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かくれんぼ  作者: 大平麻由理
番外編 1-3 恋の連鎖反応
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35.恋の連鎖反応 その2

 店内は空いていて、並ぶことなくすぐに窓側の明るいボックス席に案内された。

 それぞれがペアになったまま向かい合わせに座る。

 澄香の前には、相変わらず俯いたままの早菜がいた。

 さっき車の中で感じた違和感をいまだまとったままなのはなぜだろうと、冷静に前の二人を見てみる。

 

 いつもノーメイクな早菜なのに、薄っすらと施されたメイクのせいで、違ってみえるのだろうか。

 それとも、少し伸びた髪のせい? 

 早菜のさらさらの髪はいつ見てもきれいだ。

 色の入っていない自然な黒髪がよく似合っている。


「早菜ちゃん。会うの久しぶりだね。駐車場に早菜ちゃんの車が止まってるのは知ってたんだけど……。いつ神戸に帰って来たの? 」


 話せば何かわかるかもしれない。まずは近況から訊ねてみることにした。


「の、ノブ君が。三重のおじさんの家に行く時、一緒に戻って来て……」

「早菜ちゃんの車で? 」

「うん」

「そうなんだ。いつも信雅が迷惑かけてごめんね」

「ううん。そんなことないよ。一人で乗っても二人で乗っても変わらへんし。それに、運転も替わってもらえるから、こっちも助かるんです」


 そう言って、はにかんだような笑顔を見せる。

 あれ? 何かが違う。そう思った澄香は、早菜の顔をじっと見て、トレードマークのめがねがないことにハタと気付く。

 そうそう。めがねをかけていない早菜を見るのは、本当に稀なので、それで違和感があったのだ。

 澄香はやっと納得のいく答えを見つけ出し、胸につかえていたものがすっと降りていくのを実感していた。


「早菜ちゃんが、いつもと雰囲気が違う理由がわかった! ねえねえ、めがねは? コンタクトにしたの? 」

「う、うん。コンタクトに……」

「コンタクトは嫌だって、いつも言ってたけど。そっか、ついにコンタクトデビューしたんだね。で、どういう心境の変化なのかな? 」

「そ、それは……。ノブ君が……」

「信雅? 信雅がどうしたの? 」

「あの……。ノブ君に……めがねを……その」


「ちょっといいか? 」


 宏彦が急に、しどろもどろの早菜の言葉をさえぎるようにして割り込んできた。


「二人で話が盛り上がってる最中で悪いんだけど……。信雅。ちゃんと、このかわいい彼女を紹介してくれないかな。それと。俺の勘違いだったら申し訳ないが。前に何度か会ったことがあるような気がするんだけど。澄香の子分って言ってたよな? もしかして、近所に住んでる人かな? 」


 宏彦が腕を組み、信雅と早菜を交互に見ながら訊ねる。

 澄香は早菜の疑問を解くことしか考えていなかった自分の行動を恥ずかしく思った。

 まずは宏彦に早菜を紹介するのが順序ってものだ。


「宏彦、ごめんね。あたし、つい……」

「ほんま、姉ちゃんは、早菜のことになると、弟の俺より一生懸命になるもんな。あっ、先輩。紹介が遅れてすみません。こっちは、家の斜め向かいに住んでる1コ年上の白鳥早菜さんです。で、さっき言ったとおり、早菜は姉ちゃんの子分で、俺は、早菜の子分で。まあ言ってみれば、食物連鎖みたいなもんです」

「食物連鎖? なんか例えがいまいちおかしいが。おまえの言いたいことはなんとなくわかった。そうか、やっぱり近所の人だったんだ。白鳥さん。どうぞよろしく」

「は、はじめまして。こちらこそ、どうぞよろしくお願い……します」


 早菜が身体を堅くして、ぎこちなく頭を下げた。


「私は、澄香の同級生の加賀屋と言います。君の憧れのお姉さんを勝手に奪い取ってしまいましたが、どうか、大目にみてくださいね」

「いえ、そ、そんな。お姉ちゃんが幸せになってくれれば、それで……いいん……です」


 やはり早菜の様子がおかしい。

 澄香は、いつもの勢いがない彼女を訝しく思う。


「で、信雅。この人が、おまえの会いたい人だったってわけだ。彼女なんだろ? あの晩、この人のところに行ったんだよな? 白状しろよ」


 宏彦が自信満々に信雅にけし掛ける。

 だが水を差すようで悪いけど、宏彦の思い込みもここまでだ。

 信雅の彼女が早菜だなんて、やっぱり誰が何と言おうと絶対にありえない。


 ところが……。


「せ、先輩。勘弁してくださいよー。それは、まあ。そうですけど……」

「え? のぶまさ? 今……」


 なんて言った? 澄香は信雅の予期せぬ返答に耳を疑った。


「もおーー。姉ちゃんもそんな顔せんといてえな。ええいっ! もう面倒くさいわ。先輩には敵わへん。こうなったらホンマのこと言います。そうです。彼女です。早菜は正真正銘、俺の彼女なんです。なんや知らんけど、いつの間にかそうなってしもて。早菜。これでええか? ホンマに俺が早菜のカレシでええんやな? 」

「うん……」


 早菜が真っ赤になって頷く。

 澄香は目の前で繰り広げられているとんでもないカミングアウトに仰天し、椅子から転げ落ちそうになった。

 いや、ギャグや冗談ではなく、本当に身体中の力が抜けて、椅子に座っていられなくなってしまったのだ。

 お笑い芸人がよくやっているずっこけるパフォーマンスが実際に澄香の身に起きる寸前で、なんとか持ちこたえる。


 ハンバーグが、ステーキが、パスタが、バナナパフェが……。

 カラフルなサンプル画像までもが、すべてテーブルに落っこちてしまいそうに逆立ちしているのにも気付かず、澄香は上下がひっくり返ったメニューを手に持ち、それを凝視したまま、口をぽかんとあけていた。

 

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