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かくれんぼ  作者: 大平麻由理
番外編 1-1 この人と 
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15.二人で その1

 寮を出た後も雪は降り続き、吹田を過ぎたあたりで京都南インターが雪のため通行止めになったと知る。

 まさしく危機一髪だ。西宮に入るとすでに雪はやみ、速度制限も解除された。


「澄香。夕食までに帰ればいいんだろ? お父さんもその頃には帰って来られるんだよな? 」


 宏彦は今夜、澄香の両親に挨拶をすると申し出てくれた。

 両家は全く知らない間柄でもない。

 なので、こういう場合こそ、きっちりと話しておかなければならないと彼は言う。

 澄香はそんな宏彦が頼もしく思えた。


「うん。今、お母さんからメールが返ってきたんだけど、お父さんは八時ごろ帰ってくるらしいよ。それまでに家にもどればいいと思う」

「そうか。じゃあ……。あそこに寄ってからでも間に合うな」

「えっ? どこなの? 」

「澄香も知ってるはずだよ。あててみ? 」


 宏彦が楽しげに言葉をはずませる。

 だが、そのクイズは意外にも難問だ。

 今日一日の会話の流れから答えを見出そうとしてもそう簡単に見つからない。


「わかんないよ。ねえ、もったいぶらないで、教えて」


 隣でさも嬉しそうに車を走らせる宏彦が、ふふんと鼻で笑う。


「じゃあ、ヒントを出そう。えっと、昨日は、満員だったに違いない」

「……えっ? それだけ? 」

「ああ、それだけだ。ここまで言えばわかるだろ? すべてのデータを合わせりゃ簡単だ」


 宏彦はすんなりと答えを教える気など、全くないらしい。

 いいように遊ばれているような気がしないでもない。


「昨日って、バレンタインデーだよね。うーん……。そんなのヒントにならないよ。どこだって満員だもの」


 澄香は口をへの字に曲げて、シートに深く沈みこむ。

 映画館も、レストランも。そして口に出すのは恥ずかしいけど、ホテルも……。

 すべて、カップルで楽しむ場所は満員だったに違いない。


 降参だ。答え探しをあきらめ、フロントガラスから運転席側の窓の外の景色を目で追う。

 夕暮れが迫る六甲の裾野には、住宅の明かりがきらめき始めていた。

 神戸に戻ってきたのだ。


 自宅最寄りの出口を通り越し、京橋で高速を降りた。

 三宮南側の旧居留地辺りの路地を、一方通行に踏み入れないようにうまくかわしながら北に進む。

 西は元町方面になる。

 そのまま山側に向って、坂道を上がって行った。


「やっと山本通に出たな」


 宏彦が前かがみになりながら左右を確認し、左折する。


「車の後方が北野だ。同窓会の時は参ったよ。さっき上がってきた道を、誰かさんを追いかけて、猛ダッシュで下らせていただきましたから」


 澄香は後方を振り返り、あの日の出来事を思い起こす。

 そう言えば、宏彦に彼女がいると誤解して気が動転した後、まるで悲劇のヒロイン気取りで、ハーバーランドまで駆け抜けたこともあったっけなどと苦笑いを浮かべる。


 ということは。宏彦の向かっている所は、あの時の店なのだろうか? 

 でも、すでにそこからも遠ざかりつつある。

 いったい、どこに行くというのだろう。


「再度山のドライブウェイに入るぞ」

「ふたたびさん? なんで? 六甲山まで行くの? 」

「いや、そこまでは行かないよ。この先ちょっと行ったところに……あるだろ? 」


 再度山は学校の遠足でも登ったし、家族で諏訪山公園からハイキングをしたこともある。

 そして、そこの先には……。


「も、もしかして……」

「そう。多分、澄香の思ってるところ」

「ビーナスブリッジ? 」


 澄香は目を丸くして、感嘆のため息を漏らした。

 太陽が出ているうちは何度も行ったことがある。

 ただし、夜のビーナスブリッジは、初めてだ。


 駐車場に車を止めて、テラスからブリッジに下りて行く。

 人だけが通れるそのらせん状の橋には、こんなに寒いにもかかわらず、すでに先客が何組かいた。

 宏彦の言うとおり、昨日だと、近寄ることすら出来ないくらいの人で埋まっていたのかもしれない。


 宏彦と並んで、そこから神戸の街を見下ろす。

 海岸線にそって広がる光の帯に、うっとりと見とれてしまった。

 足元がふわふわして、まるできらめく星屑の中を漂っているような気分になる。

 澄香の肩を抱いている宏彦が、東の方から順番に指を差す。


「あそこが大阪湾。関空はあの辺りかな。六甲アイランドにポートアイランドも見える。市役所のビル、相変わらずでかいな。そして、あれがハーバーランドかな」

「そうだね」


 澄香は東から西へと宏彦の指し示す先を一緒に追って頷いた。 

 夜景から目を離せないまま、秀彦にそっと寄り添う。

 すると澄香の後ろに回り込んだ宏彦が、自分のダウンジャケットにくるむようにして、澄香を前に抱きかかえた。


「宏彦……」

「寒かっただろ? こうやってれば、俺も澄香も暖かい」

「うん」


 頭の後ろ辺りから、声が聞こえる。

 もたれかかるようにして宏彦に身をゆだね、胸の前で合わさった彼の手に自分の手を重ねた。

 そして、星をちりばめたような目の前の夜景を、もう一度ゆっくりと見渡す。


「きれいだね」

「ああ」

「さっき、車の中から見た山の夜景もよかったけど、ここから見る景色は、もっともっときれい」

「本当にきれいだ」



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