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18.幻惑した雨/真実と大切な大切な妹

 ――――そうじゃない。




 ――――私は……人殺しをしようとしたヤツと何故じゃれあっている?




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「――――お、お姉ちゃん!?」




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 ――――お前はいったい何者……?




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「――――ううん。なんでもない」




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 ――――なんでもなくない。




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「――――ところで……お前達はいったい誰なのかしら……?」




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 ――――お前達は人殺しの一味……でしょう?




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「なんか、コイツは猫っぽいわね~」




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 ――――猫っぽい……? そいつは、私の目の前で人を殺そうとしていた極悪人。気づいていないの?

 頭がイカれてる。あっちも、こっちも。




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「――――私、猫は嫌いなのよね」




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 ――――当然だ。




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「お、お姉ちゃん!」




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 ――――妹の殻を被った化け物風情がなんか言っている。


 ――――お前の姉とは何者だ。邪悪なオーラを放つ不快な何かかしら?




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「――――トーカ……トーカちゃんのお、お゛姉さん! 私はトーカ……ちゃんの友達のリールです! コイツじゃなくて、リールって呼んでください!」




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 ――――誰、お前。妹の友……達?

 化け物の友達の化け物って意味なのかしら。化け物ってジョークが上手なのね。


 もし、お前が私の妹の友達を名乗ろうものなら――――




 ――――お前を殺してやる。

 化け物でも小気味よい鳴き声くらいは出るのでしょう?




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「……フフフッ……クスクスッ。トーカのお姉さん、笑えるね」




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 ――――嗤えるね。とっても嗤える。

 寂しい寂しい悪夢如きのさらにその紛い物なんかが騙そうと騙そうと必死になっているのが。

 ああ、これが『愚か』ってことか。初めて知ったわ、ありがとう。




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「――――あ、なんか、でも、ペットみたいでカワイイ~」




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 ――――この、阿呆は誰? 私?

 間抜けな面をしてるわね。気持ち悪くて、顔面に1発……いや、100発くらいグーで殴りたい気分だわ。

 この愚かな生物紛いの贋作品に「フッ」と、鼻で嗤ってやろう。


 ああ、よしよし。




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「ムキーッ! トーカは好きだけど、トーカのお姉さんは嫌い! 大っ嫌い! 大大大っ嫌い!」




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 ――――私はお前がそこら辺にウジャウジャといっぱい捨て置かれている邪魔物より、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと大嫌いだけども。

 怒り狂いたいのは……こっちだ。さすが、贋作の贋作が言う台詞は贋作の贋作の贋作でしかない。

 贋作の贋作の贋作の薄っぺらい感情を押しつけて惑わそうとしたのか。滑稽だと思うわ。




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「クスクスクスクス……」




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 ――――邪魔だ。退け、傍観お化け。




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「あー、よ~し、よ~し。よ~しよ~し」




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 ――――あと、何回鼻で嗤ってやれば気が済むのかしら。

 私は私だけで他の私は要らない。邪魔だ。消えろ。




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「――――クスクスクスクスクスクスクスクス……」




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 ――――穢いお前を嘲笑ってやろう。寂しい頭のような何かにいっぱい詰め込むがいい。




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「――――ほ~れほれほれほれほれ! プッ」

「ムキーッ!」




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 ――――反吐が出るわ。有象無象って、その意味の通り見分けがつかないんだね。

 さて、いい加減私の殻のような何かを被るのはやめようか。




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「――――コラーッ!」




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 ――――ねえ、そろそろ真実の始まりだと思うのだけれど。


 そうでしょう? 紛い物の幻想世界?


 惑わされずに真実を透かしていくなんて、案外難しいものなのね。


 自分を磨いているつもりで、人間を貶して自分を高めようとする幻想……か。人間に似ている。


 その虚勢、いつまで保てるのかしら。




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『18.幻惑した雨/真実と大切な大切な妹』




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 ――――痛い。はぁ、痛い。


「いてててて……」


 ここは……何処なのかしら。間違いなく地球っぽいところではなさそうだけど。

 そう心中で言いながら、黒い欠片のような何かを手に取る。

 ふーん。ここの地面、若干つるつるしているのね。

 痛めた足首をさすってから、ゆっくりと立つ。死にはしなかっただけ、マシか。

 ……それにしても、白と黒しかない。不気味だわ。

 所々に落ちたらひとたまりもなさそうな箇所もあるし、亀裂もあったりする。ホント、寂しい世界ね。


 ――――コツン、コツンと靴のようなものが立てる音がする。

 ……ああ、これも幻想で見た。とてつもなく不快な音だわ。

 両手で両耳を塞ぐ。聞こえないように、聞こえないように。

 それでも、微かにその音は聞こえてくる。

 あまり意味がなさそうだったので、塞ぐのをやめる。

 ゆっくり、ゆっくりと何かがこちらの方へ近づいているのが音でわかる。おそらく、幻想通りの展開なのだろう。

 意を決して、音のする方へ静かに近づく。




「――――あ、あれ? お、お姉ちゃん!?」




 ……ええと、お前はホンモノ? それとも、ニセモノ?

 幻想に惑わされているのだろうか。惑わされていないのだろうか。


 ――――そういえば、さっきから『痛み』を感じる。

 あの高さから落下して痛みだけってのも、またスゴい気がする。

 でも、たぶんこれは惑わされていない証。そこにいる妹を信用していいはず。




「――――あ……あのときの……」




「――――人を殺そうとしていたヤツが、なんで私の妹といっしょにいるのかしら」




「――――え、あ、あの……」




「――――離れなさい。……妹から、離れなさい……!」

 右手で強くトーカの手を握りしめ、逃げる体勢をとる。

「……お姉ちゃん。……ねえ、お姉ちゃん? 手を離してよ……」

 ダメ。そこにいる少女にアンタが殺されてしまうのではないかと考えると、離せるわけがない。




「――――お姉さん。トーカの手を離しなよ……」

 幻想でクスクスと笑っていただけのヤツがそう言う。

 で、お前はいったい誰様なのかしら。


「――――ヴィネ! ……そうだよ、お姉ちゃん。離してよ! というか『人を殺そうとしていたヤツ』って、どういうこと!?」

 ……私は見たんだ。コイツが誰かを殺そうとしていたところを。

 だから。だから、こんな危ないヤツなんかといっしょにいたら……。




「――――誤解です。確かに、私は……私は殺そうとしていました。でも、でも……ちがいます……」

 よく、現実でも物語でも罪悪人が言うような台詞を吐けるもんだ。そう、思った。


「――――そう。で、何かあるわけ。同情を誘うために。『人を殺そうとした』という印象を拭うために」

 偽善者がよく用いる手法だ。私はそれを知っている。

 ときには、誰かを貶すために使う輩だっている。

 だから、私は受け流す。




「――――お姉ちゃん! お姉ちゃん……リールは絶対何かあってそうなったんだよ!」

 そう言って、私の手を振り払う。


「――――ちがう。お姉さん……ちがう。ちがうんです……!」

 そう言って、その少女が私の右手を両手でやさしく包むように取る。

「きっと、一部しか見ていなかったんです。だから、私が人を殺しているように見えたんだと思います。でも、実際はちがう」

 私の顔をまじまじと見て、言う。




「――――私が殺されそうになっていたんです」

 曇りのない彼女の綺麗な目が、私の心を揺さぶる。

「……つまり、正当防衛……ってこと?」

「はい!」

 確かに、それならば説明がつく。私が勘違いしていただけ、ってことになる。


「――――お姉さん。この娘……リールは、真っ直ぐで私達にとって大切な大切な友達です。きっと、嘘はついていない」

 ……幻想だ。もしかしたら、また幻想に惑わされているのかもしれない。

 説明がつくだけで、出任せの嘘の可能性だって十分ある。

 だから、私は信用しない。




「――――嘘を吐かないでもらいたいのだけれど」

 紛い物風情に。紛い物風情なんかに……惑わされない。

「……」




 ――――ギュ。




「――――ッ」

 妹が……トーカが私を強く抱きしめる。




「――――お姉ちゃん。……きっと、つらかったんだね。苦しいこととかいっぱいあったんだ。……だってその証拠に、お姉ちゃんはさっきから震えているんだもの」


「……」

 そう言って、何回も何回も私の頭をやさしく撫でる。

 苦しみをすべて振り払うかのように。

 悲しみをすべて振り払うかのように。


「――――あっちで何があったか私にはまったくわからないけど、つらかったってことははっきりと伝わってくる。……だから、私はお姉ちゃんのつらかったってことを全部受け止めてあげる」


「……」


「――――家族は見捨てるものじゃなくて支え合うものだから。……お姉ちゃんは私の大切な大切なお姉ちゃんだから」

 顔を近づけ、ほっぺたをつねる。


「――――痛い痛い痛い痛い、痛い、お姉ちゃん!」


「……ありがとう。……トーカ」


「……お姉ちゃん、ギュ~!」


 どうやら、幻想に惑わされていることばかりを考えていて、真実を見失っていたみたい。

 ……どれが真実なんだか、未だにわからないけど、でも。




 ――――私の大切な大切な妹である、トーカの言うことを信じてみよう。そう、思った。




 18.幻惑した雨/真実と大切な大切な妹




 ~~~~~~~~~~~~~~~




「――――あれ~? おっかし~なー! せんぱいから返信がこない……あれぇ……?」




 END

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