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かくれんぼ  作者: 大平麻由理
特別編 3
194/210

街頭インタビュー その5

「まいど、ご馳走さんでした。ホンマ、ええ話聞かしてもろて。お二人の幸せが、こっちまで移ってしまいそうやわ」

「そんなこと……」


 妻がはにかみながら言った。


「今日はホンマにありがとうございました。えっと、この番組は明日の夕方の放送でして。編集の都合上、必ず放送されるという確約はないんです。えらいすんません」

「そうですか、別にかまわないですよ。というか、放送されない方が、僕としてはありがたいかな」


 マイクの電源を切ったあとは、緊張感もほぐれ、宏彦の口調も幾分和らぐ。


「またまた、そんなことを。ご主人、きっとテレビ映りええですよ。奥さんかて、きれいに映ってはりますって。貴重な時間、こんな私にお付き合いいただいて、ほんまにありがとうございました。失礼ですが、お名前お伺いしてもよろしい? 」

「はい、加賀屋と申します」

「加賀屋さん、ですね。あの、これ記念品です」


 ミヤモリが足元に置いていたカバンから、番組の出演者が印刷されている、シールにもなるカードを取り出す。


「あ、そうですか。ありがとうございます」

「わっ、嬉しい。ありがとうございます」


 カードを見て喜んだ妻が、頬を紅潮させてぺこっと頭を下げた。


「加賀屋さん、奥さん、本日はご協力ありがとうございました」

「いえ、こちらこそありがとうございました。これからも仕事頑張ってください。ではこれで失礼します」


 宏彦は、ミヤモリとカメラマンの二人にビジネスマンらしく礼を述べ、その場を後にした。



 いつしかあたりは夜の(とばり)に包まれる。

 このあとは、北野の異人館のライトアップを見て、妻と一緒に食事をする予定だ。

 宏彦は妻と共に、再び北野坂を上り始めた。

 すると後方でミヤモリとカメラマンの会話が聞こえてきた。


「ミヤモリさん、お疲れさまです」

「お疲れさんでした。ホンマに今夜は冷えるな……って、えらいこっちゃ」

「どうしたんですか?」

「一番肝心なこと聞き忘れてしもた。クリスマス特集やのに、あのお二人の馴れ初めばっかり話してもろて、クリスマスの過ごし方聞くの、忘れてしもたやん。どないしよーー」

「うわーーーっ! ホントですね。僕もうっかりしていました。どうしましょ。なんかあの二人のほんわかした空気にのまれてしまって、映画でも撮ってる気分になっていました。これでは、あの完ぺき主義のチーフDの怒りは免れませんね」

「ホンマや。あのディレクターを怒らせたら、俺かて今夜限りで仕事なくなってまうやん。あ、まだあの二人、あそこにいるやん。イチかバチか、頼んでみるわ。あのーー、加賀屋さーん。すみません、ちょっと待ってください! 」


 ミヤモリが宏彦の後を追うように坂を駆け上がってきた。

 宏彦は、腕をからめて一緒に歩いている妻と顔を見合わせ、立ち止まった。

 ミヤモリの目的は、すでに二人の耳に届いていた。


「澄香、どうする? もう少しだけ、彼の仕事に付き合う? 」

「そうだね。あと、少しだけならね」


 そう言って、ふふっと笑う妻と共に、後を振り向いた。


「ああ、間に合ってよかった。ホンマ、すんません。実はね、もう少しだけお付き合いいただきたいんですわ。それが……」


 ミヤモリがジェスチャーを交えて、引き止めた理由をあれこれ説明する。

 

 いつの間にか街路樹にイルミネーションが灯る。

 さっきとはうって変わって、まるで局アナのごとく生真面目(きまじめ)にマイクを差し出すミヤモリに、宏彦は、妻と初めて過ごすクリスマスの夜を、ゆっくりと語り始めた。





最後まで読んでいただきありがとうございました。

構想がまとまり次第、後日談も書きたいなと思っています。

これからも、かくれんぼをよろしくお願い致します。

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