街頭インタビュー その4
「ああ、ホンマにびっくりしたわ。まさか付き合って二日目でプロポーズするやなんて。ご主人、無謀やわーー。恋愛指南本にも書いてあったと思うけど、やったらあかんことの中でもそれは上位やったはずですよ? うまくいく恋愛も一貫の終わり……てなことになりかねへん、上級わざですやん」
「そうかもしれませんね。断られたどうしようかなんて、その時は何も考えていませんでした」
「おお、チャレンジャーですな。でもまあ、同級生やし、全く知らん間柄でもないし、こんなことも有りなんやな、と新しい発見させてもらいました。えっと、ちょっと不思議に思ったことがあるんやけど……」
「何でしょうか? 」
恥をしのんでプロポーズのことまで話したのに、まだ足りないのだろうか。
もうインタビューは充分だろうと宏彦は訝しげにミヤモリを見た。
「いやね、そんなに早いプロポーズってことは、すでにご主人は奥さんのこと、好きやったんですよね? それでないと、この二日目っていう方程式は成り立たへんと思うねんけど。ちゃいます? (違いますか?) 」
「ええ、まあ。……そういうことですね」
ミヤモリの穏やかな口調に隠された鋭い指摘に、もはや宏彦は肯定せざるを得ない。
ここまできたら、もうどうにでもなれと半ばやけっぱちな気持ちになる。
「やっぱりそうやったんや。なんかええ話しやな。純愛ドラマみたいやないですか。じゃあ、ご主人は、学生時代から奥さんのことが好きやって、それをずっと心に秘めてて。付き合ったとたん、プロポーズ。そういうことやったんですね」
「…………」
ミヤモリの言うことに異存はない。ないのだが……。
繰り返しそんな風に言われると、照れくさいというか気恥ずかしいというか、素直にはいそうですと言えない自分がもどかしい。
ああ、それにしても、なんて居心地が悪いのだろう。
「あらあら、ご主人、ボクのゆうたこと、当たってました? 別にそんな恥ずかしがらんでもええやないですか。こんなこと、なかなか人前で話す機会ってないですやん? この際やから、いっぱいのろけはったらよろしいねん。でもまあ、奥さん。付き合って二日目のプロポーズって、どないでした? (どんな感じでした?) 」
「はい、あの……。嬉しかったです」
海の見えるレストランで、結婚の約束をした人生最大の決意表明を昨日のことのように思い出す。
一分だって一秒だってあなたと離れてなんかいられないから、と妻が言って、涙を流していたあの日だ。
「そうですか。嬉しかった、ですか。ホンマ、幸せそうやな。ほんなら、奥さんはご主人のこと、いつから好きになったんやろ。プロポーズがきっかけで、この人のこと好きやって思いはったんかな? 」
宏彦のプロポーズの経緯を当てて悦に入っていたミヤモリが、また得意満面な顔で妻に問いただす。
「いや、そうじゃなくて。あの、あたしも、その……」
「え? 違うんですか? 」
自分の予想が外れたことを知ったミヤモリが、心なしか慌てるそぶりを見せる。
「あ、はい。高校の時から、その、主人のこと、あこがれてて。それからずっと片思いで……」
「な、な、な、なんやて? 」
ミヤモリが彼女にマイクを向けたまま、口をパクパクさせる。
「高校を卒業したあと、主人とは、六年間メールだけで、やりとりしてて。離れていてもいつも近くにいるようなそんな毎日で、とても幸せでした……」
「え? ちょっと待って下さい。離れてるって、どことどこに住んではったん? 」
「私が神戸で、主人は東京です。就職してからは主人は京都で……」
「幸せって、それ違うでしょ。めっちゃ離れてますやん。それに、何でメールだけやの? 」
「はい、それはその……。いろいろあって……」
次第に妻が口ごもる。
木戸の存在が二人を遠ざけていたことなど、第三者の前で話せるはずもなく。
「なんや、ようわからんけど、おたくらって、結局……」
「あ、はい」
頬を赤く染めた妻が、肩をすくめて遠慮がちに頷く。
そして、ミヤモリの目がキラリと活気を取り戻したその瞬間。
「もともと、両思いやったんやないかいっ! 」
と威勢よく、ミヤモリの申し分のないつっこみが炸裂した。