街頭インタビュー その5
「まいど、ご馳走さんでした。ホンマ、ええ話聞かしてもろて。お二人の幸せが、こっちまで移ってしまいそうやわ」
「そんなこと……」
妻がはにかみながら言った。
「今日はホンマにありがとうございました。えっと、この番組は明日の夕方の放送でして。編集の都合上、必ず放送されるという確約はないんです。えらいすんません」
「そうですか、別にかまわないですよ。というか、放送されない方が、僕としてはありがたいかな」
マイクの電源を切ったあとは、緊張感もほぐれ、宏彦の口調も幾分和らぐ。
「またまた、そんなことを。ご主人、きっとテレビ映りええですよ。奥さんかて、きれいに映ってはりますって。貴重な時間、こんな私にお付き合いいただいて、ほんまにありがとうございました。失礼ですが、お名前お伺いしてもよろしい? 」
「はい、加賀屋と申します」
「加賀屋さん、ですね。あの、これ記念品です」
ミヤモリが足元に置いていたカバンから、番組の出演者が印刷されている、シールにもなるカードを取り出す。
「あ、そうですか。ありがとうございます」
「わっ、嬉しい。ありがとうございます」
カードを見て喜んだ妻が、頬を紅潮させてぺこっと頭を下げた。
「加賀屋さん、奥さん、本日はご協力ありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございました。これからも仕事頑張ってください。ではこれで失礼します」
宏彦は、ミヤモリとカメラマンの二人にビジネスマンらしく礼を述べ、その場を後にした。
いつしかあたりは夜の帳に包まれる。
このあとは、北野の異人館のライトアップを見て、妻と一緒に食事をする予定だ。
宏彦は妻と共に、再び北野坂を上り始めた。
すると後方でミヤモリとカメラマンの会話が聞こえてきた。
「ミヤモリさん、お疲れさまです」
「お疲れさんでした。ホンマに今夜は冷えるな……って、えらいこっちゃ」
「どうしたんですか?」
「一番肝心なこと聞き忘れてしもた。クリスマス特集やのに、あのお二人の馴れ初めばっかり話してもろて、クリスマスの過ごし方聞くの、忘れてしもたやん。どないしよーー」
「うわーーーっ! ホントですね。僕もうっかりしていました。どうしましょ。なんかあの二人のほんわかした空気にのまれてしまって、映画でも撮ってる気分になっていました。これでは、あの完ぺき主義のチーフDの怒りは免れませんね」
「ホンマや。あのディレクターを怒らせたら、俺かて今夜限りで仕事なくなってまうやん。あ、まだあの二人、あそこにいるやん。イチかバチか、頼んでみるわ。あのーー、加賀屋さーん。すみません、ちょっと待ってください! 」
ミヤモリが宏彦の後を追うように坂を駆け上がってきた。
宏彦は、腕をからめて一緒に歩いている妻と顔を見合わせ、立ち止まった。
ミヤモリの目的は、すでに二人の耳に届いていた。
「澄香、どうする? もう少しだけ、彼の仕事に付き合う? 」
「そうだね。あと、少しだけならね」
そう言って、ふふっと笑う妻と共に、後を振り向いた。
「ああ、間に合ってよかった。ホンマ、すんません。実はね、もう少しだけお付き合いいただきたいんですわ。それが……」
ミヤモリがジェスチャーを交えて、引き止めた理由をあれこれ説明する。
いつの間にか街路樹にイルミネーションが灯る。
さっきとはうって変わって、まるで局アナのごとく生真面目にマイクを差し出すミヤモリに、宏彦は、妻と初めて過ごすクリスマスの夜を、ゆっくりと語り始めた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
構想がまとまり次第、後日談も書きたいなと思っています。
これからも、かくれんぼをよろしくお願い致します。