。試合はどうなった?

 

 起き上がろうとすると、すさまじい痛みが体に巡り呻き声が出る。

 

 「気がついたんだね。」

 

 閉めきられたカーテンが開き、入ってきたのはオーラティーラだった。備え付けの椅子を手際よく取り出し腰かけた。

 

 俺ほどではないがオーラティーラもあちこちを怪我している。顔や腕など見えるところに包帯や絆創膏で手当てされており痛々しい。やったのは俺だけども。

 

 「まだ起き上がらない方がいい。回復魔法が効くにはややかかる。」

 「試合はどうなった!」

 「僕の勝ちだよ。」

 

 オーラティーラが懐からメダルを取り出す。金色をしたメダルは優勝者の証だった。

 

 最初に感じたのは悔しさ。目の前にいるのがオーラティーラじゃなければ声をあげていたはずだ。それをすんでのところで思いとどまったのは、優勝者のこいつが目の前にいたからだ。必死に感情を押し込める俺を前に、オーラティーラは何も言わない。

 

 「ってことはお前が優勝したってことか。おめでとう。」

 「ありがとう。」

 

 敗北した俺の前で、こいつがどう思っているのかは分からない。おめでとうと言われたのでありがとうと言った程度のことだと感じた。優勝しておいて、喜べよ。と思う一方、そうされたなら、俺も気持ちを押さえられなくなりそうだ。と冷静に思う自分もいた。

 

 というか、なぜこいつがここにいる。卒業試験で優勝したものは近衛兵の入団が確実。試験後に上げるの祝宴の主役となるのが通例だ。医務室は薄暗く、気絶していた時間の長さが物語っている。

 

 「お前、祝宴に出ないのか。主役が出ないでどうするんだよ。」 

 「問題ない。挨拶は済ませた。」

 

 試合が終わったオーラティーラは気持ちが落ち着いたのか、多弁ではなくなっていた。

 

 「ああ、お前が落ち着かないなら外に出ている。」

 「そんなことねーよ。」

 

 心を見透かされた気がして、俺はこいつを引き留めた。引き留めたが何を話していいか分からない。

 

 「お前のメダルは先生が持っている。」

 「そうか。」

 

 準優勝の銀色のメダル。正直、受け取らなくてもいい。俺が目指していたのは金色のメダルだったのだから。

 

 「アルバード。」

 「なんだ?」

 「怒っているか?」

 

 オーラティーラの表情に変化はなかったが幼い頃からの付き合いだ。こいつがこれを聞きたくて残っていたのは分かる。

 

 「お前が勝ったことをか?あの場で手を抜かれた方がキレてたさ。お前が勝ったのはお前の実力だ。遠慮することなく誇れよ。」

 「そうか。」

 

 それだけ言うとオーラティーラは目元をちょっと和らげた。こいつは昔は引っ込み思案で俺の後ろをついてまわっていた。先に行かれるようになったのはいつからだろう。

 

 「さて、俺はこれから一人反省会を実施する。お前は祝宴に行ってこいよ。」

 「ああ。」

 「近衛兵になるには他にも方法がある。俺は必ずお前に追い付いてやるさ。」

 「待ってる。」

 

 そう言って医務室から出ていくオーラティーラ。一人残された俺は悔しさで拳を握る。全身が痛んだが関係ない。

 

 「…必ず追い付いてやる。」

 

 今は存分にこの悔しさに浸ろう。明日からはまた近衛兵を目指し力を磨く日々が始まるのだから。

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