街頭インタビュー その3
「妻の言うとおり、学校はずっと一緒でしたが、お互いのことはあまり知りませんでしたから」
そうだよな、と妻に確認する。
もちろん妻は深く頷き、笑顔のまま宏彦にすっと寄り添う。
幼なじみの定義がどのようなものかは知らないが、妻とは、よく知らないただの同級生だったというのが一番しっくりくる気がする。
「いや、ホンマ、ずっこけまくりですわ。それだけ一緒の学校生活を送っていながらも、お互いあまり知らない関係やったって。うーーん、そうですか、そんなこともあるんやね」
「はい。事実、僕たちはそうでしたから」
「考えてみればそうやな。同じ学校ゆーだけで、名前はおろか、顔も憶えてない子なんて、いっぱいおったもんな。お二人もそんな風に、どこでもおるような同級生やったんやね。で、結婚までに何年くらい付き合ってはったんですか? っていうか、どの段階で恋人同士になったんか、めっちゃ気になるなあ……」
ミヤモリは二人の話をうまくまとめながら、次の質問へと話題を展開していく。
「うーん、何年かな。いや、実際付き合ったのは、七ヵ月くらいだと思います。そうだよな? 」
宏彦は自信なさげに隣の妻に訊ねる。
「うん、そうだね」
妻はにっこり笑いながら答えた。
「ええ? これまた、びっくりやわ! 同級生やのに、交際期間はたったの七ヵ月。では、もうちょっと詳しく知りたいんで。えっと、プロポーズはどちらからで、付き合ってどれくらいたってからプロポーズされたんですか? 」
ミヤモリのインタビューも佳境に入ったということだろうか。
プライベートなことにまで、そうと気づかせぬよう、すらすらといつの間にか入り込んでくる。
「あの、そんなことまでここで言うのですか? 」
どんどん調子に乗って訊いてくるミヤモリに、宏彦はたちまち不機嫌になる。
それを知って、いったいどうするのだと。
「あ、いや、別に無理はいいませんから、嫌ならスルーしてください。ほんま、すんません」
宏彦の嫌悪感がミヤモリに伝わったのだろう。
彼は瞬時にマイクを引っ込めて、ペコペコ謝る。
それを見た妻が、ミヤモリを気遣うような目をして、宏彦に言った。
「宏彦、別にプロポーズのことを言ってもいいんじゃない? あたし、この番組見たことあるし、かくれんぼうやさんも、おもしろくて楽しい方たちだとずっと思ってたの。だから、ね? 」
「おおおお、奥さん。あんた、ほんまにええ人やな。かくれんぼうやを知ってはるんや。嬉しいわーー。相方にも伝えとこ。ご主人さんも男前やし、奥さんはおきれいやし。いや、お世辞とちゃいまっせ。今までいろいろインタビューさせてもろたけど、お二人はめっちゃお似合いで、ホンマにええカップルやなあと思たから、声かけさせてもらいましてん。ほんなら、奥さんの了解も得たことやし、さっきの質問に答えてもらおっかな。ご主人、いかがです? 」
ミヤモリの必要以上のごま擦りには恐れ入るが、彼の仕事に対する真摯さもひしひしと伝わってくるだけに、非協力的な態度を取り続けることに罪悪感を感じ始めてもいた。
宏彦はもう一度妻を見て、決意を固めた。
「しょうがないな。じゃあ、言いますけど……」
「ああ、よかった。話していただけるんや。ホンマに嬉しいですわ」
「えっと、プロポーズについて、ですよね? 」
「はい。プロポーズです。ご結婚されてるからには、やっぱり、どちらかがプロポーズされたんやないかと思うんですが。最近は女性からのプロポーズも多いですからね。さっきお話しさせてもろたご夫婦も、奥さんからやとゆーてはりました」
妻が年上だと言ったからだろうか。
ミヤモリはプロポーズが彼女からだと決め付けているようにも見える。
でも自分たちの場合はそうではない。
宏彦はミヤモリの誤解を解くべく、真実を語り始めた。
「うちの場合は、その、僕から言いましたが」
「ほお、そうですか。やっぱりご主人からですか。ええですね、こんな二枚目からプロポーズされたら、奥さんも即、オッケーですよね? 」
まだマイクは宏彦に向けられたままだ。
「はあ、まあ……」
二枚目は余計だが、確かに彼女はすぐにプロポーズに同意してくれた。
あの時の喜びは、一生忘れることはないだろう。
「そうでしょう、そうでしょう。私が女性やったとしても、即行、ご主人からのプロポーズをお受けしますわ。じゃあ、それは付き合ってどれくらい経った頃ですか? 予想では、半年くらい? いや、でも、付き合って七ヵ月くらいで結婚されたってことやから、もうちょっと早いかな? うーーん、三ヶ月! 」
「あ、それは、二日目です」
「あ、そうですか、フツカ目ですか。二日目、ね……って、オイっ! 」
ミヤモリが目を白黒させ、マイクをうっかり落としそうになるそぶりを見せながらも、本日一番の見事なつっこみを今ここで披露してくれた。