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4.〈〈Ally〉〉

 ――――本物の絆。


 ……そんなものはなかった。

 友達の隠していることがまたひとつ増えていく。同時に謎も増える。




「――――どういうことだ、ヴィネ!」

「……」

 ティビィの問いに、ヴィネは答えない。

「……ティビィ、状況が変わった」

 ヴィネは少し間をあけて言う。


「……トーカ、こいつらが仲間割れしているうちに逃げるぞ」

「え……でも……」

「今は逃げた方がいいだろう……」

「……わかりました」

 ティビィ達に聞こえないよう、私達は小声でやり取りを交わす。


 そろり、そろりと、ふたりが口論している間に逃げようとする。

 が、しかし。


「……」


 ヴィネと目が合う。


「……おい、ティビィ。状況が変わったんだと言っただろう?」


 ……? 目が合ったのだから、ヴィネには私達が逃げようとしていることがわかったのだろうが、それをティビィには言わなかった。

 ……どういうことだ?

 ティビィみたいに、引き止めたりしないのか?


 私達は逃げることができた。




 ――――この空間の中の……この世界の気温は、体感で20度くらいだと思う。


 さっきまでは……だけど。


 何故か、急に寒くなる。

「アメさん、なんか急に寒くなったんですが!?」

 と、アメさんに訊く。

「ここでは稀にあることだから、しょうがないよ」

「そうなんですか……」

 それにしても寒い。寒すぎて、からだが小刻みにぶるぶると震えている。

「無駄に体力を消費すると危険だし……よし、トーカ、この辺りで今日はもう休もう。何か火種は持ってないか?」

 ガサガサとリュックの中を探す。


「――――あ、ティッシュがあります」

「よし、じゃあそれを火種にして、火をおこそう」

 ……あれ?

「この世界に薪のようなものって、ありますかね?」

「その、なんかよくわからない黒いやつが、薪代わりになるよ。私が火をおこそう。」

「はい」

 そう言って、アメさんはライターをポケットから取り出す。ライターって、こっちの世界にもあるのかな?




 ――――パチパチパチ。あたたかい。

 火は黒い謎の物体を燃やし、火の粉を飛ばしながら、灰を地面に残す。

 火を見ていると、心がなんだか落ち着いてくる。




「――――トーカ。トーカ、言っておこう……私はアイツらをよく知っている……」

 ……やっぱり。

「……アイツらが嘘を吐いていることを、トーカはもうわかっている……かな」

「……はい」


「……なら、話そう。少しだけ」




「――――アイツらは、元々は『こっちの世界』の人間だ」




 ――――玄関扉を開けたとき、私が森へ、遊び場へ、行くとき、その物語は……終わる。






『4.〈〈Ally〉〉』






 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――私は何度も願った。ありふれた何処にでもある絆が、些細なことがきっかけで壊れませんように、と。

 私は何度も願った。願った。願った。願った。願った。


 ――――心から願った。


 ――――でも、何故貴方は泣いているの。……何故?

 私は……絶対助ける。この命に代えても。


 ――――貴方を助ける。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




「――――そんな、どうしてティビィ達は、ティビィ達は!どうして……ティビィ達は……隠して私に……近づいたの……?」

「……それは私にもわからない」

 私を利用しようとしたのは……ティビィ達? 何故? どうして?

 ……私を利用するために私に近づいた?

 ……信じられない。許したくない。会いたくない。


 ……でも、壊したくない。


 やっぱり、ヴィネは言い間違えたわけじゃなかったんだ……。

 きっと、ヴィネは『これ』を間違えたんだ。


『私がすぐそこにいる状況だったということ』を。


 ティビィ達の仲は、本当に仲が良いのだろうか。

 ……もしかしたら、私を利用しようという意見に、反対だった者がいるのかもしれない。

 だから、その意見には元から反対で、その場に現れた邪魔者なアメさんを殺した方が良いと、咄嗟に促そうとした。利用しようとした。


 ……仲間を。


 だから、私がすぐそこにいる状況だったということを、忘れてしまった。

 言い間違えたんじゃない。間違えたのは言うタイミング、言う環境。

 ……でも、わからない。また次から次へとわからなくなっていく。

『現実の世界』に来ることができたということは、ここの世界の出方を知っているはず。


 ――――何故、アメさんを殺せば『現実の世界』に戻れると、出方を知っている人間に嘘を吐いたのだろう?




「――――なんで」


「え――――」


 ……ぞわぞわぞわ。背中に違和感を感じる。

「トーカ! こ、これはどういうことだ!そ、それ……!」

 ふと、後ろを見る。


「――――なにこれ」




 ――――背中には……禍々しい翼が生えていた。翼は意外に軽い。

「これ、どうしよう……」


「――――てか、トーカ。お前、『現実の世界』の人間じゃないのか?」


 ……質問の意味がわからない。

『現実の世界』の人間? 私は『現実の世界』に産まれて、『現実の世界』で育ったはずだ。

 もちろん、ここに来たのは初めてだ。

「アメさんは『現実の世界』の人間ではないですよね……もしかして、アメさんも翼が生えていたり……」


「……ああ、私も小さいが生えている」

 そう言って、アメさんは服を脱ぐ。背中には小さな翼が生えていた。

 私と比べて、その翼は白くてきれいで、まるで、白鳥の翼のようだ。

「私の翼の色は黒。アメさんの翼の色は白」


「……色が違うってことは……同じ種族じゃない……のか」

 アメさんが何か言っていた気がしたが、小声だったからなんて言っているか、わからなかった。


 ――――ズキン、ズキン。


 左腕が痛む。

「アメさん、左腕が痛い……とても痛いです……」

「……大丈夫か? ……でも、私は鎮痛剤とか持ってないしなぁ……」

 左腕が爆発しそうだ。

 ドクンドクンと左腕に流れている血液が、今にもブシャーと、噴き出すんじゃないかと思うくらい痛い。


「――――痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!?」


「……!? トーカ! お、落ち着け! 大丈夫だ! な……なんとかなる! 絶対だ!」

 死にそうだ。


「――――熱ッ!!!」


 ……左腕を見ると、血ではなく、マグマのようなものが左腕からドロドロと流れていた。

「……急に翼が生えたり、腕からマグマが流れたり……トーカ、お前は何者だよ!? こっちの世界の人間でもありえないぞ!」

「私にはもう何が何だか……」

「……」

 それにしても、私のからだには血ではなくマグマが流れていて、よく生きてられるなあ。

 ……驚きはしたが、ここのことや他にもいろいろな謎の現象を目の当たりにしたからか、すぐに慣れてしまった。痛みも熱さもすぐに消えた。


「――――あ、そうだ。喉、渇きませんか? 緑茶を持ってきていたので、一緒に飲みましょうよ」

「ありがとう、いただくよ」

 ゴクゴク、ゴクゴク。

「……ふぅ」

「お菓子もどうぞ」

「ありがとう、トーカ。なんか申し訳ないなぁ……」

「気にしないでください」

 ……お菓子をアメさんと半分こ、となると、お菓子はいつまで保つだろうか。

 ……飲み物もいつまで保つだろう。

 食糧、飲み物でも、問題を抱えていた。




「――――トーカ、そろそろ寝るか」

 寝る……。寝たら危ないような気がする。特にアメさんが。

 言わなきゃ。

「アメさん、一緒に寝てしまったら危なくないですか?」

「そうだね……交代で寝るか。トーカ、先に寝ていいよ」

 ……ふと、脳裏によぎってしまった。

 寝ている間に、アメさんに殺されるのではないか、と。

 ……いや、大丈夫だ。

「わかりました。では、お言葉に甘えて……ぐぅ」

「ね、寝るのはえーな、トーカ……。おやすみ、トーカ……」




挿絵(By みてみん)




 ~~~~~~~~~~~~~~~




「――――トーカ、トーカ!」

 誰かが私を呼ぶ声がする。

 とても眠いが、返事をする。

「……んんぅー! ……なーに?」

「……トーカ、あのね、お母さんは少し長い旅行に行ってくるから」

「それで?」

「……だから、しばらく帰ってこなくても、泣かないで、元気におばあちゃんと仲良く暮らすんだよ?」

 ……?何かあったのかな。

「お母さん、何を言っているの? 私はもう9歳だよ? しばらくお母さんが帰ってこなくても、泣いたりしないって!」

「……そう、なら安心ね」

 微笑みながら、お母さんは私の頭を優しく撫でる。


「――――トーカ」

「……ん? どうしたの、お父さん」

「……いや、なんでもない」

 そう言って、お父さんは私を強く抱きしめる。ギュ、ギュ、と。

 お父さんもお母さんも、様子がおかしい。


「――――じゃあな、トーカ」


「うん、お父さん、お土産よろしく!」


「……ああ」


「――――じゃあね、トーカ」


「うん、お母さん、帰ってきたらお土産話いっぱいちょーだいね!」


「……ええ」




 ――――あれから1年経った。未だに、お父さんとお母さんは帰ってこない。




 ――――あれから2年経った。未だに、お父さんとお母さんは帰ってこない。

「あのね、お父さん、お母さん、私、友達いっぱいできたんだよ」って、言いたいのに……。




 ――――あれから5年経った。きっと、お父さんとお母さんは帰ってこない。

 死んでしまったのだろうか。




 ――――あれから。……あれから。

 お父さん、お母さん。

「……少し長い旅行って言ってたじゃん、嘘吐き」

 嘘吐き。

 ……『みんな』嘘を吐くのが大好きなんだから。あっかんべー、だ。

 お父さんとお母さんなんてしーらない! だ!


 ……お父さん、お母さん。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




「――――トーカ、そろそろ交代しよう」

「……は、はい」

 目からは涙が零れていた。涙で前が見えない。

「……トーカ、何か悲しい夢でも見ていたのか?」

「……はい。……とってもとっても悲しい夢でした」

「……そうか」


 ――――『みんな』嘘を吐く。

 お父さんもお母さんもティビィ達もアメさんも。……。


「……じゃあ、トーカ、おやすみ~」

「……はい、おやすみなさい」

 アメさんはグーグーと寝る。やっぱり、アメさんも疲れていたのだろう。

 ……。翼。左腕。

 ……お父さん。……お母さん。




「――――トーカ」

 声のする方へ向く。


「……リール」


 アメさんの身が危ないかもしれないと思い、咄嗟にアメさんを起こそうとする。

「アメさん起き――――」


「シー……」

 リールは手で私の口をふさぐ。

「私は『アメ』に敵意があるわけじゃないよ、安心して?」

『アメ』……?とりあえず、敵意がないみたいで安心した。

「トーカ、それよりその翼と腕は……!?」

「わからないんだ。なんかよくわからないけど、突然こうなっちゃった」

「そう……」

 最初の反応は大きかったけど、その後の反応が……何か引っかかる。

「……トーカ、言いたいことがある」

「……何?」


「――――トーカ、私はトーカの『味方』だ」


「……なんだって?」

「今、判明しているのは、ティビィ、ヴィネ、アミュが『敵』だってこと。アメとシピスはわからない」

「……? どういうこと!? 『味方』って?『敵』って?」


「……トーカの『味方』になるか『敵』になるか、ってことだよ!」

 ……リール?

「……何を言っているのか、よくわからない」

「……まぁ、いいやぁ~トーカ、私は絶対トーカの『味方』だからね!それだけは覚えていてね!」

「……う? うん? うん」

 いつものリールに戻っ……た?

 ……リールの様子もやっぱりおかしい。何かを隠している感じがする。


 ……そういえば、私の前にひとり、まったく顔を出していないヤツがいる。


 ――――シピス。シピスは何処で何をしているのやら。

 ……シピスは表ではあんなに変なヤツだけど、根は真面目……というか、実はあのメンバーの中で一番賢いのはシピスなんじゃないのか、と思う。

 だから、警戒しておこう。


「……そういえば、リール。リールはもう寝た?」

「まだ寝てないよぉ~」

「私が見張っておくから、リールも寝て寝て~」

「えぇ~大丈夫だよぉ~へっちゃらへっちゃら!」

「我慢はよくない! ほら、寝た寝た~」

「ぐぅ……」

 と、言ってる間に寝ていた。それほど疲れていたのだろう。




 ――――リール。……アメさん。本当に『味方』なの?ティビィ達は『敵』?

 ……本当にそれでいいの?

 ……みんな仲良くは……できないの?

 アメさんは未だにヴィネを刺した理由を教えてくれない。


 ――――誰を信じればいいのかわからない。私にはわからない。


 ――――誰を信じればいい? 教えて?


 4.〈〈Ally〉〉 END

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