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7.錯乱した雨

挿絵(By みてみん)

 ――――白と黒。

 白と白で黒を挟めば、黒は白になる。

 黒と黒で白を挟めば、白は黒になる。

 白。黒。白。黒。白黒。

 いつまでも白と黒に幻惑され、視界から光を失い、やがて力尽きて果ての果てには……。

 ……冷たい。何かが左肩に落ちたような感覚がする。でも、かなり軽い。

 左肩を見ると、そこには……雪。

 黒い黒い、漆黒の世界が、雪で白く白く染まっていく。

 優しさと、冷たさが入り交じったような、妖しく光る、その雪で、この心を洗ってくれ……。どす黒く、歪で、脆く、薄汚い、救いようのない、この、心を。

 ああ、妖しく光る魔法よ……私に、もう少しの間、力を貸してくれ。

 この身が屍と……なるまで――――




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――チリーン、チリーン。

 始まりはいつも、この鐘の音だった。

 心が落ち着く……優しい優しい鐘の音。鐘なのに、鈴の音のようで。

 ずっしりとしているのに……それから聞こえてくるのは優しい音。

 お父さんに頭を撫でられているような……お母さんに抱きしめられているような……優しい優しい音。


「――――行ってきます」


 私は、その音に応えるように、優しく優しく扉を開ける。


 ――――森へ急ぐ。きっと、あのこ達が待っている。


「……」


 ……このワクワク感はなんだろう。

 ……この孤独感はなんだろう?

 走る、走る。小さな橋を渡り、奇抜な建物を通りすぎ、花畑を抜けると……そこには森がある。


「……」


 遊び場まではもうすぐだ。


 ……遊び場に近づくと、既に人がいた。おそらくあのこ達だ。

 私は今日もいっしょに遊ぶ。


「……」


 手を振りながら「おーい!」と言って、近づく――――


「――――お前……『誰』だ?」

 ティビィがきょとんとした感じで言う。

 私は「これは……ティビィのいつものギャグだね! うん! 間違いない!」と、ポジティブに解釈し、そのノリに合わせる。

「おうおうおう~、それはないよー! ドドドン! 私ですよ、トーカですよ!」


「――――いや、誰ですか? ……たぶん、人違いじゃ」

 ……『誰』ですか? ……誰『です』か?

 ……おかしい、おかしい、おかしいよ。


「……」


 ……だって。


「――――トーカ」

 この声は……アミュ!

 やっぱり、ティビィのいつものギャグなんだよ!

 私は、アミュの声が聞こえる方を向く。

「アミュ――――」


 ――――その、顔。

 人の顔とは思えないほど抉れている。

 ……おかしい、おかしい。


「……」


 かなりのショックでからだが竦んでしまっている。


「――――トーカ」

 ヴィネ……! ヴィネは……!


 ――――ヴィネ……? 嘘だよね、ねえ! 嘘って言ってよ!!!


 ――――ヴィネの下半身はボロボロになっていて、どれが足の指なのか、どれが脚なのか、わからない状態になっている。


「う、うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」


「――――待ってよ、トーカ……?」

 リールらしき、何かが言う。

 ……!? からだ中から角なり植物なりが生えていた。


 ――――それは、もう、人間じゃあ、ない。


 私は現実から目を背け、私はそれらから逃げる、逃げる。

「……助けて! ……誰か! ……誰か!!!」


「――――待ってよートーカー☆」

 黒い何かが私に話しかける。

 その声は……おそらく……シピス……だ。


「誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か!!!!!」

 私は、人間じゃないそれらから逃げる。


「待てよ……お前……!」

 ティビィが憎悪に満ちたような声で私に言う。

 ……振り向いてよく見ると、ティビィも手から白い何かと合体していて、人間のようには見えない。


「……」


 ――――それらから逃げる。逃げる。逃げる。


 ……落ちていた小枝に躓き、転ぶ。

 ……痛い。


 ――――あ。


「……」




「「「「「――――待ってよ、トーカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……!!!!!」」」」」


 あ……。


 ……ふふ。……アハハ。


 化け物なんて……死んじゃえばいいのに……。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




「……」




「――――トーカ! 起きて!」

「……」

 からだを揺すってもダメか。

 きっと、ショックで気絶したんだな……。無理もない。

 なんとか、アレからは逃げられたが、まだ絶対近くにいる。

 ……しばらくは警戒しておいた方が良いな。

 さて、何処へ行ったらいいのやら。

 ……そういや、トーカといっしょにいた『アイツ』がいない。あの、金髪女が。

 確か、トーカが『アメさん』って言っていたか。

 あの金髪女とトーカの間に何か、あったのか……?

 ……あの金髪女を捜すか、他のヤツらを捜すか。

 ……他のヤツらを捜そう。

 シピスをまったく見かけないが、おそらく、シピスなら力を貸してくれるはず。

 アイツ、普段はあんな変な感じだけど、ここぞというときに頼りになるからな。

 問題は……ヴィネか。アイツは力を貸してくれるだろうか。

 ……とりあえず、あっちとここを繋いだ、最初の場所に行くか。

 私は、トーカを背負いながら歩き始める。


 ……とっても酷いことを思っているけど、トーカ、お前結構重いな。

 いや、トーカが重いんじゃなくてリュックが……重いもの入ってたっけ……?

 ……まあ、いいか。少しつらいけど、我慢、我慢。




 ――――戻るまで。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――ポチャン。




 水の音……? ……前方に、誰かいる?

「誰だ?」

 アメが後ろを振り向く。……隙ができた。今がチャンスだ。

 右手に握りしめていたナイフを、ヤツの眼球めがけて刺す。刺されッ……!

「……!?」

 ヤツは咄嗟に左手で防ごうとするが、コンマ1秒の僅かな差で、ナイフがヤツの左眼球に刺さる。


「――――ッ! い、痛え……てめえ……誰だかわからないほど八つ裂きにして、殺してやる……」


 眼球を刺したからか、距離感を掴めないようだ。

 ……さすがに、今のは防げないでしょ。

 優勢だ。殺れる。殺られる前に殺ってやる……!




 ――――ポチャン。




 ……また、水の音。


 ――――シピス。もしかして、シピス……?

 あっちで、シピスはまったく見かけなかった。……あり得る。




 ――――ポチャン、ポチャン。


 ――――ポチャン、ポチャン。


 ――――ポチャン、ポチャン。




 ――――なんだろう? 水の音が何かを伝えようとしている……いや、警告している?




 ――――ポチャン……ポチャン……ポチャン。




 ――――ドクッドクッ。自分の鼓動が速くなっているのを確認する。

 なんだ、なんだ。いったい、私に何を伝えたいんだろう……?




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――最初の場所に戻ったけど……誰もいないか。

 さて、次は何処に行くか。

 ……いや、でも、ちょっとキツい。

 ここらで休憩してくか。ふう。

 誰かをおんぶするのは、かなり久しぶりな気がする。

 そのせいもあってなのか、息がかなり乱れている。

 ……また寒くなってきたな。

 凍え死にたくはない。火を点けるか……。

 着火方法は……ライターとか、都合よく持ってないかな。

 ……持ってないか。

 ……さて、どうしよう。


「――――ンンッ……」

 ……トーカ!

「なあ、トーカ! 聞こえてるか!? アミュだ、アミュ! 大丈夫か!?」

「……」

 ……こりゃ、聞こえてないな。なんだったんだ?いったい……。


 ――――ボウッ。


「――――熱ッ! 今度はなんだ?」

 トーカの左腕から、マグマのような何かが溢れ出している。けっして、血液ではない。

「どうすりゃいいんだ、こんなの……」

 思わず、口に出てしまう。


 ……ん? でも、意外にもトーカが苦しくなさそうだな……。なんか、そんな感じがする。

 トーカには悪いけど、少し拝借させてもらおう。

 ……そういえば、私が触れても、消し炭にならず火傷程度で済んだから、この鉄製の容器なら、このよくわからないものを入れることができるかも。

 ……うん、やっぱり。悪いな、トーカ。

 私は心中でそう思いながら、燃えない白い何かの上に黒い何かを置く。

 それから、トーカが持っていた、空っぽの菓子袋を火種として使い、マグマのようなものを垂らして、火を点ける。

 今気づいたことだけど、この白い何かより、黒い何かの方が脆い。

 軽く手に力を入れた程度で、黒い何かにヒビが入る。

 これを覚えていれば、もしかしたら何かに役立つかもしれない。


 ……いつの間にか、トーカの左腕から溢れ出していたマグマのようなものはなくなっていた。




 ――――トーカの復活を待つ。




「――――うわああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! はぁ、はぁ……」

 ……トーカが勢いよく起きる。

「……どうした。何か、怖い夢でも見た……?」

「……うん。とっても、とっても怖い夢だったんだ……」


 ……それから、私はトーカが気絶している間に起きたことを話した。


「……ごめんね、アミュ。いつも、迷惑かけて、また……迷惑かけて……」

「……気にすんなって」


 それから、私達は火を囲みながら、これからのことを話した――――


 7.錯乱した雨 END

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