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5.再会した雨

 ――――寒気がする。今にも、何かを吐き出しそうだ。

 ……体調が悪い。お薬が欲しい。

 急に冷え込んだからか、風邪を引いたのかもしれない。

 自分の額に手を当てる。熱い。かなりの高熱だ。


「……う、うえええぇぇぇぇ」


 食べたお菓子を吐き出してしまった。

 ……今日は、体力をあまり使わないよう、なるべく安静にしていよう。リールに「我慢はよくない」と、言ったばかりだからね。




「――――おはよう、トーカ」

 アメさんが起きる。よく見ると、寝癖がたくさんついていた。

「おはようございます」

 体調が悪いことをいつ伝えよう。と、考えながら返事をする。

「……うーん……うーん?」

 アメさんはリールの方を見る。

「なんで、こいつがここに……」

「アメさん……安心してください……リールはアメさんに敵意がないみたいです」

「……本当かなぁ」

 アメさんは疑っている。

「……『アメ』、私は貴方に敵意があるわけではない」

 ……貴方に? もしかして、ティビィ達に敵意を持っているのだろうか。

 ……なんか、やだな。そういうの。

「……そうか」


「……アメさん、私、体調が悪いです」

「……大丈夫か!? ……薬、持ってたかなぁ」

 アメさんはかなり心配している。まだ出会って2日目だけど、アメさんはとても優しい。

 ヴィネをいきなり刺した人物とは思えないほどの優しさだ。

 ……やっぱり、理由があって刺したとしか思えないよ。

「トーカ、大丈夫……?」

 リールも心配する。

 いつも、迷惑をかけてごめんね、リール。

「……大丈夫、大丈夫。安静にしてれば、きっとすぐに治るよ」

 ……そんな気はまったくしない。

 とりあえず、タオル……はリールの尿を拭くのに使っていた。

 からだをあたたかくして、安静にしていたいが、ブランケットのようなものはこのタオル以外、ここにはない。

 しょうがないか。

 私は火に近づき、楽な体勢をとる。

 火は私を心配するかのように、パチパチと音を立てる。




 ――――ふと、お母さんの優しくてあたたかい、愛情たっぷりのお粥を思い出す。

 お粥を食べた後、お母さんはそっと私が大好きなゼリーを置く。

 ゼリーを食べたら歯を磨き、あたたかい布団に包まり、スヤスヤと眠る。体調は悪いけど、幸せな気分になる。


 ――――ああ、幸せだ。




 ――――でも、まったく同じ幸せはもうこない。

 ……お母さんはもういないのだから。


 少し休んだからか、なんだか怠さと吐き気が治まった気がした。

 さっきまでよりかは、幾分かマシだ。

 動かないと、ティビィ達がアメさんを殺しにきて、この世界を抜け出せられなくなってしまうかもしれないし、そろそろからだを起こそう。

「アメさん、リール、心配かけさせてごめんなさい。体調がよくなってきたので、動きましょう」


「……トーカ、本当に大丈夫?」

 さっきまで、私がつらそうにしているのを見ていたからか、リールは疑っている。

「うん、大丈夫。本当だよ?」

 ……他の言い方を思いつかなかった。

「トーカ、無理はするなよ。何か気持ち悪かったりしたら、私に言ってくれ」

「ありがとう、アメさん」

 懇切丁寧なアメさんには、頭が上がらない。

「よし、とりあえず今日は近くの寂れた図書館に行こう。そこに時計がある」

 ……え。

「こっちの世界にも、図書館あったんですか!?」

「……? ああ! この世界には2軒図書館があるぞ」

「辺りを見回しても、何もないからてっきり……」

「……ん、まあ、この世界は白と黒の謎の物体ばかりだからね。見つけづらいかもしれない」

 この白と黒の謎の物体はこの世界でいう、木みたいなものだろうか。薪の代わりにしてたし。

 あ、でも地面も白か黒だし、それはなんか違う気がする。

「……んじゃ、トーカ、リール、ついてきて」

 私達は図書館に向かう。




 ――――白と黒ばかりで、目が疲れる。視力が悪くなりそうだ。

 そういや、白と黒といえばオセロ。みんなと対戦したことあったなー。


 ティビィは弱かった。たぶん、策を考えないで、なるようになるさ、だからだと思う。


 リール。出会った時はティビィと同じくらいだったけど、成長するのが早かったなぁ。今の強さは私と同じくらいだと思う。


 ヴィネは強い。私の1歩2歩どころか、1000歩くらい先を歩いているような感じ。まったく敵わなかった。


 アミュは私と同じくらいだった。クセはまったくない。強いて言えば、負けそうになると焦るところかな。


 シピスは謎だ。強いときもあれば、弱いときもあり、私と同じくらいのときもある。実力がわからない。


 アメさんともオセロ、やってみたいな。

 強いだろうか、将又弱いだろうか。




「――――着いたな、図書館」

 図書館は、10階建てのビル程度の高さだった。

「デカいですね、こっちの世界の図書館……」

 私達は警戒しつつ、図書館の中に入る。

 扉を開けると、ギギギギギギ……と、今にも壊れてしまいそうな音が鳴る。中は暗いため、肝試しをするにはもってこいの場所だ。

 辺りを見回すと、埃を被った本がたくさん見える。廊下や椅子にも埃。埃。埃だらけだ。

「こんなに埃だらけなのに、誰も掃除しないの?」

 埃を被った本を取りながら、リールは言う。

「……まず、この世界の人口は少ないからね。管理人さんもお亡くなりになったそうだし、後継ぎがいないからこうなっちゃったんだろうね」


 ……。


「そういえば、こっちの世界でまったく家を見かけないんですけど、何処にあるんですか?」

「ああ、それはいずれ教えるよ。私の両親の助けも必要だし」

 両親……。まあ、そうだよね。アメさんもべつに木とかあの謎の物体から産まれてきたわけじゃないだろうし。

 そりゃ、両親がいてもおかしくない。


「時計は最上階の7階にあったはず」

「……あれ、でも1階にもありますよ?」

「ああ……それは、ただの時計だからね。この世界と『現実の世界』を繋ぐ時計が15なんだ……説明が遅れたね、ごめん」

「いえ、謝ることなんて……」

 ……余計だったかな。

 こんなときに私のお節介な性格が出てしまうと、とても申し訳なく思ってしまう。

 ……本当に憎い。この性格が憎い。




 ――――階段を上り、2階へと進む。

 電力がきていないため、エレベーターは使えないようだ。10階に行くまで時間がかかるが、しょうがない。

 3階に続く階段へと急ぐ。埃がふわりと舞い上がる。

「埃っぽくて、喘息になりそう……」

 ゴホッゴホッ、と咳き込みながらリールは言う。

 帰りもかと思うと、つらいところではある。

「……ッ」

 暗いため、落ちていた本に躓き、転びそうになる。

 懐中電灯を持っていなかっただろうかと、ガサガサとリュックの中を漁る。

 僅かばかりのお菓子、緑茶、絆創膏1つ、箱ティッシュ、ウェットティッシュ、使用済みのタオルとビニール袋、鈴……それと、トランプ。

 ……さすがに、持っていないようだ。そりゃ、そうか。




 ――――階段を上り、3階へと進む。

 ……1階、2階に比べて、落ちている本が多いような気がする。

 転ばないよう、慎重に進まなければ。ゆっくり、ゆっくりと。慎重に。




 ――――階段を上り、4階へと進む。

「……外観通り、広いなぁ」

 ボソリと呟く。

 階段の場所は階によって違う。

 ……何故、こんな構造にしたのか。わからない。




 ――――5階に続く階段に辿り着く。

「……あれ? 上の階が明るいな」

「……明るいですね」

「……誰かいる可能性が高い。トーカ、リール、警戒しておけよ」

 タンッ、タンッ。階段をゆっくりと上る。


 5階へと辿り着く。辺りを見回す。

 ……誰もいない。


 ――――カキンッ。剣と剣がぶつかるような音が廊下中に響く。

「……チィィッ! 殺せなかったか……」

「……やっぱりいたか。……小悪党! 熟卑怯な奴だな」

 ……嘘だよね?

 ……ねえ、嘘って言ってよ。




 だって、目の前にいるのは――――




 ~~~~~~~~~~~~~~~




「――――お母さん! あーそぼ!」

「あらあら、元気ね。そうだ! 今日は水族館に行こうか!」

「え! ほんと! 行こ行こ!」


「――――ほーら! お魚さん、いっぱいね~」

「いっぱいいる~! ……あ! 見て見て! お母さん、こっちにはマンボウがいるよ~!」


「――――お母さん、見て見て!」

「……まあ、すごい! ……これは?」

「お父さんとお母さんの絵!」

「よく描けてるじゃない! 将来は芸術家かな~? お父さんが帰ってきたら、お父さんにも見せてあげようね」

「うん!」


「――――あら? 何処か出掛けるの?」

「友達と遊ぶ約束したの。5時には帰るね、お母さん」

「遅くなるまでには帰ってきてね」

「うん」


「「「……トーカ、誕生日おめでとう!」」」

「……お母さん、みんな、ありがとう!」

「トーカとお友達のためにケーキを作ったのよ~?」

「トーカ! ほら、蝋燭の火を消そうぜ!」

「うん」

「「「ハッピバッースデートゥーユ~ハッピバッースデートゥーユ~ハッピバッースデーディアトーカー……ハッピバッースデートゥーユ~」」」

「せーの、ふぅぅぅぅ~!」


 ……。


「――――トーカ、トーカ!」

「……んんぅー! ……なーに?」

「……トーカ、あのね、お母さんは少し長い旅行に行ってくるから」

「それで?」

「……だから、しばらく帰ってこなくても、泣かないで、元気におばあちゃんと仲良く暮らすんだよ?」

「お母さん、何を言っているの? 私はもう9歳だよ? しばらくお母さんが帰ってこなくても、泣いたりしないって!」

「……そう、なら安心ね」


「――――じゃあね、トーカ」


「うん、お母さん、帰ってきたらお土産話いっぱいちょーだいね!」


「……ええ」


 ――――お母さん。いつになったら帰ってくるのよ。

 ……旅行なんて、まったくの嘘だ。

 ……いったい、何があったというのだろう。わからない。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




「――――『お母さん』……?」


 ――――嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘だ。


 ――――だって、目の前にいるのは『お母さん』なのだから。


 5.再会した雨 END

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