表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/34

1.透過した雨

挿絵(By みてみん) 



  ――――チリーン、チリーン。

 静寂の闇の中で、微かな鐘の音が聞こえる。

 からだの隅々まで『彼女』の優しさが伝わってくる。温もりを感じる。

 きっと、目を覚ましたら目の前に『彼女』がいることだろう。

 そして、一緒にたくさん冒険をして、一緒にたくさん笑って、一緒にいっぱい思い出をつくるんだろう。

 TVを観ながら笑いあったり、一緒に服やアクセサリーを選んだり、一緒に映画を観たり、遊園地やお祭りに誘ってみたり。

『彼女』とのありきたりな日常がきっと待っているはず。


 ――――これは夢なんだ。きっと。


「……またくるね」






『オンリー・アリー』






 ――――ミーンミーンとセミが鳴く。暑い。そして暇だ。

 暇だから今日も森に行こう。

 小さい頃から私達の遊び場だった、あの森に。


 早速、いつものメンバーである友達5人にメールを送った。

 どうやら、みんな予定がなかったようだ。

「じゃあ、みんなで森に行こう。今すぐ。持ち物はなんか適当に」というメールを送って、仕度をする。

 小さめのリュックの中に飲み物やお菓子などを詰める。

 そのリュックを背負う。見た目よりも幾分か重く感じられる。

 玄関前まで移動して、動きやすい運動靴を履く。

 そして玄関の扉を開け、家を出る。外もやっぱり暑い。


 トコトコと歩く。

 私の家から森まで、10分程度といったところだ。

 道中に奇抜な建物があったり、この辺りでは珍しい花がたくさん咲いていたりする。

 あの奇抜な建物はいつ頃建ったのだろう。少なくとも私が3歳頃のときにはもうあったなぁ。

 などと考えていたら、森に着いた。遊び場まではもうすぐだ。

 ……遊び場に近づくと、既に人がいた。おそらく友達たちだ。

 手を振りながら「おーい!」と言って、近づく。


「言い出しっぺが遅いじゃんか~!」と、リーダーのティビィはニヤニヤと笑いながら言う。

「トーカ、私達が早すぎて驚いたぁ?」と、愛されキャラのリールはクスリと笑いながら言う。

「全速力で走らせるのはやめてほしいわ」と、しっかりもののヴィネは呆れた口調で言う。

「まあまあ、いいじゃないか」と、いつでも優しいアミュは困った感じで言う。

「ティビィ、大好きヨ……!」

 シピスは……うん。でも、いざとなれば頼りになる良いヤツだ。

 小さい頃から、このなかよし6人組でなかよくやってた。

 ときには喧嘩もした。でも、この6人の仲はそんなちっぽけなことじゃあ崩れない。

 固く、硬く、結ばれた鋼鉄の絆。この絆を引き裂けるものなど、絶対にないだろう。

「お菓子持ってきたからみんなで食べよ――――」


 グラグラグラ。地響きを鳴らしながら、謎の色をした空間が真下に現れた。


「「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」」


 その空間に少しずつ飲み込まれていく。

 力を振り絞ってどうにか抜け出そうと試みるが、まったく効果がない。むしろ、余計に飲み込まれていると言ってもいいくらいだ。

 徐々に私達は声を発することもできなくなり、私達はその空間に飲み込まれた。




 ――――目を覚ますと、眼前には白くてパズルのような大きな部屋……というよりも、空間が広がっていた。

 当然、私達は元の世界に戻りたいから、みんなで帰る方法を模索する。


「この辺になんかボタン的なものとかないのかな」と、アミュは言う。アミュの表情が曇ってみえる。


「……」

 ティビィはいつも明るいのに、今はいつも見せない顔になっている。あれは絶望した顔だ。たぶん。

 ティビィのからだはぶるぶると震えていた。


「ぁ……」

 リールはどんな状況・環境でもすぐに慣れてしまうヤツなんだけど、今は信じられないといった顔をしている。

 リールの足下を見ると、若干黄色の透き通った液体が溜まっていた。怖くて失禁してしまったようだ。


「この先に道があるっぽいね……」

 ヴィネは何故だか平常運転だ。


「その道が罠って可能性も考えなさいよ」

 シピスは普段とは違い、冷静だ。普段はティビィに狂喜染みた愛をあんなに送っているのに。


 ティビィの手をシピスが掴む。

「ティビィ……行こう」

 ティビィは応答しない。

「ティビィ……このままじっとしているだけじゃ、何も始まらない」

 シピスはティビィのことを愛しているからこそ、ティビィを叱咤できるのだろう。

「だから……行こう?」

 ティビィは頷き、立ち上がる。


 私はリュックに入れておいたタオルとビニール袋を取り出す。

 もともとは汗を拭くためのタオルだけど、今の状況じゃあしょうがない。

 リールの足下を拭く。

 リールの下着も濡れているだろうしと、タオルで拭こうとするが、こういうのは本人にやらせた方がいいだろう。友達の股を拭くのはなんだかとても恥ずかしい。

「うぅ……」

 拭いているところを見るのは、とても恥ずかしかった。罰ゲームをやっているかのようだ。

 使用済みのタオルをビニール袋に入れてよく縛り、それをリュックにしまう。

 私はリールの手を取り、ヴィネが見つけた道を進む。

 ヴィネが先頭。次にアミュ、その次にシピスとティビィ。一番後ろが私とリール。




 ――――5分程経ったとき、何か音がした。

 力強くて重い感じの不気味な音。

 後ろを振り返るが別に何か変化があったわけではない。

 怖いから、私達はとても慎重に歩を進める。

 1歩、2歩、3歩。ゆっくりゆっくり、慎重に。


 ――――グサリッ。重苦しい音が響く。

 ティビィが「……な、なんだぁ!?」と怯えたように言う。

「……あ、あ……うわぁぁぁ! 腕が!! 腕から血が!!!」

 ヴィネの右腕を見ると、ポタポタと血が垂れている。

「大丈夫、止血しよう……絆創膏なら持ってる」

 と、私は言うがこの大きな傷口を絆創膏1つで塞ぐことはできない。

 生憎、絆創膏は1つしか持っていない。

「……どうしよう」

 私は考える。ティッシュを絆創膏代わりにすればなんとかなるだろうか。

 でも、ティッシュはいろいろな場面で役立つ。正直、死なない程度の出血量ならば、ティッシュは使いたくない。

 ……いや、ティッシュを使おう。

「ヴィネ、ティッ――――」


「ねえ、やめなよそういうの」

 聞いたことのない声。

 私達の目の前には金髪の少女がいた。

 その少女の右手には、謎の切れ味がよさそうな武器が握られている。少女には似つかわしくない。


「「「「「逃げろ!」」」」」


 ティビィ、リール、ヴィネ、アミュ、シピスは一斉に叫ぶ。

 私達は逃げる。全速力で逃げる。

 少女は追いかけてこなかった。何故だろう。

 気づけば私達は元の場所に戻っていた。


「どうしようか……進めるのはこの道しかないし」

 アミュは元の世界に戻れるかもわからないのに、とても冷静だ。

「アイツを殺すしかないんじゃない?」

 シピスは好戦的なのかな。

 ヴィネも便乗する。

「アイツを殺そう……アイツを殺さないと元の世界に戻れない……」

 ティビィも「そうだそうだ」と言う。

 リールは無言だ。


 私はというと……彼女は理由なくヴィネを刺したわけじゃないと思う。だから正直『殺す』という意見には反対だ。

 敵意はありそうだが、話し合いができるんじゃないかと、心の奥底で思う。


 コツン、コツン。足音が聞こえる。

 さっきの金髪少女がきた。

 ティビィ、ヴィネ、シピスはバッグに入れていた食事用のナイフや、ハサミで金髪少女を刺そうとする。

 その瞬間、少女は視界から消え、瞬きをして目を開けると、私の前にいた。


「……」

「……」


 お互い無言だ。私に対しては、敵意が無いように感じるのは気のせいだろうか。

 少女は私の腕をがっしりと掴むと、人間が出せるとは思えない、かなりのスピードで駆け抜ける。

 ティビィ、ヴィネ、アミュ、シピスが叫ぶ。

「「「「トーカ!!!」」」」

 リールは弱々しいが、自分の出せる精一杯の声で言う。

「……トーカが拐われた」

 リールは何故だか寂しそうな表情だった。




「――――いったい、あなたは何を企んでいるの」

「……」

「どうして、ヴィネの腕を刺そうとしたの!?」

「……貴方はまだ知らない方がいいよ」

 少女はニコリと笑う。何故、笑ったのか、私には理解できない。

「いずれ話すことになるよ……だから今は……」

「?」

 まったくわからない。考えていることがわからない。

「えーと、名前は?」

「トーカ」

「よろしく、トーカ。私の名前はアメって言うの。呼びたい名前があったら好きに呼んでいいよ?」

 ニコリと笑う。さっきまで人を刺してたとは思えないくらいの笑顔だ。


「トーカを『現実の世界』に戻さなくちゃね」

 ……『現実の世界』か。

 ……やっぱり、ここはどこか別の世界なのだろうか。聞いてみよう。

「え? どういうことですか!? その『現実の世界』って」

「……今の、森とここの境界のところまで行かなくちゃ」

 ……スルーされた。

 アメさんの表情はかなり悲しそうだ。私には敵意なんてまるっきりないのに、ヴィネに対してはあんなに敵意を剥き出しだったから、やっぱり理由があって刺したのだろう。


 でも、なんで? 刺さなきゃいけない理由って何?

 なんでだろうなんでだろう……考えろ、考えろ! 私。どうしてヴィネを刺さなきゃいけなかったのか考えろ。

 ……この空間が存在したり、アメさんがこんなに足が速かったり空を飛べたりする時点で、超能力をヴィネが使えるようになってたとしてもおかしくはない、かな。私達が使い方を知らないだけで。


  ……おそらくだけど、超能力は関係ないと思う。

 何か超能力以外のことで刺さなきゃならない理由があったんだ。

 うーん、うーんと悩んでも、やっぱりわからない。

 ただ、私に対しては敵意がないのが救い……というか。

 だから、誰も怪我をせずに話を解決に導けるかもしれない。私はそう思った。

 話し合いができるかもしれない。その話し合いの鍵はおそらく私になるだろう。




 ――――パンパンッ!

 軽めに頬を叩く。

「アメさん、もしかしてヴィネのこと、知ってたりするんですか?」

「……」

 やはり無言だった。無言ということは知っていると解釈していいのだろうか。

 アメさんがこの空間の住人的なやつだったとしたら、ヴィネは何故アメさんに知られているのだろう。

 そう考えていくうちに少しずつ見えてくる。

「アメさん、ヴィネ……あのこ達ともなかよくしましょうよ、悪い人達じゃないですよ?」

「……」


 カチャリ。謎の、切れ味がよさそうな武器を握り、それを私にむける。

「トーカ、それを次言ってみろ……でなければ……いや、ごめん忘れて」

「あ……あ、ああ……あああああああああああ……」

 いきなりのことだったから、ポカーンと口を開けたまま、からだがぶるりと震えている。どうやら私は怯えているらしい。

 余計なことは言わないでおこう。


「……ん? んん?」

「どうしたんですか?」

「いや、着いたはずなんだけど、元の世界に戻ることができない……どうして……」


 私はその言葉を聞いて、今までに経験したことのないくらいの寒気を感じた。

 理由はおそらく、この空間をつくり、この空間の出方を知っているであろうアメさんが、出れないと言っているからであろう。


「「……どうしよう」」


 1.透過した雨 END

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ