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新たな同盟

「同盟? 俺と?」


 夜中。

 誰もが寝静まった頃、簡易テントの中でニルヴァーナはハナから提案を受けていた。


「ええ。どのような同盟にするかは話し合いを重ねるべきなんだろうけど、とりあえず手を組みたいって話。私たち単独じゃあ、削られた勢力を回復させるのも大変だし。その間に攻撃されかねない」

「……なるほど」


 ニルヴァーナは顎をさすりながら、考える。

 しゅしゅっと、二人の間に置かれた水が沸騰する。ハナのものだ。話ついでとお茶を出してくれるらしい。ニルヴァーナにとっては初めてだ。

 何せ、ニルヴァーナは食事を必要としない。土から栄養を摂取しているからだ。


「確かに、俺としてもハナたちと仲良くしておくに越したことはないから、明確に断る理由なんてないぞ」


 ニルヴァーナも、まだまだ弱小勢力だ。

 部隊の再編も途中であり、やることはたくさんある。

 しかし、問題があるのも見過ごすことはできなかった。坊の存在だ。


「だが、坊はどうするんだ? 俺はタマを精霊王とする目的で動いているんだ」

「そのことだが、坊は精霊王なんて目指さないぞ」


 ひょこっとテントに入ってきながら、坊はいきなり宣言をした。


「坊」

「坊は元々精霊王には興味なんてないからな。兄弟たちはそうじゃないみたいだけど、坊には関係ないことだ。だから、タマって子が精霊王を目指すなら、バックアップするぞ」


 坊は堂々といってのけた。

 さすがに呆気にとられていると、坊は気にする様子もなく歩き、ハナの膝の上に乗る。

 すんすんと鼻を鳴らした。


「坊、いいのか?」

「構わないのだ。坊は静かに暮らしたいし、そのためならがんばるぞ」

「私としても、坊が本心だから構わないと思ってるし、ありがとうってお礼をいうだけじゃ済まされない恩をもらってる自覚もあるからね」


 二人の言葉を、ニルヴァーナは吟味する。

 坊が完全にバックアップへ回ってくれるのであれば、かなりの箔がつく。他勢力に対する影響力はかなり大きくなるだろう。そう易々と手を出されることはなくなるだろう。時間を稼ぐことができれば、こちらもやりやすくなる。

 加えて、魔女であるハナの存在。

 防人の魔女という名は有名だ。

 そんな存在が仲間につく、となれば、こちらも影響力が高い。単体の戦力としても期待値は非常に高く、今後の活躍が期待できた。


「単なる同盟なら、三国同盟になるな」

「ニルヴァーナを主導とすれば、不可能ではないわね」

「だが、それだと形式が悪いのだろう」


 ハナの反応を素早く見抜いて、ニルヴァーナは口にする。


「坊の格は高いからな。かえって反感を生む可能性がある」

「となれば、ランタンの森とダークロウの森を統合すればいいんじゃないか?」


 提案をしてきたのは、カエンタケだった。

 こちらもさっとテントに入ってきて、ニルヴァーナの隣に座る。鋭く屈強な眼光を光らせながらも、気配は穏やかだ。

 カエンタケはするすると言葉を紡いでいく。


「以前から考えていたことではある。同盟関係では、やはりできないことが出てくる。特に今のパワーバランスを考えると、な。タマは準精霊で、お前はもう純精霊だ。二つも魂の格が変わると、やはり違う」

「なるほど」

「だから、統合しても構わないと思う。もちろん、タマを精霊王にさせるという目的は変わらなくて構わないんだがな」

「となると、形式上のトップはタマになるってこと? ニルヴァーナは、さしずめ関白ってとこかしら」


 ハナの確認に、カエンタケは頷いた。

 ニルヴァーナの思考は一瞬だった。実質、何も問題はない。タマの性格上、ニルヴァーナに口出ししてくることはないだろうし、ニルヴァーナも酷いことをするつもりもない。

 むしろ、森を発展させるためには惜しげもなく助力してくれるだろう。


「だとすれば、問題はない。俺としても構わないぞ」

「その形式が取れるなら、こちらも統合してもらって構わないわよ。さすがに坊の森までは無理だけど……委託という形も取れると思うわ」

「なるほど。それなら支援の手は出しやすくなるな」

「ニルヴァーナには負担かけちゃうけどね」

「いや、問題ない。俺の勢力に組み込んでもらえるなら、これ以上のものはない」


 時間さえあれば、一気に勢力は膨れ上がる。

 その時間も稼げるとなれば、ニルヴァーナにとっては最良の条件だった。


「じゃあ纏めるわよ。ダークロウの森を中心として、ランタンの森と私の森を統合。坊の森は委託運営。トップはタマで、関白としてニルヴァーナ。オッケーかしら?」

「ああ。問題ない」

「それじゃあ、その手筈で色々と進めていきましょう」


 ハナの分かりやすい要点まとめに、誰もが頷いた。


 それからは早かった。


 ニルヴァーナたちは一旦ダークロウの森へ戻り、統合を表明。

 これによりニルヴァーナの領土は一気に拡大し、ランタンの森、カートナの森を支配下に置く。更に坊が次期精霊王としてタマを推薦すると同時に、加護を与えた。

 この効果は凄まじく、タマとカエンタケが準精霊から精霊に格があがった。

 また、周囲の勢力からも一目置かれることになる。


 ニルヴァーナはその間、素早くカートナの森に自分の眷族たちを配置し、システムを整えていく。特に国境の防備と警戒に力を入れた。

 また、更に森を豊かにするべく、それぞれの森のよい特性を混ぜていき、魔素をさらに濃くし、森を発展させていった。

 これにより、次々と動物や植物たちが精霊化を始め、影響を受けていない動物たちも集まるようになっていった。


 結果、ニルヴァーナは僅か一ヶ月で人口を倍化させた。


 嬉しい反面、悩ましいことでもあった。

 兵士として戦える能力を持つ精霊ばかりではないからだ。むしろ、多くが脆弱である。

 対策が必要だった。


「どうしましょうか、主様」

「集落を作るしかないだろう。それぞれに仕事を割り当てて、森を支えてもらう」

「集団になってもらった方が、管理もやりやすいですしね」

「種族に拘らず、各々の適性で振り分ける方がいい。能力主義でいくぞ」

「かしこまりました」


 すぐにリタが指示を送っていく。


「後二ヶ月もすれば、戦力のとりあえずは揃うが……部隊再編が必要だな」

「そうですね」

「空中戦闘を主流としてる部隊を作る。哨戒役にもなれるしな。空の騎士団を結成するぞ」

「となると、ハナさんが団長になる感じですか?」


 主戦力は間違いなく、ハナが従える昆虫たちの精霊になる。


「いや、ハナは特殊部隊の構成をしてもらうから、そのまま昆虫精霊たちの族長が団長をやればいいと思う。どちらにせよ、統括はカエンタケだからな」


 森を統合したことによって、カエンタケは事実上ニルヴァーナの家臣だ。

 リタの負担を考え、軍団の統括はカエンタケに全て任されていた。これにより、騎士団も再編されて名称が変わっている。


 精鋭たる親衛騎士団と、土の騎士団だ。そこに、空の騎士団を加える算段である。


 空の騎士団の狙いは、機動力と多角的攻撃だ。

 土の騎士団は多岐にわたるし、黒狼は高い機動力があるが、やはり昆虫精霊たちと比べると劣る。うまく連携させれば、強力な戦力になるのは明白だ。

 且つ、土の騎士団は構成員が膨れ上がっているので、後々分割する予定だ。多種にわたっているので、足並みがそろわなくなる恐れがあった。


「ハナには魔法部隊を結成してもらおうと思っている」

「魔法……!」

「アンデッドの戦いで思い知らされた。魔法がなければ通用しない敵もいる。そうなった時、非常に困るからな。今のうちに対策を整えておくべきだ」

「となると、騎士団の中から魔法適性の高いのをピックアップですね」

「ああ。そうなる。ここはハナに任せよう」


 ハナには使い魔たちがいる。

 彼らは総じて魔法を使えるので、いい指南役にもなってくれるだろう。


「ねぇ、ぺんぺんーっ!」


 ばん、と扉をけたたましく開けて入ってきたのは、タマだった。ほとんど半泣きの状態でニルヴァーナにとびついてくる。

 ぐき、とニルヴァーナの首に負荷が強くかかる。


「もうヤだよーっ!」

「何がだ。ってきくまでもないか。また嫌になったのか」


 半ば呆れながらニルヴァーナが問うと、タマは何度も頷いた。


「ダメだ。戻りなさい」

「でも、でもーっ!」

「これも精霊王になるためだろう」

「確かにそうだけど、こんなに大変だとは思わなかった……」


 タマはだだをこねながらニルヴァーナにひっついて離れない。

 思わずため息が漏れる。

 精霊王になるためには、単に名乗りをあげればいいわけではない。相応の知識と魔力を持った上で、儀式魔法をこなさねばならない。他にも高い教養を求められる。


 タマには足りないものばかりだ。


 そんな教育を、タマは坊から施されていた。

 見た目は完全にうり坊で、性格も完全に子供ではあるが、教養等に関しては、さすがの一言だった。


「タマ。誰もが笑える、そんな森にするんだろう?」

「そ、それは……」

「であれば、今、ここで頑張らねば、それは叶わないぞ」

「うぅ……」


 ぐずる様子を見せるタマの頭を、ニルヴァーナは優しく撫でた。


「今日いきなりすぐ精霊王になるわけじゃない。だから、ゆっくり覚えていけばいい」

「ぺんぺぇん」

「これは、タマにしかできないことだからな。しっかりと頼んだぞ」

「うん……分かった」


 タマはうなだれながらも、踵を返す。その背中が哀愁を帯びていて、ニルヴァーナは少し後ろ髪ひかれた。


「タマ。勉強が終わったら、一緒に遊ぼうか」

「――っ! ほんとっ!?」

「俺もたまには息抜きが必要だからな。ちょうどいいさ」

「やったー! 約束だからね! タマ、がんばってくる!」


 数秒前とは打って変わって、タマはテンションをあげて部屋を後にした。

 しん、と静かになる。

 少し居心地が悪いなと思うと、リタが何か複雑そうな視線を送っていた。ニルヴァーナは一瞬怪訝になるが、すぐに意味を理解した。


「……ああ、その。リタ。お前も一緒に、遊ぶか?」

「主様のご命令とあらば、よろこんでっ!」


 もし尻尾があれば、リタは全力で振っていただろう。そんな笑顔だった。


「じゃあ頼んだぞ」


 そして――三か月後。

 事件はまたやってきた。


次回の更新は明後日以降です。


新連載始めました。よければ読んでください。

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