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かくれんぼ  作者: 大平麻由理
本編
24/210

23.遠距離恋愛風味 その1

 昼休みになり澄香と同僚のチサは、給湯室横の小会議室で昼食を取っていた。

 昼食タイムはニ交代制で、十二時と一時十五分からそれぞれ一時間の休憩を取る仕組みになっている。

 今は十二時過ぎ。

 澄香はこの時間帯に割り当てられた時は手作り弁当持参と決めている。

 なぜなら近くの役所も大手企業も大抵この時間に昼休みになるため、外の飲食店はどこも満員と相場は決まっているからだ。

 人気カフェの個数限定ランチのためにダッシュするのは、もうこりごりだった。


「ねえねえ澄香。昨日吉山君と食事したってホントなの? 」


 ペンギンのイラストのついた細長い二段弁当箱から卵焼きをつまみながら、チサが話を切り出す。


「う、うん。……誰に訊いたの? 」


 別に隠すことでもないが、吉山のことが好きなチサにとっておもしろくないことだろうし、あえて自分から話す内容でもないと思い、触れなかったのだが……。

 けれど、澄香が吉山と付き合うことだけは絶対にないと信じて疑わないチサの声は、想定外に明るかった。


「彼本人よ。なんか嬉しさ半分、寂しさ半分って顔してた。で、澄香。結局またフッたってわけ? 」

「フッたとかフらないとかそんなんじゃなくて。もうこれで誘うの最後にするって言うから、なら一度くらい食事したっていいかなって……そう思って」


 本当にただの同期とたまたま帰りが一緒になって、食事をしただけだと澄香は思っている。


「最後……か。だよね。もうそろそろあきらめもついたってことかな? 」

「いや、だからあきらめたとか、そんなんじゃなくて。吉山君だって、あたしばかりにかまっていられないだろうし」

「いやいや、あいつはまだ澄香への気持ちは変わってないよ」

「そんなことないって。吉山君にはあたしなんかよりチサの方が……」

「あっ、でもね、前にも言ったけど、あたしに気を遣ってるんなら、それ、やめてよね。もちろん彼のこと好きだけど、澄香が付き合うって言うなら応援はするよ。なんていうのかな……。彼ってちょっとアイドルみたいなところあるじゃない? 他のみんなもきっと同じように思ってるんだよね。で、心の中では、澄香を落とそうと頑張ってる姿にエールを送ってる。なんか彼ってそういうところ母性本能くすぐられるっていうか、かわいいっていうか……ムフフ」


 応援するといいながらも目をハートマークにさせて吉山を語るチサを見て、澄香は大袈裟にため息をついてみせる。


「はぁ……。よく言うよ。ホントにチサって自分のことわかってないよね。それはこっちの言うセリフ。あたしに気を遣ってるんじゃないわよ。チサには悪いけど、あたし吉山君のこと、これっぽっちもそんな風に思ったことないから。あたしは仕事に生きるのよ。男はその次! いやいや、もっと後ろの方。面倒くさいことはもうこりごりなの! 」


 大学時代に何度かそれなりな経験を積んだ澄香は、その出来事を教訓に、言い寄ってくる男性にかなり毅然とした態度を取るようになった。

 それがいいのか悪いのか……。

 あまりに強烈な保護バリアのため、せっかくの新しい出会いもいつの間にか澄香の目の前に留まることなく通り過ぎてしまう。

 広げた手の指の間から、舞い込む幸せをぱらぱらとその辺に撒き散らしているようなものなのだ。


「澄香……。あんたさあ、このままでいいの? そんなこと言ってたら、一生一人かもしれないよ? それにそのご熱心なメールの御相手。彼には、何の義理立てする必要もないんだし、それはそれで置いといて、リアルな恋愛も楽しむべきよ。吉山君でなくてもいいからさ……。ね? 誰かと付き合ってみれば? 」


 そんなチサのアドバイスにも一切耳を貸さない。

 さっさと弁当を食べ終えた澄香は、ひたすらメールを打ち込んでいた。


「よし。出来た! いざ送信! ……で、何? チサ、今何か言ってなかった? 」

「はいはい、言いましたとも。こんなに澄香のこと心配してるのに、あんたったらのん気に、送信っ! だもんね。ちょっとそれ貸して……」


 チサが目にも留まらぬ早業で、澄香の携帯を横取りする。


「な、何するのよ! やめてよ。チサ! それ、返して! 」


 立ち上がって携帯を奪い返そうとする澄香をうまくかわしたチサは、腕を伸ばし、遠い位置で着信履歴を表示させた。そして……。


「ええ? ……何? これって……。あ、ありえない! 」


 画面にじっと見入るチサの目が徐々に大きく見開かれていく。


「見たきゃ、見れば? 別にかまわないし、そんなもの。何って。メールじゃない。ただのメール! それがなにか? 」


 この年になって携帯の奪い合いなんて、見苦しいことこの上ない。

 澄香はあきらめたように捨て台詞を吐き、ドサッと椅子に座り直す。

 チサが去年まで付き合っていた相手からのお熱いメールも、何度か見せてもらっていた。

 この程度のメールくらい、見られたところで別に痛くも痒くもないというのが澄香の出した結論。

 そんなに見たいならご自由にとそっぽを向く。


読んでいただき、ありがとうございます。

現在に場面が戻りました。

この後、同窓会をきっかけに澄香の周囲が動き始めます。

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