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8.爆発した雨

 ~~~~~~~~~~~~~~~




「――――おい、嘘だろ」


 ――――気絶している。

 雷のようなものを間一髪で避けきることができたが……これはマズい。

 クッソ。トーカを抱えながら、この化け物みたいなヤツを振り切ることができるのか!?

 ……いや、やるしかない。やらなきゃいけない。


「――――クッソォォォォォォォォォ!!!」

 トーカを抱えながら走る。やっぱり重い! 振り切れるのか!?

 死に物狂いで走る。走る。走る。


 ――――あ。


 どんなに走っても、眼前にはソイツがいる。走っても、走っても。

 息が切れ、声が枯れ、五臓六腑が弱り、腕や脚が痛んで疲れるほど走っても、走っても、ソイツがいる。

 ……どうすればいい。トーカを身代わりにすれば多少は時間稼ぎができるだろうけど、そんなことはしたくない。

 ……奇跡、奇跡が――――起きてくれれば。

 起きろ、起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きてく――――




 ――――とても大きな衝撃が私達を襲う。立っていられない。


 ――――キィィィィィィィィィィン。耳障りな音がする。

 ……の心の中のような音。気持ち悪い。……耐え……られない。

 手で耳を塞ぐが、これは気休め程度でしかない。

 クッ、あの化け物は……?


 ――――ネチョリ。


 ――――え。左足が何かドロドロした液体のようなものを踏む。

 こんな深紅色の気持ち悪いもの……どこに。

 それより、あの化け物――――


 ……もしかして。


 辺り一帯に錆びた鉄のような臭いがする。予想は大当たりだった。




 ――――私が踏んだそれは、あの化け物……トーカのお母さんだった。






 ――――誰が殺った?






 ――――ピクッ。それが少しこちらに向かって動く。

 ……生きてる。これだけズタボロになっても、まだ死なないというのか!? ……やっぱり、化け物だ。

 でも、さすがにそのからだじゃ、襲えないか。

 今のうちに逃げよう。

 私達をこんなにした元凶だが、その化け物は一応、トーカのお母さんだ。殺す気にはなれない……。

 私はトーカをしっかりと抱え、その場から離れる。


 ……やっぱり、殺しておいた方がよかっただろうか。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――トーカとこれからのことを話す。

「……なあ、どうしようか」

 聞いてはみたが、とりあえずこの後どうするかは考えていた。


「――――アメさんとリールを捜す。アミュと合流する前にいっしょにいたんだけど、魔法みたいなやつで急に消えちゃって……」

 ……あの金髪女は信用できない。


 ……ん? もしかして、金髪女とリールがいっしょに消えたのか!?

「……おい、まさかリールはそのパツキン頭といっしょなのか!?」

 冗談じゃないぞ! 殺されていてもおかしくない。

「わからないけど、たぶん……」

 予定変更だ。シピス辺りを捜そうと思っていたが、それはとてもとてもマズい。本当にマズイ。


「――――トーカ、今すぐだ。今すぐ、リールとソイツを捜して、ソイツのドタマをかち割ってやる!」

 腕を掴まれる。そして――――ピシッ。それはビンタだった。叩かれたところが赤くなっていると思う。痛い。

「……アミュ……アミュ! あれは、きっと、何か理由があってああしたんだよ! もし、本当に殺すつもりなら……私やリールだって殺されていたはずだよ」

 ……冷静さを欠いていたのかもしれない。言われてみれば、そうかもしれないと思ってしまった。

 いや、でも、それだとヴィネの分の怒りが……。

 鎮まらない。やっぱり、あのスカしたようなあのパツキンに平手打ちを食らわしてやりたい。

 ……焦っていることがよくわかった。

 私は、小さい頃から焦るとよく何かで失敗していた。

 だから……この気持ちを抑えなければ。

 ゲームをしているわけじゃないんだ。失敗したら――――死ぬ可能性が非常に高いんだ。

「……ゴメン、トーカ」

 さっきの発言を謝る。

「……」

 トーカは無言だった。顔が曇っている。

「もう少し休んだら動こうか」

 私はそう言って、俯く。俯きながら、いろいろと考える。

 あの、金髪女ァ……。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――ポチャン。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




「――――そろそろ行こうか」

 軽く肩を回しながら言う。

「……うん」

 頷く。と、同時に、何か考え事をしている気がする。

 言おうか言うまいか悩んだが、言わないことにした。


 ――――力強く歩く。一歩一歩前へ前へと進む。

 しばらくすると、五叉路に差し掛かる。

「……どこを通るか」

「……あっちに行こう」

 すぐ左にある道を指す。

「……ん」

 トーカの手をしっかりと握り、その道を進む。

 少し進むとそこには――――


「――――公園?」

 この世界に同化するように、白と黒の何かで構成されているが、それは公園のようなものだとわかる。

「……遊んでいる暇なんて今はないから、行こうか」

「……うん」

 何処と無く、残念そうな気がした。無事にみんなで帰れたら……また、遊びたいな。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――ポチャン。ポチャン。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――しばらく進むと……教会……? の、ようなものが右側に見える。

 こっちの世界にも教会とか……あるんだ。……なんというか、幻想的。

 ……いや、この世界が幻想なのかもしれないけど。


 ――――明かり? 教会には明かりが灯っていた。この世界では珍しいと思った。


 ――――ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。腹の音?

「……あ、ごめんアミュ、お腹がへって……それで……」

 ……無理もないと思った。この世界にはスーパーとかコンビニとかそういった店らしきものが見当たらない。あったとしても、通貨がこっちで使えるのかもわからない。

 まさか、家らしきものすら見当たらないとは……。

 ……つまり、早くこの世界を出ないと餓死してしまう。それは避けなくては。

 やっぱり、焦ってしまう。深呼吸でもして落ち着こう。

「……この教会に食糧……あるだろうか」

「……入る?」

 あまり時間を費やしたくない。

 ……でも、いつ、もとの、私達の暮らす世界に戻れるかわからない。

「入るか」

 教会の中に入る――――




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――ポチャン。ポチャン。ポチャン。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――中は……やたらと暑いな。30度くらいはあるように思える。ただでさえ、衰弱してきているというのに、この暑さか。

 熱中症で死ぬのもゴメンだ。そう、思った。

 教会の中を隈無く探すが、食糧がある気配はない。そりゃそうか。

 と、思っていたら――――


「アミュ、ここに何か食糧っぽいものがあった!」と、トーカが言う。食糧っぽいもの? はて。


 ――――肉。

「……トーカ、それはやめておいた方がいいと思う。生だし、腐ってる可能性もあるし、それに……」

「それに……?」

「……いや、なんでもない」

 誰かが殺されて、その肉かもしれない……なんて、言えなかった。

「まあ、そうだよね……」

 ……ん、あれ?

「……トーカ、あそこにあるのはパンじゃないのか?」

「あれ、ホントだ」

 それにしても、教会の中にパンって……。もしかして、ここは教会ではない? まあ、なんにせよ、ラッキーといえばラッキーか。

 ……なんか、盗みをはたらいているようで、罪悪感を感じる。

 心中で教会に対して「ありがとう」と言い、教会を出る。


「急ごう……」

 小走りで進む。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――ポチャン。ポチャン。ポチャン。ポチャン。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――しばらく進むと、今度は三叉路に差し掛かる。

 さて、これまたどっちに行くべきか。右かそれとも左か。

 ……左に行こう。


「――――グワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


 ――――なんだ、不快で耳にキンキンとくるこの声は。


「――――お母さん」

 ……お母さん!? あんだけズタボロな状態で、まだ動けるっていうのかよ。風貌もさながら化け物のようだし、コイツはいったい……?

 ……クソッ、やっぱり殺しておくべきだったか。


「――――トーカ、お母さん……殺そう」

「嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」

「……そんなこと言っても……こんなの、人間じゃない! こんなのを連れていけるわけないだろッ!」

「アミュ、逃げよう! 逃げるんだよ!」




 ――――『逃げる』?




 ……トーカ、あのときもあのときもあのときも……ずっと前の『あのとき』だって逃げてきたじゃないか。逃げてばかりで何ができるっていうんだ。

 そんなんだから、そんなんだから! そんなんだからお前は……。


 ――――そういえば、なんで逃げることに拘るんだ? 逃げるしか手段がないわけじゃない。そもそも、お前――――左腕のそれは……!




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――ポチャン。ポチャン。ポチャン。ポチャン。ポチャン。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




「――――殺すしかない」

 もともとはおやつを切るために持ってきたナイフだったけど……。

 それを右手で握りしめる。ギュッ、ギュッ、と、力強く握りしめる。


 ……とても、痛い。でも、力がからだの底という底から湧きあがってくるような、そんな感じがする。

 ヤツに向かって突進を試みる。


「――――ウオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」




 ――――何処からか、血飛沫が飛ぶような音が聞こえる。ブシュウッ、ブシュウッと。

 ふと、ヤツを見ると、ヤツのからだが紅い紅い血で染まっていた。

「アアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ……ゴガガガガガガガガガガガガガガガガガ……ギギギギギギギギギギギギギギギギギ……」

 ヤツは人間には出せないような、狂気じみた声を発した次の瞬間。




 ――――え?


 ――――ヤツのからだが爆発し、それは粉微塵となり、もう、どれがヤツなのかすらわからなくなっていた。いったい、何が起こったのか。


「――――え? お母……さん? ねえ、お母さんは!? お母さんは!? ねえ、お母さんは!!!!? ……うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 ――――悲しい叫びはいつまでも止まなかった。


 8.爆発した雨 END


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