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リタの奮闘

 ──グドォォォォォンッッッ!!!!


 地震を起こし、空を震わせる轟音。全てを呑み込む閃光は、一瞬で破壊を伝え、周辺の全てを無に帰す。

 空気さえ蒸発させ、光の奔流は爆風となって周囲を襲う。


 その破壊の最中、ニルヴァーナは気絶した。


 倒れた直後、どこからか伸びてきたツタにからめとられ、回収される。リタだ。

 素早くニルヴァーナを抱き寄せ、そのまま眷族たちに託して後方へ。

 まさに、全身全霊。一つの容赦のない一撃はまだ周囲に余韻を与える。副産物的に生まれた空白の時間を利用して、リタは構えた。


「弓矢隊、遠当て用意!」


 矢を限界まで引き絞り、リタは指示を下す。

 周囲にたちこめる煙の中、狙いは正確につけるなど不可能。ただ、動揺の気配と、布陣の記憶が頼りだ。


「狙いは左翼の一団。命中はそこまで意識するなよ。ってぇっ!」


 号令を下すと、矢が放たれた。

 次々と飛んでいく中、リタも放つ。暴風をまとった矢は凄まじい速度で矢の群れに追いつき、そのまま弧を描いていく。


 ごぉん!


 と、鈍い音。遅れて、悲鳴。

 どうやら上手く着弾してくれたらしい。一気に大混乱の様相だ。リタはそのまま次々と矢を放たせ、左翼の大打撃を狙う。


「──まったく。度肝を抜かれるとはこのことだね!」


 突如暴風が吹き荒れ、煙を全て弾き散らす。同時に大量の闇色のつぶてが放たれ、矢のことごとくを撃墜した。

 リタは冷静に目を細め、手信号だけで後退していく。


 肌で分かる。


 危険な魔力。おそらく、敵方のボス。ハナから聞かされていた、アリーという悪魔だ。

 リタは即座に戦線をやや後退させつつ、迎撃の姿勢を整える。こちらの得意戦法は遠距離攻撃だ。だが、今ので封じされたに等しい。


 《あいつをどうにかして封じ込めないと、ジリ貧でしかない……か》


 煙が消えたことで、ニルヴァーナがどれだけの破壊を見せたのかがよくわかる。

 サイクロプスとゴーストの軍団は、文字通り潰滅。気配さえ見当たらない。そればかりか、森の木々を薙ぎ払い、コボルトとレッドキャップの一軍にもダメージを与えている。


 軍との戦いであれば、これで五分。


 采配次第では、有利に立ち回れるはずだ。

 物陰に潜みながら、リタは考える。


「連発してこないところを見ると、一回限りか、次回の使用に時間がかかるか……どっちにしても、もう大丈夫だけど」


 何もなくなった大地の上で、アリーは仮面に指先を触れ、ひっかく。


「切り札があっさりと全滅させられた。随分と勇敢な判断だが……──蛮勇だな」


 魔力が渦巻く。

 それはリタの全身を襲い、鳥肌を立たせる。ニルヴァーナにも匹敵するような魔力量だ。


「知っているぞ。噂は少しだけ耳にした。精霊王が認めた最後の後継者にして、あの荒くれ者、ファルムを電撃的に制した新人の精霊」

「……──!」

「ランタンの森の姫を擁立し、弱小ながらも勢力を伸ばしつつある。とはいえ、まだまだ警戒に値するものではない、というのが周囲の反応」


 アリーはまだ魔力を増幅させていく。


「ファルムは確かに凶悪だが、軍を率いることに関してはずぶずぶの素人だからな。搦め手を使えば、いくらでも潰せる。だから運も手伝ったんだろう、とな」


 リタはぐっと我慢した。

 明らかな挑発だと理解しても尚、侮辱的すぎる。ニルヴァーナやカエンタケが、どれだけの死力を尽くしてファルムをくだしたのか。


 《今、怒りに堪えられず飛び出せば、それこそ主様が浅はかだと馬鹿にされてしまう》


 リタは強い忠誠心で制し、ニルヴァーナの言葉を思い出す。


 《相手は賢い。だから、そういう観点から考えていくと……この挑発、ただ私をおびき寄せようとはしていない》


 リタの頭が一気に冷える。

 足の裏から根を伸ばし、眷族たちへ指示を下した。相手の最強がわざわざ出てくるのは、単純に挑発するだけではない。


 《布陣の立て直し、だけじゃない。きっと……──》


 リタは即座に切り札を切った。


 《後衛、中央布陣にありったけを! 黒狼部隊は左翼から侵入、空中部隊は援護、親衛隊はサポート!》


 全軍が動く。同時に、リタは猛毒をたっぷりと仕込んだ爪をアリーに向けて放った。

 即座にアリーは黒い弾丸を無数に放ち、爪を迎撃すると同時にリタへ攻撃する。読んでいたリタは地面を踏み抜き、配置しておいた植物の壁で防いだ。


 《さすがに金の力。盾が一撃で六割以上削られた!》


 腐食し、朽ちていく植物の脇をすり抜けつつ、矢を三本つがえ、射る。直後に移動し、また矢を射る。

 アリーはその矢を撃墜、また攻撃を仕掛けてくるが、リタは防ぐ。


「なるほど? 遠距離から攻撃仕掛けて僕を封じ、軍勢を仕留めるつもり、か? 優秀な指揮官のようだね。でも、綺麗で分かりやすい」


 アリーが動く。

 リタの目で追うことが難しいくらいの俊敏さで、距離を恐ろしい勢いで詰めてくる。ちっ、とわざと舌打ち。


「短気だね!」


 すかさずアリーが仕掛ける。黒い弾丸は木の幹を穿ち、へし折った。

 その直前にリタは脱出し、隠れる。


 《考えろ。考えろ考えろ考えろ》


 リタは罠を仕掛けつつ、次々と矢を放つ。

 その間に、各々の族長たちが連携をとって敵陣を切り崩していく。


「無駄だよ。僕が罠だと気付いてないと思ったのかい? 誘い込んだんだよ」


 アリーは一切動じず、地面を踏み抜いた。

 ズゥン、と鈍い音と同時に、巨大な魔法陣が出現し、周囲の栄養と魔素を根こそぎ奪っていく。

 咄嗟にリタは飛び退く。

 魔法陣からどろどろと出てきたのは、アンデッドだった。──しかも、ゴースト。


 《10や20じゃない……》


 だが、リタは慌てない。

 予想の範疇だった。敵の狙いはこちらの分断。背後から攻め立てるつもりだろう。

 混線に持ち込まれると、こちら側の不利は絶対的に避けられない。さらにゴーストであれば、こっちは対処できない。

 リタは後退しつつ物陰に潜み、味方陣営へゴーストの出現を通達する。これで少なくとも奇襲はされなくなった。


「さぁどうするんだい?」


 アリーはにやにやしながらこっちを見てくる。召喚されたゴーストは全部で40。とてもリタ一人で対応できる数ではない。

 そう、リタ一人であれば。

 冷静に自分を落ち着かせ、リタは風を纏った矢で、ゴーストを狙撃。

 真横から直撃を喰らったゴーストは、あっさりと霧散していく。


「へぇ、一体ずつ倒すの?」


 嘲る調子のアリーを無視し、リタはひたすらに狙撃していく。魔力がどんどんと削られていく。リタは周囲から魔素を吸って補充していくが、やはり放出量が勝る。

 消耗していく中、アリーはリタの努力をむげにする。また足を踏み抜き、リタが倒した分だけゴーストが補充されたのだ。


 《よし、それでいい》


 リタは深呼吸して魔素を吸い、また矢を射る。アリーの嗜虐心を刺激するように。


「ははは、健気だね! そうやって少しでも数を減らしてやろうって魂胆かい? それと時間稼ぎだ。本当に分かりやすい!」


 アリーが両手に黒い球体を幾つも生み出す。それらはまるで意思を持つかのように各々で機動を描き、回り込むように迫ってくる。

 即座にリタは地面を蹴った。

 黒い球体は轟音を撒き散らし、周囲を腐食させていく。狙いが鋭くなっていた。


「君程度が、僕と少しでも渡り合おうとすれば、必然的にそうなる、か。無駄なことなのにね! 距離を取りたいなら、拒否しよう!」


 アリーが動く。

 ふわりと浮遊し、急加速。リタはすかさず後退するが、アリーの方が素早い。

 接近戦を覚悟し、リタは全身を植物で覆って硬化した。


「さぁ、どれだけたえられるかな!」


 アリーが片腕を振るう。放たれたのは、黒いシャワーのような閃光。たまらずリタは右へ飛び出し、受け身を取れずに地面を転がった。

 そこに、アリーがやってくる。

 禍々しく、右腕を変化させていた。


「──くっ!」


 禍々しく肥大化した腕が振り下ろされ、リタはクロスガードで受け止めた。

 みし、と腕が軋み、殴られた衝撃が全身を貫通して地面を穿つ。


「かはっ」


 衝撃波と、苦悶の吐息。

 硬化させたにも関わらず、リタの両腕はぐちゃぐちゃに砕かれてしまった。激痛と衝撃に呻きつつ、リタは次の一手に出る。


「はああああああっ!」


 リタの魔力を吸い上げて、植物たちが一斉に襲いかかっていく。さすがに驚異を感じたか、アリーは飛び退いた。

 リタはすかさず飛び上がり、腕を再生させながらアリーに迫る。


「無駄だよ!」


 素早くアリーが態勢を取り戻し、黒い球体を生み出し、盾にする。リタは植物たちで拳を覆い、構わず殴り付けた。

 鈍い打撃音。

 直後、リタの拳を覆っていた植物のツタたちか痩せ衰え、朽ち、腐っていく。

 その腐食はリタの拳にまで到達するが、リタは構わず拳に力を入れ続け、盾を突破する。


「でやああああああああああっ!」


 ばきん、と盾が砕け、勢いをつけたリタはボロボロの拳でアリーを殴り飛ばした。

アリーの胸を捉えた一撃に、衝撃音。アリーはそのまま地面へ叩き落とされた。だが、リタは追撃できない。


「ちっ」


 アリーが周囲に黒い球体を無数に生み出したせいだ。危険を感じ、リタは距離を取った。


「あは、は、ははは。その程度か」


 アリーはゆっくりと起き上がる。ダメージらしいダメージはない。

 対して、リタは大ダメージを受けていた。拳から肘にかけて腐食され、枯れている。強引に引きちぎって再生を始めるが、高速再生させるには魔力が足りない。


「君の渾身は僕に届かなかった。残念だね」


 アリーが全身から魔力を高める。すると、ゴーストたちも近寄ってきた。このままリタをなぶり殺しにするつもりだ。


「さぁ、終わりだ」

「……──それは、どうかな?」


 アリーの確信を、リタは嘲笑ってやった。



次回の更新は明日予定です。


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